TOP    裁判資料    会報「原告と共に」   げんこくだより   ブログ   リンク

★ 最終準備書面(責任論) 
 第5 津波  3 国の規制権限不行使の違法 4 過失と違法性の時期 
平成29年9月22日

目 次(←「最終準備書面(責任論)目次に戻ります)

第5 津波
 1 予見可能性
 2 結果回避可能性
 3 国の規制権限不行使の違法
 4 過失と違法性の時期



第5 津波


 3 国の規制権限不行使の違法

 以下,国が規制権限を適時かつ適切に行使し,津波による事故発生を回避すべきであったことについて述べる(準備書面(7)第2準備書面(27)で詳述)。

  (1)電気事業法による規制

  ア 電気事業法

 事業用電気工作物(当然,発電用原子炉も含まれる)を設置する者は,当該事業用電気工作物を主務省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない(電気事業法39条1項)。
 この主務省令が通商産業省令第62号,いわゆる技術基準省令である。 また,主務大臣は,事業用電気工作物が前条第一項の主務省令で定める技術基準に適合していないと認めるときは,事業用電気工作物を設置する者に対し,その技術基準に適合するように事業用電気工作物を修理し,改造し,若しくは移転し,若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ,又はその使用を制限することができる(電気事業法40条)。
 本件においては,技術基準省令4条及び5条のいずれによっても,本件において予見対象となる津波の予見義務及び回避義務が定められていたと評価できる。
 したがって,被告東電は,この技術基準に適合するよう措置を講じる義務があり,また,被告国は,福島第一原発が技術基準に適合していなかったのであるから,電気事業法40条に基づく権限行使として技術基準適合命令を発することができ,また,そのようにすべきであった。
 以下,福島第一原発が具体的に技術基準のどの部分に適合していなかったかを指摘する。

  イ 技術基準省令第4条
 技術基準省令第4条(防護措置等)は,津波を含む想定される自然現象により原子炉の安全性を損なう恐れがある場合には,防護措置等,適切な措置を講じなければならないとしている。
 技術基準省令は,平成17年7月1日,大規模改正を受けた。
 すなわち,改正前は技術基準及びそれを補完する告示からなる体系であったが,改正後は,技術基準は性能及び機能を規定する規定とともに,これを実現する具体的な手法や仕様は学術団体である学会,協会等で策定された規格を技術評価し,仕様規格として位置づけて活用する安全規制体系となった。
 この改正に当たっては,平成2年に改訂された原子力安全委員会の指針で規定される事項と技術基準の整合性を図ることとされた。整合性の確保が求められた指針には,いわゆる安全設計審査指針が含まれている(以上について,原子力安全基盤機構(現在は,廃止)作成にかかる「発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令と解釈に対する解説」甲B26号証)。
 技術基準省令4条の関連指針は,安全設計審査指針2,3である。
 そして,安全設計審査指針2は,「安全機能を有する構築物,系統及び機器は,地震以外の想定される自然現象によって原子炉施設の安全性が損なわれない設計であること,重要度の高い特に高い安全機能を有する構築物,系統及び機器は,予想される自然現象のうち最も苛酷と考えられる条件,又は自然力に事故荷重を適切に組み合わせた場合を考慮した設計であること。」としている。
 安全設計審査には,指針以外に指針に対する解説が付されている。その解説によると下記の通りとされている。
  1.  「自然現象によって原子炉施設の安全性が損なわれない設計」とは,設計上の考慮を要する自然現象又はその組合わせに遭遇した場合において,その設備が有する安全機能を達成する能力が維持されることをいう。
  2.  「予想される自然現象」とは,敷地の自然環境を基に,洪水,津波,風,凍結,積雪,地滑り等から適用されるものをいう。
  3.  「自然現象のうち最も苛酷と考えられる条件」とは,対象となる自然現象に対応して,過去の記録の信頼性を考慮の上,少なくともこれを下回らない苛酷なものであって,かつ,統計的に妥当とみなされるものをいう。
 本件に照らしてみれば,福島第一原発は,その立地条件から当然に津波を予想されるものである。
 したがって,安全設計審査指針に忠実に最も過酷な条件を考慮すれば,本件津波が到来したとしても,設備が有する安全機能を達成する能力が維持されるように安全対策をするべきであったというべきである。

