TOP    裁判資料    会報「原告と共に」   げんこくだより   ブログ   リンク

★ 京都地方裁判所 判決書 事実及び理由
 第2章 事案の概要等
  第4節 当事者の主張 第4 争点④(避難の相当性)について 

第4節の目次 (判決書の目次はこちら)
 第1 争点①(予見可能性の有無)について
 第2 争点②(被告東電の責任)について
 第3 争点③(被告国の責任)について
 第4 争点④(避難の相当性)について
 第5 争点⑤(損害各論)について



第4 争点④(避難の相当性)について

 原告らの主張
 被告東電の主張
 被告国の主張


 (原告らの主張)


  1 相当因果関係の判断枠組み

   (1) 社会通念に基づき相当性判断がされるべきであること

 本件における相当因果関係の判断は,社会通念に基づく,一般人の認識を基準とした各避難行為の相当性判断である。この判断は,科学的評価ではなく,社会通念に基づく規範的判断である。社会通念に基づく規範的判断において最も重要な評価根拠事実は,本件事故発生当時において,「どこまでの線量であれば一般的に容認されうるのか」,言い換えれば,「どのような線量であれば一般的に容認不可であるのか」についての社会規範である。なぜなら,「一般的に容認不可とされる線量であれば,そのような線量の被ばくを避けることは社会通念に照らして相当な行為である」というのが,一般人の認識に基づく規範的評価といえるからである。

   (2) 国内法において「容認不可」とされる線量は年間1mSvであること

 本件事故発生当時において,社会通念上,「一般的に容認不可とされる線量」がいかなるものであったか,この観点において最も重要な要素は,法規範性を有する社会規範である「国内法」である。そして,国内法は,一般公衆について「個人に対する影響は容認不可」とされる線量として,年間1mSvを採用し,これを超える被ばくから公衆を徹底的に保護している。したがって,生活圏内に年間1mSvを超える線量が測定された地域から避難することは,国内法も採用する「個人に対する影響は容認不可」とされる線量の被ばくを避ける行為であって,法規範や社会通念に照らして相当な行為であり,相当因果関係が認められるといわなければならない。

   (3) 年間1mSvを超える線量が測定されない地域からの避難について

 また,容認不可とされる年間1mSvを超える線量が測定されない地域からの避難であっても,線量や放射線濃度に関するその他の規制や,事故発生後の事情を総合的に考慮して,社会通念における相当性が認められる場合もある。国内法はLNTモデルを採用しており,放射線による健康リスクは被ばく線量に比例する。そのため,年間1mSv以下の被ばくであっても,被ばくを避ける行為は,健康被害を予防するための合理的行動といえる。
 よって,年間1mSvを超える線量が測定されない地域からの避難であっても直ちに相当性を否定するべきではなく,事故発生前後の事情や,その他の法規制などを総合的に考慮して,一般人の認識を基準として,社会通念に基づく相当性が当該避難行為に認められるかどうかを個別に判断しなければならない。

   (4) 相当性判断と科学的知見との関係

 相当因果関係の判断は,一般人の認識を基準とした,社会通念に基づく相当性判断であって,科学的判断ではない。ただし,低線量被ばくに関する科学的知見が,相当因果関係判断における考慮要素にまったくならないわけではないものの,低線量被ばくの影響について,国内法は,知見の対立を踏まえたうえでLNTモデルを採用していることに疑いの余地はない。したがって,LNTモデルと異なる知見が存在するとしても,社会規範としては,もはや知見の対立は解決済みの問題なのであって,社会通念に基づく相当性判断において,対立知見の存在を論じる意味はない。そして,近時の科学的知見はLNTモデルに整合しており,国内法の立場の正当性に加えて,年間1mSv以下の線量の被ばくであっても健康影響は否定できないことからすれば,年間1mSv以下の被ばくを避けることの合理性は裏付けられている。

 △ページトップへ

  2 LNTモデルが科学的合理性を有する知見であること

   (1) WGにおいてもLNTモデルが採用されていること

 低線量被ばくに関する科学的知見については,低線量被ばくの管理に関するワーキンググループ(WG)において議論がなされ,その場においても,国際的に採用されているLNTモデルが前提とされていた。WG報告書については,批判されるべき点を多く含んでおり,特に報告書の最後のまとめ方は極めて恣意的であって,低線量被ばくの危険性を重視する側の意見を排除している点は極めて問題である。しかし,そのような恣意的な内容の報告書においてさえも,LNTもデルについては採用する旨明言しているところである。
 WG報告書は,放射線防護や放射線管理の立場からは,低線量被ばくであっても,被ばく線量に対して直線的にリスクが増加するという考え方を採用するとして,LNTモデルを明示的に採用している。また,放射線防護の観点からは,100mSv以下の低線量被ばくであっても,被ばく線量に対して直接的にリスクが増加するという安全サイドに立った考え方に基づき,被ばくによるリスクを低減するための措置を採用するべきであるともしている。
 もちろん,WG報告書が,「安全サイドに立った考え方に基づき」との留保を付けていること自体は問題であるが,WG構成員である佐々木康人氏は,安全サイドに立った考え方にとどまらず,むしろ,100mSv以下の被ばくリスクについて,LNTモデルが科学的な視点からみても合理的であるとICRPも述べていると説明し,甲斐倫明氏も,低線量被ばくのリスクについて,1mSv以下の被ばくでもリスクがあり,1mSvをしきい値のように扱うことも国際的に考えられないと説明している。

   (2) 近時の科学的知見からも裏付けられること

   ア LSS14報について
 「原爆被爆者の死亡率に関する研究」(以下「LSS」という。)とは,公益財団法人放射線影響研究所(以下「放影研」という。)及びその前身の原爆傷害調査委員会(ABCC)によって60年以上も実施されている疫学調査である。LSS13報までは,低線量領域における被ばくの影響は確実とまでは表現していなかったが,2012(平成24)年に公表されたLSS14報の要約(アブストラクト)によると,「定型的な線量閾値解析(線量反応に関する近似直線モデル)では閾値は示されず,ゼロ線量が最良の閾値推定値であった。」と結論づけられた。本文の「結論」では,「線形モデルが全線量範囲において最も良い適合度を示した」ことが述べられ,全体としてデータをみた場合,「線量閾値の最大尤度推定値は0.0Gyで(すなわち閾値はない)」と結論付けており,LNTモデルに合致する結果である。

   イ テチャ川流域住民に関する論文について
 1950年代に,テチャ川流域の辺地に済む何万人もの人々が,テチャ川から放射性物質が放出されたことによる電離放射線の体内被ばくと体外被ばくを長期間受け,被ばく住民2万9873人の死亡原因を解析した結果から,長期間にわたる低線量率被ばくに長期の発がん作用があることのエビデンスが示された。すなわち,考察において,「われわれの今回の解析は,固形がんとCLL(慢性リンパ性白血病)以外の白血病の両方について,有意な線量応答関係があることを明確に実証しており,長期間の被曝に伴う放射線リスクについての重要な情報を付け加えている。」との結論が示されている。また,線量応答関係について,固形がんとCLL以外の白血病の両方について低線量域まで直線的にリスクがあると考えられることが図示されるなど,LNTモデルに整合する。

   ウ 電離放射線職業被ばくによるがん死リスクの調査結果について
 仏,英,米国の核施設労働者30万8297人を平均26年間追跡調査したものであり,この規模の調査は,その結果に信頼性が高い。同論文では,「主な知見」として,「本研究から,フランス,英国,米国の原子力産業で通常遭遇する低線量率の電離放射線への被曝量が高まるにつれて,がんによる死亡の過剰相対リスクが線形に増加するエビデンスが示された。」「データを0―100mGyの線量範囲に限定して解析すると,精度は低くなるとしても,放射線量と白血病を除く全てのがんの間に正の相関関係があることを示す支持的エビデンスをもたらしている。」との結論が示されている。いずれもLNTモデルが単なる仮説でなく,実際に低線量域においてもリスクがあることが観察されていることを,この論文は示している。
 加えて,この論文ではDDREFについても重要な知見を加えている。すなわち,「高線量率被曝のほうが低線量率被曝よりも相当に危険であるという考えとは対照的に,放射線従事者での単位放射線量あたりのがんのリスクは,日本の原爆被爆者の研究から得られた推定値と同程度であった。」との報告が記載され,一般に低線量率での被ばくである原発労働者においても高線量率の被ばくと同様のリスクを負っていることを示している。
 3カ国調査には喫煙データがとられていないという批判があるが,喫煙で一番影響のある肺がんを除いて調査をされ,実際に肺がん以外の固形がんについて検討された結果,線形モデルに合致するという結果が得られている。

   エ 自然放射線被ばくに関する論文について

   (ア) イギリス高線量地域に関する論文(Kendallらの論文)について
 自然放射線被ばくの場合,低線量率で長期間継続的に被ばくを受けることになり,この自然放射線被ばくによってがんになるのかどうかを,放射線に感受性の高い小児について調べたものである。小児がんの症例2万7447人と対照者3万6793人について自然放射線の被ばく線量と発がん率の相関関係を調べたところ,小児白血病が統計的に有意に増加するのは4・1mGy以上であり,過剰相対リスクは0・12/mGyと計算されている。すなわち1mGyの被ばくで12%白血病が増加することを意味する。著者は自然放射線のような低線量率被ばくでも高線量率リスクモデルと同様な発がんがあると述べており,低線量の健康リスクを,統計的有意差をもって明らかにした点で非常に重要な研究である。
 また,ここでいう4.1mGyとは,累積線量のことであって,現在,被告国は,年間20mSvを下回った地域には住民の帰還を進めているが,わずか累積4.1mGy(≒4.1mSv)で白血病の過剰リスクが存在することが確認されているのである。

