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★ 準備書面(3)避難の社会的相当性
 第1章 はじめに −避難の社会的相当性− 
平成26年6月27日

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 第1 本件事故によって強いられた避難
  1 数万人レベルの避難者の存在
  2 関西における「区域外避難者」
  3 区域設定と相当性判断とを混同させて「自主避難」と切り捨てる態度

 第2 本準備書面の目的
  1 本件訴訟における相当因果関係判断の内実
  2 社会的相当性は科学論争によって決せられるものではないこと
  3 社会的相当性を判断するうえで重要な視点

 第3 本準備書面の構成



第1章 はじめに −避難の社会的相当性−

 本準備書面は,避難行為の社会的相当性をどのように判断すべきかについて論じるものである。


 第1 本件事故によって強いられた避難

  1 数万人レベルの避難者の存在

 東日本大震災後,被告らの過失によって生じた本件事故は,福島県だけでなく東北各県,関東各都県にまで大量の放射性物質を広範囲にまき散らし,深刻な被害をもたらし続けている。
 そのため,避難指示の出された地域はもちろん,避難指示の出されていない福島県下の各地から,更には東北,関東の各都県から,多くの住民が,放射線被ばくによる健康被害等を恐れ,避難を行っている。
 その数は,住民票の移動によって分かっているだけで,しかも,福島県だけでも4万6000人にのぼっており(平成26年4月10日現在。東日本大震災復興対策本部「震災による避難者の避難場所別人数調査」のうち福島県分を抽出したデータの引用),実際の避難者の数はそれ以上だと推測される。
 福島県以外の東北各県からの避難者,更には関東圏からの避難者に至っては,避難実態を正確に把握することすらできておらず,そもそも被告国は,そのような実態把握のための調査を行おうとさえしていない。

  2 関西における「区域外避難者」

 関西の各府県には,避難指示が出された区域内からの避難者に加え,避難指示の出されていない,いわゆる「区域外」からの避難者が多数存在する。
 本件訴訟の原告の多くもいわゆる「区域外」からの避難者である。これらの避難者は,「避難命令が出ていないのに故郷を捨てるのか」と非難されながらも,放射線被ばく等に関する情報を得て真摯に悩み,避難を決断してきたものである。

  3 区域設定と相当性判断とを混同させて「自主避難」と切り捨てる態度

 これに対し,被告国や被告東京電力は,区域外からの避難者を「自主避難者」と呼び,あたかも,避難する必要性がないにもかかわらず身勝手な過剰反応で避難した者であるかのように位置づけている。
 しかし,加害者である被告国及び被告東京電力が,自ら賠償範囲を画する基準を設定すること自体,極めて不公正であり,本件事故による影響を矮小化し,賠償責任を圧縮するための歪な詭弁という他ない。
 そもそも,「避難区域」とは,国家が住民の安全を確保するため作為義務としての「国家の保護義務」に基づき,住民に対し避難を指示する(避難を命ずる)地域であって,住民に避難を強いるものである以上,必要最小限の範囲としての意味を有する。
 したがって,国家による避難指示がなかったにもかかわらず避難したことが社会的相当性を認められるかどうかということとは全く別個の問題であり,両者を混同させて議論することは許されない。
 むしろ,避難区域よりも遙かに広い地域からの避難であっても,社会的相当性を有することが認識されるべきである。
 なぜなら,原発事故がもたらす放射線被ばくによる被害は,ひとたび生ずれば,甚大かつ不可逆的であり,かつ,放射線の影響範囲を画する上での基準となる「しきい値」などは存在せず,さらには,指定された避難区域の設定基準自体が国際的知見に照らしても,また従前の我が国の法規範に照らしても,公衆に許容されるべき放射線量との間に大きな乖離が存するからである。

