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★ 準備書面(3)避難の社会的相当性
 第5章 国内法における公衆被ばく線量限度 
平成26年6月27日

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 第1 はじめに
  1 本件事故発生以前の国内法における線量限度の重要性
  2 本章の構成

 第2 炉規法等による規制内容
  1 規制の概要
  2 炉規法と政令・省令・規則・告示
  3 炉規法における公衆被ばく線量限度
  4 公衆を被ばくから守るための法的担保
  5 小括

 第3 放射線障害防止法
  1 規制の概要
  2 放射線障害防止法と政令・省令・規則・告示
  3 放射線障害防止法における公衆被ばく線量限度
  4 公衆を被ばくから守るための法的担保
  5 小括

 第4 公衆被ばく線量限度の制定経過
  1 制定経過の概要
  2 ICRPの1977年勧告及びパリ声明の国内法への導入
  3 ICRP1990年勧告の国内法への導入

 第5 LNT仮説に立ち公衆被ばく線量限度を定める社会規範



第5章 国内法における公衆被ばく線量限度

 第1 はじめに

  1 本件事故発生以前の国内法における線量限度の重要性

 国内法における本件事故発生以前の公衆被ばく線量限度は,「公衆はどの程度の線量限度までであれば許容できるか」という視点に基づいて審議され形成された,社会的合意ないし社会規範である。そのため,少なくとも,この線量限度を超える被ばくを回避することは,社会的に許容できないとされた被ばくからの回避行動であるから,社会的にみて相当ないし合理的な行為といわなければならない。
 したがって,本件事故発生以前に国内法が公衆被ばく線量限度をどのように定めていたかは,避難行為の社会的相当性判断における中核的判断要素をなすものといえる。
 そこで本章では,本件事故発生以前の国内法において,公衆被ばく線量限度をどのように定めていたか,また,線量限度を超える被ばくから公衆をどのように保護していたかを明らかにする。さらに,国内法における公衆被ばく線量がいかなる過程を経て制定されたものであるかについても明らかにする。

  2 本章の構成

 本章では,まず,炉規法等に定める公衆被ばく線量限度が実効線量年間1ミリシーベルトであること,そしてこの線量限度を超える被ばくから公衆を保護するために刑罰を含む厳格な法規制が講じられていることを明らかにする(本章第2)。
 次いで,「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」(以下,「放射線障害防止法」という。)に定める公衆被ばく線量限度も実効線量年間1ミリシーベルトであり,同じく刑罰を含む厳格規制を講じて公衆を保護していることを述べる(本章第3)。
 そして,実効線量年間1ミリシーベルトという公衆被ばく線量限度が,放射線審議会において,国民の意見募集も踏まえて専門的に審議されて定められたものであることを明らかにする(本章第4)。
 これらを踏まえて,国内法がLNT仮説に立ち,公衆が容認できない線量限度として実効線量年間1ミリシーベルトを定めていることを述べる(本章第5)。
 なお,以下で引用する条文は,特に説明がない限り,本件事故発生当時のものである。本件事故発生後に改正された内容については,必要な限度で触れることとする。

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 第2 炉規法等による規制内容

  1 規制の概要

 炉規法及び同法を受けた政令・規則・告示は,「周辺監視区域」を,当該区域の外側のいかなる場所においても実効線量が年間1ミリシーベルトを超えるおそれがないものと定めている。また,排気・排水規制により,「周辺監視区域」外の空気中または水中の放射性物質の濃度が実効線量年間1ミリシーベルトを超えないよう要求している。
 この周辺監視区域では,人の居住を禁止し,また,境界に柵又は標識を設けるなどして公衆の立ち入りを制限するよう保全措置をとることを義務づけている。
 周辺監視区域外における線量限度を維持できない場合には,本件事故発生当時の法令では発電用原子炉を使用させず,現行法では原子炉の設置そのものを許可しないこととしている。また,線量限度維持のために必要な技術基準を満たさない場合,居住禁止等の保全措置等に違反する場合には,原子炉設置者に対する設置許可取消権限や使用禁止や修理などの措置命令権限を主務大臣に与えている。
 そして,無許可運転をした者や是正命令に違反した者に対しては,炉規法は,懲役を含む厳罰を科すこととしている。
 以下,この点について詳述する。

  2 炉規法と政令・省令・規則・告示

  (1)炉規法
 炉規法は,「原子力基本法(昭和三十年法律第百八十六号)の精神にのつとり,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の利用が平和の目的に限られ,かつ,これらの利用が計画的に行われることを確保するとともに,これらによる災害を防止し,及び核燃料物質を防護して,公共の安全を図るために,製錬,加工,貯蔵,再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関する必要な規制を行うほか,原子力の研究,開発及び利用に関する条約その他の国際約束を実施するために,国際規制物資の使用等に関する必要な規制を行うことを目的とする」法律である(第1条。甲共D17・本件事故発生当時の炉規法)。
 本件事故発生後の改正により,現行法の第1条では,「国民の生命,健康及び財産の保護,環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする」と,国民の生命,健康,財産等の保全も法の目的であることを明記している。
 炉規法では,実用発電用原子炉に関する設置の許可,保安規定の認可,保安検査,原子炉の廃止等の安全規制の手続きや許認可の基準,手続や基準に従わなかった場合に課される行政処分や刑事罰などが規定されている。

