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★ 最終準備書面(責任論)
 第6 シビアアクシデント対策 2 結果回避可能性 3 国の規制権限不行使 
平成29年9月22日

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第6 シビアアクシデント対策
 1 予見可能性
 2 結果回避可能性
 3 国の規制権限不行使



第6 シビアアクシデント対策


 2 結果回避可能性

  (1)結果回避の方法(準備書面第10

  ア 結果回避措置の骨子

 原告が主張するシビアアクシデント対策の不作為の過失の予見対象となる起因事象は「全交流電源喪失」および「崩壊熱除去系」(の損傷)であり,そこから導かれる回避措置は直流電源,交流電源の復旧,及び,崩壊熱除去系の復旧である。
 SBO(外部電源喪失+非常用ディーゼル発電機の停止)が生じた場合でも,「直流電源」「交流電源の復旧」及び「崩壊熱除去系」が機能すれば,安全停止することが可能であった(甲A7の3頁「赤矢印」が示すシナリオ)。

  イ 電源対策

  (ア)本件事故後に整備された対策

 平成24年3月14日,原子力安全委員会(平成24年9月に原子力規制委員会に移行)原子炉安全基準・指針専門部会安全設計審査指針等検討小委員会は,SBOに関する検討報告書「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針及び関連指針類に反映させるべき事項について(とりまとめ)」を公表した。
 同報告書が指摘するSBO対策は,福島第一原発事故を踏まえたものであり,同様の対策が事故前になされていれば福島第一原発事故を回避できたものである(甲C40-7:発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針及び関連の指針類に反映させるべき事項について(とりまとめ))。
 同報告書は,「今後のSBO対策の基本的な考え方」として「SBOが発生した際には,原子炉を安全に停止し,停止後の冷却を確保し,かつ,復旧できること。」(同5頁)を挙げ,以上の「考え方」を具体化するものとして下記要求事項を挙げる。
  1.  長時間のSBOの想定ならびに代替交流電源の設置
     長時間のSBOを想定し,このときに原子炉施設が基本的「考え方」を満足する設計であること。また,このための方策として代替交流電源を設置すること。
  2.  原子炉施設の設計上の想定を超える事象に対する代替交流電源の性能
     代替交流電源は,既設の非常用所内電源設備に対して配置等による高い独立性を有するよう配置し,想定を超える外部事象や内部事象に対して一定の頑健性を有するものであること。
 上記原子力安全員会の報告を踏まえ,原子力規制委員会発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チームは電源確保対策をまとめた。
 同チームは,「基本的要求事項」として,「電源喪失を伴う事故が発生した場合,炉心の著しい損傷を防止し,格納容器の破損を防止し,使用済燃料貯蔵プールの燃料の損傷を防止し,及び原子炉停止中に燃料の損傷を防止するために必要となる電力を確保する設備,手順等を整備すること。」を挙げた。また,それを具体化したものとして,24時間供給可能な恒設の直流電源の備蓄をおこなうこと(バッテリー対策),さらに(事故後)24時間以内に可搬式代替電源を供給できるように要求している。また,配電盤(MCC,P/C,MC)に対し,共通原因故障対策を要求している(甲C41-28,29)。

  (イ)被告東電の事故後の電源対策
 被告東電は,再稼働を申請した柏崎刈羽原発において,SBOに備え以下の電源対策を行うものとしている(甲A6添付資料3-1,161乃至166)。
  1.  全電源喪失時の冷却系の維持のための,可搬式蓄電池,代替ポンプ,予備ボンベの配備,既設蓄電池の容量増加
  2.  電源設備の代替手段の確保のための可搬式電源(電源車,電源設備の高所化,蓄電池強化)の設置
 これらはいずれも,平成14年段階で実施可能な対策である。

  ウ 崩壊熱除去系とは(甲A2:政府事故調中間報告12~13)