   (イ) スイス国勢調査に基づく論文(Spycherらの論文)について
 高線量地域での調査は,スイスでも実施されており,同調査においては対象者数が200万人にも及んでおり,この調査が行われるまでは考えられない規模のデータである。この調査では,200nSv/h,すなわち年1.75mSv以上で有意にリスクが増加することが示されており,イギリスの調査と同じく20mSvよりもはるかに低いところでリスクの増加が認められることを意味している。1mSvという低線量でも有意にがんが増加することを示す疫学調査として重要であって,このような低線量・低線量率であっても,線量とリスクは直線関係を示している。

   オ 医療被ばくに関する論文について

   (ア) イギリスにおける小児CT検査に関する論文について
 イギリスでCT検査を受けた22歳未満の小児及び若年成人17万8604人の内74人が白血病,17万6587人の内135人が脳腫瘍と診断された。被ばく線量と白血病,脳腫瘍発生の関係は直線関係を示していた。同論文では,「2―3回の頭部CTスキャンを行ったことによる累積電離放射線量(―60mGy)で,脳腫瘍のリスクはほぼ3倍になり,5―10回の頭部CTスキャンを行ったことによる累積電離放射線量(―50mGy)で白血病のリスクが3倍になる場合がある」と指摘されており,数十mSvレベルの被ばくでも健康リスクが生じうることが明らかになった。

   (イ) オーストラリアにおけるCT検査における論文について
 オーストラリアで,CT検査を受けた68万0211人について平均9.5年間,検査を受けなかった1025万9469人については17.3年間追跡調査を行い,発がん率を調べている。これは大規模な研究であるところ,調査結果について,がんの罹患率は,年齢,性別,出生年で調整すると,被ばく群のほうが無被ばく群と比較して24%高く,線量―応答関係があることが認められ,CTスキャンが1回増すごとにリスクが上昇した旨,結論づけられている。CTは医療被ばくであるから,がん診断のためにCTを受けた可能性があり,CTを受けたからがんを発症したのではなく,がんのリスクが元々あったからCTを受けたという逆の因果関係がある可能性に注意しなければならないが,その可能性を排除するためにCT論文では,検査を受けて1年以内に発症した人を対象の集団から除いている(遅延期間)。この遅延期間を5年,10年と延長したが,その結論には変わりがなかった。

 △ページトップへ

  3 公衆にとって容認できないレベルの被ばく線量について

   (1) ICRP勧告がLNTモデルを採用していること

 ICRPは,名称を変更して改組した1950年以来現在に至るまで,放射線防護の基礎となりうる基本原則についての勧告を提供し続けており,日本を含む多くの国において,放射線防護基準を決める際の参考とされている。ICRPとは,職業被ばく防護のための組織であった国際X線およびラジウム防護諮問委員会(IXRPC)が,核開発推進のための組織に変質したものであり,ICRPの勧告する放射線防護は,核開発と原子力利用を前提とした防護であって,設立当初はかなり緩やかな公衆被ばく線量限度を設定していたICRPでさえ,徐々に規制を厳しくし,本件事故発生時においては公衆被ばく線量限度を年間1mSvに設定していたのである。
 ICRPは,1977年勧告において,LNTモデルを採用し,1990年勧告においても,低線量被ばくの影響について,「放射線に起因するがんの確率は,少なくとも確定的影響のしきい値よりも充分に低い線量では,恐らくしきい値がなく,線量におよそ比例して線量の増加分とともに通常は上昇する。」として,1977年勧告と同じくLNTモデルを採用した。したがって,ICRPが科学的根拠に基づいて放射線防護体系にLNTモデルを採用していることは争いがない事実である。
 なお,ICRPは,同じ線量率でも時間をかけてゆっくり被ばくする場合(低線量率)は,全量を一度に浴びる場合(高線量率)よりもリスクは2分の1になるという考え方に立っている(DDREFを2とする考え方)。しかし,昨今の研究は,このDDREFについてのICRPの立場がリスクの過小評価であることを示しており,ICRPの考え方は,安全サイドに立つものではない。
 このようなスタンスに立つICRPでさえも,科学的根拠に基づいてLNTモデルを採用しているのである。

   (2) 公衆被ばく線量限度を年1mSvと勧告したこと

 1958年勧告において,許容線量を年間0.5レム(=5mSv)として,初めて公衆被ばくの線量限度が定められたが,その基準は引き下げられ,本件事故時の公衆被ばく線量限度は年間1mSvであった。
 以上のように,ICRPは,容認リスクを踏まえて公衆被ばく線量限度の数値を徐々に下げ続け,公衆被ばく線量限度は,容認できる死のリスクレベルに基づいて設定されたものであって,本件事故時では年間1mSvとされていたのである。公衆被ばく線量限度を考えるにあたっては,外部被ばくの数値のみを公衆被ばく線量限度内に抑えるだけでは不十分であり,内部被ばくの影響も十分に考慮されなければならないのである。

   (3) 公衆被ばく線量限度とは容認不可な線量であること

 様々な要素を総合考慮して,「個人に対する影響は容認不可」とみなすレベルとして,公衆被ばく線量限度年間1mSvを勧告した。すなわち,ICRPは,低線量被ばくの影響について諸説あることを前提として,LNTモデルを採用し,公衆被ばく線量限度を年間1mSvと勧告したわけである。以上のとおり,ICRPは,公衆被ばく線量限度の被ばくを容認しているのではなく,最適化の原則に基づいて更なる低減を求めているのである。ICRPは,公衆被ばく線量年間1mSv未満を正常レベルと考えており,公衆被ばく線量限度を超える状態が異常で,正常レベルと評価される他の地域と同様な扱いを受けることができないと評価していることは明らかである。


  4 国内法における公衆被ばく線量限度について

 国内法における線量限度は,ICRP1990勧告を,放射線審議会における専門的審議,しかも国民からの募集意見も踏まえた審議を経て国内法に導入されたものである。国内法は,刑罰を用いてでも,「容認不可」とされる線量から公衆を徹底的に保護しているところ,緊急時や復興期において,公衆にとって「容認不可」とされる線量を引き上げるような定めは一切ない。
 すなわち,原発事故による緊急事態であっても,緊急時以降の復興期であっても,公衆の容認できない被ばく線量は,平常時と同様,年間1mSv,あるいは3か月で250μSvであることに変わりはなく,それが公衆にとって「容認不可」とされる線量であるというのが,社会的合意ないし社会規範たる国内法の立場である。このような事情に照らせば,少なくとも,国内法において「容認不可」とされる線量の被ばくを避けることは,社会的に許容できないとされた被ばくを回避する行動であって,社会的にみて相当ないし合理的な行為といわなければならない。
 よって,少なくとも,生活圏内に年間1mSvを超える線量が測定された地域から避難することは,国内法も「これを超えれば個人に対する影響は容認不可」とする線量を避ける行為であり,社会規範に照らしても相当な行為である。

 △ページトップへ

  5 線量限度が適用されないことは相当因果関係と無関係であること

 被告東電及び被告国は,「線量限度は,緊急時被ばく状況や現存被ばく状況においては適用されない」と主張する。
 しかし,被告らの主張は,政府が放射線防護措置を講じるための「政策判断基準」と,個々の国民にとって「容認不可とされる線量」という,まったく別個の概念を混同するものである。ICRPが緊急時被ばく状況や現存被ばく状況において「線量限度を適用しない」と勧告している意味は,「容認不可とされる被ばくが広く広がっている状況において,政府が『対策』ないし『介入』を講じる基準として,年間1mSvを用いることまでは義務付けない」ということに過ぎず,緊急時であっても復興期であっても,個々の国民にとって「容認不可」とされる線量は,平常時同様年間1mSvであることに変わりがない,というのが社会的合意たる国内法の立場である。
 したがって,緊急時や復興期に「線量限度が適用されない」ことは,「どのような線量であれば一般的に容認不可であるのか」を中核的判断要素とする相当因果関係の判断に影響を及ぼすものではない。


  6 土壌汚染・クリアランスレベルについて

 (1) また,空間線量測定値にかかわらず,放射線障害防止法に基づく管理区域・作業室及び貯蔵施設等の法規範,炉規法に基づくクリアランスレベルに関する法規範に照らせば,管理区域同様の場所に居住することとなる場合や,産業廃棄物として管理されるべき土壌が近くに存在する者らについて避難の相当性が認められる。

 (2) 放射線障害防止法は,放射線障害を防止し公共の安全を確保することを目的とするところ,同法施行規則と平成十二年科学技術庁告示第五号(放射線を放出する同位元素の数量等)によって,ある区域におけるセシウム137とセシウム134の表面密度が合算で4万Bq/mを超えるおそれのある場合,その区域は「管理区域」とされる。管理区域について,同法施行規則は,当該区域における立入制限(第14条の7第1項第8号など),放射性汚染物の持出禁止(第15条第1項第10号)などの厳格な規制を設けている。さらに,同法施行規則は,4万Bq/mを超えるおそれのある作業室及び貯蔵施設内における飲食等を禁止する(15条1項5号)。

