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★ 準備書面(23)
 ―IAEA「福島第一原子力発電所事故事務局長報告書」等に基づく補論― 
 第3 福島原発における津波対策研究会・中間報告書 
平成27年9月25日

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第3 福島原発における津波対策研究会・中間報告書
 1 失敗学会「福島原発における津波対策研究会」とは
 2 福島原発における津波対策研究会・中間報告書
 3 結論



第3 福島原発における津波対策研究・中間報告書


 1 失敗学会「福島原発における津波対策研究会」とは

 「失敗学会」は、「広く社会一般に対して失敗原因の解明および防止に関する事業を行い、社会一般に寄与することを目的とし、この目的を達成するため、社会教育の推進を図る特定非営利活動を行う」特定非営利活動法人である。同法人の理事として、「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」(政府事故調)委員長を務めた畑村洋太郎氏、同技術顧問である淵上正朗氏、安部誠治氏らが参加している(甲B56:インターネットサイト印刷文書「理事一覧」)。
 同法人は、平成27年4月、「(1)福島原発において、巨大地震に伴う巨大津波を予測できたか?、(2)もし巨大津波が事前に予測されていたら、事前にどのような対策をすれば事故を回避できたか?」の解明を目的として「福島原発における津波対策研究会」を発足させ、同年7月3日、(1)の報告書として、「中間報告書」(甲B57)を公開した。執筆者らは、政府による事故調査以降に発見された資料をも加えて同報告書を作成しているため、同報告書は政府事故調査報告書を発展させたものと評価できる。
 本項は、同報告書を引用し、被告らに津波損害に関する予見可能性があったことを述べる。


 2 福島原発における津波対策研究 中間報告書

  (1)報告書の概要

 同報告書は以下の事実を認定し、「3回の異なる予測で、敷地高さを越えて建屋が浸水する津波が示されていた。」と結論づけた。
「(1)1997〜1998年の七省庁による「地域防災計画における津波対策強化の手引き」に基づき、2000年に、東電は「解析の不確かさ上限の2倍では10mの津波水位(海水ポンプ位置での浸水高さ)と予測され、6mで海水ポンプが停止する」との報告書を提出した。
(2)1999年に、国土庁等が福島第一原発の津波浸水予測図を示し、タービン建屋側で4-5mの浸水予測となっていた。
(3)2002年の文科省・地震調査研究推進本部が「福島沖の更に沖合を含む日本海溝沿いのどこかで、M8.2の大地震が起きる確率は今後30年以内に20%」との見解に基づき、2008年に東電は「福島原発で15.7mの津波(浸水高さ)が予測される」という結果を得ていた。
(4)貞観津波に関する古文書の研究などを基にして、1990年頃に仙台平野の津波堆積物が発見され、2008 年の文部科学省報告書で、福島原発の北約5kmの浪江町で貞観津波堆積物が発見され、また、北は三陸海岸から南は茨城県にまで貞観津波の伝承があることが述べられている。2009年初めに東電が貞観津波の波源で計算した結果によると、標準手法で計算すれば敷地高を超える津波が予測されていた。」
  (2)原告らの主張

 ア この点、原告らは、(2)について原告準備書面(4)「第5 平成20年5月〜6月 被告東電による津波試算結果」、(3)について原告準備書面(16)「第4 津波災害予測図」、(4)について原告準備書面(4)「第7 貞観津波に関する知見の進展」及び原告準備書面(7)「第1 貞観津波に関する知見の進展(補足)」にてすでに述べた。

 イ 原告は、津波予見に関して(1)の事実を追加して主張する。
 (1)の報告書とは、被告東電が電気事業連合会に提出した下記資料(甲A1:国会事故調参考資料41頁)をさすものである。同資料が提出された電気事業連合会の議事録には

「土木学会津波評価部会における7月からの津波水位に関する議論に先立ち、解析誤差を考慮したプラント影響評価を実施した結果について報告がなされた。
  • 誤差に応じて、対策が必要となる発電所が増える。
  • 水位上昇に対しては、誤差を大きくするに従い大がかりな改造が必要となる。水位低下に対しては運用による対応が可能と考えられる。
  • 今後詳細な影響評価を行うとともに、部会報告書がまとまる平成13年3月〜耐震指針が改訂される平成16年6月までの間に必要に応じて対策工事を実施する予定。
との記載がある(甲A1−41、42)。
 この点、平成12年段階では「津波評価技術」が策定されていなかったため、被告東電が電気事業連合会に提出した報告書の根拠となる津波高さは、平成7年作成の「太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査報告書」(甲B35)に基づくものであると推測できる。したがって、平成12年、被告東電は、電気事業連合会の求めに応じて上記報告書による試算結果の1.2〜2.0倍の津波高試算をおこない、その結果である津波高試算の「1.2倍」で、プラントに影響(損害)があることを認識していた【表省略】。なお、津波高「1.0」倍の場合のプラントの影響については公開されていない。

 3 結論

 元政府事故調委員ら作成の報告書によっても、被告らの津波に関する予見可能性は肯定される。

以上

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