  (ア)崩壊熱除去系
 炉心に制御棒を挿入して原子炉を停止させた場合においても,燃料棒内に残存する多量の放射性物質の崩壊により発熱が続く。これを崩壊熱(decay heat)又は残留熱(residual heat)という。従って,原子炉停止後も,燃料の破損を防止するために炉心の冷却を続ける必要がある。そこで,原子炉施設には通常の給水系の他に様々な注水系が備えられている。かかる注水系は,原子炉で発生する蒸気を駆動源とするタービン駆動ポンプ又は電動ポンプにより,原子炉へ注水する。
 福島第一原発の各号機に設置されている原子炉冷却機能を有する主な設備は, 以下のとおりである。
① 1号機
 1号機には,原子炉冷却機能を有する主な設備として,炉心スプレイ系(CS)2系統,非常用復水器(IC)2系統,高圧注水系(HPCI)1系統,原子炉停止時冷却系(SHC)1系統及び格納容器冷却系(CCS)2系統が設置されている。
 「CS」とは,何らかの原因により冷却材喪失事故によって炉心が露出した場合に,燃料の過熱による燃料及び被覆管の破損を防ぐために,圧力抑制室(S/C) 内の水を水源として,炉心上に取り付けられたノズルから燃料にスプレイすることによって,炉心を冷却する設備である。
 「IC」とは,主蒸気管が破断するなどして主復水器が利用できない場合に,圧力容器内の蒸気を非常用の復水器タンクにより水へ凝縮させ,その水を炉内に戻すことによって,ポンプを用いずに炉心を冷却する設備である。最終的な熱の逃し先は大気である。
 「HPCI」とは,配管破断等を原因として冷却材喪失事故が発生したような場合に,圧力容器から発生する蒸気の一部を用いるタービン駆動ポンプにより,復水貯蔵タンク又はS/C内の水を水源として,圧力容器内へ注水することによって炉心を冷却する設備である。
 「SHC」とは,原子炉停止後,炉心の崩壊熱並びに圧力容器及び冷却材中の保有熱を除去して,原子炉を冷却する設備である。
 「CCS」とは,冷却喪失事故が発生した際に,S/C内の水を水源として,格納容器内にスプレイすることによって,格納容器を冷却する設備である。
② 2号機から5号機
 2号機乃至5号機には,原子炉冷却機能を有する主な設備として,前記CS2系統及びHPCI1系統のほか,原子炉隔離時冷却系(RCIC)1系統及び残留熱除去系(RHR)2系統が設置されている。
 「RCIC」とは,原子炉停止後に何らかの原因で給水系が停止した場合等に,圧力容器から発生する蒸気の一部を用いるタービン駆動ポンプにより,復水貯蔵タンク又はS/C内の水を水源として,蒸気として失われた冷却材を原子炉に補給し,炉心を冷却する設備である。
 「RHR」とは,原子炉停止時の残留熱の除去を目的とするもので,弁の切替操作により使用モードを変え,「SHC」,低圧注水系(LPCI)及びCCSとして利用できるようになっている。
 崩壊熱除去系は,以上の冷却系のうち,原子炉停止時の残留熱の除去を目的とする「SHC」(原子炉停止時冷却系:1号機)及び「RHR」(残留熱除去系:2乃至3号機)をいう。これらは,原子炉停止時の崩壊熱を,海水との熱交換によって海に排出する仕組みである。これらが機能することにより,冷温停止が実現する。
 したがって,原子炉停止後崩壊熱を除去し冷温停止させるためには,崩壊熱除去系設備が維持され,熱を海に排出するまでの設備が機能しなくてはならない。海への熱排出の仕組みを「最終ヒートシンク」という。
  (イ)福島第一原発事故における崩壊熱除去系の損傷
 崩壊熱除去系は,海水ポンプによる水循環により熱交換を行い,熱を海水に放出する仕組みである。したがって,海水ポンプを作動させ続けるには,海水ポンプ自体の健全性と,ポンプを動かす電源が確保されていなければならない。福島第一原発事故では,海水ポンプが津波に被水し損傷し,また,電源も損傷した。
 他方,福島第二原発においても,3号機南側を除き,非常用海水ポンプは浸水(又は電源盤の浸水)のため機能を喪失した。しかし,外部電源1回線が損傷を免れたため,非常用海水ポンプの部品(モーター)交換と電源敷設により,残留熱除去運転に移行し,全機において冷温停止が実現した(甲A1-180-185:国会事故調)。
 以下,被告東電及び被告国による本件事故を踏まえた最終ヒートシンク対策について述べる。

  (ウ)新規制基準における崩壊熱除去系に対する要求事項
 前述の原子力規制委員会発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チームは,シビアアクシデント時における崩壊熱除去系の対策(最終ヒートシンク対策)をまとめた。同チームは「基本的要求事項」として,「最終的な熱の逃がし場へ熱を輸送する系統(UHSS)の機能が喪失した場合に,炉心の著しい損傷を防止し,あるいは炉心損傷前の段階での格納容器の破損を防止するため,当該機能を復旧,代替する等して最終的な熱の逃がし場へ熱を輸送する設備,手順等を整備すること。」とし,その詳細として,「重大事故防止設備の多重性又は多様性及び独立性を有し,かつ,位置的分散を図る」こと並びに「取水機能の喪失及び残留熱除去系(RHR)の使用が不可能な場合」についても対策を講ずることを要求事項としている(甲C41-18)。

  (エ)事故後の被告東電の対策
 被告東電は,柏崎刈谷原発における最終ヒートシンク対策(下図「原子炉循環冷却」)として,非常用海水ポンプに対して,可搬設備である,海水ポンプ予備モータ,代替水中ポンプ,及び,代替熱交換器を準備して,崩壊熱除去系損傷時にも対応することとした(甲A6 添付資料3-1)。
 これらは,いずれも事故前に設置することが容易かつ可能な施設である(甲A6-118以下参照)。