 (3) 4万Bq/m以上の土壌汚染が存在する地点は,国内法によって立入制限や飲食が禁止されるレベルにまで放射能に汚染されてしまっている。当該地点を生活圏内に含む住民は,自ら放射線防護措置をとるか,防護措置をとらず被ばくを余儀なくされるなかで日々を過ごし,子どもを育てていかなければならない。このような事態を避けるために避難し,そして避難を継続することは,社会通念に照らして相当な行為である。
 また,6500Bq/mを超える土壌汚染が存在する地点も,核燃料物質によって汚染された物として取り扱わなければならないレベルにまで土壌が汚染されてしまっているのであって,放射線障害を受けるリスクを否定できない生活環境にあり,このようなリスク環境を避けるために避難することも,社会通念上相当な行為である。

 △ページトップへ

  7 年間線量への換算方法について

 以上のとおり,生活圏内に年間1mSvを超える線量が測定された地域から避難することは,国内法における「容認不可」とされる線量を避ける行為であり,社会通念に照らして相当性が認められる。そして,年間1m弱を超えるか否かの判断は,原告らの主張する毎時μSvの「空間線量率」に,24時間×365日を乗じ,1000で除す(μをmに換算する)ことで足りるというべきである。
 この点,自然線量と追加線量とを区別すべきと被告らが主張することも考えられるが,原告らの避難元においては,そもそも自然線量と追加線量とを区別することは不可能であり,かつ,不可能な状態に陥らせたのは放射性物質を拡散した被告らに他ならない。したがって,区別できない不利益は被告らが負うべきであり,何ら帰責性のない原告らに不利益を負わせるべきではない。
 また,被告らにおいて,追加被ばく線量年間1mSvを一時間当たりの放射線量に換算すると,毎時0.23μSvとなると主張することも考えられる。このうち,追加線量と自然線量とを区別する必要がないし,屋内遮蔽効果を考慮する考え方は,国内法における公衆保護の考え方とはまったく異なる。そもそも,実用発電用原子炉の設置,運転等に関する規則において居住禁止や立入制限規制がされる「周辺監視区域」は,原子力施設の周囲を柵等により区画し,その外側にいる人が受ける実効線量が,年間1mSvを超えるおそれがないように管理された区域である。そこでは,建物内に居住することを前提とした線量測定など想定されておらず,屋内遮蔽効果を考慮する余地などない。
 上記前提のもとで,原告らの避難元における空間線量の測定結果及び推移は,別紙線量一覧表(原告ら)のとおりである。


  8 まとめ

 避難が長期化することによって避難者の被害は深刻化の一途を辿っている。避難者は慣れ親しんだ故郷に帰り,本件事故前には当たり前だった生活を取り戻したいと切実に願っている。
 しかしながら,避難元は依然として高線量の地域もあり安全が確保されているとは到底言えない状況である。また,福島第一原発の状況が再び深刻化しないとする保証はどこにもないのである。安心して暮らせる環境も整わないままに進められる帰還政策を受け入れられないとすることは不合理とはいえない。
 また,これまでの被告国や被告東電の行動を鑑みるに,被告国や被告東電の発表する情報や今後の見通しについて原告らが不安を感じるのも無理からぬところであり,原告らがそれらを信用できないことにも合理的な理由がある。原告らが避難を継続せざるを得ないと判断することは不合理とはいえない。
 上述したように,本件事故から6年以上が経過した現在においても,未解決の種々の問題が山積みの状態であり,避難者が避難を選択したこと,また現在においても避難を継続していることが社会的相当性を有することは明らかである。本件事故による被害は避難を余儀なくされた時点で完結するのではなく,重層的・継続的に発生し続けているのである。

 △ページトップへ

 (被告東電の主張)


  1 相当因果関係について

 相当因果関係に関する判断は本件事故によって通常生ずべき損害といえるか否かの問題であり,放射線被ばくによって原告もに対し現に何らかの健康被害を与えているか,そうでないとしても,生活環境の顕著な悪化をもたらしているため原告らにおいて健康被害を受ける危険が現に差し迫っている状態にある場合に相当因果関係が認められるところ,100mSvを下回る被ばくについてはこれによる健康被害のリスクの上昇が確認されておらず,健康被害を受ける危険が認められないから,そのような危険があるものとして原告らが抱いた不安や危惧感については,相当因果関係が認められない。
 また,客観的な危険の有無にかかわらず,本件事故直後の混乱した時期にかかる科学的な知見が一般に知られる前であれば,強い不安を感じ,特に子どもがいる場合に避難を選択することにも一定の合理性があり,その限りにおいて中間指針追補及び同第二次追補が定める範囲で相当因果関係が認められる。


  2 100mSv以下の被ばく線量では健康リスクの増加を証明することが困難であること

   (1) 原告らの主張する基準について

 実効線量1mSv/yとする基準は,ALARAの原則に則り,できる限り放射線被ばくを低減するという観点から設けられた計画的被ばく状況に関する防護の基準であって,それ自体が避難の合理性を基礎付けるものではない。クリアランスレベル等についてもそれぞれの規制の趣旨から一定の規制値が設けられているものの,かかる基準を超えた場合に具体的な危険が生じるとされているものではなく,このような100mSyを遥かに下回る水準の放射線を理由として相当因果関係が認められることはない。
 また,LNTモデルはあくまで仮説であって,100mSv以下の被ばくについて健康被害のリスクがあることを示すものではない。

   (2) WG報告書について

 WG報告書は,広島・長崎の原爆の人体に対する影響の精緻な調査,チェルノブイリ原発事故に関する調査結果に関する国際機関の報告等に基づいて,以下のとおり,科学的知見を整理している。
  1.  現在の科学でわかっている健康影響として「広島・長崎の原爆被爆者の疫学調査の結果からは,被ばく線量が100mSvを超えるあたりから,被ばく線量に依存して発がんのリスクが増加することが示されている。そして,国際的な合意では,放射線による発がんのリスクは,100mSv以下の被ばく線量では,他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいため,放射線による発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しいとされている。
  2.  この100mSvは短時間に被ばくした場合の評価であり,低線量率の環境で長期間にわたり継続的に被ばくし,積算量として合計100mSvを被ばくした場合は,短時間で被ばくした場合よりも健康影響は小さいと推定されている。この効果は動物実験においても確認されている。本件事故によって環境中に放出された放射性物質による被ばくの健康影響は,長期的な低線量率の被ばくであるため,「瞬間的な被ばくと比較し,同じ線量であっても発がんリスクはより小さいと考えられる。
  3.  子ども・胎児への影響については,一般に,発がんの相対リスクは若年ほど高くなる傾向があるが,低線量被ばくでは,年齢層の違いによる発がんリスクの差は明らかではない。また,放射線による遺伝的影響について,原爆被爆者の子ども数万人を対象にした長期間の追跡調査によれば,現在までのところ遺伝的影響はまったく検出されていない。チェルノブイリ原発事故における甲状腺被ばくに比べても,本件事故による小児の甲状腺被ばくは限定的であり,被ばく線量は小さく,発がんリスクは非常に低いと考えられる。

   (3) ICRP2007年勧告

 2007年勧告は,100mSvを下回る線量において生物学的,疫学的健康被害のリスクがあることが証明されていないことを前提としつつ,不必要な放射線への被ばくを避けるために,放射線被ばくについては合理的に達成できる限り低く抑える(ALARAの原則)ことを基本原則(最適化の原則)として,計画被ばく状況の下で平常時の一般公衆の被ばく線量限度を1年間当たり1mSvと定め,本件事故の発生後のような緊急時被ばく状況においては,参考レベルは予測線量20mSvから100mSvの範囲にあるものとし,また,事故による汚染が残存している状況の下(現存被ばく状況)においては,1mSvから20mSvのバンドに通常設定すべきであるとしている。

   (4) 本件事故後の状況

   ア 外部被ばくについて
 原告らの本件事故時住所は,福島市,郡山市,いわき市等の自主的避難等対象区域及び区域外が多数を占めるが,県民健康管理調査の全県調査では,全県民のうち46万0408人(放射線業務従事経験者を除く。)の推計結果は,県北・県中地区では90%以上か2mSv未満となり,県南地区では約91%,会津・南会津地区では99%以上,相双地区は約、78%,いわき地区でも99%以上が1mSv未満となっており,先行調査と同様の結果であった。

   イ 内部被ばくについて
 福島県が行っているホールボディカウンターによる測定では,6608人のうちセシウム134及びセシウム137による預託実効線量(体内に放射性物質を摂取した後の内部被ばくの実効線量)が1mSv以下が99.7%を占め,1mSv以上は0.3%,最大でも3.5mSv未満となっている。なお,福島県が平成23年6月27日から平成25年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査では,1mSv未満が99.9%を占めており,全員,健康に害が及ぶ数値ではなかったとされている。
 原告ら提出の個別証拠でも,外部被ばく,内部被ばくとも健康に害が及ぶ危険性があるような数値の原告はいなかったし,本件事故時住所に残った家族或いは知人等に健康に害が及ぶほどの被ばくをした者がいるとの証拠もない。

   ウ 甲状腺検査について
 県民健康管理調査における甲状腺検査において,嚢胞,結節,がんの発見率の増加が認められるが,高い検出効率によるものと見込まれる。本件事故の影響を受けていない地域において同様の手法を用いて検査を行った結果からは,福島県の子どもの間で見つかっている発見率の増加については,放射線の影響とは考えにくいと示唆される。

   (5 )小括

 以上のとおり,100mSv以下の被ばく線量では,放射線による発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しく,原告らの本件事故時の住所地においては,ごく一部の原告(原告番号1番)を除き,緊急時被ばく状況における下限の基準である年間20mSvを大きく下回っており,現にいずれの原告についても健康影響は認められない。
 その上で,放射線の鹿康影響に関する上述の科学的知見については,報道,書籍,政府や地方自治体の広報誌,パンフレット等により広く周知されていたものである。これらのことから,原告らの避難については,本件事故直後の時期において中間指針追捕及び同第二次追補の範囲で合理性を認め得るものの,それはあくまで主観的に不安や恐怖を抱いたことに相当の理由があり,やむを得ない面があるというにとどまり,具体的な危険が客観的に存することを意味するものでは全くないから,かかる範囲を超えて,原告らが抱いた不安や恐怖に起因する精神的損害,避難等に関して支出した費用,就労不能損害については何れも相当因果関係が認められない。

