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★ 準備書面(4) 津波の予見について 
 第7 貞観津波に関する知見の進展 
平成26年8月29日

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第7 貞観津波に関する知見の進展
 1.貞観地震及びそれに伴う津波の発生
 2.平成14年以前の知見
 3.平成14年以降の知見の進展
 4.貞観津波の断層モデルを用いた試算



第7 貞観津波に関する知見の進展

 津波評価技術,及び,長期評価の知見から,「予見対象津波」の津波高を予見可能であったが,他方で,古地震に関する知見も進展していた。


 1.貞観地震及びそれに伴う津波の発生

 貞観11年5月26日(869年7月13日)に発生した貞観地震及びそれに伴う津波に関しては,『日本三大実録』巻十六に,「(貞観11年5月)26日癸未の日。陸奥国に大地震があった。…しばらくして,一般の人達は大声を出し,地面に伏して起き上がることができなかった。あるものは家が倒れて圧死した。あるものは地面が割れてその中に落ち埋まって死んだ。馬や牛は驚いて走り,あるものは互に昇って足踏みした。城郭や倉庫,門・櫓・土塀・壁が崩れ落ちたり転倒したりしたが,その数は数え切れないほど多い。海では雷のような大きな音がして,物凄い波が来て陸に上った。その波は川を逆上ってたちまち城下まで来た。海から数千百里の間は広々とした海となり,そのはてはわからなくなった。原や野や道はすべて青海原となった。人々は船に乗り込む間がなく,山に上ることもできなかった。溺死者は千人ほどとなった。人々の財産や稲の苗は流されてほとんど残らなかった。」と記載されており,古くからその存在及び規模の大きさについて指摘されていた。

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 2.平成14年以前の知見

 平成2年,東北電力鰹乱原子力発電所建設所の研究員は,貞観津波の仙台平野における痕跡高を考古学的所見及び堆積学的検討に基づく手法により推定しており,「貞観11年の津波の痕跡高として,河川から離れた一般の平野部では2.5〜3mで,浸水域は海岸線から3kmぐらいの範囲であった」「仙台平野全体としてみれば,河川に沿う低地や浜堤間の後背湿地など広範囲にわたって浸水していた」としている(甲B19:阿部壽ほか『仙台平野における貞観11年(869年)三陸津波の痕跡高の推定』)。
 また,平成13年には,津波堆積物調査を行い、福島県相馬市の松川浦付近で仙台平野と同様の堆積層を検出した。これにより、貞観津波の土砂運搬・堆積作用が仙台平野のみならず福島県相馬にかけての広い範囲で生じたこと、海岸部に到達した津波の波高が極めて大きかった可能性を示している(菅原大助・箕浦幸治・今村文彦「西暦869年貞観津波による堆積作用とその数値復元」甲A2:391頁)。
 以上のように,平成14年までには,貞観津波の規模が大きく被害も甚大であり,海岸線から3kmの地点まで津波が押し寄せていたこと,波高が極めて大きかったことが明らかになっていた。


 3.平成14年以降の知見の進展

 平成18年ころ,産総研活断層研究センターの研究員らが,仙台平野の津波堆積物を精査することによって,貞観津波による浸水域につき,当時の海岸線の位置を推定した上で,仙台平野南部において,貞観津波が少なくとも2〜3kmの遡上距離を持っていたことが明らかになった(甲B20:澤井ほか『仙台平野の堆積物に記録された歴史時代の巨大津波』)。
 また,平成17年以降,文部科学省の委託による重点調査が行われ,東北大学などが福島第一原発の北約4kmで平成19年度に実施した津波堆積物の調査において,貞観津波を含め過去に5回の大津波が起きていたことが判明した(甲B21:今泉ほか『宮城県沖地震における重点的調査観測(平成19年度)成果報告書』)。
 そして,平成20年ころには,貞観津波による石巻平野と仙台平野における津波堆積物の分布といくつかの波源モデルからシミュレーションを行った結果,プレート間地震で断層の長さ200km,幅100km,すべり7m以上の場合,津波堆積物の分布をほぼ完全に再現した(甲B22:佐竹ほか『石巻・仙台平野における869年貞観津波の数値シミュレーション』)。

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 4.貞観津波の断層モデルを用いた試算

 平成20年9〜10月ころ,被告東電が,「石巻・仙台平野における869年貞観津波の数値シミュレーション」で示された,貞観津波(地震)の断層モデルを基に,津波評価技術を使用して,福島第一原発の波高を試算したところ,福島第一原発でO.P.+8.6m〜9.2mという結果がでた。被告東電は,同結果を,保安院に報告した(甲Al:国会事故調86頁,甲A2:政府事故調中間報告398頁。甲B8:東電事故調21頁)。

[佐竹教授らによる,貞観津波の断層モデル(甲B22−75頁の表を加工)]【表省略】

 上記結果は,非常用海水ポンプ据付けレベルを超える数値であり,津波による炉心損傷の危険性を裏付ける(第6,3参照)。また,「津波評価技術」が,想定津波水位の補正係数[8]を「1.0」とする,安全裕度の小さいモデルであることを考慮すれば(甲A2:379−381頁),上記結果はO.P.+10mに近接しており,福島第一原発プラントの津波溢水に対する安全余裕が極めて小さいことがわかる。
 従って,貞観津波の知見からも,福島第一原発が,津波に極めて弱いプラントであるとの結果がでていたのである。
 なお,以上は,「貞観津波(地震)」の断層モデルを津波評価技術にて評価した結果であり,「明治三陸沖地震」の断層モデルを「福島県沖の海溝寄り」に置いて津波評価技術にて評価した結果(O.P.+15.7m,(第5,1,(2)))とは両立し,相互に矛盾するものではないことに留意されたい。


[8]想定を上回る津波の可能性を考慮(自然現象の不確定性を考慮)するために,[想定津波水位]に一定の係数[補正係数]を掛けあわせて津波水位の評価を行う。補正係数が大きければ,設計津波水位に余裕がある(=より安全である)ということになる。他方,補正係数を「1.0」とすることは,数値補正を行わないことを意味する。この意味で,「津波評価技術」は安全裕度が緩和されたシミュレーションモデルである。
 第6回津波評価部会では,「津波評価技術」の補正係数を「1.0」と設定することが妥当か否かについての議論がなされたが,首藤主査より,「現段階ではとりあえず1.0としておき,将来的に見直す余地を残しておきたい」との発言がなされ,結果的に補正係数を「1.0」と決定した。その後,津波評価部会は,「補正係数」を修正しないまま,本件事故に至った。
 当時津波評価部会委員であった東北大学今村文彦教授は,政府事故調のヒアリングに対し,「安全率は危機管理上重要で1以上が必要との意識はあったが,一連の検討の最後の時点での課題だったので,深くは議論せずそれぞれ持ち帰ったということだと思う。」と回答している。
(以上,甲A2−379〜381頁)

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