  エ 小括
 被告東電は,予め以上の回避措置すなわち「電源対策」及び「崩壊熱除去系対策(最終ヒートシンク対策)」を講ずることにより,SBOに至っても本件事故を回避することが可能であった。
 また,福島第二原発,福島第一原発5,6号機は,海水ポンプが損傷したにもかかわらず,「外部電源」又は「非常用ディーゼル発電機及び高圧配電盤」が損傷を免れたため,号機間で電源融通を行い,仮設ポンプを敷設すること等により冷却系を維持し炉心損傷を免れた。以上を参考にすれば,「電源対策」が適切に行われてさえいれば,ポンプ修復等の現場対応により崩壊熱除去系を維持し,炉心損傷を免れる可能性があった。

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  (2)失敗学会報告書に基づく回避措置

 「福島原発における津波対策研究会・報告書」(甲A16,甲B86[57]以下「最終報告書」という)は,失敗学会(原告ら準備書面(23)第3の1参照)が2015年4月と6月に開催した「福島原発における津波対策研究会」の結果をまとめたものである。
 最終報告書は,①「全交流電源の喪失」,「直流電源の喪失」,及び「最終排熱系の破損」状態からの,②2~3年で準備できる復旧方法を検討し,炉心溶融を回避する措置を結論づけたものである。したがって,これら回避措置は,原告らが主張する津波対策[58]及びSA対策に共通する回避措置である。失敗学会の検証した対策は安全審査を不要とするものであり,1~2年で実施可能である。また,巨大な防潮堤の建設等と比して,冷却機能を保持する最低限の対策を講ずる場合,難易度も費用もより現実的な範囲で十分実施できる(甲A2-449)。
 実際に,被告東電は,平成25年3月29日に「福島原子力事故の総括および原子力安全改革プラン」(タスクフォース)を発表し,当該方針にもとづいて福島第一原発,柏崎刈谷原発,福島第二原発では,可搬式配電盤,バッテリー,高圧電源車の設置などの対策をすでに実現している。この対策の詳細は原告ら第7準備書面18頁以下で詳細に述べた通りである。
 したがって,失敗学会の検証する「予め必要な準備」は,実現可能なものであり,現に事故後に実現されているものである(当該準備を平成14年段階でできたことについては,第7準備書面で述べた通りである)。
 よって,これらの対策・準備によって炉心溶融という結果を回避する可能性があったにもかかわらず,これらの準備・対策を行わなかった被告東電には,結果回避義務違反が認められる。

[57] 甲B86は甲A17に「マイナーな補足を加えたもの」(甲B87)である。

[58] 原告ら準備書面(7)で検討した再発防止策は,コンクリート防波堤を作る等,抜本的な設計の見直し,工事を要するものも多く含まれていた。しかしながら,本書面は,このような抜本的な工事を行わなくても,その他の事前準備と訓練により,福島原発事故は回避することが可能であったことを主張するものである。


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 3 国の規制権限不行使

  (1)規制権限(法令)

 福島第一原発事故以前にはSA対策を規定する省令は存在しなかった。しかし,被告国は,電気事業者に対し,SA対策を義務づける省令を制定すること,又は,行政指導を行うことで事故を回避することが可能であった。
 以下,SA対策に関する被告国の規制権限不行使の違法について述べる。

  (2)省令制定権限の不行使

  ア 省令制定権限不行使

 電気事業法は,「電気工作物の工事,維持及び運用を規制することによって,公共の安全を確保し,及び環境の保全を図ること」を目的として(1条),「事業用電気工作物を主務省令で定める技術基準に適合するように維持しなければなら」ず(39条1項),その主務省令において,「事業用電気工作物は,人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること」とされている(39条2項1号)。
 これを受け,通産省令により,発電用水力設備,発電用火力設備,電気設備,発電用原子力設備等に関する技術基準及び発電用原子力設備に関する放射線による線量当量等の技術基準が定められている。すなわち,電気事業法による細かな技術的規制内容は,包括的,網羅的に省令に委任されている。
 このように電気事業法が,事業用電気工作物の維持のために電気事業者が講ずるべき措置の内容を省令に包括的,網羅的に委任した趣旨は,当該措置の内容が,多岐にわたる専門的,技術的事項であること,また,その内容を出来うる限り速やかに,技術の進歩や最新の技術的知見に適合したものに改正していくためには,これを主務大臣に委ねるのが適当とされことによるものである。
 上記の通り,法の趣旨及び規定の趣旨に鑑みると,電気事業法の主務大臣たる経済産業大臣の電気事業法に基づく規制権限は,公共の安全を確保し,及び環境の保全を図ることを目的として,できる限り速やかに,技術の進歩や最新の技術的知見に適合したものに改正すべく,適時にかつ適切に行使されるべきものである(最高裁平成13年(受)第1760号同16年4月27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032頁。最高裁平成26年(受)第771号同26年10月9日第一小法廷判決・裁時1613号2頁)。
 なお,最新の技術的知見には,設備に影響を与えうる地震,津波等の外的要因に関する科学的知見やSA等の規制手法に関する知見をも含むと解するべきである)
 したがって,適時かつ適切に省令を改正しない場合,電気事業法の趣旨,目的やその権限の性質等に照らし,著しく合理性を欠くものであって,国家賠償法1条1項の適用上違法となるものである。

