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★ 最終準備書面(被害総論)
 第2 原告らが侵害された権利及び賠償されるべき損害 
 第3 結論
平成29年9月22日

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第2 原告らが侵害された権利及び賠償されるべき損害
 1 包括的生活利益としての平穏生活権
 2 本件被害は総体的かつ継続的に捉えられなければならないこと
 3 損害の評価及び算定方法

第3 結論



第2 原告らが侵害された権利及び賠償されるべき損害


 1 包括的生活利益としての平穏生活権

 第1で述べたことからも明らかであるとおり,原告らは,本件事故によって,居住移転の自由や職業選択の自由,自己決定権など,個別の権利が侵害されたにとどまらない。
 原告らは、自ら選択した場所で自ら築き挙げてきた人間関係・共同体における平穏な生活を破壊され、日常生活における行動の自由を制約されるとともに、コミュニティそのものを失い、将来の見通しが立たなくなった状況で、自己の未来を自由に選択することができなくなり、自己の人格を形成、発達させることも困難な状況に追いやられている。
 まさに、個人の生活基盤たる人生そのものを破壊されているのであり,憲法22条1項や13条に由来する生存権,身体的精神的人格権を包摂した生活利益そのものが侵害されている。


 2 本件被害は総体的かつ継続的に捉えられなければならないこと

 このように、各種権利を包摂する、包括的生活利益としての平穏生活権が侵害されることによる被害の深刻さは、従来の定型的被害類型を想定して立てられた個別の損害項目を積み上げただけでは十分に補足できない。本件事故による被害を適切に評価するためには、各種共同体から受ける利益を相対的に捉える必要がある。詳細は、原告ら準備書面(11)において述べたとおりである。
 また、かかる包括的生活利益としての平穏生活権の侵害は,原告らの意思に反して避難を強いられたことで終了するものでもない。事故後6年が経過し,避難を選択した原告らは,一見,避難先において新たな平穏な生活を構築し始めているかのようにも見えるが,本人尋問の結果、ふるさとに戻りたくても戻れない実情が明らかになった。原告らは、本件事故によって避難元での生活を奪われ,事故収束の目途も立たない中、今なお事故以前の平穏な日常生活を取り戻せない状況にある。従前の居住地で従前の平穏な日常生活を送ることができる状態に原状回復されるまで、原告らの権利侵害は継続しているのである。


 3 損害の評価及び算定方法

 ただし、かかる被害の捉え方は、住宅や家財の喪失等、個別の事情を取り出して、それを損害評価の対象とすることを否定することを意味しない。むしろ、いわゆる「包括慰謝料」として損害を一括して算定・請求することは、住宅の有無や生業の有無等、原告らの個別性・多様性を無視することになり、かえって損害を総体として漏れなく把握する妨げとなる。
 そこで、原告らは、個別損害の積み上げを基本としつつ、慰謝料については精神的損害に対する賠償とともに、個別の損害項目を積み上げるだけでは捉えられない被害の賠償につき、補完的機能を持つものとして請求している。詳細は、原告ら準備書面(52)において述べたとおりである。
 そして、賠償されるべき具体的な損害費目については、各原告の損害額一覧表のとおりであり、金額算定の根拠は、原告ら準備書面(19)(37)において述べたとおりである。
 なお、①直接請求に際して被告東京電力が策定した賠償基準(甲D共224・2頁)、②被告国の機関である原子力損害賠償紛争解決センターが策定した「ADR総括基準」(甲D共226の2)、③同じく被告国の機関である原子力賠償紛争審査会が原子力賠償法18条2項に基づいて策定した「原賠審指針」(甲D共229の1~甲D共229の12)、④ADRの運用上の基準として存在している「ADR運用基準」(甲D共231の1,232の2)が最低賠償額を画する機能を有すること、被告らがその適用を拒否できないこと、各基準の優先関係については、原告ら準備書面(53)に記載したとおりである。
 被告らは、これらの基準が、避難指示区域や、いわゆる「自主的避難区域」からの避難者に適用されるものであって、区域外の避難者については適用されないと主張する。しかし、被告らの区域設定が合理的なものでないことは本準備書面第1の5で述べたとおりであり、区域の内外を問わず適用すべきである。


第3 結論

 以上のとおり,本件事故による被害は,各原告を取り巻く環境により異なるものの,世帯類型ごとに共通するものもあることから,個別の損害の評価にあたっては,各世帯類型における特徴的な被害実態を踏まえ,各原告が強いられている特別の困難や葛藤を十分に考慮すべきである。
 そして、損害の算定にあたっては、区域の別を問わず、「東電基準」や「原賠審指針」、「ADR基準」など、被告らが自ら策定に関わった最低基準を下回ることのないよう認定されるべきである。


以上

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