 △ページトップへ

  3 原告らの引用する崎山意見書について

   (1) 被告東電の主張

 避難指示等に基づかない原告らの避難行動については,放射線被ばくに対する主観的な不安や恐怖を払拭するために行われたものであると解されるところ(ただし,これと異なる理由で「避難行動」を行ったことが明らかな原告もいる。),原告らは,かかる避難行動により精神的な苦痛や財産的な損害を被ったとして賠償を求めている。
 しかしながら,こうした不安の心理に起因する避難行動が本件事故との相当因果関係を有するというためには,そのような心理が,単に漠然とした不安感という域を超えて,科学的な知見に基づく客観的な観点からも具体的な法益侵害の程度に至っていることを要すると解される。そのような場合に初めて,かかる不安を払拭するための避難行動が客観的な必要性や合理性を有するものと認められるからである。最高裁判決を含む裁判例の考え方によれば,法的な精神的損害の賠償を認めるためには,具体的な危険の存在が重要な前提になるというのが裁判上の判断であると解されるのであり,原告らによる上記の避難行動と本件事故との相当因果関係の有無や範囲についても,かかる具体的な危険の有無や程度を基準に判断されるべきである。
 しかるに,原告らは本件事故発生時の居住地における空間線量等が避難指示の基準となった年間20mSvを大きく下回る場合にも,こうした具体的な危険が存在するものと主張し,これを基礎づけるものとして崎山意見書を提出しているが,佐々木氏らの連名意見書によれば,崎山意見書は「放射線影響科学,放射線防護学(保健物理学),疫学,放射線医学他関連分野で主流をなす専門家の常織的な認識と異なる事項が多く含まれている」のであり,その内容の多くは「不必要に低線量被ばくを危険視するもので,良識ある専門家には受け入れられないもの」であるから,崎山意見書によって上述した具体的な危険が基礎づけられる余地はなく,原告らの主張はその前提を欠くものである。

   (2) 崎山意見書に対する反論

   ア LNTモデルが科学的に実証されていないこと
 崎山証人は専門家証人としての専門性及び中立性を欠いているから,その意見や証言を信用することはできず,崎山意見書がLNTモデルを基礎づけるものとして挙げる各種の研究については,後述のとおり,LNTモデルを科学的に実証したものであるとは一般に評価されていない。また,ICRP自身がLNTモデルについて疫学的に実証する根拠がないことを明らかにしているのに,疫学の専門的知識がなく疫学について意見を述べる立場にない崎山証人が,疫学によりLNT仮説が実証されたなどと言えるはずもない。

   イ ICRP勧告
 崎山意見書は,あたかもICRPが科学的知見を離れて電力業界の意向に配慮した勧告を行っているかのように述べるが,佐々木証人の証言によればICRPが原子力産業の影響下にあって,自由ではないというような事実はなく,寄附を受け入れる規則を作るなどして,ICRPの独自性,自由を確保している。
 また,崎山意見書は,ICRPの勧告において,緊急時やその後に続く状況においては,公衆被ばく線量限度が引き上げられるといった記載は一切ないなどと述べるが,連名意見書によれば,事故後の非常時,復興期に平常時の公衆の線量限度である年間1mSvを超える地域に居住すべきでないとする主張には科学的根拠がなく,崎山氏は,線量限度の意味を誤解している。

   ウ WG報告書
 LNTモデルが科学的に立証されたものでないことは繰り返し述べたとおりであるし,「1000人に5人のがん死率増加」といった計算が不適切である。WG報告書は,科学的に立証されていない仮説に基づいて計算した場合でも他の要因より発生確率が低いと述べているにすぎない。連名意見書によれば,低線量被ばくの健康影響を科学的事実として認めるに足りる根拠がないことについてはICRP2007年勧告で確認されており,WG報告書がまとめた知見は現在でも正しく有効であると明言している。

   エ 年間20mSvの避難基準
 崎山氏は,線量限度を誤解しており,100mSv以下の放射線被ばくについて統計的な有意性をもって発がんリスクの増加が証明されたという意見についても,低線量被ばくの健康影響に関する科学的知見を正解しないものと言わざるを得ない。崎山証人が避難に伴うリスクの増加を全く理解していないことも加味すると,避難が合理的であるとする崎山意見書の記述は,明らかにその前提を欠いている。
 結局のところ,崎山意見書は,低線量被ばくに関する最近の疫学調査の論文を誤って解決し,福島県内に居住することの危険性を殊更誇張して,年間20mSvという避難基準を論難するものというほかない。
 なお,連名意見書によれば,各種の論文を引き合いに低線量被ばくの危険性や避難の必要性を強調する崎山意見書の記述について,「国の規制に取り入れるのは,その確かさを十分検証された科学的知見であるべきであって,論文が発表されたからといって,そこで報告された結果を速やかに規制に取り入れるべきとの崎山氏の要求は適切でない」と指摘されている。

   オ 福島県県民健康調査について

 (ア) 福島県県民健康調査検討委員会は,これまでに発見された甲状腺がんについては,被ばく線量がチェルノブイリ事故と比べて総じて小さいこと,被ばくからがん発見までの期間が概ね1年から4年と短いこと,事故当時5歳以下からの発見はないこと,地域別の発見率に大きな差がないことから「総合的に判断して,放射線の影響とは考えにくいと評価する」と述べるとともに,わが国の地域がん登録で把握されている甲状腺がんの罹患統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い甲状腺が発見されていることについては「将来的に臨床診断されたり,死に結びついたりすることがないがんを多数診断している可能性が指摘されている」と述べており,福島県内において本件事故に起因して甲状腺がんの過剰発生が確認されたなどとは全く述べていない。
 また,UNSCEARも,その2015年報告書において「本委員会は,2013年福島報告書の作業者と公衆における健康影響分野の知見は今も有効であり,現在までに発表された新規情報の影響をほとんど受けていないとの結論に達した。むしろ,新たな情報により,甲状腺調査における小結節,嚢胞およびがんの高い検出率は,集中的な集団検診および使用機器の感度の高さによる結果であり,事故による放射線被ばくの増加の結果ではないとする報告書の記述についての重要性を高めている」と述べている。

 (イ) これに対し,崎山意見書は,大要,①通常と比べて小児甲状腺がんの発症率が増加していること,②津田俊秀氏が甲状腺がんの過剰発生を報告していること,③2巡目の検査において多数の発見例があり,スクリーニング効果で発症率の増加を説明することはできないこと,④甲状腺がんの潜伏期間は1年~10年であるから,潜伏期間を理由に過剰発生を否定することはできないことを指摘している。しかしながら,以下に述べるとおり,これらの指摘はいずれも当たらない。

 (ウ) 発症率の増加について(上記①の点)
 崎山意見書は「悪性ないしその疑いが約30万人中108人発見されており通常100万人に1から2人といわれている小児甲状腺がんとしては発症率が増加しているといえる」と述べる。しかしながら,連名意見書は「一般に進行が遅く比較的良性の経過をとる甲状腺がんでは,県民健康調査のような健常者のマススクリーニングの結果と比較すべきでない。」とされ,甲状腺がんや結節は自覚症状がなく良性であることが多いため,一般的にはがんを疑って診察を受けることもなく,発見されないのに対し県民健康調査では広く一般的に診察をして通常であれば発見されないがんや結節を発見する(スクリーニング効果)のであるから,前提が全く異なるのである。

 (エ) 津田俊秀氏の論文について(上記②の点)
 崎山意見書は,本件事故後に福島県内で甲状腺がんの発症率が増加しているという意見の根拠として,津田俊秀氏の「2014年5月19日福島県『県民健康調査』検討委員会発表分データによる甲状腺検診分のまとめ」を挙げる。しかしながら,UNSCEAR2016年白書は,津田氏の見解について「このような弱点と不一致があるため,本委員会は,Tsuda et al.による調査が2013年報告書の知見に対する重大な異議であるとはみなしていない」としており,連名意見書も同様を指摘している。

 (オ) スクリーニング効果について(上記③の点)
 崎山意見書は「スクリーニング効果であれば,1巡目で発見され尽くしているため(刈り取り効果),2巡目の本格検査では発見数は多くならないはずである。2巡目の本格検査において,このような多数の発見例があることは,スクリーニング効果では説明できないのであり,県民健康調査による発見例が,放射線被ばくに起因する多発であることを示唆している」とし,「僅か3年足らずでがんが最大30.1mmにまで増殖した可能性が高く,増殖速度はかなり早いと考えられる。これほどに早く増殖するものであれば,先行検査で発見されたがんにつき,潜伏期が短すぎるという理由で放射線被ばく起因説を否定することなどできないはずである」とも述べている。
 しかしながら,崎山意見書が,あたかも本格検査で急速ながんの増殖が確認されたかのように述べている点について,連名意見書は「超音波画像診断の特性から,超音波画像検査の診断精度には限界があり,先行検査での検査の網目を抜け落ち二次検査という精密検査の対象とはされない症例がある程度存在することが理解できる。さらに小児申状腺がんの自然史についても,まさに今回のマススクリーニングにより初めて明らかにされつつあるという段階である。崎山氏の指摘は,そうした知見の進展状況を踏まえていない」と指摘している。