  イ シビアアクシデント対策に関する状況
 原告ら準備書面(8)で指摘した通り,昭和54年3月28日の米国スリーマイル島2号機事故及び昭和60年4月26日の旧ソ連チェルノブイリ4号機事故を契機としてシビアアクシデント対策の必要性が広く認識された。
 これらの事故を受けて,米国では,原子炉に関する確率的安全評価(PSA)を検討し,昭和62年2月,その成果を「NUREG-1150」(初版)と題する報告書にして公表した。同報告書においては,外的事象に起因する炉心損傷は,内的事象に比べて決して小さくないことが指摘されていた。
 原安委は,昭和62年7月,原子炉安全基準部会に共通問題懇談会を設置した。同懇談会では,シビアアクシデントに対する検討を行っており,NUREG-1150も,その検討対象とされていた。
 その後も,平成11年12月にはフランスのルブレイエ原発で洪水を原因とするSBO事故が,また,平成13年3月には,台湾の第三(馬鞍山)原発でも霧害を原因とするSBO事故が発生し,現実の問題としてシビアアクシデント対策の重要性が再認識された。
 さらに平成13年9月には米国で航空機テロが発生し,翌14年2月には,暫定補償措置命令(いわゆるB.5.b項)が出されたが,その内容が日本国内でも実施されていれば,本件事故の発生を防止し得たと評価されている。
 この間,日本国内では内的事象についてのみ行政指導により事業者に対策を求めたが,通産省課長通知「発電用軽水型原子力発電施設におけるアクシデントマネジメントの整備について」が平成8年9月に発出されてから事業者が「アクシデントマネジメント整備報告書」を提出するに至ったのは,ようやく平成14年5月のことであった。また,被告東電を含む電気事業者は,この間,外的事象によるシビアアクシデントの検討の必要性を認識しながらも,実際には対策を怠っていた。

  ウ IAEA安全基準及びIAEAの指摘

  (ア)IAEA安全基準とは

 国際原子力機関(IAEA)は,原子力施設及び活動の安全に関する共通の基盤を加盟国に提供することを目的として,国際的合意を得た調和のとれた安全基準を整備し,「IAEA安全基準シリーズ」として発行している。

  (イ)IAEA安全基準は国際的慣行である
 IAEA安全基準は,法的拘束力を有するものではないが,その一方で,「加盟各国がその活動に応じてそれぞれの判断により,国の規制に取り入れるもの」であり,「IAEA自身の活動及びIAEAによって支援された活動については,安全基準の適用が義務付けられている」(甲C63「No.NS-R-1」iii頁)。また,以下の理由により,加盟各国の原子力安全規制 の妥当性評価の一つの指標と見なされる。
 ①WTO/TBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)は,規格を制定する際に,原則として「関連する国際規格に準拠すること,規格及び適合性評価手続きを内外無差別かつ最恵国待遇で他の締約国の産品に適用すること,及び,規格及び適合性評価手続きの透明性を確保すること」等が規定されている。ここでいう国際規格とは,IAEA安全基準であり,日本においても原子力規制にかかる法令等の制定,改訂時には参照する必要がある。(甲C64-6-3頁,同1-1頁:「平成21年度 原子力施設の国際安全基準に係る調査に関する報告書」,甲C65-1:「IAEA安全基準の位置付け及び構成」)
 ②原子力の安全に関する条約[59](甲C66)は,日本を含む60カ国をこえる条約締結国の安全確保状況の妥当性確認のベースとして安全基準シリーズを準用する(甲C64-1-1)。
 したがって,IAEA安全基準の適用は「国際的慣行」であり,かつ,加盟国である日本は当該基準の国内法適用を要請されていた。

[59]平成八年十月十八日政令第十一号 発効日:H08.10.24(H08.10.18 外務省告示 513)

