TOP    裁判資料    会報「原告と共に」   げんこくだより   ブログ   リンク

★ 準備書面(7) ―津波浸水の回避措置及び回避可能性について― 
 第3 津波浸水の回避措置及び回避可能性 
平成26年11月7日

目 次 (← 準備書面(7)の目次に戻ります)

第3 津波浸水の回避措置及び回避可能性
 1 はじめに
 2 新規制基準が定める津波対策
 3 本件事故後の被告東電の津波対策
 4 小括



第3 津波浸水の回避措置及び回避可能性


 1 はじめに

 平成23年3月の福島第一原発事故以降,被告国は,従来の規制を見直し,関係法令を改正し,規制を炉規法に一元化した。また,原子力規制委員会(事故後新設)は,福島第一原発事故の原因を踏まえて,同委員会規則,及び,規制の審査基準を具体化した内規を策定した。これら「規則」及び「内規」全体が,いわゆる「新規制基準」である。
 他方,被告東電は,平成25年3月「福島原子力事故の総括および原子力安全改革プラン」と題する,総括文(甲A5,6)を公開し,福島第一原発事故の事故総括を行うとともに,国会事故調等の提言を踏まえた,再発防止策を策定し,柏崎刈羽原発等において実施した。そして,同年9月,被告東京電力は,自社総括,及び,新規制を踏まえ,柏崎刈羽原発6,7号機の新基準適合性審査を申請した。
 被告国の新規制基準,及び,被告東電の再発防止策は,本件事故原因を踏まえた規制・対策であり,津波溢水対策が盛り込まれている。
 これらが,事故前に実施されていれば,本件津波被害を回避できたものと考えられる。

 本項では,被告国の新規制基準,及び,被告東電の再発防止施策について詳述し,これらが,いずれも平成14年段階で実施可能であったこと,すなわち結果回避可能であったことを主張する。

[甲B27:立法と調査344号『原子力発電所の新規制基準の策定経緯と課題』より]【表省略】

 2 新規制基準が定める津波対策

  (1)原子力規制委員会の設置と原子力規制委員会規則の策定

 本件原発事故後,平成24年9月19日,原子力規制員会設置法に基づき原子力規制委員会が環境省の外局として設置された。これにより,内閣府に設置されていた原子力安全委員会及び経済産業省資源エネルギー庁に設置されていた原子力安全・保安院は廃止され,これらの機関が行っていた発電用原子炉の規制は,原子力規制委員会が引き継ぐこととなった。
 また,これに伴い,従前,発電用原子炉施設は原子炉等規制法と電気事業法の双方により規制を受けていたが,電気事業法により行われていた規制を原子炉等規制法に取り込み,同法による規制に一元化された。
 そして,原子力規制委員会は,平成25年6月19日,実用発電用原子炉及びその附属施設の技術基準に関する規則(以下,「原子力規制委員会規則第6号」という。)を策定し,原子炉施設の規制について,新たな基準を設けることになった。下記原子力規制委員会規則第5号もまた,この流れにおいて原子力規制委員会によって策定されたものである。

  (2)原子力規制委員会規則の内容

 原子力規制委員会規則第5号においては,津波対策について規定している。また同規則第6号第12条は溢水対策を要求しているほか,第16条においては,シビアアクシデント対策を要求している。

[甲B28:『実用発電用原子炉に係る新規制基準について』より]【図省略】

  (3)新規制基準の津波対策に対する規制

 原子力規制委員会規則6号6条及び6条に関する規則の解釈が引用する「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則」(以下,「原子力規制委員会規則第5号」という。)5条並びに同条に関する規則の解釈においては,津波による事故を防止するため,「津波による遡上波を地上部から到達又は流入させないこと」及び「取水路及び排水路等の経路から流入させないこと」を定め,以下の方針により溢水対策を行うと規定している。
「(1) Sクラスに属する設備(浸水防止設備及び津波監視設備を除く。以下下記第三号までにおいて同じ。)を内包する建屋及びSクラスに属する設備(屋外に設置するものに限る。)は,基準津波による遡上波が到達しない十分高い場所に設置すること。なお,基準津波による遡上波が到達する高さにある場合には,防潮堤等の津波防護施設及び浸水防止設備を設置すること。
(2) 上記(1)の遡上波の到達防止に当たっては,敷地及び敷地周辺の地形及びその標高,河川等の存在並びに地震による広域的な隆起・沈降を考慮して,遡上波の回込みを含め敷地への遡上の可能性を検討すること。また,地震による変状又は繰り返し襲来する津波による洗掘・堆積により地形又は河川流路の変化等が考えられる場合は,敷地への遡上経路に及ぼす影響を検討すること。
(3) 取水路又は放水路等の経路から,津波が流入する可能性について検討した上で,流入の可能性のある経路(扉,開口部及び貫通口等)を特定し,それらに対して浸水対策を施すことにより,津波の流入を防止すること。」
 以上からすれば,本件事故以前において,想定すべき津波より高い防潮堤,盛土構造物及び防潮壁などの設置(1),非常用ディーゼル発電機や配電盤などの高所配置(1),非常用ディーゼル発電機及び配電盤の設置されているタービン建屋の水密化等(3)の津波対策を具体的に行うべきであったといえる。