 (カ) 甲状腺がんの潜伏期について(上記④の点)
 崎山意見書は,甲状腺がんの潜伏期は最短でも4年から5年と考えられるという知見について「がんの潜伏期に関しては一般的に小児がんの方が潜伏期は短いと言われており,2013年に発表された『最短潜伏期とがんのタイプあるいはカテゴリー』でも1年から10年の間と述べられている」と指摘する。しかしながら,連名意見書は「崎山氏は,がんの潜伏期に関し,米国でいわゆる9.11テロ後の後遺症としての発がん潜伏期を管理するために作成された白書・・・を引用し,あたかも同白書が甲状腺がんを含むがん一般の潜伏期に関する医学的コンセンサスを紹介しているかのように指摘するが,同白書は,9.11テロの被害者等に対する行政支援プログラムを円滑にするために行政目的で専らモデル理論に基づいて各種がんリスクの最小潜伏期間を推定したにすぎず,医学的コンセンサスとは関係がない。無論,放射線被ばくに関する疫学調査結果を取りまとめたものでは全くない」と指摘している。
 同様に,柴田証人も「甲状腺がんの潜伏期ですけれども,津田論文では1年となっています。その基は何かというと,このCDCのホームページにあることで,これは,9.11のテロの被害者対策のために,行政目的で決めたものであって,医学的なコンセンサスとは無関係だし,疫学的結果を取りまとめたものでもありません」と証言している。

   カ 各種疫学調査について
 崎山意見書は,昨今の研究により低線量被ばくに起因してがんが増加するという事実が科学的に確認されたかのように述べている。しかしながら,連名意見書によれば,崎山氏のような評価が国際的なコンセンサスとなっていると言える状況にはないのである。そうである以上,こうした崎山意見書の記載が科学的知見の状況を正解しないものであること,ひいては,誤った科学的知見に基づく崎山証人の意見や証言を採用し得ないものであることは既に明らかであるが,以下では,崎山意見書がその根拠として取り上げた各種の研究について述べる。

   (ア) LSS第14報
 崎山意見書は,LSS第14報によってLNTモデルが実証されたかのように述べている。しかしながら,連名意見書は「LSS第14報は,100mGy以下の低線量域においてもLNTモデルが成立していることを実証するものではない。生物学的に低線量で欣射線影響が真にあるのか否かは,まだ不確実性が高く,科学的検討を継続する必要がある」と明言している。また,柴田証人も,崎山氏が引用するLSS第14報の要約部分について,本文では,崎山氏の指摘する内容は書かれておらず,間違った要約になっていることを指摘している。

   (イ) テチャ川流域住民に関する論文
 この論文について,崎山意見書は「がん死率は線形二次よりも線量に比例して直線的に増加する直線モデルにフィットしている」とする。しかしながら,連名意見書は,同論文の示唆する結果について,以下の点を指摘して,科学的な評価は定まっているとは言い難いと述べている。

 ①民族の居住実態や,生活習慣や遺伝的要因など様々な交絡因子を考慮した上でのリスク調整が必要であるが,当該論文では交絡因子に関する検討が十分なされていない。そのリスク調整にはさまざまな前提が必要で,前提に問題があれば解析結果に矛盾が生じることもある。現に,当該論文にもそのような矛盾がみられ,年齢が高くなるに従い過剰相対リスクが増加するとの結果が得られたことが記載されている。
 ②被ばく線量の評価に関しては,より実態に近くなるように改良が重ねられており,崎山氏が引用した論文より後に,線量を再評価した論文が公表されている。50mGy以下の低線量域では,むしろリスクがないことが示されている。
 ③統計モデルの選択により低線量域のリスクの評価値は大きく変わることが示されている。

   (ウ) 15か国核施設労働者に関する調査結果
 この論文について,崎山意見書はこの論文を100mSv以下でも発がん又はがん死亡リスクが有意に増加する根拠であるとして意見書に引用するが,連名意見書や柴田証人によれば,引用するのは不適切であって,この論文の著者がカナダのデータを除くと有意な過剰死亡リスクは認められなかったと述べていたことやその後の経緯,CNSCの上記報告書が公表されたことについては,触れていないことが指摘されている。

   (エ) イギリス高線量地域における小児白血病(Kendallらの論文)
 連名意見書によれば,上記論文の線量推定には大きな不確実さがあり,累積線量の評価において,対象者出生時の母親の居住地を含む市町村レベルの平均値を用いていること,社会経済状態についても母親の居住地に基づいた貧困指数の五分位数を用いている。また,交絡因子の調整も十分でないのであるから,ある地域で小児白血病が高いからと言って,空間線量率とだけ相関があると言って良いのか,因果関係があるかはこの論文だけからではわからず,今後より詳細な調査が必要であることが指摘されている。上記論文は,結論部分において,被ばく線量の測定が不確実であったことによるバイアスを排除できないとしており,予想される交絡因子として挙げられた医療被ばくをも検討対象にしていない。

   (オ) バックグラウンド電離放射線と小児がんのリスク(Spycherらの論文)
 この論文について,崎山意見書は「初めて1mSvという低線量でも有意にがんが増加することが疫学調査で示された」とする。しかしながら,連名意見書や柴田証人によれば,かかる指摘は正しくないし,交絡因子の検討が十分でなかった可能性があり,CT検査など医療被ばくの影響は全く考慮されておらず,当該論文におけるこうした線量推定の不確かさについては,他の研究者から批判的コメントが複数寄せられているのであるから,当該論文により,自然放射線のような極低線量の被ばくによる発がんリスクの増加が疫学的に証明されたとは言えず,崎山氏の指摘は誤りであると指摘されている。

   (カ) 医療被ばくに関する研究論文

   a イギリスにおける小児CT検査
 この論文について,崎山意見書は「被ばく線量と白血病,脳腫瘍発生の関係は…直線関係を示している」とする。しかしながら,連名意見書によれば,患者背景の影響として,がんが疑われたためにCT検査が施行され,その結果としてCT検査を受けた患者でがんが多かったのであって,CT検査ががんを誘発したのではない可能性があることや(逆の因果関係),基礎疾患が発がんにも関連しており,CT検査が発がんを誘発した訳ではない可能性もあることが,本論文公表時から問題点として指摘されている。また,この論文が公表された後,CT検査による放射線被ばくと脳腫瘍,白血病,リンパ腫の発症との関係を調査し,これらの疾患の素因となる基礎疾患(ダウン症や神経線維腫症などの遺伝的異常,免疫学的異常)の影響を検討した結果,素因を考慮しないと放射線被ばくによる発がんリスク増加を過大評価することが指摘されており,柴田証人も同様の指摘をしている。
 なお,崎山意見書は,上記論文が「逆の因果関係」の可能性を減らすために,白血病について,初検査時から2年以内の発症を除外し,脳腫瘍については初検査後5年以内の発症を集団から除いていろことを指摘し,それで十分であり妥当だと評価しているが,そのような事情によって上記「逆の因果関係」の可能性が排除されるものでは全くない。

   b オーストラリアにおけるCT検査
 この論文について,崎山意見書は,CT検査の検査回数が増えるとそれに比例して発がん率も増加する旨述べる。しかしながら,連名意見書によれば,当該論文はCT検査を施行した目的や基礎疾患などの患者背景を調査しておらず,当該論文で,逆の因果関係の可能性を減らすために,CT検査後早期の発がんは検討から除外しているものの,発がんの素因となる基礎疾患の影響は考慮されていないから,みかけ上,CT検査が発がんを増やしたかのようになった可能性がある。また,CT検査で撮影された部位と発がん部位との関連性が低いことからすれば,CT検査を受けた患者がもつ素因の影響が想定され,素因を考慮しないことで放射線被ばくの影響を過大評価しているものと思われ,この論文はLNTモデルが科学的に実証された根拠を与えているものでもないと指摘されている。

   (キ) 高自然放射線地域住民の疫学調査
 この論文について,崎山意見書は「調査対象とすべき低年齢層と高齢者をすっぽり除外したという研究デザイン自体に系統誤差を生じる選択バイアスがあると考えられる」とし,また,集団のサイズが小さすぎ,調査期間も短いと指摘する。しかしながら,連名意見書が指摘するとおり,対象者の年齢を限定して分析しても直ちに選択バイアスが生じる訳ではなく,柴田証人も,標的集団を30歳から84歳の,ある地域の全住民としているわけで,別に,そこに選択バイアスが生じているわけではないと証言するとおり,崎山意見書の上記指摘は当たらない。
 むしろ,連名意見書によれば,当該論文が研究対象とするこの調査は,①コホート研究であること,②がん罹患例を用いてリスクを検討していること,③喫煙習慣,社会経済状態などの交絡因子の情報が得られ,リスク解析で考慮されていること,④集団の規模が10万人を超えていて,十分な統計学的検出力を持つこと,⑤この集団では職場での発がん物質への曝露の可能性は低いことなどの重要な特長を持っており,その研究結果に近時ますます注目が集まっていると指摘されている。

   (3) 小括

 上述した各点より明らかなとおり,原告らが依拠する崎山意見書は,国際的に合意された科学的知見とは異なる内容を多数含んでおり,本件の司法判断において前提とするに全く耐えないものである。

 △ページトップへ

  4 各原告らの本件事故時住所の近傍の空間放射線量について

 (1) 原告らの本件事故時住所の近傍(原則としてモニタリングポスト,適切なモニタリングポストが存しない場合も地方公共団体が測定したもの)における避難した時期など,相当因果関係を検討するうえで重要な時点における空間放射線量の推移は,別紙線量一覧表(被告東電)のとおりである。