  (2)政令・省令・規則・告示
 炉規法を受けた政令として,「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令」(昭和三十二年十一月二十一日政令第三百二十四号。以下,「炉規法施行令」という。甲共D18)が定められている。
 炉規法施行令中の実用発電用原子炉の設置,運転等に関する規定に基づいて定められた規則が,「実用発電用原子炉の設置,運転等に関する規則」(昭和五十三年十二月二十八日通商産業省令第七十七号。以下,「実用炉規則」という。甲共D19)である。
 さらに,実用炉規則を受けた告示として,「実用発電用原子炉の設置,運転等に関する規則の規定に基づく線量限度等を定める告示」(平成十三年三月二十一日経済産業省告示第百八十七号。以下,「線量告示」という。甲共D20)が定められている。

  3 炉規法における公衆被ばく線量限度

  (1)周辺監視区域とは
 実用炉規則は,第1条第2項第6号において「周辺監視区域」を定義している。
同規則は,まず,その同項第4号において,「管理区域」を,「炉室,使用済燃料の貯蔵施設,放射性廃棄物の廃棄施設等の場所であつて,その場所における外部放射線に係る線量が経済産業大臣の定める線量を超え,空気中の放射性物質(空気又は水のうちに自然に含まれているものを除く。以下同じ。)の濃度が経済産業大臣の定める濃度を超え,又は放射性物質によつて汚染された物の表面の放射性物質の密度が経済産業大臣の定める密度を超えるおそれのあるものをいう。」と定めている。
 また,同項第5号において,「保全区域」を,「発電用原子炉施設の保全のために特に管理を必要とする場所であつて,管理区域以外のものをいう。」と定めている。
 そのうえで,同条第6号において,「周辺監視区域」を,「管理区域の周辺の区域であつて,当該区域の外側のいかなる場所においてもその場所における線量が経済産業大臣の定める線量限度を超えるおそれのないものをいう。」と定めている。
 「管理区域」,「保全区域」,「周辺監視区域」の相互の位置関係のイメージとしては,管理区域を保全区域が囲み,さらに保全区域を周辺監視区域が囲む,という関係にある(甲共D21・原子力・エネルギー図面集)。

  (2)周辺監視区域外の線量限度

  ア 周辺監視区域外を定義づける線量限度
 周辺監視区域の定義(実用炉規則第1条第2項第6号)において記された「経済産業大臣の定める線量限度」を定めた規定が,線量告示である。
 線量告示は,その第3条第1項柱書において,「実用炉規則第一条第二項第六号及び貯蔵規則第一条第二項第三号の経済産業大臣の定める線量限度は,次のとおりとする」とし,その第1号において,「実効線量については,一年間(四月一日を始期とする一年間をいう。以下同じ。)につき一ミリシーベルト」と規定している。
 したがって,法令上,周辺監視区域の外側のいかなる場所においても,実効線量は年間1ミリシーベルトを超えてはならない。
 ここで「管理区域」について附言すれば,線量告示第2条により,3か月につき線量1.3ミリシーベルトを超えてはならないことが必要である。この管理区域は,先に述べたとおり「炉室,使用済燃料の貯蔵施設,放射性廃棄物の廃棄施設等の場所」であるが,このような区域における線量限度でさえ,国が避難区域を設定する際の基準とした年間20ミリシーベルト(これは3ヶ月当たり5ミリシーベルトに相当する)を遥かに下回っていることを指摘しておく。

  イ 排気・排出規制による濃度限度
 また,実用炉規則は,第15条第1項第4号及び第7号において,放射性廃棄物を排気・排水によって排出する場合,周辺監視区域の外の空気中または水中の放射性物の濃度が経済産業大臣の定める濃度限度を超えないようにすることを要求している。
 その濃度限度を定めたものが線量告示第9条である。その第1項第6号では,外部放射線及び内部放射線により被ばくする可能性がある場合には,その総量が実効線量年間1ミリシーベルトを超えないような濃度を濃度限度とするよう定められている。

  ウ 本件事故後も公衆被ばく線量限度に改正はないこと
 以上の公衆被ばく線量限度は,本件事故発生後も改正されることなく維持されている。

  4 公衆を被ばくから守るための法的担保

  (1)発電用原子炉の技術基準と使用禁止・設置不許可

  ア 使用前検査と使用禁止
 上記3(2)イのとおり,周辺監視区域外への廃棄規制として,周辺区域外への排気・排水における線量濃度は実効線量にして年間1ミリシーベルトを超えてはならないことが必要とされている。
 本件事故発生当時の法規制では,この排出規制を達するための技術基準を満たさない場合には,使用前検査において不合格となり,原子炉設置者に対して原子炉施設を使用させないこととしていた。