  (ウ)IAEA安全基準シリーズ

   a NS-R-1:「原子力発電所の安全:設計」

 2000(平成12)年公開の安全要件NS-R-1:「原子力発電所の安全:設計」は,5層の深層防護概念を前提に,所外に起因する事象(外的事象)を含む防護策の具備を加盟国に要請した(甲C63-5)。そして,設計基準事故を越える事象(深層防護第4層)に対し,「工学的判断と確率論的手法の組み合わせを用いて,合理的で実効可能な発生防止策及び影響緩和策を特定するため事象推移を決定しなければならない」「確率論的手法,決定論的手法及び適切な工学的判断を組み合わせて,シビアアクシデントに至る重要な事象推移を同定しなければならない」とする。これは,原告の主張する,確率論的評価,事故シーケンスの同定を指すものである。
 また,「選定された事象の発生頻度を減らすか,または,起きた場合の影響を緩和できる可能性のある設計変更や手順について評価し,合理的に実行可能であれば実施しなければならない」として,事故発生防止のための対策を義務付けている。
確率論的手法の説明においては,「外的危険事象,特に発電所の敷地に特有なものの発生確率及び影響を評価する」こと,「シビアアクシデントの発生確率を低減できるか,または,その影響を緩和できる設計改善又は運転手順の変更が可能な系統を明らかにする」こと等を目的として「発電所の確率論的安全解析が実施されなければならない」としている(甲C63-27,28)。
 更に,発電所に対する外部事象の例等については,安全シリーズNo.50-C-Sに委ねられている(甲C63-51 附属書I-12)。安全シリーズNo.50-C-Sは,安全要件NS-R-3「原子炉等施設の立地評価」(甲C68-1:2003(平成15)年刊行)によってブラッシュアップされた。
 
   b NS-R-3:「原子炉等施設の立地評価」
 NS-R-3:「原子炉等施設の立地評価」(甲C68:2003(平成15)年刊行 安全要件 2010年11月JNESが翻訳)は,外部事象として,「地震に起因する水波」すなわち津波を挙げ,「有史以前及び歴史上のデータの収集」して確率論的安全評価を行うことを要請している。

 (以下,甲C68-7頁,13頁)
 2.18 主要な外部現象に関連する危険性を決定するために適切な手法を採用しなければならない。これらの手法は,最新のもので,当該地域の特徴に合致したものであるという点から正当化されなければならない。適用可能な確率論的手法については特別な考慮が払われるべきである。外部事象に対する確率論的安全評価を行う際には,一般に,確率論的ハザード曲線が必要となることに注意すべきである。

地震もしくはその他の地質学上の現象に起因する水波
 3.24 立地地点の原子炉等施設の安全に影響を及ぼすような津波や水面振動の可能性を決定するために,当該地域の評価を行わなければならない。


 3.25 可能性があるとわかった場合は,立地地点周辺の海岸領域に影響を与える津波あるいは水面振動に関連した有史以前及び歴史上のデータを収集し,立地地点の評価への関連性とその信頼性に関して注意深く評価しなければならない。

 3.2 当該地域に対する入手可能な有史以前及び歴史上のデータに基づくとともに,これらの現象に関してよく調査されてきた類似の地域と比較することにより,地域的な津波や水面振動の発生頻度,大きさ及び高さを算定し,また立地地点での海岸構造によるいかなる増幅をも考慮した津波や静振に関する危険性を決定するのに利用しなければならない。
   c NS-G2.15:「原子力発電所のシビアアクシデントマネジメント計画」
 さらに,IAEAは2009(平成21)年に,NS-G2.15:「原子力発電所のシビアアクシデントマネジメント計画」(安全指針甲C16)を作成し,洪水を含む外部事象設計基準を越える事故のPSA評価を推奨した。さらに,「外部事象により提起される具体的な脅威」として,「電源喪失,制御室や電源開閉装置室の喪失」を挙げている。被告国は同基準の作成に関与しており,2005(平成17)年に同基準の草案を知り得た(原告準備書面(8) 第3,2(2)参照)。

   d 被告国の主張
 被告国は,佐竹健治氏の発言を根拠として,津波に関する国際慣行の不存在を主張しているが(丙B62の2,41頁),そもそも佐竹氏は地震乃至地震予知に関する専門家であっても,原子力行政,原子力規制の専門家ではないため,この部分に関する信用性は低い。
 実際に,上記の通り平成15年には津波に関するIAEA安全基準シリーズが公刊されているのであり,佐竹教授は単にこの基準を知らなかっただけであると考えられる(翻訳は2010年である)。