  ウ 技術基準省令第5条
 技術基準省令5条1項は,「原子炉施設並びに一次冷却材又は二次冷却材により駆動される蒸気タービン及びその附属設備は,これらに作用する地震力による損壊により公衆に放射線障害を及ぼさないように施設しなければならない。」と規定する。
 また同条2項は,「前項の地震力は,原子炉施設ならびに一次冷却材により駆動される蒸気タービン及びその附属設備の構造ならびにこれらが損壊した場合における災害の程度に応じて,基礎地盤の状況,その地方における過去の地震記録に基づく震害の程度,地震活動の状況等を基礎として求めなければならない。」と規定する。
 地震は,当然,津波等の随伴事象を伴うものであって,このことは,平成18年9月19日,原安委によって決定されたいわゆる新耐震設計審査指針においても指摘されている。
 新耐震設計指針は,「8.地震随伴事象に対する考慮」において施設は,地震随伴事象について,次に示す事項を十分考慮した上で設計されなければならないとし,その考慮事項の(2)として,「施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても,施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと。」を定めている。

  エ 適合命令について

  (ア)事業者は常に最新の技術基準省令に原子炉施設を適合させるべきこと

 電気事業法は同法39条において発電用原子炉が技術基準に適合するよう維持することを事業者に対して求め,同法40条は技術基準に適合していないと認めた場合に技術基準適合命令を発動できることを定めている。
 原子炉設置後に詳細設計の内容が最新の科学的,専門技術的知見に照らして,原子炉の安全性という観点から技術基準に適合しなくなるような事態も当然に上記規律の対象となる。
 技術基準は省令によってその内容が定まっているところ,規制当局は,省令改正を行っており,その都度,事業者は原子炉施設を改正後の省令に合致させるべきであった。

  (イ)基本設計上の問題が生じれば技術基準に適合しなくなること
 電気事業法39条2項1号は,技術基準について,「人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること」とのみ定めており,その原因が詳細設計にあるのか基本設計にあるのかを区分していない。したがって基本設計に関わる事項について技術基準適合命令を発することに明文上の障害はない。
 そもそも,安全性確保のための規制において,原子炉の安全性に関わる問題が基本設計,詳細設計のいずれから生じようとも,災害防止の観点からは,法は行政庁に必要な規制権限を付与していると考えるのが合理的,整合的である。
 したがって,設置許可後の科学的,専門技術的知見の進展によって安全性に問題が生じ,その結果,「人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること」が懸念される事態に至れば,それが基本設計部分に関わる事項であったとしても,当然,電気事業法は当該原子炉の安全性確保を求めていると解される。

  (ウ)基本設計と詳細設計の区分が明確でないこと
 前項のように解釈することが合理的である理由は,そもそも何が基本設計であって,何が詳細設計であるかは一義的に明らかになるものではないという点からも説明ができる。
 すなわち,一般的に基本設計は詳細設計に比してより抽象的にならざるをえないが,その抽象化がどの程度まで必要であるかは,何ら法令上明らかではない。
基本設計という概念は,法令上は用いられていない用語である上に,詳細設計との区分の不明確さに起因する問題は避けられず,仮に被告国のような見解に立てば規制の範囲も不明確にならざるを得ない。
 したがって,電気事業法39条が,技術基準について文言上,基本設計に限定しない趣旨は,そのように基本設計と詳細設計の区分が一義的に明確でないことを背景に基本設計と詳細設計の別を問わず規制を可能ならしめている点にあると考えるべきである。

  (エ)小括
 上記に述べたとおり,最新の科学的,専門技術的知見に照らして,原子炉設置許可後に当該原子炉が安全性を欠くに至った場合,経済産業大臣は電気事業法に基づいて技術基準適合命令を発動することが可能である。