  (ア)炉規法に基づく使用前検査
 炉規法第28条第1項柱書本文は,「原子炉設置者は,主務省令で定めるところにより,原子炉施設の工事(次条第一項に規定する原子炉施設であつて溶接をするものの溶接を除く。次項において同じ。)及び性能について主務大臣の検査を受け,これに合格した後でなければ,原子炉施設を使用してはならない。」と,使用前に検査を受けることを義務づけ,同検査に合格しない限り原子炉を使用してはならないことを定めている。そして同条第2項が,「前項の検査においては,原子炉施設が次の各号に適合しているときは,合格とする。」とし,その第2号で「その性能が主務省令で定める技術上の基準に適合するものであること。」と,技術基準への適合性を同検査の合格要件として定めている。
 同号にいう技術基準を定めたものが,実用炉規則第3条の6である。同条は,その本文において,「法第二十八条第二項第二号に規定する性能の技術上の基準は,次の各号に掲げるとおりとする。」とし,その第5号において,「放射性廃棄物の廃棄施設の処理能力が,申請書等及びその添付書類に記載した能力以上であること。」としている。
 ここにいう「申請書等及びその添付書類に記載した能力」には上記3(2)イの排気・排出規制の基準を満たす能力が含まれ,この能力を満たさず排出規制に違反する場合,使用前検査に合格できず,原子炉設置者は原子炉を使用できない。

  (イ)電気事業法に基づく使用前検査
 福島第一原発のような実用発電用原子炉については,使用前検査に関する規定(炉規法第27条から第29条まで)は適用されず,電気事業法に基づく検査による(炉規法第73条)。
 電気事業法第49条第1項本文は,「第47条第1項若しくは第2項の認可を受けて設置若しくは変更の工事をする事業用電気工作物又は前条第1項の規定による届出をして設置若しくは変更の工事をする事業用電気工作物(その工事の計画について,同条第4項の規定による命令があつた場合において同条第1項の規定による届出をしていないものを除く。)であつて,公共の安全の確保上特に重要なものとして経済産業省令で定めるもの(第3項において「特定事業用電気工作物」という。)は,その工事について経済産業省で定めるところにより経済産業大臣の検査を受け,これに合格した後でなければ,これを使用してはならない。」と,設置した事業用工作物の使用前に検査を受けることを義務づけ,同検査に合格しない限り原子炉を使用してはならないことを定めている。そして同条第2項本文が,「前項の検査においては,その事業用電気工作物が次の各号のいずれにも適合しているときは,合格とする。」とし,その第2号で「第39条第1項の経済産業省令で定める技術基準に適合しないものではないこと。」と,技術基準への適合性を同検査の合格要件として定めている(甲共D28)。
 同号にいう技術基準を定めたのが,技術基準省令である。技術基準省令第30条第1項本文は,「原子力発電所には,次の各号により放射性廃棄物を処理する設備(排気筒を含み,第28条及び次条に規定するものを除く。)を施設しなければならない。」とし,その第1号において,「周辺監視区域の外の空気中及び周辺監視区域の境界における水中の放射性物質の濃度が,それぞれ別に告示する値以下になるように原子力発電所において発生する放射性廃棄物を処理する能力を有するものであること」としている(甲共D30)。
 その告示が,「発電用原子力設備に関する放射線による線量等の技術基準(平成一三年三月二一日経済産業省告示第百八十八号)」であり,その第5条において,線量告示9条の規定が準用され,外部被ばくと内部被ばくとあわせて,実効線量年間1ミリシーベルト以下の濃度とすることが必要となる(甲共D31)。
 この能力を満たさず排出規制に違反する場合,使用前検査に合格できず,原子炉設置者は原子炉を使用できない。

  イ 現行法では設置が許可されないこと
 対して,現行の炉規法では,第43条の3の5第1項において,「発電用原子炉を設置しようとする者は,政令で定めるところにより,原子力規制委員会の許可を受けなければならない。」としている。その許可基準について,同条第2項は「前項の許可を受けようとする者は,次の事項を記載した申請書を原子力規制委員会に提出しなければならない。」とし ,その第9号において「発電用原子炉施設における放射線の管理に関する事項 」を定めている。
 ここにいう「放射線管理に関する事項」には,周辺監視区域の外における実効線量の算定の条件及び結果が含まれている(現行実用炉規則第3条第6号ハ)。そして,周辺監視区域外の線量限度ないし濃度限度を満たさない場合には,現行炉規法第43条の3の6第4号により,設置が許可されない。

  (2) 周辺監視区域における居住禁止・立入制限の保全措置

  ア 原子炉施設の保全としての規定
 炉規法第35条第1条第1号は,原子炉設置者に対して「原子炉施設の保全」を講じることを要求している。保全措置の具体的内容について,実用炉規則第8条3号本文は,「周辺監視区域については,次の措置を講ずること。」とし,そのイで「人の居住を禁止すること。」,そのロで「境界にさく又は標識を設ける等の方法によつて周辺監視区域に業務上立ち入る者以外の者の立ち入りを制限すること。ただし,当該区域に人が立ち入るおそれのないことが明らかな場合は,この限りでない。」と定めている。
 このように,周辺監視区域では,何人であっても居住を禁止され,また,境界に柵又は標識を設けるなどの方法によって公衆の立ち入りが制限されている。