 (2) 年間空間放射線量への換算方法
 原告らは,1時間当たりの空間放射線量(μSv/h)に24時間365日を乗じて年間の空間放射線量(mSv/y)に換算している。
 これに対して,被告東電は,本準備書面の「mSv/y(換算)」欄では,1時間あたりめ空間放射線量(μSv/h)に5.256(計算式:(8時間+0.4×16時間)×365日÷1000)を乗じた値を記載している。
 これは,除染目標値とされる追加被ばく線量年間1mSvを1時間あたりの空間放射線量に換算するにあたり「1日のうち屋外に8時間、屋内(遮へい効果(0.4倍)のある木造家屋)に16時間滞在するという生活パターンを仮定」するとされていることから,同様の仮定に依拠したものである。遮へい効果については,ブロックあるいはレンガ家屋(1~2階建て)であれば0.2倍,各階450~900mの建物(3~4階建て)であれば0.05倍,各階900m以上の建物(多層)の上層であれば0.01倍とされているところ,屋内活動が全て1~2階建ての木造家屋(遮へい効果0.4倍)で行われるという上記の仮定は現実的でなく,実際の年換算値はより低くなる。

 (3) 測定方法について
 なお,原告らの中にはガイガーカウンター(ガイガーミュラー管式,GM管式のサーベイメータ)を用いて独自に空間放射線量を測定している者もいる。しかし,その測定方法が適切であるかは不明であり,また,放射線測定器が校正されているかも不明である上,一般環境の空間線量率の測定にはシンチレーション式サーベイメータが最も適しているとされている。しかも,測定器自体にも誤差があり,精度の高い測定器では10パーセント程度以内の誤差に収まるよう調整されているが,放射線測定器によってはそれ以上の誤差が生じるものもあること,ガイガーカウンターで1cm線量当量率(μSv/h)を表示するよう調整されているものは,モニタリングポストよりも値が高くなる傾向があること,かかる1cm線量等量は実効線量に比べて高めの値となり,安全側の評価となることも加味すれば,原告らが自ら測定したガイガーカウンターによる測定値は参考にならないというべきである。


  5 まとめ

 以上のとおり,本件においては,政府の避難指示等に基づかない避難行動につき本件事故との相当因果関係を判断するにあたっては,あくまで国際的に合意された科学的知見に基づいて具体的な危険の有無や程度を認定することが合理的かつ相当であり,崎山意見書に基づいてこれを認定する余地はない。
 国際的にも合意された科学的知見によれば,低線量被ばくによる健康影響については,100mSv以下の被ばくについては他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいため,放射線による発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しいとされており,本件事故において避難の基準とされている年間20mSvの被ばくについても,他の発がん要因(喫煙,肥満,野菜不足等)によるリスクと比べて十分低い水準にあることが明らかにされている。
 かかる科学的知見を前提とすれば,原告らに健康被害を及ぼす具体的な危険は認められないのであり,したがって,避難指示等に基づかない避難行動やこれに基づく損害について,中間指針追補及び同第二次追補が定める範囲を超えて相当因果関係は認められない。

 △ページトップへ

 (被告国の主張)


  1 年間空間線量1mSvを超える地域から避難することが相当とは言えないこと

 原告らは,年間空間線量1mSvを超える地域から避難することには社会的相当性があり,当該避難から生じた損害は相当因果関係があると主張する。
 しかし,100mSv以下の低線量の放射線被ばくによる健康への影響については実証されているわけではなく,国際的な合意では,放射線による発がんリスクは100mSv以下の被ばく線量では,他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいため,放射線による発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しいとされ,現時点では人のリスクを明らかにするには至していない。また,ICRPの勧告における公衆被ばくの線量限度や炉規法等の線量限度は,事故によって放出された放射性物質による放射線の被ばくを減らすための避難に当たって,何らかの基準を示すものではなく,避難の合理性の根拠となるものではない。
 一方で,被告国が避難の基準とした年間20mSvという基準は,わが国においては長期にわたる防護措置のための指標がなかったため,原子力安全委員会が計画的避難区域の設定等に係る助言において,ICRPの2007年基本勧告において緊急時被ばく状況に適用することとされている参考レベルのバンド20~100mSv(急性若しくは年間)の下限である20mSv/年を適用することが適切であると判断して選択した基準であって,緊急時被ばく状況,すなわち,急を要する防護対策と,長期的な防護対策の履行を要求されるかもしれない不測の状況において,実際の実情に合わせて柔軟にかつ最適な防護対策を展開するに当たり選択された合理的な基準である。
 したがって,年間空間線量1mSvを超える地域から避難することには社会的相当性がある旨の原告らの主張には理由がない。

  2 LNTモデルの仮説が科学的に実証されていないこと

   (1) LNTモデルは,飽くまで公衆衛生上の安全サイドに立った判断として採用されたものにすぎないこと

 ア 現時点での低線量被ばくによる健康影響に関する国際的合意は,100mSv以下の低線量域においては疫学データの不確かさが大きく,放射線によるリスクがあるとしても,放射線以外のリスクの影響に紛れてしまうほど小さいため,統計的に有意な発がん又はがん死亡リスクの増加を認めることができないというものである。

 イ このような状況におけるLNTモデルの意義は,世界中の研究者から提案されている様々な線量反応評価のための統計モデルの中で,同モデルが,被ばくによる不必要なリスクを避けることを目的とした公共政策のための慎重な判断であると考えられることから,放射線防護・管理のための実用的なツールとしてこれを採用したことにある。すなわち,LNTモデル自体が誤りというのではなく,LNTモデルの仮説が,科学的に証明された真実として受け入れられているわけではないが,科学的な不確かさを補う観点から,公衆衛生上の安全サイドに立った判断として採用されているということである。

   (2) 人にはがん化を抑制する生体防御機能が備わっていること

 ア 人ががんになる過程は,発がん因子によるDNAの損傷に始まると考えられているが,それが直ちに発がんに結び付くわけでは全くない。通常,生体内の細胞は,細胞内で損傷を受けたDNAの修復作業を行うため,損傷のほとんどが正しく修復される。修復しきれなかったり,修復の過程で誤りが起きたりした場合に,遺伝情報の変化につながり,突然変異が生じることとなるが,単一の変異でがんになるのではなく,複数の変異が蓄積した結果として,正常の細胞が増殖の制御を逸脱して増え続ける性質を獲得してがん化することがある。しかし,ここでも,完全に修復しきれないほどの損傷をもった細胞を死に至らしめる巧妙な仕組み(アポトーシス)が機能し,遺伝子に損傷を伴う細胞を除去し,更には,細胞ががん化したとしても免疫系が機能してがん細胞が除去されるという,何重もの生体防御機能が人の身体には備わっている。

 イ 原告らは,崎山証人の証言や意見書に基づき,放射線によってDNAの二本鎖切断が生じる可能性があることを強調し,放射線が1本通っても発がんに結び付く可能性があると主張する。しかし,そもそも発がん因子は放射線に限られず,様々な化学物質や紫外線,呼吸等にもDNAを傷つける作用があり,発がん因子であると考えられているところ,日常生活において不可避である又は非常に身近なそうした物質や生活反応が発がんに寄与する過程では,それらが直接DNAに損傷を与える場合だけでなく,そうした物質や生活反応により発生する活性酸素が二次的にDNAに損傷を与える場合もある。そうした様々な発がん因子による直接間接の作用に日々曝されつつも人が発がんに至る場合と至らない場合とがあるのは,DNAの修復機能をはじめとする様々な生体防御機能があるからにほかならない。

 ウ そうすると,幾重もの生体防御能力が発がんの過程の中で抑制的に働き,この能力を超えた部分だけがリスクの増加という形で外に現れると考えるのが妥当であって,少なくとも,発がんに寄与する物質や作用のみならず,生体に備わっている発がんを抑制する作用,機能をも含めて総合的に発がんをめぐる過程を検討しない限り,これを正確に把握することはできない。

 エ 以上のとおり,生体防御機能があることによって,細胞レベルでDNAに二本鎖切断が生じたとしても,必ずしも発がんに至らないのであるから,原告らの主張はその前提を誤ったものである。

   (3) Rothkammらの論文について

 ア 原告らは,崎山証人の証言や意見書に基づき,Rothkammらが2003年に発表した論文を引用して,LNTモデルの仮説が科学的に裏付けられている旨主張する。しかし,そもそもRothkammらによる前記論文の原典には,1mGy当たり35細胞のうち1個にDNAの二本鎖切断が生じることに相当する記載はなく,単に同じ図の脚注に「直線はデータポイントの線形近似で,細胞・Gyあたり35DSB(1個の細胞に1Gy照射するごとに35個の二本鎖切断が生じることに相当する。)の傾きである。」との記述があるのみであり,原告らが根拠にする崎山証人の証言はこの実験結果そのものではなく,崎山証人の誤った独自の解釈を含んでいる。

 イ Rothkammらは,1.2mGyから2Gyまでの線量範囲における細胞当たりの二本鎖切断の個数と照射した線量との間に直線関係が得られたと述べてはいるものの,他方で,X線を照射しない細胞群における二本鎖切断の発生頻度についても検討の上,照射なしのコントロール群でも20細胞のうち1個に二本鎖切断が生じること,また,細胞分裂が発生しない状態での実験であることに留意する必要があるとしている。また,X線を照射した細胞を増殖可能な状態下においたところ,末照射のコントロール群よりも大幅に多いアポトーシスが生じ,修復されない二本鎖切断を伴う細胞が培養の過程で排除されると示唆されたことなどにも言及し,必ずしも二本鎖切断の修復欠如が直ちに発がんリスクを増加させるというのではなく,むしろ人体がそのリスクを低減させる生体防御機能を有することを裏付け得る結果をも合わせて論じている。

