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★ 準備書面(4) 津波の予見について
 第3 「津波評価技術」(平成14年2月)の策定と概要 
平成26年8月29日

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第3 「津波評価技術」(平成14年2月)の策定と概要
 1.土木学会原子力土木委員会津波評価部会「原子力発電所の津波評価技術」策定の経緯
 2.『津波評価技術」の概要
 3.小括



第3 「津波評価技術」(平成14年2月)の策定と概要


 1.土木学会原子力土木委員会津波評価部会「原子力発電所の津波評価技術」策定の経緯

  (1)土木学会原子力土木委員会津波評価部会とは

 社団法人(現在は公益社団法人)土木学会は,大正3年に社団法人として設立された,「土木工学の進歩及び土木事業の発達並びに土木技術者の資質の向上を図り,もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」(土木学会定款第3条)ことを目的とする工学系の学会であり,教育・研究機関,建設業,コンサルタント,及び,官庁などに属する会員により構成されている(甲A2:政府事故調中間報告375頁)。

  (2)「原子力発電所の津波評価技術」策定の経緯と位置づけ

 平成5年北海道南西沖地震津波発生を契機に関係省庁により津波対策の再検討が行われ,一般の海岸施設の防災対策のために,平成9年3月に「太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査報告書」(農林水産省ほか3省庁),及び,「地域防災計画における津波対策強化の手引き」(以下,「手引き」という。農林水産省ほか6省庁)が公表された。
 同「手引き」の発表以前においては,原子力発電所において既往最大の歴史津波および活断層から想定される最も影響の大きい津波を対象に設計津波を想定していたが,「手引き」は,「現在の知見により想定し得る最大規模の地震津波を検討し,既往最大津波との比較検討を行った上で,常に安全側の発想から沿岸津波水位のより大きい方を対象津波として選定するものとする。」とされた。
 以上の事情のもと,平成11年,原子力発電所の津波に対する設計の信頼性向上を目的として,土木学会原子力土木委員会の中に津波評価部会が立ち上がり,平成14年2月,同部会が,津波の波源や数値計算に関する知見,及び,技術進歩の成果をとりまとめ,原子力施設の設計津波の標準的な設定方法である「原子力発電所の津波評価技術」(以下「津波評価技術」という。)を公表した(甲B2:「原子力発電所の津波評価技術」本編,甲B3:「原子力発電所の津波評価技術」資料1付属編)。
 「津波評価技術」は,「(電気事業者等)利用者が,対象地点に応じて,その時々の最新の知見・データなどに基づいて震源や海底地形などの計算条件を設定して,推進計算を実施することで》」個別地点の津波水位を推計できるものである[1](甲B5:土木学会原子力土木委員会津波評価部会策定の報告書「原子力発電所の津波評価技術」について)。
 従って,「津波評価技術」は,地震等の知見の進展に伴い,利用者が津波水位の再試算を行うことを予定していたものといえる。

[1]被告東電も,「最新の知見」を反映させて津波水位を評価すべきことについて,認識していた(甲B8:東電事故調17,18頁)。

  (3)「津波評価技術」に対する被告国の関与

 津波評価部会には,電力事業者のみならず,文部科学省防災科学研究所,経済産業省工業技術院地質調査所,及び,国土交通省土木研究所所属の委員が在籍し,「津波評価技術」の策定に関与した(甲B6:原子力発電所の津波評価技術委員名簿)。また,「津波評価技術」の公表前,保安院原子力発電安全審査課技術班は,津波評価部会に対し,その内容の説明を求め,平成14年1月29日,津波評価部会の幹事会社であった被告東電が,回答を行っている(甲A2:政府事故調中間報告377頁)。
 「津波評価技術」公開後,各電力事業者は,自主的に津波評価を行い,電気事業連合会にて取りまとめの上,保安院に対し報告した。被告東電も,保安院からの口頭の指示により,平成14年3月に津波評価技術に基づく津波評価を実施し,保安院に報告した(甲B7:「津波の検討―土木学会発電所の津波評価技術に関わる検討−」,甲A2:政府事故調中間報告381頁,甲Al:国会事故調83,84頁)。その後,「津波評価技術」は,具体的な津波評価方法を定めた基準として定着し,電気事業者が規制当局に提出する評価に用いられた(甲B8:福島原子力事故調査報告書(以下,「東電事故調」という。)17頁)。
 以上より,「津波評価技術」は,被告国の関与のもと策定され,策定後は,単なる学会報告書を超えて,被告国の評価基準として使用されていた。