  イ 線量限度を超える被ばくから公衆を保護する措置であること
 実用炉規則8条3号の保全措置は,線量限度を超える被ばくから公衆を保護するための保全措置でもある。
 公衆の被ばく保護のための保全措置であることは,本件事故発生当時の主務官庁である経済産業省が,周辺監視区域を,「原子力施設の周囲を柵などにより区画し,その外側にいる人が受ける放射線の量が,法令で規制している値(1年間の実効線量:1mSv,皮膚及び眼の水晶体の1年間の等価線量:50mSv)を超えることがないように管理している区域をいう。」と説明していることからも明らかである(甲共D22)。
 電気事業連合会もまた,「原子力施設に起因する一般公衆の被ばく線量が,法律に定められる値を超えないよう一般公衆の不用な立ち入りを制限する区域」と,線量限度を超えて公衆を被ばくさせないための措置として説明している(甲共D21)。

  (3)定期検査と許可取消,保安措置命令

  ア 炉規法に基づく定期検査
 原子炉設置者は,原子炉施設の性能について毎年1回の検査を受けなければならず(炉規法第29条第1項),同検査は,その性能が主務省令で定める技術基準に適合しているかについて行われる(同条第2項)。
 適合性検査対象となる技術基準は,技術基準省令に規定する技術基準であり(炉規法施行規則第3条の17第2号),技術基準省令第30条第1項第1号により,周辺監視区域外における線量限度以下とするため能力が放射性廃棄物を処理する設備に必要とされる(甲共D30)。その線量限度も,実効線量年間1ミリシーベルトである(発電用原子力設備に関する放射線による線量等の技術基準第5条(甲共D31),数量告示第9条)。
 これらの能力を維持しておらず技術基準に適合しない場合には,主務大臣である経済産業大臣は,原子炉設置者に対して,原子炉施設の使用の停止,改造,修理又は移転,原子炉の運転の方法の指定その他保安のために必要な措置を命ずることができる(炉規法第36条第1項)。
 原子炉設置者がその命令に違反するときは,経済産業大臣は,原子炉設置者に対する設置許可を取り消し,または1年以内の期間を定めて運転の停止を命じることができる(同法第33条第2項第3号)。

  イ 電気事業法に基づく定期検査
 福島第一原発のような実用発電用原子炉については,炉規法に基づく定期検査は適用されず,電気事業法に基づく定期検査による(炉規法第73条)。
 電気事業者は,発電用原子炉及びその附属設備について,定期的に,経済産業大臣の行う定期検査を受けなければならない(電気事業法第54条第1項)。その検査では技術基準適合性が審査され,技術基準省令第30条第1項第1号)による周辺監視区域外への濃度限度を維持する能力が求められる。
 その能力が維持されていない場合,技術基準に適合しないものとして,経済産業大臣は,原子炉施設の設置者に対し,その技術基準に適合するように修理,改造,移転し,使用の一時停止,使用の制限を命ずることができる(電気事業法第40条)。

  (4)居住禁止等の保全義務違反と許可取消,保安措置命令
 また,周辺監視区域における保全としての居住禁止・立ち入り制限(炉規法第35条第1項第1号)に反するときにも,経済産業大臣は保全のために必要な措置を命じることができ(炉規法第36条第1項),命令に違反するときは,上記4(3)同様,設置許可の取消や運転停止を命じることができる(同法第33条第2項第3号)。

  (5)罰則
 炉規法は,上記4(3)(4)の運転停止命令(炉規法第33条第2項)に違反した者に対して,3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処し,又はこれを併科するとしている(炉規法77条第5号)。
 また,上記4(1)に述べた使用前検査(炉規法第28条第1項)に合格せずに原子炉を使用した者に対して,また,上記4(4)で述べた保安のための措置命令(炉規法第36条第1項)に違反した者に対して,1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処し,又はこれを併科するとしている(第78条第8号の2,第12号)。電気事業法も,技術基準適合命令に違反した者には3年以下の懲役もしくは300万円以の罰金に処し,又はこれを併科すること(電気事業法第116条第2号),使用前検査に合格せずに原子炉を使用した者には1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処し,又はこれを併科することとして(第117条の2第1号),さらに重い罰則規定を置いている。
 さらに,現行の炉規法では,上記4(2)のとおり,周辺監視区域外の線量限度を維持できない場合には原子炉設置が許可されないところ,許可を得ずに原子炉を設置した者に対して,3年以下の懲役若しくは300以下の罰金に処し,又はこれを併科するとしている(第77条第6号の2)。
 このように,周辺監視区域の外側における線量ないし線量濃度が実効線量年間1ミリシーベルトを超えるような原子炉の使用,設置ないし運転をする者に対して,炉規法は,懲役刑を含む厳罰をもって処することとしている。

