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★ 準備書面(3)避難の社会的相当性 
 第4章 放射線被ばく事故の歴史 
平成26年6月27日

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 第1 はじめに
 第2 原子爆弾
  1 被害の概要
  2 被ばくの範囲
  3 原爆症認定訴訟

 第3 第五福竜丸事件
  1 被害の概要
  2 帰還が進まない現状

 第4 チェルノブイリ原発事故
  1 被害の概要
  2 チェルノブイリ法制

 第5 原発事故
  1 東海村JCO臨界事故
  2 その他の原発事故

 第6 小括



第4章 放射線被ばく事故の歴史

 第1 はじめに

 これまで詳述したとおり,放射線被ばくが,生命・健康という重大法益に対する甚大かつ不可逆的な被害をもたらすことについては,一定の科学的知見が確立している。
 加えて,一般市民は,具体的な事故や事件等によって,放射線被ばくの危険性を教えられ,これに対する恐怖を植えつけられてきたのである。
 そこで,以下では,本件事故以前に発生した主な放射線被ばく事故等を振り返り,それぞれの被害の概要を紹介するとともに,一般市民にどのような影響を与えてきたかを概説する。


 第2 原子爆弾

  1 被害の概要

 第2次大戦中の1945年,マンハッタン計画によって原子爆弾を開発したアメリカは,同年8月6日に広島,同月9日に長崎,と相次いで原爆を投下した。
 原爆投下後,広島では14万人,長崎では7万人と推定される人々が筆舌に尽くしがたい苦悶のうちに短期日に死亡した。また,生き延びた人々にも,脱毛,下痢,発熱等の急性症状のみならず,がんや悪性新生物などの晩発障害をもたらした。発病に怯え,故なき差別に苦しむ「ヒバクシャ」は,その後の人生さえも奪われた(甲共D15・21頁,甲共D16・85〜96頁)。

  2 被ばくの範囲

 原爆の原理は,長崎ではプルトニウム239(Pu239),広島ではウラン235(U235)に中性子を衝突させ,それぞれの原子核が2個の原子核に分裂し,その際平均2.5個の中性子が飛び出すと共に,高いエネルギーが発生するという現象を利用したものである。こうして飛び出した中性子が別のプルトニウム239またはウラン235に衝突するとそれが核分裂をおこし,また平均2.5個の中性子を放出する反応がネズミ算式に拡大し,いわゆる核分裂反応を引き起こすというものであった(甲共D15・21〜25頁)。
 原爆は,従来の火薬爆弾とは異なり,爆発と同時に透過力の強い放射線(ガンマ線や中性子線)を放出するため,爆心地付近の大地が一面に放射線物質と化し,いわゆる「死の灰」と呼ばれる核分裂生成物により,広い範囲が長期間にわたって放射線被ばくにさらされた。

  3 原爆症認定訴訟

 この点,いわゆる原爆症認定訴訟において,被告国は,原爆放射線の影響を受けるのは,爆心地から2キロメートル以内で直爆した人に限られるとし,爆心地から2キロ以上離れたところにいた遠距離被ばくや,爆発後市内に入った入市被ばく等は,放射能の影響を受けるはずはないと主張していた。
 しかし,多くの判決において,遠距離被ばく者及び入市被ばく者にも急性症状が生じている事実及び国の線量評価が過小であることが明らかとなっている(甲共D5・62頁。甲共D16・87〜88頁)。

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 第3 第五福竜丸事件

  1 被害の概要

 1954年3月1日,アメリカは太平洋のマーシャル諸島にあるビキニ環礁で水爆実験「ブラボー実験」を行った。アメリカは1946年から1958年にかけて,ビキニ環礁で23回の核実験を行っているが,最も規模が大きかったのがブラボー実験で,広島に投下された原爆の1000倍の威力を持っていたと言われている。
 当時,ビキニ環礁東海域を航行していた静岡県のマグロ漁船「第五福竜丸」は乗組員23人全員が被ばくして急性症状を起こし,無線長の久保山愛吉氏は放射能症の悪化により半年後に亡くなった。2007年までに亡くなった乗組員は計12名で,うち10名の直接の死因は,晩発障害と思われる肝臓がん,あるいは肝機能障害によるものであったとされている。
 また,全国各地で,放射能汚染マグロに対する不買運動が起き,大量のマグロ廃棄処分が起こるなど,日本全体に大きな衝撃を与えた。
 後にアメリカは危険区域を拡大し,第五福竜丸以外にも危険区域内で多くの漁船が操業していたことが明らかとなり,周辺住民含め2万人が被ばくしたと言われている。
 このように,広い範囲に放射性物質を含んだ「死の灰」が降り注ぎ,周辺に住む島民も数多くが被ばくし,今も健康被害を訴える人たちが少なくない(甲共D14・70〜74頁,甲共D16・99〜113頁)。