 △ページトップへ

 3 本件事故後の被告東電の津波対策

  (1)「福島原子力事故の総括および原子力安全改革プラン」の事故総括

  ア タスクフォースの発表
 被告東電は,平成25年3月29日,「福島原子力事故の総括および原子力安全改革プラン」(以下「タスクフォース」という。)を発表した(甲A5)。
 「タスクフォース」は,(1)「福島第一原発事故原因の調査・分析」,及び,(2)「設備面・運用面,及び,マネジメント面の安全対策」(『原子力安全改革プラン』と題されている)より構成されている(甲A5:5頁)。

  イ 設備面,及び,運用面での問題
 被告東電は,津波に関し,
「福島原子力事故では,知見が十分とはいえない津波に対し,想定を上回る津波が来る可能性が低いと判断し,深層防護の考え方に基づいた備え(想定を上回る津波への備え)を行わなかったため,設計の想定を超えた津波の襲来により原子炉停止機能を除く安全機能(常用系を用いた原子炉の安定的な冷却達成手段も含む)を同時に喪失した。その結果,津波の直後からその場で考えながらの対応を余儀なくされるとともに多くの困難に直面した。」
として,設備面では,「想定を超える津波に対する防護が脆弱であった」こと,運用面では,「想定を超える津波に対する訓練や資機材の準備が不十分であった」ことを問題点として抽出し,これら問題点をもとに対策方針を策定した(甲A5:53頁)。

  ウ 東電策定の対策方針
 被告東電は,原子炉安全確保の基本方針として,「多重事故が生じることを前提に,多様性,位置的な分散を重視した対策を講ずることで深層防護を強化する」として,津波対策については,新たに,「対津波用の設備の異常を考慮し,ある程度の建屋内浸水があっても,重要区画内の設備が機能喪失しないこと」,及び,「重要区画からの排水ができること」を挙げている(甲A5:55頁)。
 また,被告東電は,事故調査報告書等の提言を受けて,具体的な津波対策(溢水対策)を下記の5つに整理した。
  1. 施設への浸水防止(ドライサイト的対策)
  2. 水密性の向上(安全上重要な機器の防護)
  3. 防潮堤の設置
  4. 防水壁の設置
  5. 排水ポンプの設置
 次項以下において,これらの方針をもとに,福島第一原発,福島第二原発,柏崎刈羽原発にて実施された対策を詳述する。

[甲A6:添付資料4-5 1,2頁の図を加工]【図省略】
[本図は別紙として本書面の末尾に添付する] [PDFを参照ください]


  (2)福島第一原発における対策

  ア 廃炉(1乃至4号機),及び,冷温停止(5,6号機)に向けた対策
 被告東電は,福島第一原発に関し,1号機から4号機については廃炉に向けたプロセスの安全性の確保を行い,5号機及び6号機については冷温停止を安定的に維持・継続するための安全対策を行っている(甲A5:57頁)。

  イ 具体的対策
 具体的対策として,敷地全体について,北防波堤,東防波堤,南防波堤の設置,取水路の設置,1号機から4号機について,余震津波対策用仮設防潮の設置,5号機及び6号機について,津波対策用計測用電源(可搬発電機,バッテリー)の配備を行った。
 また,1号機と5号機の電源連係を実施した。さらに,今後実施することが予定されているものとして,高台電源盤の配備が挙げられている(甲A6:「添付資料」3−2)。

[甲A6:「添付資料」3−2]【図省略】

  (3)柏崎刈羽原発での対策

  ア 再稼働申請に際しての対策
 被告東電は,平成25年9月27日に,柏崎刈羽原発[3]6,7号機の,再稼働申請を行った。
 被告東電は,事故後,柏崎刈羽原発に対し,津波溢水対策として,防潮堤の設置[4]を行ったほか,再稼働申請に際し,重要な建屋扉の水密扉化等をおこなった(甲A9:「柏崎刈羽原子力発電所6,7号機における新規制基準への適合申請について」)。

[徹底した津波対策の概要[5]]【図省略】

[3] 沸騰水型炉の1〜7号機がある。平成19年の中越沖地震の影響で全機が停止。その後,1,5〜7号機が運転再開,東日本震災後,平成24年3月に6号機が定期検査のために停止し,全基が停止した。
[4] 平成25年6月完了
[5] 被告東電ホームページ