  5 小括

 以上のとおり,炉規法は,排水・排出規制によって,原子炉施設の「周辺監視区域」の外側のいかなる場所においても実効線量が年間1ミリシーベルトを超えるおそれがないことを要求している。そして,この線量限度もこれを超えて被ばくしないよう,周辺監視区域では,公衆が線量限度を超えて被ばくしないよう,何人の居住も許可せず,また,公衆の立ち入りも制限している。
 炉規法は,この線量限度規制を満たさない場合には原子炉を使用させず,現行法では設置も許可しないこととして,公衆が線量限度を超えて被ばくすることのないよう予防策を講じている。
 使用開始後でも,定期検査より技術基準適合性を検査し,技術基準を適合せず周辺監視区域外の線量限度が維持されていない場合には,速やかに周辺監視区域外の線量限度を年間1ミリシーベルト以下とするための強力な権限,すなわち,使用停止や保安措置を命じる権限や,その命令に違反するときには運転停止を命ずる権限や設置許可を取り消す権限を,経済産業大臣に付与している。
 さらに,懲役を含む刑罰を科することによって,周辺監視区域外における線量が実効線量年間1ミリシーベルトを超えるような原子炉の使用,設置ないし運転を行うことを厳重に取り締まっている。
 このように,炉規法は,許可制や懲役刑を含む刑罰といった厳格な規制をもって,実効線量年間1ミリシーベルトを超える被ばくから,国民を徹底的に保護している。

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 第3 放射線障害防止法

  1 規制の概要

 放射線障害防止法及びこれを受けた政令・規則・告示も,施設の境界等における放射線量が実効線量1ミリシーベルト以下となるよう遮蔽措置を義務づけ,また,廃棄施設における排気・排水設備にも境界外では実効線量年間1ミリシーベルト以下とする能力を要求している。また,境界外の線量濃度も監視して実効線量年間1ミリシーベルトを超えないことも義務づけている。
 これらの規制を達するための技術基準に適合しない場合には,放射性同位元素等の使用を許可しないこととしている。また,技術基準適合維持義務を設け,義務違反者に対する是正命令権限や使用許可取消権限を経済産業大臣に付与している。
 さらに,無許可使用や義務違反,命令違反をする者に対しては,懲役を含む厳罰を科するとしている。
 以下,この点について詳述する。

  2 放射線障害防止法と政令・省令・規則・告示

  (1)放射線障害防止法
 放射線障害防止法は,「原子力基本法(昭和三十三年法律第百八十六号)の精神にのつとり,放射性同位元素の使用,販売,賃貸,廃棄その他の取扱い,放射線発生装置の使用及び放射性同位元素によつて汚染された物の廃棄その他の取扱いを規制することにより,これらによる放射線障害を防止し,公共の安全を確保することを目的とする。」法律である(法1条。甲共D24)。
 昭和33年4月1日施行後,バイオサイエンス研究分野・工業分野・医療分野・農業分野等,多種多様な分野での放射線利用の拡大に伴い,改正が重ねられている。

  (2)政令・省令・規則・告示
 放射線障害防止法を受けた政令として,「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行令」(昭和三十五年九月三十日政令第二百五十九号。甲共D25。以下,「放射線障害防止法施行令」という。)が定められている。
 これを受けた規則として「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行規則」(昭和三十五年九月三十日総理府令第五十六号。甲共D26。以下,「放射線障害防止法施行規則」という。)が定められている。
 同規則を受け,「放射線を放出する同位元素の数量等を定める件」(平成十二年科学技術庁告示第五号。甲共D27。以下,「数量告示」という。)が定められている。

  3 放射線障害防止法における公衆被ばく線量限度

  (1)使用施設における技術基準等と線量限度

  ア 使用許可と技術基準,許可取消など
 放射線障害防止法は,放射線同位元素等を使用しようとする者は,文部科学大臣の許可を得ることを求めている(第3条第1項)。
 許可基準について,同法第6条柱書は「文部科学大臣は,第三条第一項本文の許可の申請があつた場合においては,その申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ,許可をしてはならない。」と許可事由を設け,その第1号で「使用施設の位置,構造及び設備が文部科学省令で定める技術上の基準に適合するものであること」と技術基準に適合することを必須としている。
 貯蔵施設(同条第2号),廃棄施設(同条第3号)も同様である。

  イ 境界等における線量限度
 この技術基準について,放射線障害防止法施行規則は,その第14条の7柱書において,「法第六条第一号の規定による使用施設の位置,構造及び設備の技術上の基準は,次のとおりとする」としている。
 その第3号で「使用施設には,次の線量をそのそれぞれについて文部科学大臣が定める線量限度以下とするために必要なしゃへい壁その他のしゃへい物を設けること。」と定め,そのうちのロで「工場又は事業所の境界(工場又は事業所の境界に隣接する区域に人がみだりに立ち入らないような措置を講じた場合には,工場又は事業所及び当該区域から成る区域の境界)及び工場又は事業所内の人が居住する区域における線量」として,工場又は事業所の境界などにおける線量を限度以下とするために必要な遮蔽措置を要求している。
 この線量限度を定めたものが数量告示であり,第10条第2項柱書において,「規則第十四条の七第一項第三号に規定する同号ロに掲げる線量に係る線量限度については,次のとおりとする。」として,その第1号に「実効線量が三月間につき二百五十マイクロシーベルト」,すなわち,3ヶ月毎の線量限度が画されているという点で,実効線量年間1ミリシーベルトよりも厳格な規定を置いている。
 貯蔵施設及び廃棄施設においても,使用施設と同様の遮蔽措置が必要である(放射線障害防止法施行規則第14条の9第3号,同第14条の11第3号)。

