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★ 最終準備書面(相当因果関係) 
 第1 はじめに 
平成29年9月22日

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第1 はじめに
 1 本件事故発生から6年6か月が経過した現状
 2 本準備書面の構成



第1 はじめに


 1 本件事故発生から6年6か月が経過した現状

 平成23年3月11日の本件事故発生から現在まで,6年6か月が経過した。現時点でも,本件原発事故は収束したとはいえず,また,拡散した放射性物質による汚染は解消されず,汚染水問題の解決は糸口も見えないままで,廃炉に向けた具体策も何ら見出せない状況にある。
 避難者の数は,福島県に限定しても,住民票の移動によって確認されるだけで,平成29年8月30日時点でも3万4963人にのぼっている。未だに多くの避難者が,避難元に帰還することができないまま避難生活を余儀なくされているのが実情である。とりわけ,政府による避難指示を受けていない「区域外避難者」は,国や東京電力による賠償や支援策が極めて乏しいなかでの,あるいは賠償も支援策も全くないなかでの避難生活であり,経済的に苦しい生活を強いられ続けている者が多い。被害の詳細は,本準備書面・第9で述べ,原告ら最終準備書面(損害総論)でも述べるとおりであり,区域内外を問わず,今もなお,避難者の被害は継続的かつ重層的に生じており,その被害を風化させることは許されない。
 しかし,政府は,無償住宅提供を打ち切るなど帰還推奨政策を推し進めており,避難指示解除区域はあたかも「安全」であるかのごとく印象操作を行っている。また,ただでさえ不十分な避難者支援策を縮小していく政府の姿勢は,「自己責任」の問題であるとして,避難先に留まる避難者を切り捨てようとしているに等しい。


 2 本準備書面の構成

 本準備書面は,崎山比早子証人,酒井一夫証人,柴田義貞証人,佐々木康人証人の証人尋問結果を踏まえ,また,これまでの原告らの主張も整理しつつ,相当因果関係に関して全般的に主張するものである。
 本準備書面の具体的構成は,次のとおりである。
  1.  まず第2において,相当因果関係の判断枠組みに関する原告らの主張を整理する。そこでは,相当因果関係判断は社会通念に基づく規範的判断であり,社会規範である国内法において,公衆にとって容認できないとされるレベルの線量こそが最も重要な評価根拠事実であることを改めて述べ,生活圏内に年間1ミリシーベルトを超える線量が測定された地域から避難することが社会通念に照らして相当であることを論じる。
     また,相当因果関係の判断と科学的知見との関係について,科学的知見の対立は国内法において解決済みであって論じる意味はないこと,近時の科学的知見がLNTモデルを裏付けるもので年間1ミリシーベルトを「容認不可」とする原告らの考え方を支えるものであることも述べる。

  2.  第3では,放射線の及ぼす健康影響メカニズム,低線量被ばくの影響におけるLNTモデルが科学的合理性を有する知見であることを述べる。
     近時の科学的知見をみても,その多くがLNTモデルを裏付けるものであり,LNTモデルの考え方が否定されるような状況にはなく,現在も,LNTモデルが科学的合理性を有する国際的知見であることを明らかにする。
     また,低線量被ばくの管理に関するワーキンググループがLNTモデルを採用していることについても述べ,同グループが報告書を作成して以降もLNTモデルに整合する知見が多数集積されていることを述べる。

  3.  第4では,相当因果関係判断において最も重要な要素である,国内法における「公衆にとって容認できないレベルの被ばく線量」について述べる。
     具体的には,まず,ICRP勧告について1990年勧告を中心に概説し,ICRP1990年勧告が,LNTモデルを採用したうえで,「公衆にとって容認できないレベルの線量」を死のリスクから検討して「線量限度」を年間1ミリシーベルトと勧告したことを述べる。
     そして,同勧告を国内法も取り入れており,国内法においても,「公衆にとって容認できないレベルの線量」は年間1ミリシーベルトであること,かつ,平時においても原発事故後においても公衆にとって容認できない線量に変わりがないことを明らかにする。
     そのうえで,避難の相当性について,年間1ミリシーベルトを超える線量が生活圏内に測定された地域から避難することは,社会通念上容認できない被ばくを避けるものであって,相当因果関係が認められることを論じる。あわせて,毎時マイクロシーベルトの線量率を年間線量率に換算する方法についても主張する。
     さらに,被告らがICRP2007年勧告に言及し,「現存被ばく状況や緊急被ばく状況では線量限度は適用されない」と執拗に主張することについて,その主張が相当因果関係判断において意味をなさないことも明らかにする。すなわち,線量限度を超える被ばくが広がっている状況において国や放射線取扱事業者が放射線防護を講じる際に用いる基準と,国民にとって容認できないレベルの線量とは,まったく別の概念であるにもかかわらず,被告らはこれを混同して主張しているにすぎないこと,現在でも公衆にとって容認できないレベルの線量が年間1ミリシーベルトであることに変わりがないことを明らかにする。

  4.  第5では,低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループと,同グループが2011年(平成23年)12月22日に作成した,『低線量被ばくリスク管理に関するワーキンググループ報告書』(甲D共35。以下「WG報告書」という。)の問題点について述べる。

  5.  第6では,被告国から提出された平成28年10月26日付けの連名による意見書(丙D共36。以下「連名意見書」という。)の問題点について述べる。

  6.  第7では,土壌汚染やクリアランスレベルなど,線量限度以外の法規制に関する原告らの主張を整理し,土壌汚染やクリアランスレベルに関する法規制に照らせば,クリアランスレベルを超える放射能汚染による被ばくを避ける行為も社会通念に照らして相当であることを論じる。

  7.  第8では,相当因果関係の評価根拠事実となるその余の事実について,事故後の事情を中心に述べる。

  8.  第9では,今もなお避難行為を継続することについての社会通念上の相当性について主張する。そこでは,原告らに生じた権利侵害や損害は,決して一回性のものではなく,今もなお継続的かつ重層的に生じていることを主張する。
     また,福島県民健康調査についても述べ,同調査に関する柴田義貞証人の証言の問題点も明らかにする。
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