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★ 最終準備書面(相当因果関係)
 第2 相当因果関係の判断枠組み 
平成29年9月22日

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第2 相当因果関係の判断枠組み
 1 社会通念に基づく相当性判断
 2 国内法において「容認不可」とされる線量と相当性判断
 3 社会通念に基づく相当因果関係判断と科学的知見との関係



第2 相当因果関係の判断枠組み


 1 社会通念に基づく相当性判断

 原告ら準備書面(11)で述べたとおり,原告らの被侵害権利は,包括的生活利益としての平穏生活権である。もちろん,個別の財産権侵害も生じている。
 被告らによる加害行為と,原告らの被侵害利益及び損害との間における相当因果関係の判断は,原告ら準備書面(3)の「第2 本準備書面の目的」(7~9頁)で述べたとおり,「当該原告の避難行為が社会通念に照らして相当性を有するか否か」の判断である。そして,その判断の内実は「どのような避難であれば,その損失を被告らの負担とすることが相当か」を社会通念に従って判断することにある。
 このような社会通念に照らした避難の相当性判断において重要な視点は,同じく原告ら準備書面(3)の第2で述べたとおり,避難行為の相当性は科学的論争で決するものではない,ということである。相当性判断は,あくまでも社会通念に基づいて行われなければならず,一般人の認識を基準として,各原告の避難行為が相当といえるかを判断しなければならない。


 2 国内法において「容認不可」とされる線量と相当性判断

  (1) 国内法において「容認不可」とされる線量が最も重要な評価根拠事実であること

  ア 社会通念において一般的に容認不可とされる線量を避けることの相当性

 上記1のとおり,本件における相当因果関係の判断は,社会通念に基づく,一般人の認識を基準とした各避難行為の相当性判断である。この判断は,科学的評価ではなく,社会通念に基づく規範的判断である。
 社会通念に基づく規範的判断において最も重要な評価根拠事実は,本件事故発生当時において,「どこまでの線量であれば一般的に容認されうるのか」,言い換えれば,「どのような線量であれば一般的に容認不可であるのか」についての社会規範である。
 なぜなら,「一般的に容認不可とされる線量であれば,そのような線量の被ばくを避けることは社会通念に照らして相当な行為である」というのが,一般人の認識に基づく規範的評価といえるからである。

  イ 国内法において「容認不可」とされる線量は年間1mSvであること
 本件事故発生当時において,社会通念上,「一般的に容認不可とされる線量」がいかなるものであったか,この観点において最も重要な要素は,法規範性を有する社会規範である「国内法」である。
 そして,国内法は,一般公衆について「個人に対する影響は容認不可」とされる線量として,年間1ミリシーベルトを採用し,これを超える被ばくから公衆を徹底的に保護している(このことは,本準備書面・第4で詳述する。)。
 したがって,生活圏内に年間1ミリシーベルトを超える線量が測定された地域から避難することは,国内法も採用する「個人に対する影響は容認不可」とされる線量の被ばくを避ける行為であって,法規範や社会通念に照らして相当な行為であり,相当因果関係が認められるといわなければならない。
 相当性判断に用いるべき法規範が本件事故発生以前の法規範でなければならないことは,原告ら準備書面(3)の第2・3(9頁)で述べたとおりである。

  ウ 「容認不可」な被ばくを特定地域の住民のみが容認しなければならない法的根拠はどこにもないこと
 これに対して,「公衆にとって容認できないレベルの線量」の被ばくを,緊急時や復興期における特定地域の住民が容認しなければならない法的根拠は,どこにもない。国内法は,公衆にとって容認不可なレベルの線量を,平常時とそれ以外とで区別していない。本準備書面第4で述べるとおり,ICRPも,計画被ばく状況において一般公衆に容認不可とされる線量水準が,緊急被ばく状況や現存被ばく状況において引き上げられるとは,まったく述べていない。
 平等原則の観点からみても,何らの責任もない特定地域住民のみについて,緊急被ばく状況や現存被ばく状況であることを理由として「容認不可」とされる線量を引き上げることは,特定地域の住民に対する不合理な差別であって,決して許されるものではない。

  (2) 年間1mSvを超える線量が測定されない地域からの避難について

 また,容認不可とされる年間1ミリシーベルトを超える線量が測定されない地域からの避難であっても,線量や放射線濃度に関するその他の規制や,事故発生後の事情を総合的に考慮して,社会通念における相当性が認められる場合もある。
 本準備書面の第4で詳述するとおり,国内法はLNTモデルを採用しており,放射線による健康リスクは被ばく線量に比例する。そのため,年間1ミリシーベルト以下の被ばくであっても,被ばくを避ける行為は,健康被害を予防するための合理的行動といえる。
 よって,年間1ミリシーベルトを超える線量が測定されない地域からの避難であっても直ちに相当性を否定するべきではなく,事故発生前後の事情や,その他の法規制などを総合的に考慮して,一般人の認識を基準として,社会通念に基づく相当性が当該避難行為に認められるかどうかを個別に判断しなければならない。


 3 社会通念に基づく相当因果関係判断と科学的知見との関係

 上記のとおり,相当因果関係の判断は,一般人の認識を基準とした,社会通念に基づく相当性判断であって,科学的判断ではない。
 低線量被ばくに関する科学的知見が,相当因果関係判断における考慮要素にまったくならないわけではないが,相当因果関係判断と科学的知見との関係については適切に整理しておく必要がある。
 この点,本準備書面第4で述べるとおり,低線量被ばくの影響について,国内法は,知見の対立を踏まえたうえでLNTモデルを採用していることに疑いの余地はない。したがって,LNTモデルと異なる知見が存在するとしても,社会規範としては,もはや知見の対立は解決済みの問題なのであって,社会通念に基づく相当性判断において,対立知見の存在を論じる意味はない。
 また,本準備書面の第3で述べるとおり,近時の科学的知見はLNTモデルに整合しており,国内法の立場の正当性,また,年間1ミリシーベルト以下の線量の被ばくであっても健康影響は否定できず,それゆえ年間1ミリシーベルト以下の被ばくを避けることの合理性を裏付けるものである。

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