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★ 準備書面(4)津波の予見について
 第5 平成20年5月〜6月 被告東電による津波試算結果 
平成26年8月29日

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第5 平成20年5月〜6月 被告東電による津波試算結果
 1.東京電力が平成20年に行った福島第一原発の津波評価に関する社内倹討「甲A2:政府事故調中間報告396頁,甲A1:国会事故調88頁)
 2.被告東電が,平成14年段階で津波高を予見可能であったこと
 3.平成20年6月以前に,被告東電が津波高の試算を行っていたこと



第5 平成20年5月〜6月 被告東電による津波試算結果


 1.東京電力が平成20年に行った福島第一原発の津波評価に関する社内検討
(甲A2:政府事故調中間報告396頁,甲Al:国会事故調88頁)

 前述の通り,「津波評価技術」は,地震等の最新の知見を反映させて,推定計算を実施することが予定されている。以下,被告東電が平成20年に行った津波評価について述べる。

  (1)社内検討に至る経緯

 平成18年9月20日,保安院は,耐震設計審査指針等の耐震安全性に係る安全審査指針類(以下「新耐震指針」という)の改訂を受け,「新耐震指針に照らした既設発電用原子炉施設等の耐震安全性の評価及び確認に当たっての基本的な考え方,並びに評価手法及び確認基準について」を策定するとともに,各電力会社等に対して,稼働中及び建設中の発電用原子炉施設等について耐震バックチェックの実施とそのための実施計画の作成を求めた(甲A2:中間事故調388頁,甲B10:「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」等の改訂に伴う既設発電用原子炉施設等の耐震安全性の評価等の実施について,及び,添付書類(抜粋))。
 同確認基準には,「地震随伴事象」として津波に対する安全性確認基準も定められており,その解説には,「評価方法」として「津波の評価に当たっては,既往の津波の発生状況,活断層の分布状況,最新の知見等を考慮して,施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性がある津波を想定し,数値シミュレーションにより評価することを基本とする。」との記載がある(甲B10:44頁)。この内容は,「津波評価技術」の手法そのものであり,被告国が,平成14年2月土木学会策定の「津波評価技術」を事実上の基準として追認していたことがわかる(甲B8:東電事故調17頁,甲A2:政府事故調中間報告389頁)。
 保安院による上記津波評価に関するバックチェック指示を受けて,東京電力は,福島第一原発,及び,福島第二原発に関する作業を進めたが,津波評価を検討する過程において,平成14年7月に公表された推進本部の「長期評価」で述べられている「1896年の明治三陸地震と同様の地震は,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域内のどこでも発生する可能性がある。」という知見をいかに取り扱うかが問題となった。

  (2)平成20年5月〜6月の試算結果

 被告東電は,平成20年2月頃に有識者の意見を求めたところ,「福島県沖海溝沿いで大地震が発生することは否定できないので,波源として考慮すべきであると考える。」との意見が出されたことを受けて,遅くとも平成20年5月下旬から同年6月上旬頃までに,推進本部の長期評価(平成14年)の知見に基づき,「福島県沖の海溝寄り」に明治三陸沖地震の津波波源モデルを置いて試算した結果,それぞれ福島第一原発2号機付近でO.P.+9.3m,福島第一原発5号機付近でO.P.+10.2m,敷地南部でO.P.+15.7mといった想定波高の数値を得た。(甲Al:国会事故調88頁,甲A2:政府事故調中間報告396頁,甲A4:福島原子力事故の総括および原子力安全改革プラン17,18頁,甲B8:東電事故調21頁)

  (3)その後の東電の行動

 平成20年6月10日ころ,被告東電の担当者は武藤副本部長,吉田部長らに対し,福島第一原発,及び,福島第二原発の津波評価に関する説明を行い,想定波高の数値,防潮堤を作った場合における波高低減の効果等について報告した(甲A2:政府事故調中間報告396頁)。しかし,被告東電武藤副本部長は,東電の方針として,むしろ,津波の計算に使用した土木学会の指針を見直すよう,土木学会に要請することとし,具体的な津波対策を行わなかった。(同甲A2:397頁,甲B8:東電事故調21頁)
 その後,平成23年3月7日,保安院の被告東電に対するヒアリングの際に,被告東電は,保安院に対し,上記の試算結果を説明した。以下に引用する図表は,被告東電が保安院に説明する際に使用した報告書(甲Bll:「福島第一・第二原子力発電所の津波評価について」)から引用したものであるが,既に平成20年5月には,同様の資料が作成されていたと考えられる。