  (エ)平成19(2007)年,IAEAの総合的規制評価サービス(IRRS)報告
 平成19(2007)年,IAEAの総合的規制評価サービス(IRRS)報告は,日本のシビアアクシデント規制について,「設計基準を超える場合の考慮については,法的な規制は存在しない。」「原子力安全・保安院は,リスク低減のための評価プロセスにおいて設計基準事象を超える事故の考慮,補完的な確率論的安全評価の利用及びシビアアクシデントマネジメントに関する体系的なアプローチを継続すべきである。」と指摘し,日本政府に対しシビアアクシデント対策の法規制化を促していた(甲C42-21,23:日本に対する総合原子力安全規制評価サービス(IRRS))。これを受けて,保安院基本政策小委員会報告書は「規制制度の中の位置づけや法令上の取り扱い等について検討することが適当である」と報告した。
 また,事故後に公刊されたIAEAの福島第一原発事故の原因及び被害の分析の最終報告書「福島第一原子力発電所事故事務局長報告書」(甲A15,以下,「IAEA報告書」という)は61頁以下において,日本の主要分野の規制と指針の一部が,事故当時の国際的慣行に一致していなかったことを指摘する。その中で,最も顕著な相違は,定期安全レビュー,ハザードの再評価,シビアアクシデントマネジメント及び安全文化に関連する規制である。定期安全レビューは,許認可取得者と規制当局が新しい情報と現行の基準及び技術に照らして,設計と外部ハザードを再検討する公式メカニズムである。IAEA報告書は,日本では,2003(平成15)年より,10年間隔の定期安全レビューが要求されたが,対象範囲が限られており,また外部ハザードの再検討を要求していなかったことから「国際的慣行と完全に一致するものではない」と指摘している(原告準備書面(23)にて詳述)。
 被告国は,「福島第一原子力発電所事故事務局長報告書」が日本の法規制が「国際的慣行」と一致していないとする指摘に対して,反論している。しかしながら,被告国の機関である,原子力安全保安院は,事故後の事故調査報告書「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見について」(甲A7)において,アクシデントマネジメント策に関し「規制機関として安全確保に取り組む上で反省すべき点」と題する項目において,以下の通り述べている。
 確率論的安全評価(PSA)においても,我が国は取組が遅れていると言わざるを得ない。原子炉施設に残るリスク(残余のリスク)を直視し,そのリスク低減のための効果的な安全対策の立案にPSAを活用する必要がある。」(甲A7-49頁)
 (「国際的整合性の向上」という小項目において)「上述のとおり,シビアアクシデント対策を中心として,日本の原子力安全規制は,海外と比べて遅れていたと言わざるを得ない。IAEAの基本安全原則,安全基準及び海外の安全規制を参考にし,国際的な整合性を高めて行かなければならない。」(甲A7-51頁)
と述べ,国際的な整合性を問題視しているのであって,被告国の主張は矛盾している。

  エ 省令制定権限の不行使が違法となる時期(準備書面25)

  (ア)IAEA安全基準等の成立時期
 原告らが準備書面(25)で詳述した,IAEA基準等の成立時期を整理すれば以下のとおりとなる。

①2000(平成12)年 外部事象に対する確率論的評価を含むSA対策を規制要件化すべき根拠となるIAEA基準が公刊(GS-R-1,NS-R-1,2)
②2003(平成15)年 NS-R-3公刊
10月 日本国内において10年間隔の定期安全レビューが法制化される(甲A2-426)
③2007(平成19)年 IRRSレビューが被告国に対し,外部事象に対する確率論的評価の規制要件化を助言
④2009(平成21)年 NS-G2.15公刊(国は,2005年同基準の草案を知り得た)

  (イ)省令制定権限の不行使が違法となる時期
 以上より,外部事象に対する確率論的評価を含むSA対策を規制要件化すべき根拠となるIAEA安全基準が公刊されていた平成12年,もしくは,(遅くとも)日本においてNS-R-3,定期安全レビューが法制化された平成15年には,被告国は外部事象の確率論的評価を含むシビアアクシデント対策を規制要件とする省令を制定すべきであったのであり,この時期以降の不作為は違法状態と評価できる。
 なお,本件原発事故後,平成24年9月19日,原子力規制員会設置法に基づき原子力規制委員会が環境省の外局として設置された。
そして,原子力規制委員会は,平成25年6月19日,実用発電用原子炉及びその附属施設の技術基準に関する規則(以下,「原子力規制委員会規則第6号」という。)を策定し,いわゆる新規制基準を設けシビアアクシデント対策を要求している(甲B27,甲B28)。原子力規制委員会は発足後わずか9か月間で規則を制定しているのであり,被告国が早急に着手すれば同程度で省令改正が可能であったといえる。

  オ 小括
 以上の通り,被告国は,平成14年以降,シビアアクシデント対策として内的事象のみならず,地震,津波等の外的事象の対策も必要であることを認識していた。また,IAEAから国際的慣行からの遅れを指摘されていた。
 したがって,被告国は,速やかに,電気事業法に基づく省令制定権限を適時かつ適切に行使し,事業者に対し,発電用原子力設備について外的事象も含めてシビアアクシデント対策を行うよう義務づけを行なうべきであった。

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  (3)行政指導権限の不行使の違法

  ア 被告国の行政指導権限

 前述のとおり,電気事業法は,「電気工作物の工事,維持及び運用を規制することによって,公共の安全を確保し,及び環境の保全を図ること」を目的として(1条),「事業用電気工作物を主務省令で定める技術基準に適合するように維持しなければなら」ず(39条1項),その主務省令において,「事業用電気工作物は,人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること」(39条2項1号)とされている。
 被告国は,同条に基づき,事業用電気工作物が「人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにする」ために,政令を制定し電気事業者を規制する権限を有していたのであるから,同条に基づき行政指導を行う権限をも当然に有していた。
 そして,電気事業法39条1項に基づく行政指導権限は,人体に対する危害及び物件に対する損傷を防止することを主要な目的として,できる限り速やかに,事業用電気工作物が技術の進歩や最新の技術的知見等に適合するよう,適時にかつ適切に行使されるべきものであった。