  (2)廃棄施設における排気・排水設備の技術基準
 廃棄施設では,廃棄に関する技術基準も設けられている。
すなわち,放射線障害防止法施行規則第14条の11第1項第4号ロ(3)は,排気設備の技術基準として,最低でも,事業所等の境界の外における線量が文部科学大臣の定める線量限度以下とする能力を有することに文部科学大臣の承認を受けていることを要求している。
 排水設備の技術基準についても,同規則第14条の11項第5号イ(3)により,文部科学大臣の定める線量限度以下とする能力を有することに文部科学大臣の承認を受けていることが必要である。
 これらの線量限度について,数量告示第14条第2項は,実効線量年間1ミリシーベルトとしている。

  (3)廃棄施設における線量濃度の監視
 また,同法第19条第1項により,許可使用者(法第3条1項本文の許可を受けた者。法第10条第1項参照)を含む許可使用届出者は,放射性同位元素等を廃棄する場合には,文部科学省令で定める技術基準に従って放射線障害防止のために必要な措置を講じなければならない(同法第15条第1項)。
 その措置について,同規則第19条第1項第2号ハ及び第5号ハは,排気設備及び排水設備において廃棄する場合にあっては,排気中・排水中の放射性同位元素の数量及び濃度を監視することにより,事業所等の境界の外における線量を文部科学大臣が定める線量限度以下とすることを義務付けている。
 その線量限度を,数量告示は,実効線量年間1ミリシーベルトと定めている(線量告示第14条第4項)。

  4 公衆を被ばくから守るための法的担保

  (1)技術基準と設置不許可
 上記3(1)アで述べたとおり,放射線障害防止法は,技術基準に適合しない場合には,文部科学大臣は,放射性同位元素等の使用許可申請を許可してはならない(放射線障害防止法第6条第1号ないし第3号)。
すなわち,遮蔽措置,排気・排水設備能力の技術基準(放射線障害防止法施行規則第14条の7,第14条の9,第14条の11)にすべて適合し,事業所等の境界における実効線量を年間1ミリシーベルト以下ないし3月につき250マイクロシーベルト以下とする場合でなければ,放射性同位元素等の使用を許可してはらないとしている。

  (2)技術基準適合維持義務と許可取消など
 許可使用者には,技術基準の適合を維持する義務があり(同法第13条第1項),技術基準に適合していない場合には,文部科学大臣に移転,修理,改造を命ずる権限を付与している(同法第14条)。この技術基準適合義務に反した場合,また,文部科学大臣による移転等の命令に反した場合には,文部科学大臣は,使用許可を取り消し,または廃棄停止を命ずることができる(法第26条第1項第6号,第7号)。
 また,排気・排水の濃度監視の技術基準に従った措置義務(同法第15条第1項)に違反した場合,文部科学大臣は,使用許可者を含む許可使用届出者に対して,廃棄停止その他放射線障害防止のためのために必要な措置を命ずることができる(法第19条第3項)。そして,この措置義務に反した場合,また,文部科学大臣による命令に違反した場合にも,文部科学大臣は,使用許可取り消し,または廃棄停止を命ずることができる(法第26条第1項第8号,第9号)。

  (3)罰則
 放射線障害防止法は,第3条第1項本文の許可を得ないで放射性同位元素等を使用した者,また,第26条第1項の廃棄停止命令に違反した者を,3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処し,またはこれを併科するとしている(法第51条第1号,第3号)。
 また,技術基準適合義務に違反に対する文部科学大臣による移転,修理,改造命令(法第14条)に反した者,また,技術基準に従った措置義務違反に対数廃棄停止その他の命令(法第19条第3項)に反した者を,1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処し,またはこれを併科するとしている(法第52条第6号。平成22年改正)。

  5 小括

 以上のとおり,放射線障害防止法は,放射線障害を防止するため,工場又は事業所の境界の外における放射線量が実効線量年間1ミリシーベルトとなる技術基準を設け,これに適合しない場合には放射線同位元素等の使用を許可しないこととしている。
 また,許可使用者に対して,技術基準適合義務や廃棄施設における濃度監視義務を課し,これに違反した場合には,文部科学大臣に対して,許可取り消しや廃棄命令など,速やかに境界外における放射線量を線量限度以下とするための権限の付与している。
 そして,許可なく放射性同位元素等を使用した者や,文部科学大臣の命令に違反した者に対しては懲役刑を含む刑罰を科することによって,無許可使用や命令違反行為を厳重に取り締まっている。
 このように,放射性同位元素もまた,公衆が実効線量1ミリシーベルトを線量限度として,許可制や刑罰などの厳格な規制を講じて,線量限度を超えて被ばくしないよう公衆を徹底的に保護している。