 ウ したがって,原告らは,Rothkammらの論文を引用して,細胞レベルの一実験結果から直ちに人体における発がんリスクを論じているが,前記のとおり,生体防御機能を含めた多段階にわたる発がん又はその抑制のメカニズムを全く考慮せずに発がんリスクを論じているのは誤りである。

   (4) 線量率効果について

 ア 原告らは,崎山証人の証言及び意見書に基づき,線量・線量率効果係数(DDREF)を2とする調査結果はないなどとして,線量率によってリスクは変わらない旨主張する。しかし,原告らは,細胞レベルでの研究結果と人を対象とした疫学調査結果との間にあって,人の発がんという健康影響を推し量る意味で重要な動物実験の結果に何らの言及もしていない。

 イ 本件事故に起因する被ばくの健康影響については,予想される被ばく線量が限定的であることから,確率的影響である低線量放射線による発がんのリスクが主要な健康問題であるところ,放射線リスク評価の直接的な科学的知見としては,従来から広島及び長崎の原爆被爆者の疫学調査結果が用いられてきた。原爆被爆者での調査では100mSv以下の低線量では統計的に有意な発がん又はがん死リスクの増加は認められていない上,原爆被爆者のように短時間で高い線量を受ける場合(急性被ばく)に対して,低い線量を長時間にわたって受ける場合(遷延被ばく又は低線量率被ばく)の方が,被ばくした総線量が同じでも影響のリスクが低くなること(つまり,線量率効果が存在すること)が,動物実験や培養細胞の実験研究で明らかになっている。

 ウ 原告らは,その前提として,UNSCEARがDDREFを1であるとし,線量率によってリスクは変わらないという立場であると表明しているが,これは客観的事実に反し,誤りである。すなわち,UNSCEARは,その1993年報告書において,疫学データのほか,DDREFが2から10であることを示唆する生物学的データが集積されていることを踏まえて検討し,その結果として,線量率効果が存在することを前提にDDREFを「3より小さい」と見積もっており,そもそもDDREFを1としてはいないし,本件事故後も,UNSCEAR2013年報告書において,WHOがDDREFを1としたことについて触れ,広島・長崎の原爆被ばくのような急性被ばく後のがんリスクの見積りではDDREFを1とすることは妥当であるが,一方,低線量率での高線量被ばくに対しては1を超えるDDREF値が,実験にて示されているとするなど,DDREFを1であるとはしていない。これらのことから明らかなとおり,UNSCEARは,放射線生物学の見地からすれば,むしろ線量率効果が存在する,つまりDDREFが1ではないことは明らかであるものの,これを放射線防護のための指標を示すに当たって絶対値として示すことができないために言技術的な係数として最も慎重な立場となるよう,DDREF1を用いることに理解を示しているにすぎない。

   (5) 小括

 以上のとおり,LNTモデルの仮説は科学的に実証されたとはいえないのであり,LNTモデルを前提とした上で,線量率効果を1としない考え方をリスク軽視とする考え方は,LNTモデルが見落としている生体防御反応を考慮しない点で誤りであるほか,LNTモデルの低線量域に当てはめて行う将来のがん死数の推測は,LNTモデルの適用の仕方を誤ったものでもある。したがって,原告らが依拠する崎山証人の証言及び意見書は,低線量被ばくに関するリスク評価について,リスクを過度に際立たせようとしたものであることに留意する必要がある。

 △ページトップへ

  3 疫学調査・福島県県民健康調査の結果や論文の評価を誤っていること

   (1) 原爆被ばく者の寿命調査(LSS)について

 ア 原告らは,LSS第14報の要約にある記載を根拠として,最適なしきい値というのはゼロであると結論づけている。しかし,LSS第14報の著者の一人である小笹晃太郎氏本人が,前記要約の記載について,その意味しているところは,0.2Gy以上でリスクが有意になるということを述べており,上記のような解釈を自ら明確に否定している。

 イ また,LSS第14報で示された低線量域における過剰相対リスクは,その誤差の範囲を示す95%信頼区間の上限下限が広く,また下限がゼロを挟んで大きく下方にまで及んでいることから,推定精度が粗く信頼性に欠け,統計的に有意なリスクの上昇が見られないことは明らかである。したがって,全線量域における過剰相対リスクと放射線量にLNTモデルを当てはめた図を根拠として,低線量域においてや「直線的に線量に比例してがん死が増える」ことが示されていると解するのは,高線量域のデータが示す線量反応関係が低線量域にもそのまま当てはまることを前提とする点で,明らかに誤りである。

 ウ また,上記のような解釈をする崎山証人が,信頼区間という統計学における基本的概念の理解を欠いていることは明らかである。

 エ 以上のとおり,LSS第14報により100mSv以下の低線量域におけるがん死リスクの上昇が裏付けられたとするのは,LSS第14報の評価を誤ったものというほかない。

   (2) テチャ川流域住民に関する論文について

 ア 原告らは,Krestininaらのテチャ川流域住民に関する論文が示す結果をもって,テチャ川流域コホートに対する大規模疫学調査が低線量被ばくのリスク推定について結論づけることができると主張するが,そのような解釈は,疫学調査の検討結果を正しく理解しておらず,誤りである。

 イ すなわち,まず,前記論文では,交絡因子となる可能性がある民族の居住実態,生活習慣及び遺伝的要因などに関する調査が不十分であること,また,著者自身が,線量推定に不確実な点があるため,リスク推定は慎重に解決する必要があると述べるなど,その内容についてまだ不足の点があることについて,原告らは十分な検討をしていない。また,前記論文の公表後に出された,Davisらによる線量再評価を踏まえた論文によれば,50mGy以下の低線量域ではリスクの増加がないことが示されており,結論として,統計モデルの選択によって,低線量域におけるリスク評価が大きく変わることが示されている。

 ウ そうすると,テチャ川流域住民の疫学研究の結果をもって,100mSv以下でがん死亡リスクが実証されたということはできない。

   (3) 15か国核施設労働者に関する調査結果について

 ア 原告らは,Cardisらの15か国核施設労働者におけるがん死リスクの調査結果に基づいて,低線量被ばくによるがん死リスクの上昇が裏付けられている旨主張する。

 イ しかし,原告らが依拠する崎山証人の証言及び意見書では,15か国核施設労働者におけるがん死リスクの調査結果は,カナダのデータが大きな誤りを含んでおり,著者らも,カナダのデータを除くと有意な過剰相対リスクは認められなかったとしていることを看過している。また,15か国核施設労働者におけるがん死リスクの調査結果について,統計的有意差がないことを理由にしてこのデータを無視しようとすることは妥当ではないと主張するが,統計的有意差がないにもかかわらず,リスクがあると積極的に評価できると判断した理由を一切述べていない。

 ウ そうすると,15か国核施設労働者におけるがん死リスクの調査結果をもって,100mSv以下の被ばくにより発がん又はがん死リスクが増加することが実証されているということはできない。

   (4) 自然放射線被ばくの疫学調査について

   ア Kendallらの論文
 原告らは,Kendallらの論文を引用して,自然放射線による低線量被ばくにおいて,LNTモデルが当てはまる旨を主張する。しかし,Kendallらの疫学調査は,国の既存の小児腫瘍登録と出生登録のデータを突合させて新たなデータを作って研究した症例対照研究であるにもかかわらず,本来,症例対照研究の最大の長所である,個々の対象者に接触して質問調査を行い,きめ細かなデータを集めることができるという点を活用できていない。すなわち,著者らも認めるとおり,被ばく推定値に不確実さが生じていることや,社会経済状態の尺度以外の交絡因子として考えられるものについての情報を持っておらず,そのようなデータ収集は一切行われていない。症例対照研究で対象者に接触しなければ,疾病に対するリスクと考えられる他の因子に関する様々な情報を集めることができず,結局看過してはならない交絡バイアスを見逃している可能性を排除することができないのであり,これらの事情からすれば,イギリス高線量地域における自然放射線被ばくと小児白血病に関するKendallらの論文をもって,自然放射線被ばくによって小児がんが増加したことが実証されたということはできない。

   イ Spycherらの論文
 原告らは,スイス国勢調査に基づく自然放射線被ばくと小児がんに関するSpycherらの論文について,1mSvの被ばくにより小児がんの発症リスクが増加することが実証されているなどと主張する。しかし,Spycherらの論文については,交絡因子の検討が十分でなかった可能性があることや,実際の子どもの居住地ではなく地理モデルで線量推定がされていたり,CT検査など医療被ばくの影響が全く考慮されていないなどの線量推定の不確かさがある。自然放射線という非常に低いレベルの被ばくと健康影響を疫学調査によって分析するためには,その分精緻な線量推定を行い,その上で,前述したような交絡因子に関する検討を十分に行うことが必要不可欠であるし,他にも,線量反応関係を評価する統計モデルの選択等様々な課題があるが,このような観点で前記論文を分析,評価していない。したがって,スイス国勢調査に基づく自然放射線被ばぐと小児がんに関するSpychdrらの論文をもって,1mSvの被ばくにより小児がんの発症リスクが増加することが実証されたということはできない。

   (5) 福島県県民健康調査の結果について

 ア 原告らは,福島県県民健康調査の結果からすれば,小児甲状腺がんの発症率が通常多くとも100万人に3人であるから,これと比較すると福島県の住民に対する先行調査の結果は明らかな甲状腺がんの多発であるなどと主張する。しかし,小児甲状腺がんの自然史は正に解明途上にあるのであって,崎山証人のような判断を下すのは明らかに早計である。