  2 帰還が進まない現状

 ビキニ環礁では,167人の島民が核実験前に別の島へ移住を強いられ,その後,米国はビキニ地方政府と91年から本格的に除染と再定住計画を進めたが,核実験から60年経っても島民らの帰還は実現していない。同環礁は,2010年に世界文化遺産に登録され,観光振興を模索するが見通しは厳しいと言われている。
 また,ブラボー実験において,「危険区域外」とされていたために事前に避難しなかったロンゲラップ環礁の島民らは,「死の灰」を浴びた。その後,一部ながら除染がすすみ,再定住計画が動き始めたが,今なお元島民は戻ってきていない。
 いずれも,帰郷を阻む「核への恐れ」の問題が根底にあると言われている。

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 第4 チェルノブイリ原発事故

  1 被害の概要

 1986年4月26日,ウクライナ共和国にあるチェルノブイリ原子力発電所の4号炉で爆発事故が生じ,それにより,原子炉内にあった大量の放射性物質が大気中へ放出された。放射能汚染は広範囲に及び,原発周辺のみならず200キロメートル以上離れたところでも高濃度汚染地域が広がっていたことが判明している。
 チェルノブイリ原発事故後,遅くとも,1990年ころから子どもたちの間で甲状腺がんが急増した。爆発により放出されたヨウ素131が子どもたちの甲状腺に取り込まれ,被ばくをもたらしたものである。また,半減期が30年と長いセシウム137については,遠くまで飛んでいき,食べ物に取り込まれやすいという特徴があることから,外部被ばく及び内部被ばくの長期的な影響が問題視されている(甲共D14・183〜216頁,甲共D15・60〜63頁,甲共D16・20〜33頁)。

  2 チェルノブイリ法制

 チェルノブイリ原発事故の被災者を対象とした法律が,ロシア,ウクライナ,ベラルーシの3国で制定されている。
 各法は若干異なるが,基本的には同様の規定を置いており,たとえば,1991年5月15日に制定されたロシア連邦のチェルノブイリ法においては,(1)どこまでが被災地域であるのか,(2)チェルノブイリ原発事故の被災者は誰なのか,(3)誰にどんな補償や支援が認められるか,ということが定められている。
 同法には,喪失財産(家,家畜,家財等)の補償,移住先での就職支援,職業訓練,就職までの月額給付金,引っ越し一時金,移住先での就学支援など様々な補償や支援策が定められている。

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 第5 原発事故

  1 東海村JCO臨界事故

 1999年9月30日,茨城県那珂郡東海村に所在する住友金属鉱山の子会社の核燃料加工施設,株式会社ジェー・シー・オーの核燃料加工施設内で核燃料を加工中,ウラン溶液が臨界状態に達し,核分裂連鎖反応が発生,この状態が約20時間持続する事故が起きた。
 これにより,至近距離で中性子線を浴びた作業員3名中,2名が死亡,1名が重症となったほか,667名が被ばくした(甲共D15・8〜12頁)。
 同事故は,日本国内で初めて,原子炉施設における放射線被ばく事故によって急性症状による死者が生じた事故であり,国際原子力事象評価尺度(INES)でレベル4(事業所外への大きなリスクを伴わない)とされている。

  2 その他の原発事故

 この他にもレベル3以下の事故として,1978年11月2日東京電力福島第一原子力発電所3号機事故,1989年1月1日東京電力福島第二原子力発電所3号機事故,1990年9月9日東京電力福島第一原子力発電所3号機事故,1991年2月9日関西電力美浜発電所2号機事故,1991年4月4日中部電力浜岡原子力発電所3号機事故,1997年3月11日動力炉・核燃料開発事業団東海再処理施設アスファルト固化施設火災爆発事故,1999年6月18日北陸電力志賀原子力発電所1号機事故などが報告されている。


 第6 小括

 これらの事故・事件等は,放射線被ばくがいかに甚大かつ不可逆的な被害をもたらすものであるか,また,とりわけ原子炉施設の事故による放射線被ばくがいかに危険であるかを端的に示している。
 したがって,福島原発事故にさらされた市民が,被ばくを避けるために避難行為に出ることは,動機として十分に了解可能であり,行動として極めて合理的である。

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