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 第4 公衆被ばく線量限度の制定経過

  1 制定経過の概要

 以上のとおり,炉規法及び放射線障害防止法は,公衆が実効線量年間1ミリシーベルトを超えて被ばくしないよう厳格な法的担保を講じている。
 この実効線量年間1ミリシーベルトという公衆被ばく線量限度は,ICRP1990年勧告がLNT仮説を採用して勧告した公衆被ばく線量限度を,放射線審議会における専門的審議,しかも国民からの募集意見も踏まえた審議を経て,国内法に導入したものである。
 以下,ICRP1977年勧告とパリ声明からの流れを踏まえて,国内法における線量限度の制定経過を述べる。

  2 ICRPの1977年勧告及びパリ声明の国内法への導入

  (1)ICRP1977年勧告及び1985年パリ声明
 第3章で述べたとおり,ICRP1977年勧告は,LNT仮説を採用し,公衆被ばく線量限度を実効線量当量にして年間5ミリシーベルトとしていた。
 しかし,1985年のパリ声明は,ICRP1977年勧告における基準は限られた条件下でしか用いることができないとして,公衆被ばく線量限度を実効線量当量年間1ミリシーベルトとした。
 なお,同声明では,1ミリシーベルトを主たる限度とし,生涯にわたる平均の年実効線量当量が1年につき1ミリシーベルトを超えることのない限り,1年につき5ミリシーベルトという補助的限度を数年にわたって用いることが許されるともする。しかし,この補助的限度は,後述のICRP1990年勧告の国内法導入経過で触れるとおり,病室等の線量規制値に関して適用可能性を検討する必要があると位置付けられているにすぎない。

  (2)放射線審議会による昭和61年意見具申と告示改正

  ア 放射線審議会と構成委員
 ICRP1977年勧告及び1985年パリ声明を国内法に導入すべきかについて,我が国では「放射線審議会」において審議された。
 放射線審議会とは,昭和61年当時の規定に従って述べれば,放射線障害の防止に関する技術的基準の斉一を図ることを目的として,「放射線障害防止の技術的基準に関する法律」(昭和58年12月2日改正時)により,科学技術庁に附属機関として設置される機関である(同法1条,4条)。
 放射線審議会は,放射線障害の防止に関する技術的基準に関すること(同法5条1号)及び自然に賦存する放射性物質から発生する放射線,核爆発に伴う放射性生成物から発生する放射線等の線量及びこれらの発生する放射性物質量の測定方法に関すること(同2号)について,調査審議を行うことされ,関係行政機関の長は,放射線障害の防止に関する技術的基準を定めようとするときは,審議会に諮問しなければならないとされている(同6条)。
 放射線審議会の構成委員は,関係行政機関の職員及び放射線障害の防止に関し学識経験のある者のうちから,内閣総理大臣が任命することとなっており(同7条),下記意見具申がなされた昭和61年7月当時も,放射線影響協会理事長や各関係行政機関の事務次官,放射線医学総合研究所長など26名の委員が任命されていた(甲共D28・36頁)。

  イ 昭和61年意見具申
 放射線審議会では,昭和61年2月20日,第44回放射線審議会において,パリ声明の取入れに関する検討を開始することとし,同年3月,基本部会打合せ会を設置し,同会において検討を重ねた。
 その検討結果は,同年7月8日に開催された第45回放射線審議会において報告され,放射線審議会でも1977年勧告及びパリ声明における線量限度を導入することが適切と結論づけ,「国際放射線防護委員会の新勧告について(意見具申)」(甲共D28。以下「昭和61年意見具申」という。)を採択した。
 昭和61年意見具申は,「パリ声明で示された公衆の構成員に関する実効線量当量限度の値である1年につき1ミリシーベルト(100ミリレム)を取り入れることは妥当であると考えるので,これを規制体系の中で担保することが適当である」した(甲共D28・20頁)。
 この意見具申を受けて,線量限度を定める告示,数量告示の定める公衆被ばく線量限度が,実効線量当量にして年間1ミリシーベルトに改正された。

  3 ICRP1990年勧告の国内法への導入

  (1)ICRP1990年勧告の考え方
 第3章で述べたとおり,ICRP1990年は,LNT仮説を採用することを改めて述べたうえで,放射線量の単位を実効線量当量に代えて「実効線量」を用いることとして,公衆被ばく線量限度を年実効線量限度1ミリシーベルトとすることを勧告した。
 ICRP1990年勧告は,線量限度を定めるにおいての委員会の目的を,「ある決まった1組の行為について,また規則的で継続する被ばくについて,これを超えれば個人に対する影響は容認不可と広くみなされるであろうようなレベルの線量を確定することである。」として(甲共D10・44頁・149項),公衆被ばく線量限度実効線量年間1ミリシーベルトを勧告した。

