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トップ>資料集>自然災害時における人々の保護に関するIASC活動ガイドライン(日本語版)
目次 に戻る 第一部:序論 1.自然災害は人権にどのような影響を与えるのか 2.人権に基づくアプローチが自然災害時において人々の保護を促進する理由 3.保護とは何か 4.活動ガイドラインの目的および適用範囲 第一部:序論1.自然災害は人権にどのような影響を与えるのか従来、自然災害1は、もっぱら人道的支援の提供に関連した課題を生む状況として捉えられてきた。そうした考え方の中では、災害時の人権保護の必要性はあまり注目されることはなかった。 特に、2004年と2005年にアジア各地および米州を襲った津波、ハリケーン、地震、さらには2010年のハイチ地震において、被災者は自然災害の後に様々な人権問題に直面する可能性があることが明らかになった。それらの人権問題とは、例えば次のようなものである。
特に危険にさらされるのが、被災者の中でも、災害によって住居や常居所地を離れることを強いられ、避難者2となった人々である。そのような人々は、その結果、1998年の「国内強制移動に関する指導原則」に従って待遇されることとなる。〔訳注:internally displaced persons は通常、「国内避難民」と訳されるが、本ガイドラインでは「避難者」と訳した。〕 自然災害が発生した後の人権に対する悪影響は、意図的な政策が原因で生じるのではなく、計画策定と災害準備の不備、不適切な災害対応の政策と対策、または単なる怠慢が原因となって起こることが多い。 国連事務総長は次のように述べる。「自然のハザードに関連する危険と〔ハザードが災害となる〕可能性は、脆弱性の一般的な状況、および災害に対する予防・軽減・事前準備の対策の実効性に大きく左右される」3。〔訳注:hazard は「災害外力」とも訳される。〕 関連する人権の保障が事前準備、救援、復旧・復興といった災害対応のすべての段階で国内のまたは国際的な組織・関係者によって考慮されれば、このような課題は軽減でき、あるいは完全に避けることができる。 1 「付属資料I:用語集」を参照。 ページトップ 2.人権に基づくアプローチが自然災害時において人々の保護を促進する理由 人権保護の視点は、人権の充足の保障と推進という戦略的側面を人道支援プログラムにもたらすだろう。過去の経験からも明らかなように、支援というものが被災者全員に対して平等かつ積極的に行われる中立的な活動であると単純に考えることはできない。支援がどのように提供され、利用され、吸収されるのか、そしてどのような文脈で行われるのかという問題は、被災者のニーズと人権の尊重または充足という問題に大きな影響を与えることになる。人権に基づくアプローチは、人道支援活動に必要な枠組みと基準を提示する。つまり、人間の尊厳、非差別および普遍的に保障されている人権といった普遍的な原則に、人道支援活動の基礎を置くことになるのである。従って、被災者は、単に慈善活動の恩恵を受ける受動的な立場ではなく、特定の義務履行者に対し権利を主張できる個別の権利保持者ということになる。 さらに、人権に基づくアプローチは、支援活動の価値をより高度なものにするだろう。例えば、当局が女性および子供に対して差別のない安全な環境で十分な食料と適切な住居を提供すれば、そうした支援がなかった場合に比べて性的搾取、児童労働および暴力にさらされる危険は減るだろう。 人道的支援が人権保護の枠組みに基づくものでないとしたら、その支援は視野狭窄に陥る危険があり、被災者の基本的なニーズのすべてが全体の計画策定と支援提供の過程の中に必ずしも組み入れられないことになる。 そうなると、後の復旧・復興において重要となる要素も軽視されることになる。さらにいうならば、自然災害の被災者は法の真空地帯に生きているわけではない。被災者は、国際的・地域的な人権文書を批准し、人権を保護する憲法、法律、規則および制度を備えた国に住んでいる国民である。従って、国家は、その管轄下にある市民およびその他の人々の人権を尊重し、保護し、充足する直接の責任を負っているのである。 そのため、人権は、自然災害における人道的活動を支える規範として重要なものであり続ける。災害管理に関する法律を定めている国は多く、災害対策の特定の側面に関する国際的な規定もあるが、人権法は、人道的対応の活動の指針となる重要かつ包括的な、国際的な法的枠組みを提供している4。 国際的な人権条約に直接拘束されないものの、ほとんどの国際的な人道支援組織が、また多くの国内の人道支援組織が、自らの活動は人権の尊重に基づいて行わなければならないと受け止めている。これらの組織は、被災者のために、自らの権限に関する厳密な文言を超えて人権を尊重し、保護すべきであり、少なくとも国家による人権侵害につながるような政策もしくは活動を推し進めたり、積極的に加わったり、または認めたりすることは避けるべきである。 とりわけ、自然災害時に生じうる多くの人道的支援と人権保護のジレンマを考えた場合に、人権の概念を現場の支援活動にどのように適用するのかという課題が頻繁に生じる。支援活動の場面では、人権の枠組みは次の問題に対処するのに有効である。