  イ 具体的対策
 柏崎刈羽原発では,福島原子力事故における教訓を踏まえた,津波による浸水防止政策や電源と冷却機能の確保,事故の拡散防止策などの様々な安全対策に取り組んでいる(甲A5:11頁〜19頁)。
 柏崎刈羽原発は,展望台を挟んで北に5号機〜7号機,南に1号機〜4号機が設置されており,全ての発電所が日本海に並行して設置されている(甲A6:「添付資料」3−4参照)。
 対策の1つ目は,津波による浸水対策である。柏崎刈羽原発では,原発敷地の海側に海抜15メートルの防波堤を設置した。
 具体的には,1号機〜4号機が設置されている敷地は海抜約5メートルであるから長さ約10メートルの鉄筋コンクリート製防波堤を設置した。また,5号機〜7号機が設置されている敷地については,頂点は海抜12メートルであることから,当該敷地に約3メートルのセメント改良土の盛り土による防波堤を設置した。5号機〜7号機は海に向かって下っていく傾斜になっており,当該斜面はセメント改良土によって強化されている(甲A5:12頁)。

[1〜4号機防潮堤(左図)・5〜7号機防潮堤(右図)[6]]【図省略】

[甲A6:「添付資料」3-4 42頁]【図省略】


 また,津波が防波堤を越えて敷地内侵入した場合に原子炉建屋内への浸水を防ぐために,原子炉建家の給気口を防潮壁や防潮板で覆い,空気を海抜15メートル以上から取り入れる構造に変更する工事を行った。
そして,仮に建物に浸水した場合であっても,精密機器のある部屋の扉は水密扉になっており,また配管貫通部にはシリコンゴム材で止水処理が施されているため,精密機器の置かれた部屋への浸水を防止するしくみが整っている(甲A5:12頁,甲A6:「添付資料」3−4,45頁)。

[甲A6:「添付資料」3-4 43頁]【図省略】

[甲A6:「添付資料」3-4 45頁]【図省略】

 次に,非常用電源が使用できない場合の対策としては,高台に空冷式ガスタービン発電機車を3セット,電源車を23台配備している。
また,原子炉と使用済燃料プールへの注水手段として容量約2万トンの淡水貯水池を設置し,高台に消防車42台,代替海水熱交換器車7台を配備している(甲A5:13頁)。
 さらに,浸水等による重要機器への影響を防止するため,非常用電源で駆動する仮設,及び,常設の原子炉建屋内の排水系を設置することが予定されている(常設排水系の敷設までの間は「仮設エンジンポンプ」により排水手段を確保する)。(甲A6:「添付資料」3-4 46頁)

[6] 被告東電ホームページ

  (4)福島第二原発における対策

  ア 安全確保に向けた津波対策

 東電は,福島第二原発について,津波に対する防護が脆弱であったとの反省点から,津波(止水)対策により,既存設備を含めて津波に対する耐力を向上させることを方針として挙げ,津波対策を行っている。
 また,直流及び交流電源が喪失した場合の代替手段が十分に用意されていなかったとの問題点から,全交流電源喪失時における長時間継続への対応手段として,交流電源の供給も方針に挙げ,電源対策も行っている。

  イ 具体的対策
 具体的には,安全上重要な設備への浸水を防止するため,土のうによる防潮堤の設置や,熱交換器建屋機器搬入口の水密扉化を実施している。

[甲A6:「添付資料」3−3 4頁]【図省略】

 また,建屋内やトレンチ内への浸水を防止するため,屋外に設置されたマンホール蓋の固定やハッチ内蓋のシール材による水密化を実施し,建屋外壁貫通部の止水処理を行っている。

[甲A6:「添付資料」3−3 5頁]【図省略】

[甲A6:「添付資料」3−3 6頁]【図省略】

 そして,交流電源の強化のため,電源車及び空冷式ガスタービン発電機車を高台に配備したほか,電源車等の燃料である軽油確保のため,地下軽油タンクを高台に設置している。

[甲A6:「添付資料」3−3 4頁]【図省略】


 4 小括

 以上,被告東電は,
  1. 施設への浸水防止(ドライサイト的対策)
  2. 水密性の向上(安全上重要な機器の防護)
  3. 防潮堤の設置
  4. 防水壁の設置
  5. 排水ポンプの設置
という方針に従って,事故後,極めて短期間で具体的対策を講じている。しかも,これらはいずれも平成14年段階で実施可能なものである。
 したがって,被告東電は,適切な津波対策を行うことにより,本件事故を回避可能であったのであり,これを怠った被告東電,及び,適合命令を発しなかった被告国には,結果回避義務違反が認められる。

 以上

 △ページトップへ

原発賠償訴訟・京都原告団を支援する会
  〒612-0066 京都市伏見区桃山羽柴長吉中町55−1 コーポ桃山105号 市民測定所内
   Tel:090-1907-9210(上野)  Fax:0774-21-1798
   E-mail:shien_kyoto@yahoo.co.jp  Blog:http://shienkyoto.exblog.jp/
Copyright (C) 2017 原発賠償訴訟・京都原告団を支援する会 All Rights Reserved. すべてのコンテンツの無断使用・転載を禁じます。