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★ 準備書面(19) ―各原告の損害額の算定方法― 
平成27年7月1日

  原告提出の準備書面(19)(pdf)

目 次

第1 はじめに

第2 賠償されるべき損害とその算定方法
 1 侵害された利益
 2 賠償されるべき損害の費目
 3 損害費目毎の損害の算定方法



第1 はじめに

 原告らは,本準備書面において,準備書面(11)で述べた原告らの被侵害利益が侵害されたことで原告らに生じた損害の算定方法について明らかにする。


第2 賠償されるべき損害とその算定方法


 1 侵害された利益

 準備書面(11)で主張したとおり,本件事故の結果,少なくとも年間1ミリシーベルトを超える放射線に晒されることになった地域の住民であれば,包括的生活利益としての平穏生活権が侵害されたと言え,避難の社会的相当性も認められる。


 2 賠償されるべき損害の費目

(1)包括的生活利益としての平穏生活権は,原告らが居住していた地域において平穏で安全な日常的社会生活を送ることができる生活利益そのものであるから,これが侵害された場合の損害費目も多岐にわたる。
 具体的な損害費目は,(1)避難に伴い生じた客観的損害(移動費用、生活費増加分等),(2)避難生活に伴う慰謝料,(3)滞在生活に伴い生じた客観的損害(除染や放射線防御・対策のための費用等),(4)滞在生活に伴う慰謝料,(5)自らが所有する財物を喪失又は毀損したことの損害,(6)就労不能損害,(7)地域コミュニティ侵害による損害である。
 なお,今後生じる可能性がある放射線ひばくによる具体的な健康被害に関する損害は,これらの健康被害の発生が明らかになってから請求することとし,現時点においては本訴では請求しない。

(2)上記の損害費目のうち,(1)及び(2)は,避難者に関してのみ生じる損害であり,(3)及び(4)は滞在者に関してのみ生じる損害である。(5)及び(6)は,避難者,滞在者の双方に生じうる損害であり,(7)は,少なくとも年間1ミリシーベルトを超える放射線に晒されることになった地域の原告ら全員に生じる損害である。
 なお,原告ら準備書面(11)で主張したとおり,原告らは,本件事故によって各種の共同体から享受する利益の全て,あるいはその多くの部分が同時に侵害されたことで,およそ回復不可能かつ甚大な不利益を被っている。(7)の地域コミュニティ侵害による損害は,このような各種の共同体から受けている利益の全て,あるいはその多くの部分を同時に侵害されたことに関し,これらの利益を総体的に捉え,それに対する侵害を損害として捉えるための費目である。

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 3 損害費目毎の損害の算定方法

(1)上記(1),(3),(5)及び(6)の損害費目については,基本的には,個別原告に生じた財産的損害につき,侵害前後の差額を算出することによって損害額を算定することになる。従って,個別の原告によって金額が異なり得る。

(2)(2)の「避難生活に関する慰謝料」と(4)の「滞在生活に関する慰謝料」は,基本額を月あたり金35万円と認め,個別具体的な事情によりこれを増額させるのが相当である。
 (2)の避難生活に関する慰謝料と(4)の滞在生活に関する慰謝料につき,月あたりの基本額を同額とするのは次の理由などによる。まず,避難者は,避難生活の中で自宅以外での生活を長期間余儀なくされる一方で,滞在者も,放射線量の高い地域における生活の中で行動の自由を制限され,また放射線被曝への不安等を抱えながら生活しており,両者共に強い精神的苦痛を被っている。次に,避難指示を受けていない被災者に関しては,被災者が有する避難する権利と滞在する権利のいずれも同様に尊重する必要があり,その観点からはこれらの慰謝料の基本額に差異を設けるべきではない。

(3)上記(1)乃至(6)の損害費目のうち,将来に発生するものについては本訴では請求しない。すなわち,口頭弁論終結時までの損害を請求し,本訴における主張立証の対象とする。
 本件事故による放射線ひばくの被害は,現状を見る限り原状回復はほぼ不可能であり,今後も長期間継続することが予想される。そのような中,避難生活や被災地での滞在生活の態様は,年月が経つことによって大きく変わり得るものであり,将来に発生するこれの損害を現段階で予測し算出することは困難だからである。

(4)(7)の地域コミュニティ侵害による損害は,各種の共同体から受けている利益の全て,あるいはその多くの部分を同時に侵害されたことに関し,これらの利益を総体的に捉えるものである。
 すなわち,地域の各種の共同体は,生活費代替機能,相互扶助・共助・福祉機能,行政代替・補完機能,人格発展機能,環境保全・自然維持機能等,広範,多面的,複合的な役割・機能を果たしており,地域住民は,個人として,或いは,集団として,これら各種の共同体が果たす機能から得られる利益を享受している。地域住民にとっては,これらの利益の総体が保護の対象となるべき法的利益となる。しかし,本件事故の発生により,避難した住民は,この総体としての法的利益を享受することができなくなった。また,地域に滞在した住民は,共同体が果たすこれらの機能が低下した中での生活を余儀なくされたり,これらの機能を維持し又は回復するための様々な負担を強いられたりすることとなった。そして,こうした地域コミュニティ侵害による不利益は,被災被害者に深刻なストレスや精神的苦痛を与えている。地域コミュニティ侵害による損害は,このような被害の態様に照らし,精神的損害ないし無形の損害として把握されるべきものであり,また,その賠償は適正に評価された慰謝料によってなされるべきものである。
 そして,原告ら準備書面(5)にて主張したとおり,各原告は,本件事故によって,少なくとも年間1ミリシーベルトを超える放射線量のひばくを受けたことによって,様々な態様で,各種の共同体から得られたはずの生活利益を享受できない不利益を被った。とすれば,(7)の地域コミュニティ侵害による損害は,少なくとも年間1ミリシーベルトを超える放射線量のひばくを受けたことにより地域コミュニティが侵害された時点で,確定的に発生したものと捉えるのが相当である。
 そして,その損害を賠償するための慰謝料の金額は,各種の共同体から享受することができる多種多様な生活利益が喪失又は毀損され,その現状回復がほぼ不可能であること等に鑑み,原則として1人あたり2000万円を下らないというべきである。

以上

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