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★ 準備書面(4) 津波の予見について
 第6 津波による影響(炉心損傷・全交流電源喪失)の検証 
平成26年8月29日

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第6 津波による影響(炉心損傷・全交流電源喪失)の検証
 1.はじめに
 2.溢水勉強会の立ち上げ
 3.溢水勉強会での報告
 4.具体的な対策の欠如
 5.小括



第6 津波による影響(炉心損傷・全交流電源喪失)の検証


 1.はじめに

 敷地高を超える津波により浸水すれば,発電所施設が損傷することは自明であり,早くから知見があった(一例として,平成11年11月5日,第1回原子力土木委員会津波評価部会での委員発言等(甲B15,甲A2−379頁),及び,同年12月の「ルプレイエ原発(仏)」の洪水によるSBO事故(甲B16)参照)。
 以下,被告東電が,敷地高(1〜4号機でO.P.+10m)を超える津波が生じた場合,溢水の影響で福島第一原発が炉心損傷,及び,全交流電源喪失に至ることを具体的に検証していた事実について述べる。


 2.溢水勉強会の立ち上げ

 保安院,及び,原子力安全基盤機構(JNES)は,平成18年1月,「溢水勉強会」を立ち上げ,内部溢水及び外部溢水に関する原子力施設の設計上の脆弱性の問題を検討した。これは,平成17年11月の米国KEWAUNEE(キウオーニ)原子力発電所で低耐震クラスである循環水配管の破断を仮定すると,タービン建屋が浸水し,工学的安全施設及び安全停止系機器が故障する旨の情報,及び,平成16年12月スマトラ島沖地震による津波により,マドラス2号炉の非常用海水ポンプが運転不能になった旨の事情を受け,日本における現状を調査することを目的とするものである。
 溢水勉強会には,被告東京電力ら電気事業者も参加し,外部溢水については,各電気事業者が,内部溢水については,JNESが影響調査を行った。
 溢水勉強会は,平成18年1月の第1回から,平成19年3月の第10回まで開催され,平成19年4月に「溢水勉強会での調査結果について」と題する報告書を発表した(甲B17:溢水勉強会報告書)。


 3.溢水勉強会での報告

 平成18年5月11日,溢水勉強会にて,被告東京電力は,代表プラントとして選ばれた福島第一原発5号機について,第5号機の敷地高さO.P.+13mよりも1メートル高い,(1)O.P.+14m,及び,設計水位であるO.P.+5.6mとO.P.+14mの中間である,(2)O.P.+10mを,津波水位と仮定し,津波水位による機器影響評価を報告した(甲B18:溢水勉強会第3回での東電報告書)。
 被告東電は,この報告書にて,O.P.+14mの津波,すなわち5号機の敷地高を超える津波が生じた場合には,海側に面した,T/B(タービン建屋)大物搬入路,及び,S/B(サービス建屋)入口から海水が浸水し,非常用海水ポンプが使用不能に陥ることを報告した。(非常用海水ポンプが使用不能になれば,原子炉を冷却できなくなり炉心損傷(メルトダウン)に至る。)また,この場合,T/Bの各エリアに浸水し,電源設備の機能を喪失する(全電源喪失)可能性があること,さらに,電源の喪失に伴い,原子炉の安全停止に関わる電動機,弁等の動的な機器が機能を停止すると報告している。

[以下は,第三回溢水勉強会における被告東電報告書より引用[7]]【図省略】

[7]RHRSポンプ:残留熱除去海水系ポンプ DGSWポンプ:DGを冷却する海水系ポンプ R/B:原子炉建屋 T/B:タービン建屋 S/B:サービス建屋 RHRポンプ:残留熱除去系ポンプ RCIC:原子炉隔離時冷却系 非常用D/G:非常用ディーゼル発電機

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 4.具体的な対策の欠如

  (1)溢水勉強会の報告書

 平成19年4月,溢水勉強会は,福島第一原発5号機に関しては,「タービン建屋大物搬入口及びサービス建屋入口については水密性の扉ではなく,非常用DG吸気ルーバについても,敷地レベルからわずかの高さしかない。非常用海水ボンプは敷地レベル(+13m)よりも低い取水レベル(+4.5m)に屋外設置されている。土木学会手法による津波による上昇水位は+5.6mとなっており,非常用海水ポンプ電動機据付けレベルは+5.6mと余裕はなく,仮に海水面が上昇し電動機レベルまで到達すれば,1分間程度で電動磯が機能喪失(実験結果に基づく)すると説明を受けた」旨報告した(甲B17:「溢水勉強会での調査結果について」22頁)。
 報告書公表に先立ち,平成18年10月6日,原子力保安院は,電気事業者に対する一斉ヒアリングを行い,口頭にて「…津波に余裕が少ないプラントは具体的,物理的対応を取ってほしい。津波高さと敷地高さが数十cmとあまり変わらないサイトがある。評価上OKであるが,自然現象であり,想定設計を超える津波が来る恐れがある。想定を上回る場合,非常用海水ポンプが機能喪失し,そのまま炉心損傷になるため安全余裕がない。今回は,保安院としての要望であり,この場をかりて,各社にしっかり周知したものとして受け止め,各社上層部に伝えること」と指示した。(甲A1:国会事故調86頁)
 上記報告書,及び,保安院の指示をうけ,被告東電は,いかなる対策を行ったか。

  (2)電気事業連合会の方針

 上記事情をふまえ,電気事業連合会では,津波により炉心損傷が起こる可能性を認識しながら,今後の対応としては,「土木学会の手法について,引き続き,保守性を主張。津波PSAについては,電力共研により検討を継続しつつ,できるだけ早めに,津波ハザードのレベルを把握し,リスクが小さいことを主張していきたい」との議論がなされた(甲Al:国会事故調85,86頁)。
 すなわち,溢水による事故を指摘する報告に対して,具体的な対策を講ずるのではなく,むしろ,既存炉の「保守性」(ここでは「安全性」をさす),及び,「リスクが小さい」ことを主張する方針が取られたのである。

  (3)被告東電の対応

 その結果,被告東電は,平成21年11月までに,非常用海水ポンプをO.P.+6.1mにかさ上げし水封化を図ったが,その他めぼしい対策を行わなかった(甲Al:国会事故調85頁)。
 すなわち,被告東電は,敷地レベルをこえる津波が生じた場合,非常用海水ポンプの機能喪失による炉心損傷,及び,浸水による全電源喪失の危険性を具体的に検証していたにもかかわらず,何らの対策を行わなかったのである。


 5.小括

 以上より,平成18年5月,被告東電は,敷地高を超える津波が生じた場合には,非常用海水ポンプの機能喪失による炉心損傷(メルトダウン),及び,全交流電源喪失事象に至る機序を具体的に検証していた。
 また,この結果は,溢水勉強会の主催者である,原子力安全保安院,及び,JNESも認識していた。

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