  (2)放射線審議会における審議経過
 ICRP1990年勧告の国内法導入についても,放射線審議会が審議を行った。その審議経過は,「ICRP1990年勧告(Pub.60)の国内制度等への取入れについて(意見具申)」(甲共D33。以下「平成10年意見具申」という。)の冒頭において整理されている(甲共D33・1頁以下)。
 その要点は次のとおりである。

  ア 基本部会,打合せ会,分科会の設置
 放射線審議会は,平成3年2月6日の第54回総会において1990年勧告の法令取入れについて基本部会で検討することとし,同月22日の第60回基本部会において,基本部会の下に「打合せ会(ICRP)」(以下「打合せ会」という。)を設置することとした。
 打合せ会は,同年3月15日に第1回打合せをし,(1)1990年勧告の内容の把握,(2)当時の法令の基礎となっているICRP1977年勧告と1990年勧告との相違点のとりまとめ,(3)1990年勧告の国内法令取入れの方向付けを行う際に検討すべき項目の把握,等を行うこととし,その結果を第11回打合せ会(平成4年10月16日)において「ICRP1990年勧告(Pub.60)の審議状況について(中間報告):としてとりまとめた。この報告では,1990年勧告の法令取入れに関する検討項目を,“法令への取入れを早急に検討すべき項目”と“その他の長期的検討項目”に分けて整理した。
 以降,これらの検討項目について,打合せ会の下に分科会を設けて,41回の分科会検討を行い,その検討状況について,適宜打合せ会において報告した。
 各分科会の検討状況は,「ICRP1990年勧告(Pub.60)の法令取入れ等に関する審議状況について」として,第16回打合せ会(平成7年6月9日)において報告された。
 打合せ会は,分科会としての検討終了を受けて,その検討結果を踏まえて報告書をとりまとめ,第62回基本部会(平成8年6月24日)に報告した。

  イ 国民からの意見を踏まえた基本部会での検討
 基本部会は,打合せ会の報告書をもとに更に検討を進め,基本部会としての検討がひととおり終了したため,基本部会の報告書案をとりまとめて公表し,国民からの意見募集(平成9年6月10日〜同年7月9日)を行った。
 基本部会は,国民から寄せられた意見等を踏まえて更に検討を進め,第76回基本部会(平成10年2月19日)において報告書をとりまとめ,第66回放射線審議会総会(平成10年3月26日)に報告した。

  ウ 平成10年意見具申のとりまとめ
 そして,同総会は,基本部会の報告書について更に検討し,基本部会報告書を一部修正して,第67回総会(平成10年6月10日)において平成10年意見具申をとりまとめた。

  (3)平成10年意見具申における公衆被ばく線量限度
 上記のとおり,放射線審議会は,基本部会,打合せ会,分科会での検討のうえに,放射線審議会総会でも更に検討を行った。そして,平成10年意見具申において,ICRP1990年勧告を取り入れ,線量限度を定める量として「実効線量」を用いて,公衆被ばく線量限度を実効線量にして年間1ミリシーベルトとし,これを規制体系の中で担保することが適当であり,そのためには施設周辺の線量,廃棄・排水の濃度等のうちから適切な種類の量を規制することによって当該線量限度を担保できるようにすべきであると結論づけた(甲共D33・11〜13頁)。
 なお,ICRP1990年勧告が,特殊な状況下では,5年間のうちの単一年において1ミリシーベルトよりも高い値を補助的な限度として用いることも可能としている点について,放射線審議会は,病室等の線量規制値に関しての適用可能性として検討する必要があるとしているだけで(甲共D33・13頁),通常の居所などとはまったく異なる場面の問題として扱っているにすぎない。

  (4)告示改正
 放射線審議会の平成10年意見具申を受けて,実効線量限度を担保できるよう関係法令が改正され,線量告示,数量告示における公衆被ばく線量限度は,実効線量にして年間1ミリシーベルト,あるいは3か月で250マイクロシーベルトに改正された。
 改正後の告示の内容は,本章第2及び第3で述べたとおりである。

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 第5 LNT仮説に立ち公衆被ばく線量限度を定める社会規範

 以上のとおり,国内法における公衆被ばく線量限度は,放射線審議会による意見具申に従って,ICRP1990年勧告,すなわち,LNT仮説を採用して確定した線量限度の勧告を取り入れたものである。
 したがって,LNT仮説にたって公衆被ばく線量限度を実効線量1ミリシーベルトとし,これを超える被ばくを許さず,刑罰をもってでもその実効性を担保しようとしているのが,社会的合意ないし社会規範である国内法の定めである。
 なお,本準備書面第4章第3で述べたとおり,参考レベルという概念は,政策決定の指針という,公衆の線量限度とはまったく別個の概念であって,公衆被ばく線量が1ミリシーベルトであることに影響を与えるものではないし,公衆が線量限度を超える被ばくを容認しなければならない理由ともならない。したがって,国内法における線量限度とも無関係である。さらにいえば,参考レベルの考え方は,国内法令にも導入されていない。

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