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 第2 本準備書面の目的

 本準備書面では,関西において区域外からの避難者が多数存在すること,そして本件訴訟の原告の多くもまた区域外からの避難者であることを踏まえ,区域外からの避難行為が社会通念に照らして相当性を有すること(社会的相当性を有すること),すなわち損害賠償義務の範囲を画するための相当因果関係が存在することについて述べる。
 具体的には,上記社会的相当性がどのような要素を基礎として判断されるべきであるのか,そして,それらの要素が十分満たされているのかどうか(結論として充足されている)という点について論じるものである。

  1 本件訴訟における相当因果関係判断の内実

 損害賠償法理において,加害者が賠償義務を負うのは,当該加害行為と相当因果関係を有する範囲である。
 本件訴訟における相当因果関係判断は,避難行為の社会的相当性の判断である。その判断の内実は,「どのような避難であれば,その損失を被告らの負担とすることが相当か」を社会通念に従って判断することである。

  2 社会的相当性は科学論争によって決せられるものではないこと

 この避難行為の「社会的相当性」を基礎づける評価根拠事実としては,本件事故の発生した時点において存していた事情及び事故後の事情を総合的に勘案すべきである。
 本準備書面においては,特に本件事故時において存在していた事情について述べることとする。
 注意すべきは,避難行為の相当性は科学的な議論ではないということである。
 すなわち,避難を行うのは,一般人であり,一般人の認識を基準として相当性が判断されるべきである以上,避難という行動に至る判断が相当か否かについては,科学的論争によって決せられるものではない。

  3 社会的相当性を判断するうえで重要な視点

 社会的相当性を基礎づける各事実については,第2章以降で詳しく検討するものであるが,ここでは,本件事故発生以前にどのような規範が設定されていたかという点が極めて重要だということを強調しておきたい。
 つまり,本件事故以前の国内外における公衆被ばく線量限度を定めた法規範や基準こそが重要だということである。なぜなら,後述のとおり,本件事故発生以前の線量限度こそ,公衆はどの程度の線量までであれば許容しうるのかという視点から議論され,社会規範として認められたものだからである。
 これに対し,本件事故発生後にいわば「後出し」の形で,それ以前に国内で定められていた放射線量に関する法律や国際基準を無視し放射線量や内部被ばくに関して安全論を展開すること,例えば,後述するように本件事故以前の国内外の規制が線量限度を年間1ミリシーベルトとしているにもかかわらず,本件事故発生後,同線量限度を無視して「20ミリシーベルトを下回った地域において危険だという証拠はない」などという議論を展開し,1ミリシーベルトを超える地域からの避難の相当性を否定することはおよそ許されない。
 それは,「本件事故の被害をどの程度に抑えるか」という,加害者による結論ありきの賠償抑制理論であり,社会通念に照らして到底許容しうるものではない。

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 第3 本準備書面の構成

 第2において論じたことを踏まえ,本準備書面では,以下の順に「社会的相当性」を基礎づける事実を列挙・検討し,最後に改めて整理し評価して論じる。
 すなわち,まず,第2章において,放射線と被ばくによる人体への影響について述べ,甚大かつ不可逆的な放射線被害を回避しようとすることが合理的な判断であることについて論じる。
 次いで,第3章において,低線量被ばくによる人体への影響に関する知見に関し,ICRPがいわゆるLNT仮説を採用し「これ以下なら安心だ」というしきい値がないという理論を採用していること,国が区域設定において依拠していると思われる「現存被ばく状況」などの参考レベル概念(ICRP2007年勧告)は国の政策指針に過ぎず,公衆被ばく線量限度と無関係であることを明らかにする。
 そして,第4章では,過去の放射線被ばく事故等が示す放射線被ばくの危険性や損害を概観する。
 さらに,第5章では,本件事故発生以前の国内法における公衆被ばく線量に関する規制の重要性,公衆被ばく線量限度に関する基準及びその制定経過を明らかにし,その基準及び制定経過に照らせば原告らの避難に社会的相当性が認められることを論じる。
 そして,最後に第6章で改めて整理し,まとめの主張を行うものである。

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