 △ページトップへ

  (2)炉規法による規制

  ア 核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律

 核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「炉規法」という。)は,「原子力基本法(昭和三十年法律第百八十六号)の精神にのつとり,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の利用が平和の目的に限られ,かつ,これらの利用が計画的に行われることを確保するとともに,これらによる災害を防止し,及び核燃料物質を防護して,公共の安全を図るために,製錬,加工,貯蔵,再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関する必要な規制を行うほか,原子力の研究,開発及び利用に関する条約その他の国際約束を実施するために,国際規制物資の使用等に関する必要な規制を行うことを目的とする」法律である(炉規法1条。但し,本件事故当時の条文)。
 発電の用に供する原子炉,すなわち実用発電用原子炉(電力事業者の設置する原子力発電所は,これに当たる)の設置には,炉規法に基づく設置許可が必要である(炉規法23条1項1号)。
 そして,当該許可の基準としては「その者(原子炉を船舶に設置する場合にあつては,その船舶を建造する造船事業者を含む。)に原子炉を設置するために必要な技術的能力及び経理的基礎があり,かつ,原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること。」(炉規法24条1項3号)及び「原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質(使用済燃料を含む。以下同じ。),核燃料物質によつて汚染された物(原子核分裂生成物を含む。以下同じ。)又は原子炉による災害の防止上支障がないものであること。」(炉規法24条1項4号)が,それぞれ求められる。
 また,原子炉設置者は,原子炉施設の保全,原子炉の運転について,「保安のために必要な措置を講じなければならない」(第35条第1項)と定めている。

  イ 設置許可後の安全対策確保の必要性
 伊方最判は,設置後に安全性を欠いていることが判明したような場合,当該許可が取り消されることを認めているが,これは,炉規法の趣旨からすれば当然のことを指摘したに過ぎない。
 この取消権限は炉規法に明文化されてはいないが(伊方最判後も取消事由が改正法によって追加されることはなかった),明文がなくてもその権限は行政庁に認められているのである。
 そして,取消権限の分量的一部として原子炉の運転を一時停止させ,安全性を確保するよう措置を講じるよう求める権限(仮に「一時停止権限」という。)も行政庁にあると解釈するのが,炉規法の趣旨に合致する。

  ウ 行政行為の取消

  (ア)行政行為の取消

 行政行為によって法律関係が形成等したとき,なんらかの事情によってその法律関係を旧に復せしめる必要性が生ずることがある。
 そして,その行政行為自体に瑕疵がある場合,行政行為の取消によって当該行政行為の効力を喪失させることとなる。
 行政行為の取消の実質的根拠は適法性の回復あるいは合目的性の回復にあるから,法律の特別の根拠は不要であると解されている。

  (イ)経済産業大臣の取消権限
 伊方最判は現在の知見に照らして設置許可要件該当性を判断すべきことを明らかにした。
 したがって,本件のように原子炉設置許可後に最新の科学的,専門技術的知見に照らして,原子炉設置許可後に当該原子炉が安全性を欠くに至った場合,経済産業大臣は原設置許可の取消をすることが可能であり,それには法規上の根拠規定は不要である。

