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★ 最終準備書面(相当因果関係)
 第7 土壌汚染・クリアランスレベル 
平成29年9月22日

目 次(←最終準備書面(相当因果関係)の目次に戻ります)


第7 土壌汚染・クリアランスレベル
 1 原告らの主張
 2 被告東京電力の反論に対する反論
 3 汚染区域からの避難は相当な行為であること



第7 土壌汚染・クリアランスレベル


 1 原告らの主張

  (1)土壌汚染・クリアランスレベルの位置付け

 本準備書面の第4で述べたとおり,区域外避難の相当性判断において最も重要な要素は国内法における「容認不可」な線量であり,年間1ミリシーベルトを超える線量が測定された地点を生活圏内に含む地域から避難することには,本件事故との間に相当因果関係が認められる。
 この点,原告らの中には,現時点では避難元におけるモニタリングポストによる空間線量測定値が年間1ミリシーベルトに満たない者もいるが,このことをもって避難継続に相当性が失われないことは,原告ら準備書面(41)で詳細に述べたとおりである。
 さらに,空間線量測定値にかかわらず,放射線障害防止法に基づく管理区域・作業室及び貯蔵施設等の法規範,炉規法に基づくクリアランスレベルに関する法規範に照らせば,管理区域同様の場所に居住することとなる場合や,産業廃棄物として管理されるべき土壌が近くに存在する者らについて避難の相当性が認められることも,準備書面(41)で詳述したとおりである。
 なお,準備書面(41)では,モニタリングポスト設置地点の多くが,学校や公園といった綿密な除染作業が行われたであろう場所であり,周辺の土壌汚染の実態と乖離していることも明らかにした。
 以下では,準備書面(41)で述べた規制内容と原告らの主張の要点を整理しておく。

  (2)放射線障害防止法・施行規則による規制

 放射線障害防止法は,放射線障害を防止し公共の安全を確保することを目的とするところ,同法施行規則と平成十二年科学技術庁告示第五号(放射線を放出する同位元素の数量等)によって,ある区域におけるセシウム137とセシウム134の表面密度が合算で4万Bq/m2を超えるおそれのある場合,その区域は「管理区域」とされる。
 管理区域について,同法施行規則は,当該区域における立入制限(第14条の7第1項第8号など),放射性汚染物の持出禁止(第15条第1項第10号)などの厳格な規制を設けている。さらに,同法施行規則は,4万Bq/m2を超えるおそれのある作業室及び貯蔵施設内における飲食等を禁止する(15条1項5号)。
 原告らの避難元生活圏の多くは,4万Bq/m2を超えている。すなわち,多くの原告の避難元生活圏は,今なお,放射線障害防止法によって立入制限や放射性汚染物の持出禁止,飲食禁止などの厳格規制が行われるレベルにまで汚染されてしまっている。

  (3)その他の主要規則等による規制

 電離放射線障害防止規則,職員の放射線障害の防止(人事院規則10-5),医療法施行規則も,放射線障害防止法施行規則と同様の管理区域概念を用いた規制を行い,飲食等の禁止を規定している。

  (4)クリアランスレベル

 一部の原告の避難元住所では,土壌汚染のレベルが管理区域の水準に達しない地域もあるが,そうした地域でも,6500Bq/m2を超える土壌汚染が存在する場合には,クリアランスレベルを超えて放射性物質に汚染されていることとなる。
 クリアランスレベルは,放射線障害防止を目的とする炉規法に基づく概念で,環境省の説明では「廃棄物を安全に再利用できる基準」である。炉規法の定めでは,「放射能濃度が放射線による障害の防止のための措置を必要としないものとして原子力規制委員会規則で定める基準」(炉規法61条の2第1項)であり,法令上「核燃料物質によって汚染された物でないものとして取り扱う」ことができる基準である(同報61条の2第3項)。
 クリアランスレベルを土壌汚染濃度に換算すれば,セシウム137とセシウム134の合算で6500Bq/m2となる。すなわち,6500Bq/m2を超える土壌汚染が存在すれば,当該地点は,障害防止のための措置を要し,核燃料物質によって汚染された物として取り扱わなければならないレベルにまで汚染されていることとなる。

  (5)小括

 以上のとおり,4万Bq/m2以上の土壌汚染が存在する地点は,国内法によって立入制限や飲食が禁止されるレベルにまで放射能に汚染されてしまっている。当該地点を生活圏内に含む住民は,自ら放射線防護措置をとるか,防護措置をとらず被ばくを余儀なくされるなかで日々を過ごし,子どもを育てていかなければならない。このような事態を避けるために避難し,そして避難を継続することは,社会通念に照らして相当な行為である。
 また,6500Bq/m2を超える土壌汚染が存在する地点も,核燃料物質によって汚染された物として取り扱わなければならないレベルにまで土壌が汚染されてしまっているのであって,放射線障害を受けるリスクを否定できない生活環境にあり,このようなリスク環境を避けるために避難することも,社会通念上相当な行為である。

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 2 被告東京電力の反論に対する反論

  (1)被告東京電力の要点

 上記原告らの主張に対して,被告東京電力は,法令上の管理区域やクリアランスレベルに関する規制基準値を超えていたとしても,当該地域における空間放射線量が年間1ミリシーベルトを下回っており,これは人体の健康上問題の無いレベルであるから,避難の相当性は認められないという趣旨の反論を行っている。
 また,地表から5センチメートル掘削して採取した土壌の土壌汚染濃度と人への影響への主張を欠いている点,避難の相当性を基礎づける主張とはいえないとも反論している(被告東京電力準備書面16・28~31頁)。

  (2)被告東京電力の主張は原告らの主張をすり替えていること

しかし,LNTモデルを採用し,低い線量であっても健康影響のリスクは線量に比例して存在するというのが国内法の立場である。被告東京電力による上記主張は,社会規範たる国内法に相容れない考え方である。


 3 汚染区域からの避難は相当な行為であること

 管理区域やクリアランスレベルにかかる規制は,放射線障害を防止する目的で行われているものである。放射線管理区域では,防護のために様々な制限があり,クリアランスレベルを超える廃棄物は厳重に管理されるべきであるが,原告らの避難元ではそのようなことは一切なされていない。
 原告らの避難元は,放射線管理区域に指定されるべき場所,または放射性廃棄物として管理されるべき土壌が存在する場所である。このような場所においては,被ばく量を低減させるために,被ばく時間を短縮し,線源を遮蔽し,線源から距離をとることが必要である。
 このうち,生活をしながら被ばく時間を短縮することはできない。また,遮蔽を行うことも現状においては不可能である。そうであるならば,原告らが,避難という選択をとることは,社会通念に照らして相当な行為であるというべきである。

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