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★ 準備書面(3)避難の社会的相当性
 第6章 避難の社会的相当性 
平成26年6月27日

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 第1 避難の社会的相当性を判断することの内実
 第2 甚大かつ不可逆的な放射線被害を回避することの合理性
 第3 過去の放射線被ばく事故等に照らした合理性
 第4 国内法と避難の相当性
 第5 結論



第6章 避難の社会的相当性

 第1 避難の社会的相当性を判断することの内実

 本準備書面第1章で述べたとおり,避難の相当性判断は,現実に放射線被害が生じるか否かの科学的判断ではなく,一般人を基準として当該避難行為に相当性が認められるか否かという,社会通念に基づいた法的・規範的な相当性判断である。その内実は,「どのような避難であれば,その損失を被告らの負担とすることが相当か」という社会的判断である。
 以下では,第2章ないし第5章で述べた各事情より,少なくともどのような避難には社会的相当性が認められるかを論じて,結論として,原告らの避難には社会的相当性が認められることを述べる。


 第2 甚大かつ不可逆的な放射線被害を回避することの合理性

 まずもって,本準備書面第2章及び第3章で詳述したとおり,放射線被ばくが生命・健康という重大法益に対する甚大かつ不可逆的な損害をもたらすこと,また,低線量被ばくにおいてもLNT仮説が放射線影響に関する国際的な機関で広く承認されていることについては,一定の科学的知見が確立している。
 したがって,低線量被ばくであっても,これを回避するために避難行動をとることには合理性が認められる。

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 第3 過去の放射線被ばく事故等に照らした合理性

 本準備書面第4章で詳述したとおり,過去の事故・事件等は,放射線被ばくがいかに甚大かつ不可逆的な被害をもたらすものであるか,また,とりわけ原子力発電所の事故による放射線被ばくがいかに危険であるかを示しており,未曾有の原発事故に曝された市民が,かかる被害発生を未然に防止すべくリスク回避行為に出ることは,動機として十分に了解可能であり,行動として極めて合理的である。


 第4 国内法と避難の相当性

 本準備書面第5章第1・1で述べたとおり,避難行為の相当性判断において,本件事故発生当時における公衆被ばく線量限度に関する社会的合意ないし社会規範として国内法がどのように線量限度を定めていたかは,相当性判断の中核的要素をなす。
 この点,第5章第6で述べたとおり,実効線量年間1ミリシーベルトを超える被ばくを許さないというのが国内法の立場であり,公衆被ばく線量限度についての社会的合意ないし社会規範である。
 また,実効線量1ミリシーベルトを超える地域から避難することは,許可制や刑罰,居住禁止・立入制限措置などの厳格な法的担保を講じて線量限度を超える被ばくから公衆を徹底的に保護している国内法規制にも適合する行為である。
 したがって,少なくとも,生活圏内に実効線量年間1ミリシーベルトを超える地点を含む地域から避難によって生じる損害を被告らが負担すべきことは当然である。


 第5 結論

 以上のとおり,放射線被ばくがもたらす損害は甚大かつ不可逆的であり,これを回避しようすることは社会通念上十分了解可能であるところ,我が国において放射線被ばく事故が重い意味を有しているうえ,被告国自身が重視するICRPもLNT仮説を採用して公衆被ばく線量限度を実効線量年間1ミリシーベルトとしており,これらを踏まえ,国内法が,ICRP勧告同様,公衆被ばく線量限度を実効線量年間1ミリシーベルトと定め,これを超える被ばくから公衆を保護するため,刑罰をも科していることからすれば,少なくとも,年間1ミリシーベルトを超える線量が測定された地域から避難することに社会的相当性が存するのは疑いようがなく,当該避難から生じた損害は相当因果関係があるものとして賠償されなければならない。

以 上

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