《「*2 各号機に記載の数値はポンプ位置の水位」との記載がある。1〜4号機は敷地南側に位置し,O.P.+10m》【図省略】

 それでは,被告東電は,平成20年まで,上記試算が不可能であったか。

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 2.被告東電が,平成14年段階で津波高を予見可能であったこと

 被告東電は,平成14年2月の「津波評価技術」,及び,同年7月の「長期評価」における地震の知見をもとに,平成14年ころには,津波高を予見可能であった。

  (1)島崎邦彦氏の見解

 島崎氏は,元東京大学地震研究所教授(現東京大学名誉教授)で,平成18年5月から平成20年5月まで社団法人(現公益社団法人)日本地震学会会長,平成24年9月19日より原子力規制委員会委員(委員長代理)を歴任し,平成14年の,「長期評価」策定時に,地震調査研究推進本部地震調査委員会委員,同長期評価部会部会長をつとめた。島崎氏は,被告東電が,早期の段階で,平成14年の「長期評価」を用いて津波試算を行い,福島第一原発でO.P.10mを超えるとの試算を行っていた可能性がある旨述べる。
 島崎氏は,以上の事実を,地震雑誌に投稿するだけでなく,平成23年12月26日,地震調査研究推進本部政策委員会第24回総合部会にて報告した。(甲B12:委員会提出資料「予測されたにもかかわらず,被害想定から外された巨大津波」,甲B24:東北地方太平洋沖地震に関連した地震発生長期予測と津波防災対策)
 島崎氏は,「長期評価」策定に関わり,かつ,原子力行政に精通する原子力規制委員会委員を務める人物であり,発言の信用性は高い。
「地震調査委の長期評価を用いた2008年の「試算」で,福島第一原子力発電所で10mを超える津波となることを知りながら、東京電力は何の対策も行わなかったと伝えられた。しかし2006年の国際会議で,東京電力の技術者らは,福島第一原発に対する確率津波評価について,地震調査委の長期評価のケースを含めて発表している。地震調査委の長期評価を採用すれば,福島第一原発で10mを超える津波となることは,かなり以前から知られていたに違いない。」(甲B12)
 なお,引用文中,東電による2006(平成18)年の国際会議の発表内容については後述する。

  (2)国会事故調の調査結果

 国会事故調は,平成20年5月ころ,被告東電が,「長期評価」をもとに福島第一原発の敷地にO.P.+15.7mの津波が生じることを試算していたことを引用し,「長期評価からだけでも」,本件事故時の津波を予測できたとのべている。
 すなわち,国会事故調は,被告東電が,平成14年時点で,津波予測が可能であったと結論づけているのである。

[甲A1:国会事故調84頁]【図省略】

  (3)政府事故調の調査結果

 さらに,政府事故調も,被告東電が,「長期評価」及び「津波評価技術」の波源モデルを流用して試算した結果,「それぞれ福島第一原発2号機付近でO.P.+9.3m,福島第一原発5号機付近でO.P.+10.2m,敷地南部でO.P.+15.7mといった想定波高の数値を得た。」と報告している。
 「長期評価」及び「津波評価技術」は,既に平成14年段階で公開されており,政府事故調の調査結果によっても,被告東電がこれら資料の公開時に津波試算を行えば,平成14年当時に,上記と同様結論を得ることができたことは明らかである。
 「東京電力は,平成20年2月頃に有識者の意見を求めたところ,「福島県沖海溝沿いで大地震が発生することは否定できないので,波源として考慮すべきであると考える。」との意見が出されたことを受けて,遅くとも平成20年5月下旬から同年6月上旬頃までに,推本の長期評価に基づき津波評価技術で設定されている三陸沖の波源モデルを流用して試算した結果,それぞれ福島第一原発2号機付近でO.P.+9.3m,福島第一原発5号機付近でO.P.+10.2m,敷地南部でO.P.+15.7mといった想定波高の数値を得た。」(甲A2:政府事故調中間報告395頁)
  (4)被告東電の総括