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 2.「津波評価技術」の概要

  (1)「津波評価技術」の基本的な考え方

 「津波評価技術」は原子力発電所の設計津波水位[2]の標準的な設定手法を示したものである。
 「津波評価技術」は,「現在の知見により想定し得る最大規模の地震津波を検討し,既往最大津波との比較検討を行った上で,常に安全側の発想から沿岸津波水位のより大きい方を対象津波として選定するものとする」とする「手引き」の設計思想を反映させるため,「既往津波」(過去に,日本沿岸に被害をもたらした津波)を参考にして,「想定津波」(将来発生することを否定できない地震に伴う津波)を設定する。そして,「想定津波」の不確定性(誤差)を,数値計算(パラメータスタディ)により反映させて,「評価地点に最も大きな影響を与える津波」(設計想定津波)を選定する。最後に,「設計想定津波」に,潮位条件を足しあわせ,数値計算により評価地点における「設計津波水位」を評価する。

[甲B2:「津波評価技術」1−5頁を加工]【図省略】

[2]「津波評価技術」は,[設計津波水位]を「設計に使用する津波水位を指し,設計想定津波の計算結果に適切な潮位条件を足し合わせたもの」と定義する。

  (2)具体的な評価方法(甲A2:政府事故調中間報告376頁)

  ア.既往津波の再現と再現性の確認(1)
 文献調査等に基づき,評価地点に最も大きな影響を及ぼしたと考えられる既往津波を評価対象として選定し,痕跡高の吟味を行う。沿岸における既往津波の痕跡高をよく説明できるように,当該津波の原因となる断層運動(地震)の断層パラメータを設定し,既往津波の断層モデル[3]を設定する。

[甲B3:「津波評価技術」―資料1付属編より引用]【図省略】
津波計算において,断層モデルは,以下の静的断層パラメータで記述される。
(i)基準点位置(N,E),(ii)断層長さL,(iii)断層幅W,(iv)すべり量D,(v)断層面上縁深さd,(vi)走向θ,(vii)傾斜角δ,(viii)すべり角λ
L,W,Dは,地震モーメントMOと次式で関連付けられる。
    MO=μLWD(「μ」は震源付近の媒質の剛性率)
[各構造区分(上図)における,既往津波の痕跡高を説明できる断層モデル(下図)(甲B2「津波評価技術」1−59頁)]【図省略】

[3]断層モデル:断層モデルは断層面の向きや傾き,大きさ,面上でのずれの量,破壊の進行速度などの断層パラメータで表現される。津波の原因となる地震の「断層モデル」を「波源モデル」という。

  イ.想定津波による設計津波水位の検討(2)
 スケーリング則[4]に基づき,「既往津波の痕跡高を最もよく説明する断層モデル」のパラメータを変化させ,地震学的知見によって得られた既往最大モーメントマグニチュード(Mw)に応じた「基準断層モデル」[5]を設定する(日本海溝沿い,及び,千島海溝(南部)沿いを含むプレート境界型地震の場合)。

[各構造区分(左)における,既往最大モーメントマグニチュード(右)甲B2:「津波評価技術」1−59頁]【図省略】

[4]断層長L,幅W,すべり量Dの比率が地震の規模に拘わらずほぼ一定で相似,とする法則。量の概算を行う際に用いる。
[5]「津波評価技術」は,「各海域における地震の特性を踏まえて適切に設定された,想定津波の数値計算を行うための断層モデルで,パラメータスタディを実施する際の基準となる断層モデルを基準断層モデル」と定義する。

  ウ.設計想定津波の確定(3)
 想定津波の波源(津波の発生源)の不確定性(誤差)を設計津波水位に反映させるため,基準断層モデルの諸条件(パラメータ)を合理的範囲内で変化させた数値計算を多数実施し(パラメータスタディ),その結果得られる想定津波群の波源の中から評価地点に最も影響を与える波源を選定する。

[「津波評価技術」1−15頁図表を加工]【図省略】

  エ.設計津波水位の算定(4)
 以上より得られた設計想定津波に,適切な潮位条件を足し合わせて,設計津波水位を求める。

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 3.小括

 平成14年2月時点で,想定津波に基づき設計津波水位を評価する標準的手法である「津波評価技術」が策定されていた。
 また,「津波評価技術」は,地震等の知見の進展に伴い,利用者(電気事業者等)が津波水位の再試算を行うことを予定していたものである。

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