4 自然災害の状況では、武力紛争の状況において適用される法である国際人道法は、武力紛争において紛争当事者の支配下にある市民が被害を受けない限り、自然災害の状況には適用されない。このような例外的な状況は、活動ガイドラインの対象外である。 ページトップ 3.保護とは何か 定義 機関間常設委員会(IASC)によれば、保護は次のとおり定義される。 「関連する法(すなわち、人権法、国際人道法および難民法)の文言と精神に従い、個人の権利の完全な尊重を確保するためのすべての活動」5。保護に関する活動には、対応、修復または環境構築に関するものがある。すなわち、差し迫った人権侵害または現在進行中の人権侵害を防ぐという「対応型」、過去の侵害に対する補償(例えば、裁判、賠償または回復の機会)を行うという「修復型」、人権の尊重を推進し、将来の侵害を防ぐのに必要な法的および制度的な枠組み、能力および意識を構築するという「環境構築型」である6。 5 「国内避難民の保護に関するIASC の方針(IASC IDP Protection Policy)」(1999年)を参照。この定義は、1999年開催の赤十字国際委員会(ICRC)の保護に関するワークショップで採択された。 保護実施者とその義務 こうした保護の定義は、国際人権法が国家に課している4つの義務の観点から考える必要がある。その義務とは、「人権の尊重」、すなわち、積極的な人権侵害を避けること、「人権の保護」、すなわち、他者によってまたは状況によって生じる脅威に対して被害者に代わって対応し、防御策を講じること、「人権の充足」、すなわち、人々が人権を完全に享受するのに必要な物資とサービスを提供すること、そして「差別することなく」これらの義務を全うすることである。 これらの義務は、時間の流れの点では、国家にとって特に次の義務を意味する。(a)人権侵害の発生の防止または再発の防止、(b)人権侵害が行われているときには、国家機関および当局による当該権利の尊重を確保し、また国家機関および当局が第三者によってまたは自然災害等の状況によって生じる脅威から被害者を保護することを確保し、人権侵害を止める、(c)人権侵害が起こった後の賠償および完全な回復の保障。 当局の責任を遂行する能力または意思が不十分である場合には、国家の取り組みを支援し、補完する上で国際社会が重要な役割を果たす。多くの自然災害の規模と複雑性に鑑みれば、特別の専門的技能・知識および資源を持った国連内外の組織の積極的な関与が必要となる。 人道的支援および開発に携わる組織は、特に市民的および政治的な権利を中心とした人権の保障に取り組んでおり、その取り組みは「危害を与えない」(“Do Not Harm”)7という原則に具体化されている。また、食料、水、衛生環境、住居、保健医療サービスおよび教育を含めた人道的支援を行うことによって、これらの組織は、経済的、社会的および文化的な権利を充足する上でも重要な役割を果たしている。しかし、人道的物資の供給および人道的サービスの提供は被災者の人権の享受に大きく貢献するものの、それ自体はさほど保護活動であるとはいえない。具体的に将来の人権侵害を防いだり、現在進行中の人権侵害を止めたり、過去の人権侵害に対する補償をしたりすることを目的とする限りにおいて、保護活動となるのである。 従って、人道支援活動の中での保護の概念は、国際人権法の下での被災者の権利が差別されることなく尊重され、保護されおよび充足されることに関して人道的支援および(復旧・復興における)開発に携わる組織・関係者が果たす役割と理解される。 7 この概念に関しては、「付属資料I:用語集」を参照。 実際の保護 保護とはつまり人権を保障することであるが、この抽象的な概念をより具体的に示すには、これまでの経験から保護に関する課題を引き出すのが有効である。保護に関する課題は、特に次のような状況から生じる。すなわち、人々が被害を被ったりまたは放置されたりする状況、既存の人道的物資・サービスの入手・利用機会が打ち切られる状況、権利を無視・侵害された人々が権利を主張する可能性を閉ざされたりまたはその権利を妨害されたりする状況、そして差別を受ける状況である。実際の問題になぞらえるなら、保護活動は次のように分類できる。
ページトップ 4.活動ガイドラインの目的および適用範囲 対象者および目的 活動ガイドラインは、主に、国際組織、非政府の人道的組織およびIASC のメンバー組織が、災害救援と復旧・復興活動が被災者の人権保護・推進の枠組みの中で行われ、かつ、当該活動が被災者の人権を促進することを確保するにあたり、それらの組織を支援するものである。具体的には、次のことを目的としている。
活動ガイドラインは、また、自然災害の被害を受けた国の市民社会にとっても有用なものとなるかもしれない。 適用範囲 この活動ガイドラインは、自然災害時における対応および復旧・復興を対象とする。活動ガイドラインは、災害に対する事前準備およびリスク軽減自体を扱うものではないが、事前準備についての可能な対策は、適切と考えられる箇所で言及している。さらに、活動ガイドラインは、保護に関する課題を災害の事前準備の政策および戦略の中に導入するためにも使うことができる。具体的には、国および地方のレベルで、研修活動の推進、災害管理、人権活動に関与する組織の能力構築、法的および制度的枠組みの改善、緊急対応計画を通じてという形である。 活動ガイドラインは、自然災害時における人道支援活動を導く重要な諸原則を詳述したものであり、特定の状況下におけるそれらの原則の実施についての現場の具体的な活動例を示すものである。提示された活動は網羅的ではなく例示的なものであり、付属資料III に記載されたより詳細な指針に取って代わるものではない。活動ガイドラインに含まれる活動は、次のことを目的とする。
8 活動ガイドラインは、可能な限り適切な、十分に多様な普遍的人権文書、関連する地域間の人権条約、「国内強制移動に関する指導原則(Guiding Principles on Internal Displacement)」、スフィア・プロジェクト「災害対応における人道憲章と最低基準(Humanitarian Charter and Minimum Standards in Disaster Response)(スフィア・ハンドブック(Sphere Handbook))」、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)「行動規範(Code of Conduct)」等のその他の基準に基づいている。 活動ガイドラインの構成 活動ガイドラインは、最初にいくつかの一般的な原則を提示する。被災者の人権保護に関連する重要原則は、実際の問題になぞらえ、次の4つの章に分けて説明する。
10 これらの権利は、国際的なレベルでは主に「市民的および政治的権利に関する国際規約」(1966年)に規定されている。 ページトップ |
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