  イ 原子炉施設に対しては規制的行政指導がなされていたこと
 被告国は,行政指導の法形式で原子炉施設の規制を行ってきた[60]。以下,実例を挙げる。

[60] 被告国提出の山口彰氏の意見書も規制当局がシビアアクシデント対策に関する行政指導を行い,電気事業者がこれに応じて対策を行ってきたことを自認する(丙C15-13,14頁)。

  (ア)耐震性の規制
 ①平成4年の耐震バックチェック(甲A1国会事故調添付資料7頁)
 平成4(1992)年5月18日,通商産業省資源エネルギー庁公益事業部(当時)は,電気事業連合会原子力部長宛てに,「耐震設計審査指針適用以前の原子力発電所に係る耐震安全性のチェック〈バックチェック〉結果の報告について」と題する文書を発出した[61]
 当該文書は,「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(昭和56(1981)年7月原子力安全委員会決定)適用以前の原発について,関係電気事業者に対し,平成4(1992)年度末までに「バックチェック報告書」の提出を求めるものである。そして,報告書には「1.耐震重要度分類の新旧比較,2.基準地震動の新旧比較,3.地震応答解析結果の新旧比較,4.床応答スペクトルの新旧比較,5.建屋のバックチェック結果,6.機器・配管類のバックチェック結果,7.屋外構築物のバックチェック結果,8.動的機器のバックチェック結果」を盛り込むことを求め,「耐震設計審査指針適用以前の原子力発電所に係る耐震安全性のチェック(バックチェック)結果の報告に係る具体的評価方法等の考え方について」を添付している。
 これに対して東電は,平成6(1994)年3月に,「福島第一原子力発電所第1(乃至6)号機耐震性評価結果報告書」を提出した。
 以上の「バックチェック」とは,行政指導のことである。すなわち規制庁は,電気事業者に対し,行政指導の法形式にて,耐震安全設計審査指針適用以前の既存原子炉を対象とする耐震安全性の報告を要請し,電気事業者は積極的に従ったということである。
[61] 甲A1-7国会事故調参考資料によれば「この文書は,原子力発電安全企画審査課長と原子力発電安全管理課長の名前で出されており,押印も両名の私印であり,規制当局としての正式のものではない」ものとされる。
 ②平成18年の耐震バックチェック
 平成18年9月19日,原子力安全委員会は耐震設計審査指針等の耐震安全性に係る安全審査指針類を改訂した。原子力安全・保安院はこれを受けて,翌9月20日,「新耐震指針に照らした既設発電用原子炉施設等の耐震安全性の評価及び確認に当たっての基本的な考え方並びに評価手法及び確認基準について」と題する文書により,各電力会社等に対して,稼働中及び建設中の発電用原子炉施設等について耐震バックチェックの実施とそのための実施計画の作成を求めた(甲A2-388 政府事故調中間報告 甲A1-515国会事故調)。これも,被告国が,行政指導により,電気事業者に対し平成18年改正後の指針に基づく耐震安全性の評価を命じたものである(被告国第18準備書面は同旨を述べる)。
 これに対し,平成18年10月18日,被告東電は,上記行政指導に応じて,保安院宛に耐震安全性評価実施計画書を提出した。同日付けの被告東電のプレスリリースには「当社は,平成18年9月19日付けで「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(以下「新耐震指針」という)が改訂されたことに伴い,9月20日に経済産業省原子力安全・保安院より既設プラントの耐震安全性評価の実施に関する指示を受けました。本日,この指示に基づき,同院に耐震安全性評価実施計画書を提出いたしましたのでお知らせいたします。今後,実施計画書に基づき,新耐震指針に照らした耐震安全性評価を計画的に実施していくとともに,必要に応じて適切な措置を講じてまいります。」(甲A11:被告東電プレスリリース)との記載があり,積極的に被告国の行政指導に従い詳細な報告書を提出したことがわかる(甲A12:報告書概要)。
  (イ)「残余のリスク」(設計基準外事象)に対する規制
 被告国は,前述の通り平成18年9月19日付「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」において基本設計の段階のみならずそれ以降の段階も含めて,「残余のリスク」を「実行可能な限り小さくするための努力」を払うことを指示した。同指針は,「残余のリスク」を「策定された地震動を上回る地震動の影響が施設に及ぶことにより,施設に重大な損傷事象が発生すること,施設から大量の放射性物質が放散される事象が発生すること,あるいはそれらの結果として周辺公衆に対して放射線被ばくによる災害を及ぼすことのリスク」と定義している。いいかえれば,「残余のリスク」とは,地震における設計基準外事象(基準地震動を上回る地震)をさすものである(甲A13-2)。
 また,原子力安全委員会は,同日公表した「『発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針』等の耐震安全性に係る安全審査指針類の改訂等について」と題する文書(甲A14-2:18安委第59号平成18年9月19日原子力安全委員会決定)において,「当委員会としては,「残余のリスク」について定量的な評価を実施することは,将来の確率論的安全評価の安全規制への本格的導入の検討に活用する観点からも意義のあることと考え,安全審査とは別に,行政庁において,「残余のリスク」に関する定量的な評価を実施することを当該原子炉設置者に求め,その結果を確認することが重要と考える。なお,これらの評価の実施に際しては,確率論的安全評価(PSA)に代表される最新の知見に基づいた評価手法を積極的に取り入れていくことが望ましいと考える。と述べ,電気事業者に対し「残余のリスク」の定量的な評価のために確率論的安全評価の実施を要請した。
 これに対し,被告東電も,保安院からの指示に従い,残余のリスクを定量的に評価する旨プレスリリースにて報告している(甲A11,12)。
 以上のとおり,保安院が,電気事業者らに対し,でシビアアクシデント対策に関する行政指導を行い,被告東電はこれに積極的に従っていた。