 平成25年3月29日,被告東電は,「福島原子力事故の総括および原子力安全改革プラン」(甲A4)と題する報告書を公開した。被告東電は,同報告書「2.2津波高さの想定と対策」の中で,「長期評価」の見解について「福島県沖海溝沿いで大きな津波が発生するとなれば、福島第一,福島第二原子力発電所の設計条件となる津波高さが増すことは容易に想像」されたと分析している。また,同報告書では,「津波に対して有効な対策を検討する」ことができた契機として,平成14年の「長期評価」公開時を上げている(甲A4:17,18頁)。
 したがって,被告東電自身も,平成14年の「長期評価」公開は,津波高さの再試算を行うべき契機であり,この時,再試算を行えば津波高さが増す結果となっていたことを認めている。

  (5)小括

 被告東電は,平成20年5月ころ,平成14年に公開されている「津波評価技術」と「長期評価」を用いて,福島第一原発第1号機乃至第4号機の敷地高(O.P.+10m)を超える津波が生じることを試算したとされる。
 しかしながら,上記試算の根拠となる「津波評価技術」と「長期評価」はいずれも,平成14年に発表されている。
 従って,被告東電は,平成14年段階でこれらに基づく試算結果を知り得たものであり,かつ,実際に試算していた可能性がある。

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 3.平成20年6月以前に,被告東電が津波高の試算を行っていたこと

  (1)平成14年3月の保安院への報告

 前述した通り,「津波評価技術」発表直後の平成14年3月,被告東電は,「津波評価技術」に基づく津波評価を実施し,保安院に,想定津波高を報告した(甲B7:「津波の検討―土木学会『原子力発電所の津波評価技術』に関わる検討−」)。
 この報告書において,被告東電は,福島第一原発の設計津波水位を,近地津波でO.P.+5.4m〜O.P.+5.7m,遠地津波でO.P.+5.4m〜O.P.+5.5mと試算した。
 この時期には「長期評価」は公表されていないため,「長期評価」の知見は設計津波水位に反映されていない。しかし,被告東電は,「津波評価技術」公開後わずか1か月間で,津波試算を行うことができたのであるから,「長期評価」公開後,早期の段階で「長期評価」の知見をもとに津波試算を行うことが可能であったことは明らかである。

  (2)平成18年5月11日第4回溢水勉強会での東電報告

 平成18年5月11日,被告東電は,原子力安全・保安院(以下「保安院」という),及び,原子力安全基盤機構(JNES)主催の「内部・外部溢水勉強会」(以下「溢水勉強会」という。詳細は後述する)において,「確率論的津波ハザード解析による試計算について」と称する報告書(甲B13)を提出した(日付は平成18年5月25日)。
 この報告書は,ロジックツリーに基づく評価手法を採用し,数値計算に用いる標準的な断層モデルを「原子力発電所の津波評価技術」に準拠し,確率論的津波ハザード解析[6]を行った結果を内容とするものである。
 すなわち,被告東電は,平成18年に,津波評価技術とは異なる手法での津波試算を行っていた。
 さらに,被告東電は,この試算において,「1896年の明治三陸地震と同様の地震は,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域内のどこでも発生する可能性がある」との長期評価を反映させて,波源を設定し,数値設定を行った(「JTT1〜3」が,1896年明治三陸沖地震のモーメントマグニチュードと「同様と推定」)。

[6]確率論的津波ハザード解析(PTHA:Probabilistic Tsunami Hazard Analysis)とは,特定期間における津波高さと超過確率の関係を求める手法であり,既存の確率論的地震ハザード解析(PSHA:Probabilistic Seismic Hazard Analysis)の方法を参考として,作成されたものである。

  (3)平成18年7月米国フロリダ州マイアミにおける被告東電の学会報告

 平成18年7月,被告東電は,米国フロリダ州マイアミにおける第14回原子力工学国際会議(ICONE-14)において,上記と同様の確率論的津波ハザード解析に関する論文を発表した(甲B14)。
 この論文でも,長期評価をもとに波源を設定し,数値計算を行っている。

  (4)小括

 以上,被告東電は,平成14年3月には「津波評価技術」に基づく津波高試算を行い,平成18年には,「津波評価技術」とは異なる手法で,「長期評価」の知見をもとに津波高の試算を行っていた。
 これらの事情からすれば,被告東電が,平成20年以前の段階で,平成14年2月の「津波評価技術」,及び,同年7月の「長期評価」の知見をもとに,津波高を試算することは極めて容易に可能であり,また,実際に行っていた可能性がある。

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