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★ 準備書面(44) −被告国の求釈明申立書(2)に対する回答− 
 第1 行政調査権限とその内容 
平成28年7月27日

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第1 行政調査権限とその内容
 1 行政調査権限について
 2 平成18年9月19日「発電用原子炉に関する耐震設計審査指針」改訂以前に行われた行政調査
 3 小括



第1 行政調査権限とその内容


 1 行政調査権限について

  (1) 被告の求釈明

 被告国は,「被告国が,いかなる権限を,いつの時点で,どのように行使すれば」津波に関する事実を知り得たか,釈明を求める。
 ここで,原告は,被告国が平成18年9月19日「発電用原子炉に関する耐震設計審査指針」改訂による耐震バックチェックのみでなく,一般的な行政調査権限を行使できる旨主張しているので(原告準備書面(7)第2),求釈明に対する回答の前提として,まず行政調査権限及びその行使の方法について述べる。

  (2) 行政調査と調査義務

 行政機関がある決定をする場合には,何らかの情報が必要であり,その情報は何らかの方法により収集されなければならない。つまり行政機関が何らかの決定を行うためには先行して行政調査が必要であり,理由のない行政決定がないのと同様に,調査の先行しない行政決定はない,といってよい。調査のない(行政)決定はないということからすれば,調査義務は行政調査の当然の前提である(甲74:塩野宏著「行政法T」行政法総論第四版234頁以下参照)。
 したがって,被告国の行政調査は,平成18年9月19日「発電用原子炉に関する耐震設計審査指針」改訂による耐震バックチェックのみではない。そして,行政調査の「行使の方法」は,行政目的に必要な限度で,強制にわたらない,あらゆる方法である[1]
 実際,平成18年9月以前にも,被告国は津波に関して様々な行政調査を行っていた。以下詳述する。

[1] 塩野宏著「行政法I」行政法総論第四版234頁は、行政調査には「質問、立ち入り、検査、収去などいろいろな態様がある」とする。同235頁は、「相手方の任意の協力を待ってなされる行政調査に関しては、具体の法律の根拠は、侵害留保理論によっても、権力留保理論によっても必要ない」とする。

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 2 平成18年9月19日「発電用原子炉に関する耐震設計審査指針」改訂以前に行われた行政調査

  (1) 国が電事連・東電に対して報告を求めた例

  ア 平成6年3月 通産省資源エネルギー省に対する報告
 平成5年10月,通産省資源エネルギー庁は,電事連に対し津波安全性評価を指示した。これを受けて平成6年3月,被告東電は津波に関する報告書「福島第一・第二原子力発電所 津波の検討について」を提出した(甲A1−83,90:国会事故調)。

  イ 平成9年7月25日 通産省に対する報告
 平成9年6月,通産省は,電気事業連合会に対し,「地域防災計画における津波対策強化の手引き」(7省庁作成,後述)数値解析の2倍の津波高さを評価した場合の原子力発電所への影響の報告を指示し(甲A1−44:国会事故調参考資料),同年7月25日電気事業連合会津波対応WGは,福島第一原発に関して「O.P.+9.5m」,「非常用海水ポンプの取水が不可能になる」と報告した(原告準備書面(13)第3,2(4)参照,甲B32)。

  ウ 平成14年3月 原子力安全・保安院に対する報告
 原子力安全・保安院は被告東電に対し津波評価技術による試算結果の報告を求め,平成14年3月,被告東電は報告書を提出した(原告準備書面(4)第3,1(3),第5,3(1),国会事故調85頁)。

  エ 平成18年5月11日 原子力安全・保安院およびJNESに対する報告
 平成18年5月11日,溢水勉強会(原子力安全・保安院およびJNESが主催,準備書面(4)第5,3(2),第6参照)の要請に応じ,被告東京電力ら電気事業者は溢水によるプラントの影響に関する報告書を提出した(甲B18)。

  (2) 国が土木学会に対して報告を求めた例

 通産省は,津波評価技術を策定した土木学会原子力土木委員会津波評価部会に対し,審議会の各回の資料及び審議状況の提出を要請し,土木学会は,これに応じ随時MITI耐震班に説明を行った。(甲A1:国会事故調参考資料42頁,甲A2−377:政府事故調中間報告)

  (3) 国が調査を外部委託した例

 地震調査研究推進本部(現在は文部科学省に設置)は,津波の即時的な予測精度の向上を目的に海溝型地震を対象とした重点的調査観測を行うため,平成17年度から平成21年度まで,国立大学法人東北大学大学院理学研究科,国立大学法人東京大学地震研究所,及び,独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)に委託して「宮城県沖地震における重点的調査観測」を行った(甲B75:地震調査研究推進本部HP「宮城県沖地震における重点的な調査観測」,甲B76:宮城県沖地震における重点的調査観測 (平成19年度) 成果報告書)。
 この成果として,後述する貞観津波の断層モデルが作成された。

  (4) 国が外部団体に職員を参加させた例

 平成14年2月,社団法人(現:公益財団法人)土木学会原子力土木委員会津波評価部会は「原子力発電所の津波評価技術」を公表した(原告準備書面(4)第3以下参照,甲B2:「原子力発電所の津波評価技術」)。
 津波評価部会には,電力事業者のみならず,文部科学省防災科学研究所,経済産業省工業技術院地質調査所,及び,国土交通省土木研究所所属の委員が在籍し,「津波評価技術」の策定に関与した(甲B6:原子力発電所の津波評価技術委員名簿)。
 これは,被告国が外部団体に職員を派遣し,津波に関する調査を行った例である。