 イ また,原告らの依拠する崎山証人の証言及び意見書が引用する津田氏らの論文については,「検診の後の精密検査で見つかるような腫瘍は将来必ず治療が必要ながんにまで進展し病院を受診するようになる」,「集団の中で甲状腺がんを発病し後に発症するという事象は等間隔で起きる」とする2つの仮定は,いずれも現実的なものとは認めちれないというだけでなく,有病率と発生率との関係を示す疫学における一般式「P=ID」の使い方を明らかに誤っていることが指摘でき,UNSECARの最新のレポート(2016年白書)においても,誤りが指摘されている。

 ウ さらに,原告らは,鈴木眞一氏が福島県県民健康調査において,甲状腺がんが発見されたことについて,過剰診断ではないと述べていることにも言及するが,前記鈴木氏は,発見された甲状腺がんが,現時点では放射線の影響とは考えにくいと明確に述べていることからすれば,鈴木氏が,福島県県民健康調査で甲状腺がんが発見されたことについて放射線の影響である旨述べたということはできない。

 △ページトップへ

  4 被告国の定めた年間20mSvの基準の妥当性

   (ア) 避難指示の基準である年間20mSvの考え方

 ICRP2007年勧告においては,放射線防護の観点から,100mSv以下の低線量被ばくであっても被ばく線量に対して直線的にリスクが増加するという仮定に基づいて放射線防護措置を講じるとともに,原子力事故などにより生じた高度の汚染による健康影響を回避・低減するための緊急対策が必要となる不測の状況(緊急時被ばく状況)及び緊急事態下の状況が安定し,事故によって放出された放射性物質による長期的な被ばくについて適切な管理を実施すべき状況(現存被ばく状況)において,優先的に放射線防護措置を実施していく対象を特定するため,目安としての線量水準(「参考レベル」という。)を提唱している。そして,ICRP2007年勧告においては,緊急時被ばく状況では年20~100mSvの範囲で,各国政府が状況に応じて適切に参考レベルを設定することとされているが,この参考レベルは,放射線防護措置を効果的に進めていく(「最適化」する)ための目安であり,被ばくの限度を示したものではないし,また,「“安全”と“危険”の境界を表したり,あるいは個人の健康リスクに関連した段階的変化を反映するものではない」。また,参考レベルは,個人の生活面での要因等の経済的及び社会的要因を考慮して「被ばくの発生確率,被ばくする人の数,及び個人線量の大きさのいずれをも合理的に達成できる限り低く抑える」ことにより,追加被ばく線量を低減するための目安として用いるとされている。
 被告国は,住民の安心を最優先し,本件事故直後の緊急時被ばく状況においては,原子力安全委員会がICRP勧告の緊急時被ばく状況の参考レベルである20~100mSvのうち最も厳しい値に相当する20mSvを適用することが適切であると判断したことを踏まえ,参考レベルとして採用した上で,20mSvの参考レベルを速やかに達成するため,年20mSvを超えると推計される地域について,放射線被ばくを確実に回避できる措置として避難を指示した。
 被告国が避難指示の基準とした年間20mSvという基準は,緊急時被ばく状況,すなわち,急を要する防護対策と,長期的な防護対策の履行を要求されるかもしれない不測の状況において,実際の実情に合わせて柔軟にかつ最適な防護対策を展開するに当たり決定された合理的な基準である。そして,この判断の合理性については,低線量被ばくWGの報告書によって確認されており,年間20mSvという基準が国際的な防護体系の考え方に沿ったものであることについては,UNSCEAR日本代表委員やICRP主委員会委員を歴任した佐々木証人の証言のとおりである。
 なお,本件事故直後の緊急時における避難指示に当たっては,速やかに避難を行うため,定点測定を中心とする空間線量の測定結果から推定された被ばく線量(定点測定による線量推定)に基づいて判断がなされた。より具体的には,放射能の自然減衰を考慮せず,個人の生活パターンを一つのパターン(8時間屋外,16時間木造家屋(屋内では放射線は40%に低減)に滞在)で代表させる等の安全サイドに立った推定により線量を評価して措置を講じた。ただし,この推定は,安全サイドに立ったものであり,実際に個人線量を測定すると,定点測定による線量推定結果を下回ることが多いとされている。

   (イ) 避難指示解除の基準である20mSvの考え方

 ICRP勧告では,「事故後の介入の中止を正当化するためのもっとも単純な根拠は,被ばくが介入を促した対策レベルにまで減少したことを確認することである。」とされている。一方,現存被ばく状況に移行した後は,年1~20m弱の範囲の下方部分から,各国政府が状況に応じて適切に参考レベルを設定し,個人に着目して,居住や労働を続けながら,個人線量を把握し,建物の浄化,土壌と植生の修復,畜産業の変更,環境と農産物のモニタリング,汚染されていない食品の提供,廃棄物の処理等による放射線リスクの適切な管理に加え,情報提供,ガイダンズ,健康サーベイランス,小児の教育などの総合的な対策によって放射線被ばくを低減することとされている。
 被告国は,避難指示の解除の際の線量の要件について,避難を指示した際の基準であった年20mSv以下となることが確実であることが確認された地域としている。これは,ICRPの前記勧告を踏まえたものであるとともに,低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書にあるように,年20mSvが,「他の発がん要因によるリスクと比べても十分低い水準である」上,「放射線防護の観点からは,生活圏を中心とした除染や食品の安全管理等の放射線防護措置を継続して実施すべきであり,これら放射線防護措置を通じて,十分にリスクを回避できる水準」であり,「今後より一層の線量低減を目指すに当たってのスタートラインとしては適切であると考えられる。」ということに基づいて判断されたものである。
 このように,被告国が年20mSvを避難指示解除の基準としたことの合理性は,それが前で述べたICRPの考え方を踏まえたものであるということのほか,これを含む国内外の知見の検討を広く公正に行った低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループの検討経過及びその取りまとめである前記報告書によって十分裏付けられている。

   (ウ) ICRP2007年勧告や低線量被ばくワーキンググループの示した見解は,現在においてもなお通用すること

 そして,前記報告書に現れた見解が,その後の科学的知見の進展を踏まえた現時点においてもなお合理性を有していることについては,佐々木氏ほか連名意見書において「この見解は現在でも正しく,有効である。」と指摘されている。
 この点,崎山証人は,2012年以降に発表された論文によって,ICRP2007年勧告や低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループで示された考えは,もはや通用しなくなった旨証言したが,崎山証人が述べた2012年以降に発表された各論文に対する崎山証人の評価が誤っていることは前記で述べたとおりである。


  5 まとめ

 被告国は,本件において,低線量であれば被ばくしても安全であるとか,健康上のリスクがないなどとは主張していない。原告らが被ばくによる不安感を被侵害利益として損害賠償請求をしているため,そのような不安感が損害賠償の対象となる損害と認められるためには主観的なものでは足りず,科学的,合理的根拠に基づいている必要があるところ,100mSv以下の低線量被ばくの健康影響のリスクが,仮にあるとしても他の要因による影響に隠れてしまうほど小さいということが国際的な合意内容であることに照らすと,原告らが抱いている不安感の大小いかんにかかわらず,その不安感は科学的,合理的根拠を欠く主観的なものである上,日常生活上の他のリスクと同程度ないしそれより小さいといわざるを得ないから,その不安感に関して損害賠償請求は認められないと主張しているにすぎない。
 これに対し,原告らは,崎山証人の証言や意見書等に依拠して,LNTモデルの仮説が近時の疫学研究により科学的に証明されるに至っており,どれだけ低線量であっても被ばくに健康被害のリスクがあるのであるから,線量限度である実効線量年1mSvを超える被ばくは容認できず,これを避けるための原告らの避難には合理性があると主張しているのであるから,本件において審理すべきは,低線量被ばくによる健康影響の有無や程度について,本件事故前後の国内外の専門的知見を踏まえて検討した結果として,どこまでが,客観的,科学的に証明された事実として認められているかという点にあることは明らかであって,専門家に求められるのは,その科学的事実の形成過程や現状における科学の到達点をありのままに示すことである。
 しかしながら,これまで述べてきたとおり,崎山証人には,現時点における、国内外の専門的知見を踏まえ,放射線被ばくと健康影響について,客観的,科学的にどこまでが事実として認められているかという点を客観的かつ公正・正確に証言するに足りる専門性がないのは明らかである。崎山証人は,結局のところ,放射線被ばくの影響の有無,程度は解明しきれていないから,どれだけ低線量であってもリスクがあるとみなすべきで,被ばく線量がどれだけ低くても避難に合理性はあるということを単に自己の主観的な意見として述べているにすぎないのであり,それはもはや科学的,合理的根拠を伴わない独自の主義・主張というほかない。
 なお,被告国は,各原告の避難元の空間線量率について,原告らの線量一覧表の主張に対して,別紙線量一覧表(国)のとおり主張する。

 △ページトップへ

原発賠償訴訟・京都原告団を支援する会
  〒612-0066 京都市伏見区桃山羽柴長吉中町55-1 コーポ桃山105号 市民測定所内
   Tel:090-1907-9210(上野)  Fax:0774-21-1798
   E-mail:shien_kyoto@yahoo.co.jp  Blog:http://shienkyoto.exblog.jp/
Copyright (C) 2017 原発賠償訴訟・京都原告団を支援する会 All Rights Reserved. すべてのコンテンツの無断使用・転載を禁じます。