  エ 分量的一部としての一時停止の規制権限
 経済産業大臣には前記のとおり炉規法に基づく設置許可の取消権限があっただけでなく,取消権の分量的一部として,炉規法に基づいて原子炉施設の運転について一時的な停止を命じる権限も有していたと解すべきである。
 すなわち被告国は,被告国第6準備書面12ページにおいて「・・既設の原子炉施設が原子炉設置許可の要件を欠くような事態となれば,経済産業大臣は,事業者に対し設置変更許可処分の申請を促す行政指導を行い,当該申請があればこれを許可するか否かを判断し,あるいは容易に想定しがたいことではあるが,これに応じて申請しない場合には設置許可処分の取消により是正しうるほかないこととなる。」と述べる(下線部は原告ら代理人)。
 しかし,設置許可の取消しかできないという考え方は,当該行政行為が受益的行政行為であることに鑑みると相手方の保護に著しく欠けると言わざるを得ない。
 すなわち設置許可の取消権限は全体的かつ永続的に設置許可が取り消された原子炉施設の運転を停止することとなるが,取消権限が与えられた行政庁は,権限行使をする否かの択一的判断を迫られると解すべき必然性はない。
 すなわち,設置許可を再び満たすように当該原子炉施設の運転を一時的に停止する規制権限を取消権限の分量的一部として有すると解すべきであり,これにより受益的行政行為の相手方との利益の調整を図りうる。
 なぜなら,事後的に安全に関する設置許可要件が欠けるに至った事業者の利益を擁護しながら,最初から審査するという手続き的な不経済を回避することができ,かつ,安全性の確保という法の趣旨を短期間に満たすことが可能となるからである。
 このようにいわば法の欠缺によって規制権限が明文で法定されない場合に規制権限の存否が争点となった事例として,いわゆるスモン事件についての東京地裁判決があげられる(昭和53年8月3日東京地裁判決判例タイムズ365号99頁)。
 この事件において被告となった国は,「現旧薬事法をはじめとして,如何なる法令にも,厚生大臣が許可・承認後に医薬品の副作用による被害を回避するための措置を講ずるよう義務づけた規定は存しないのであるから,厚生大臣は,許可・承認後に,かかる措置を講ずべき法律上の義務を負うものとはいい得ない。」と主張した。
 しかし,東京地裁は,かかる主張を容れず,次のように述べて,承認の取消権を認め,それに加えて取消権の分量的一部としての一時停止の規制権限をも認めたのである(下線部は原告ら代理人)
明文の規定の存しない「承認の取消」については,なお,製造業等の許可または薬局の開設の許可の取消,許可の更新の拒絶等につき法が必要として定めた聴聞の規定(七六条)の類推適用の問題が残るが,いずれにせよ,承認の取消については,承認を与えられた業者の既得権と国民の生命・健康とが,法益としての比較を絶するものであること,また,承認を取り消すべきものとした厚生大臣の判断に誤りがないかぎり(本件において,キノホルム含有製剤の販売中止の行政措置をとるべきものとした厚生大臣の判断に誤りがないことは,第二編において詳述したところである),承認の取消あるいはその分量的な一部としての製造・販売の停止は,必ずしも業者にとつて不利益とは限らないこと(本件において,右の行政措置がさらに一年後れた場合を想起すれば足りるであろう)が,まず認識されなければならないのである。
 電気事業法に一時停止権限が技術基準適合命令という形で明記されているが(電気事業法39条,40条),明文規定がなくとも炉規法の趣旨から行政庁に一時停止権限が認められるべきである。
 実際に,平成19年(2007年)7月に新潟県中越沖地震により,柏崎刈羽原発は全面停止したが,経済産業省は耐震バックチェックで安全性が確認できるまで,原子炉の運転を再開しないよう指示を出した(甲A2-397,乙B3-1 13頁 丙B85-9,26頁)。これは,被告国が耐震バックチェックという設置許可に関する事例であるため,炉規法を根拠とする行政指導により運転停止を命じた例であると評価できる。
 したがって原告らが指摘するような津波対策,シビアアクシデント対策は電気事業法及び炉規法によって,既設原子炉の一時停止権限は常に認められ,この結論は問題となる結果回避措置が前段規制にかかるものであろうとなかろうと関係がないのである。

 △ページトップへ

  (3)段階的規制論

 被告国は,「段階的規制論」に依拠して,事故当時の法体系においては経済産業大臣が技術基準適合命令を発することはできなかったと主張するため,以下反論する(被告国第6準備書面,原告準備書面(27)に詳述)。

  ア 段階的安全規制論の趣旨
 炉規法第四章の原子炉の設置,運転等に関する規制の内容をみると,原子炉の設置の許可,変更の許可(23条ないし26条の2)のほかに,設計及び工事方法の認可(27条),使用前検査(28条),保安規定の認可(37条),定期検査(29条),原子炉の解体の届出(38条)等の各規制が定められており,これらの規制が段階的に行われることとされている(なお,発電用原子炉施設における工事計画の認可,使用前検査及び定期検査については電気事業法が定める)。
 これがいわゆる段階的安全規制と言われるものである。