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  (5) 国が調査を行った例

 ア 平成7年7月 地震調査研究推進本部による調査の開始
 平成7年7月,地震防災対策特別措置法(以下「特措法」という。)が議員立法によって成立し,同法に基づき,国は総理府に地震調査研究推進本部(以下「推進本部」という)を設置した(現在は文部科学省に設置)。
 推進本部は,平成14年7月31日,「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」(甲B9)を公表した(原告準備書面(4)第4参照)。
 これは,被告国が地震(海溝型地震,津波地震)に関して調査を行った例である。

  イ 平成9年3月 4省庁報告,7省庁手引の作成
 平成5年北海道南西沖地震津波発生を契機に,国の関係省庁は津波対策の再検討を行い,平成9年3月に「太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査報告書」(「4省庁報告書」農林水産省,水産庁,運輸省(当時),及び,建設省(当時)),ならびに「地域防災計画における津波対策強化の手引き」(「7省庁手引」国土庁(当時),農林水産省,水産庁,運輸省(当時),気象庁,建設省(当時),消防庁)を公表した。
 同報告書は,断層モデルを用いて津波数値解析計算を行うものである(原告準備書面第3,1(2)参照,甲A2−374,375:政府事故調中間報告)。
 これらは,被告国が自ら津波に関する調査を行った例である。

  ウ 平成11年 国土庁による津波浸水予測
 平成9年3月,国土庁,消防庁,気象庁,及び,財団法人日本気象協会は,「地域防災計画における津波対策評価の手引き」(7省庁手引き)の別冊として「津波災害予測マニュアル」(甲B58)を策定し,平成11年,国土庁は,「津波災害予測マニュアル」をもとに,「津波による浸水域をあらかじめ把握しておくこと」を目的として「津波浸水予測図」(甲B52乃至55,甲B59)を作成した。
 津波浸水予測図は,設定津波高O.P.+8.7メートルの津波が来た場合,福島第一原発1乃至4号機の建屋周辺まで津波が到達し,海側のタービン建屋周辺で4〜5メートル,山側の原子炉建屋周辺でも1メートル浸水する状況が示されていた。また,設定津波高O.P.+6.7メートルの津波でも,敷地が広く浸水することが示されている(甲B59,原告準備書面(16)第4参照)。
 以上は,被告国が,独自に津波浸水予測を行った例である。
 被告国は,独自の調査において,平成9年の「4省庁報告」,「津波災害予測マニュアル」を経て「津波浸水予測図」により,被告国は,福島第一原発の建屋周辺がO.P.+8.7mの設定津波により浸水することを認識していた[2]

[2] 被告東電も、同資料による予測結果を認識していた(甲B59:東京新聞記事)。

  (6) 国自らが機関を設置して調査を行った例

  ア 国が調査・研究機関を設置
 平成15年10月1日,国は,独立行政法人原子力安全基盤機構法に基づき独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)を設置し,国(原子力安全・保安院),(財)原子力発電技術機構,(財)発電設備技術検査協会,及び,(財)原子力安全技術センターが分担していた立入検査,安全解析・評価,原子力防災支援,安全関連情報の調査,試験・研究,研修等の業務を移管した(甲77:ATOMICA−HP,甲78:ATOMICA−HP)。以上の経緯より,JNESの研究調査は,国の調査研究と同視できる。
 また,上記「立入検査」,「安全解析・評価」,「安全関連情報の調査」,「試験・研究」は,被告国の行政調査の具体的行使方法・態様である。

  イ 国はJNES等に委託し独自に津波解析を行った
 国(経済産業省資源エネルギー庁原子力安全・保安院)は,(JNESの業務移管前の機関である)財団法人原子力発電技術機構,及び原子力安全解析所に対し,原子力発電施設等安全性実証解析(安全性実証解析)として津波の解析を委託し,平成10年度,平成11年度,平成13年度,平成15年度に同法人は報告書を作成した(甲B79−1〜4)。
 同報告において,財団法人原子力発電技術機構は,原子炉施設周辺における津波の影響を予測・評価する津波解析コード「SANNAMI」を整備した。SANNAMIは,運動方程式,連続方程式に海底の地形,水深,波源条件等を入力し,津波の「水位」,「流速」を計算する解析コードであり,津波評価技術の方法論と同様のものである(甲80−1−1頁:平成10年度津波解析コードSANNAMIの保守に関する報告書)。
 また,平成18年,JNESは津波PSAの概要版を報告している(甲81:津波解析コードの整備及び津波伝播のパラメトリック解析【概要版】)。また,同報告書は参考資料として「津波評価技術」を挙げており,被告国が「津波評価技術」を利用していたことがわかる。
 以上,被告国は,津波水位の解析を行う調査能力を有しており,かつ,「津波評価技術」(甲B2,甲B3)を用いた試算も可能であった。

  ウ JNESによる外部委託
 JNESは自身で調査研究を行うのみでなく,外部団体に調査・研究を委託することもあった。外部委託先には,独立行政法人,研究所,大学,民間会社が挙げられており,平成20年3月に「新潟県中越沖地震を踏まえた福島第一・第二原子力発電所の津波評価委託」(甲B72の2)にて,O.P.+15.7mの津波高を予測した「東電設計株式会社」も委託先に含まれる(甲B82:平成19年度(2007年)の委託一覧)。


 3 小括

 被告国は,平成18年9月19日に「発電用原子炉に関する耐震設計審査指針」改訂される以前より,津波に関する行政調査を行っていた。
 具体的には,被告東電ら電気事業者,電事連,土木学会など利害関係者(規制される側)に指示して報告を求める方法,外部団体に委託して調査研究を行う方法,被告国の機関が調査(「立入検査」,「安全解析・評価」,「安全関連情報の調査」,「試験・研究」)を行う方法があった。

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