  (ウ)規制的行政指導による運転の停止
 平成19年(2007年)7月に新潟県中越沖地震により,柏崎刈羽原発は全面停止したが,経済産業省は耐震バックチェックで安全性が確認できるまで,原子炉の運転を再開しないよう指示を出した(甲A2-397,乙B3-1 13頁)。これは,被告国が規制的行政指導により運転を停止させた例であるといえる。

  (エ)AM対策に対する規制
 原告準備書面(8)25頁以下で述べたとおり,福島第一事故以前,被告国は,日本のシビアアクシデント対策(アクシデントマネジメント)について,法規制ではなく行政指導により電気事業者に対策を促した。

[原告準備書面(8)より]【図省略】

 また,前述の通り,平成18年1月,原子力安全・保安院主催の溢水勉強会において,平成18年5月~6月を目処とした津波PSAの実施を提示されたところ,被告東電はこれに応じて平成18年5月に,津波ハザード解析を行っている。これは,行政指導により電気事業者に報告をさせたと評価できる。
 平成19(2007)年,IAEAの総合的規制評価サービス(IRRS)報告は,日本のシビアアクシデント規制について,「設計基準を超える場合の考慮については,法的な規制は存在しない。」「原子力安全・保安院は,リスク低減のための評価プロセスにおいて設計基準事象を超える事故の考慮,補完的な確率論的安全評価の利用及びシビアアクシデントマネジメントに関する体系的なアプローチを継続すべきである。」と指摘し,日本政府に対しシビアアクシデント対策の法規制化を促していた(甲C42-21,23:日本に対する総合原子力安全規制評価サービス(IRRS))。これを受けて,保安院基本政策小委員会報告書は「規制制度の中の位置づけや法令上の取り扱い等について検討することが適当である」と報告した。また,原子力安全委員会班目春樹委員長は,SA対策の規制化を表明し,平成23(2011)年3月には,「AMに関する原安委決定(平成4(1992)年5月)」を廃止し,新たな決定を行う意向であった(甲A1-516,517,甲C43-1,2:「事故を経て原子力規制はどのようにかわったか」)。すなわち,本件事故時には,シビアアクシデント対策について,海外の機関からも国内機関からも法令により規制することが必要であると指摘されていたのである。すなわち,被告国は,本来法令により規制すべき事項を行政指導により規制してきたものである。

  ウ 小括
 以上のとおり,日本の原子力行政において規制庁は「行政指導」の法形式により,電気事業者に対し耐震安全性チェック及びAM対策を促してきた。これらは,通達等により発出され,その内容も詳細かつ厳密な規定に基づくものである。そして,電気事業者はこれら行政指導に積極的に応じてきた。本来これらは,バックフィットすなわち法令に基づき行われるべき重要な規制である。
 従って,日本の原子力行政は,事業者の任意の協力を超えた規制的行政指導により電気事業者に対する規制を行ってきたものと評価できるのであり,被告国には適時に適切な行政指導による規制を行うことが期待されていた。

  エ 本件事故を避けることのできた行政指導
 被告国は電気事業者に対し,電源対策・最終ヒートシンク(崩壊熱除去系)の整備を行うよう行政指導を行っていれば,本件事故を回避することが可能であった。
 そして,被告国は,遅くとも平成14年の時点で,国内外の事故故障情報等の知見より(原告準備書面(8)第2参照),SBO及び崩壊熱除去系に対する対策・規制の必要性について予見可能であった。
 しかし,被告国は,SA対策について何ら適切な行政指導を行わなかった。
 以上のとおり,被告国は,電気事業法39条1項に基づく行政指導権限を適時かつ適切に行使したものとは到底言えず,権限の不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものである。そのため,被告国に行政指導権限の不行使は,国家賠償法1条1項の適用上違法である。

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