  イ 原子炉設置許可処分の段階における安全審査の対象の問題であること
 段階的安全規制論は,原子炉設置許可処分の段階における安全審査の対象が基本設計に限定されることの根拠として論じられたものである。
 すなわち伊方原発に関する平成4年10月29日最高裁判決は,「原子炉の設置の許可の段階においては,専ら当該原子炉の基本設計のみが規制の対象となる」とした(下線部は原告ら代理人。以下,同じ。またこの最高裁判決を以下,「伊方最判」という。)。
 その理由は,第一に炉規法が核燃料物質,核原料物質,原子炉の利用のそれぞれについて分野毎に安全規制をとっているから,原子炉設置許可に際しての安全性の審査は原子炉自体の安全性に関する事項に限定されること,第二に発電用の原子炉の利用に関する炉規法及び電気事業法による安全規制の特色は,原子炉施設の設計から運転に至るまでの過程を段階的に区分し,それぞれの段階に応じて原子炉施設の許可,工事計画の認可,使用前の検査,保安規定の認可,定期検査等の規制手続きを介在せしめ,それらを通じて安全確保を図るという,いわゆる段階的安全規制の体系がとられているから,原子炉の設置許可の段階では,その基本設計のみを審査すればよいことにあるとされている(以上について伊方最判に関する最高裁判所判例解説民事編平成4年度427頁以下参照)。

  ウ 段階的安全規制は設置許可の段階における問題であること
 以上に述べたとおり,段階的安全規制という考え方は,原子炉の設置の許可の段階において規制の対象となる範囲を限定するためのものである。
 被告国の段階的安全規制の主張は,設置許可をする時点における安全審査の対象の議論を,設置許可がなされた後の時点における安全性の問題にすり替えたところに誤りがある。
 すなわち,設置の許可がなされた後に新たな技術的知見が生じたことによって,設置の許可の要件を欠くに至った場合,被告国においてどのような規制をすることができるのかという問題については,段階的安全規制から論理必然的に結論がでるものではない。

  エ 小括
 段階的安全規制論に依拠して,設置許可後に許可にかかる原子炉施設が基本設計レベルでの安全性を欠いた場合の規制権限について述べる被告国の主張は論理的に飛躍しており誤りである。

  (4)結語

 以上の通り,被告国は,炉規法または電気事業法に基づいて設置許可を受けた既設原子炉に対し,最新の知見に基づいて当該原子炉の安全性が欠如するに至ったと思量する場合,事業者に対し,安全性を確保するように求めて当該原子炉を一時的に運転停止させる等の規制権限を有していた。
 そして,被告国は,平成14年時点(乃至,遅くとも平成20年3月~6月)で,津波の予見が可能であったのであるから,被告東電に対し,電気事業法39条に基づく技術基準適合命令を発し,または,炉規法に基づいて一時的に運転停止させる等必要な安全対策をとり本件結果を回避すべきであった。


 4 過失と違法性の時期

 以上に述べたとおり,最新の科学的,専門技術的知見に照らして,原子炉設置許可後に当該原子炉が安全性を欠くに至った場合,経済産業大臣は,適時に電気事業法に基づいて技術基準適合命令を発動すること,及び炉規法に基づいて運転停止させる等必要な安全対策をとるが可能である。
 したがって,被告国が津波の予見が可能となった平成14年時点(乃至,遅くとも平成20年3月ころ)には,既に規制権限不行使の違法が認められる。

 △ページトップへ

原発賠償訴訟・京都原告団を支援する会
  〒612-0066 京都市伏見区桃山羽柴長吉中町55-1 コーポ桃山105号 市民測定所内
   Tel:090-1907-9210(上野)  Fax:0774-21-1798
   E-mail:shien_kyoto@yahoo.co.jp  Blog:http://shienkyoto.exblog.jp/
Copyright (C) 2017 原発賠償訴訟・京都原告団を支援する会 All Rights Reserved. すべてのコンテンツの無断使用・転載を禁じます。