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★ 準備書面(7) ―津波浸水の回避措置及び回避可能性について― 
 第2 予見義務及び回避義務の根拠 
平成26年11月7日

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第2 予見義務及び回避義務の根拠
 1 被告らの予見義務及び回避義務の発生根拠
 2 電気事業法
 3 技術基準省令第4条
 4 技術基準省令第5条
 5 小括



第2 予見義務及び回避義務の根拠


 1 被告らの予見義務及び回避義務の発生根拠

 津波について被告らに予見可能性があったことは,原告ら準備書面(4)で指摘をした。
 以下においては,津波による事故発生について,被告らが負っていた予見義務及び回避義務の根拠を指摘する。


 2 電気事業法

 事業用電気工作物(当然,発電用原子炉も含まれる)を設置する者は,当該事業用電気工作物を主務省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない(電気事業法39条1項)。
 この主務省令が通商産業省令第62号,いわゆる技術基準省令である。
 また,主務大臣は,事業用電気工作物が前条第一項の主務省令で定める技術基準に適合していないと認めるときは,事業用電気工作物を設置する者に対し,その技術基準に適合するように事業用電気工作物を修理し,改造し,若しくは移転し,若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ,又はその使用を制限することができる(電気事業法40条)。
 本件においては,技術基準省令4条及び5条のいずれによっても,本件において予見対象となる津波の予見義務及び回避義務が定められていたと評価できる。
 したがって,被告東電は,この技術基準に適合するよう措置を講じる義務があり,また,被告国は,福島第一原発が技術基準に適合していなかったのであるから,電気事業法40条に基づく権限行使として技術基準適合命令を発することができ,また,そのようにすべきであった。
 以下,福島第一原発が具体的に技術基準のどの部分に適合していなかったかを指摘する。

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 3 技術基準省令第4条

 技術基準省令第4条(防護措置等)は,津波を含む想定される自然現象により原子炉の安全性を損なう恐れがある場合には,防護措置等,適切な措置を講じなければならないとしている。
 技術基準省令は,平成17年7月1日,大規模改正を受けた。
 すなわち,改正前は技術基準及びそれを補完する告示からなる体系であったが,改正後は,技術基準は性能及び機能を規定する規定とともに,これを実現する具体的な手法や仕様は学術団体である学会,協会等で策定された規格を技術評価し,仕様規格として位置づけて活用する安全規制体系となった。
 この改正に当たっては,平成2年に改訂された原子力安全委員会の指針で規定される事項と技術基準の整合性を図ることとされた。整合性の確保が求められた指針には,いわゆる安全設計審査指針が含まれている(以上について,原子力安全基盤機構(現在は,廃止)作成にかかる「発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令と解釈に対する解説」甲B26号証)。
 技術基準省令4条の関連指針は,安全設計審査指針2,3である。
 そして,安全設計審査指針2は,「安全機能を有する構築物,系統及び機器は,地震以外の想定される自然現象によって原子炉施設の安全性が損なわれない設計であること,重要度の高い特に高い安全機能を有する構築物,系統及び機器は,予想される自然現象のうち最も苛酷と考えられる条件,又は自然力に事故荷重を適切に組み合わせた場合を考慮した設計であること。」としている。
 安全設計審査には,指針以外に指針に対する解説が付されている。その解説によると下記の通りとされている。
  1. 「自然現象によって原子炉施設の安全性が損なわれない設計」とは、設計上の考慮を要する自然現象又はその組合わせに遭遇した場合において、その設備が有する安全機能を達成する能力が維持されることをいう。
  2. 「予想される自然現象」とは,敷地の自然環境を基に,洪水,津波,風,凍結,積雪,地滑り等から適用されるものをいう。
  3. 「自然現象のうち最も苛酷と考えられる条件」とは,対象となる自然現象に対応して,過去の記録の信頼性を考慮の上,少なくともこれを下回らない苛酷なものであって,かつ,統計的に妥当とみなされるものをいう。
 本件に照らしてみれば,福島第一原発は,その立地条件から当然に津波を予想されるものである。
 また,長期評価によれば,最も苛酷と考えられる条件として,明治三陸沖津波の波源モデルを福島沖において津波高を想定すべきであった。
 すなわち,原告ら準備書面(4)でも述べたとおり,被告国及び被告東電は,遅くとも平成14年内にO.P.+10mを超える津波が福島第一原発敷地内に到来することを予見し得たのであり,当該津波は,予想される自然現象である。
 長期評価によれば,最も過酷と考えられる条件は,福島県沖に「三陸沖から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)」といわれるもののうち,明治三陸沖地震の波源モデルに相当する地震が発生することである。
 そして,津波地震の確率は,30年間で特定の海域でも6パーセントとされていたのであるから,統計的にもこのように想定することには妥当性があった。
 したがって,安全設計審査指針に忠実に最も過酷な条件を考慮すれば,本件津波が到来したとしても,設備が有する安全機能を達成する能力が維持されるように安全対策をするべきであったというべきである。

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 4 技術基準省令第5条

 技術基準省令5条1項は,「原子炉施設並びに一次冷却材又は二次冷却材により駆動される蒸気タービン及びその附属設備は,これらに作用する地震力による損壊により公衆に放射線障害を及ぼさないように施設しなければならない。」と規定する。
 また同条2項は,「前項の地震力は,原子炉施設ならびに一次冷却材により駆動される蒸気タービン及びその附属設備の構造ならびにこれらが損壊した場合における災害の程度に応じて,基礎地盤の状況,その地方における過去の地震記録に基づく震害の程度,地震活動の状況等を基礎として求めなければならない。」と規定する。
 地震は,当然,津波等の随伴事象を伴うものであって,このことは,平成18年9月19日,原安委によって決定されたいわゆる新耐震設計審査指針においても指摘されている。
 新耐震設計指針は,「8.地震随伴事象に対する考慮」において施設は,地震随伴事象について,次に示す事項を十分考慮した上で設計されなければならないとし,その考慮事項の(2)として,「施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても,施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと。」を定めている。
 このような考慮は,平成14年の時点においても十分に可能だった。


 5 小括

 以上の通り,被告国は電気事業法39条に基づいて被告東電に対し技術基準適合命令を発するべきであったし,被告東電は,同じく同条に基づいて技術基準に適合させるべく,必要な安全対策をとるべきであった。

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