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★ 準備書面(7) ―津波浸水の回避措置及び回避可能性について― 
 第1 貞観津波に関する知見の進展(補足) 
平成26年11月7日

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第1 貞観津波に関する知見の進展(補足)
 1 貞観津波に基づく試算
 2 森山善範氏に対するヒアリング結果について
 3 小括



第1 貞観津波に関する知見の進展(補足)

津波については,古地震に関する知見として,貞観津波に関する研究や試算が蓄積されてきたことは,原告ら準備書面(4)第7(40頁以下)で論じたとおりである。ここでは,貞観津波の知見について,主張を補充する。


 1 貞観津波に基づく試算

 被告東京電力は,平成21年9月7日頃,保安院に対し,資料を示して,貞観津波に基づく試算結果が,福島第一原子力発電所の地点でO.P.+9.2mとなる旨を報告した[1](甲A1:国会事故調88頁,甲A2:政府事故調中間報告398頁,402頁,甲B8:東電事故調21頁)。
 この「O.P.+9.2m」という数字は,平成23年3月7日付で被告東京電力が作成した,「福島第一・第二原子力発電所の津波評価について」と題する報告書(甲B11)において,貞観津波の断層モデルを適用した場合の,福島第一原子力発電所6号機海水ポンプ付近の想定波高と一致している。

 すなわち,被告東京電力は,平成21年9月の時点では,同書面に記載された試算を既に行っており,被告国も,この試算の内容について被告東京電力から報告を受け,把握していたと考えられる。
 そして,同書面における1号機ないし4号機の海水ポンプ付近の想定波高はO.P.+8.7mである。また,これらの試算については,赤字で,「仮に土木学会の断層モデルに採用された場合,不確実性の考慮(パラメータスタディ)のため,2〜3割程度,津波水位が大きくなる可能性あり」との脚注が付されている。

[甲B11:「福島第一・第二原子力発電所の津波評価について」抜粋・加工]【図省略】

 福島第一原子力発電所の敷地高は,1号機ないし4号機でO.P.+10mである。仮に海水ポンプ付近でO.P.+8.7mの津波が1号機ないし4号機を襲った場合,津波の特性上,O.P.+10mの敷地に大量の海水が流れ込むことは,容易に推測ができる。
 また,津波評価技術に基づくパラメータスタディ[2]を行った場合には,1号機から4号機の海水ポンプ付近で,O.P.+10mを超える津波が想定されることになる。
 脚注に従い,被告東電の試算結果を1.2倍,1.3倍にした結果は以下の通りである。

津波水位 1号機 2号機 3号機 4号機 5号機 6号機
東電試算 8.7 8.7 8.7 8.7 9.1 9.2
1.2倍 10.44 10.44 10.44 10.44 10.92 11.04
1.3倍 11.31 11.31 11.31 11.31 11.83 11.96

 すなわち,被告国及び被告東京電力は,遅くとも平成21年9月の時点において,貞観津波の波源モデルを使用した場合にも,福島第一原子力発電所の敷地高を超える津波が到来する危険性があることを,具体的に認識していた。

[1] この点,政府事故調中間報告398頁,402頁,及び,東電事故調21頁で,津波水位の記載が若干異なる。東電事故調によれば,/「取水口前面でO.P.+7.8m〜8.9m(満潮位の考慮方法を変更するとO.P.+7.8m〜+9.2m)程度の津波の高さが算出された」/とのことであり,上記の異同は,複数の津波水位が報告された事を理由とするものであると考えられる。
[2] パラメータスタディについては,原告準備書面(4)[PDF]20頁参照。

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 2 森山善範氏に対するヒアリング結果について

  (1)政府事故調査委員会のヒアリングの内容

 上記事実は,本年9月13日公開された,政府事故調査委員会のヒアリングの内容とも合致しており,信用性が高い。以下,聞取り結果書により判明した事実経緯を述べる(甲B25:「聞取り結果書」)。
 平成21年9月ころ,被告東電は,保安院名倉審査官に対し,想定波高がO.P.+8.0mを超える旨報告した。
 平成22年3月ころ,保安院の耐震安全審査室長であった小林勝は,保安院審議官森山善範に対し,「津波堆積物の調査結果を踏まえ,近々シミュレーション解析結果が出ると思うが,貞観の地震による津波は簡単な計算でも,敷地高は超える結果になっている。防潮堤を作るなどの対策が必要になると思う」旨,報告した。
 小林室長は,名倉審査官に対し,森山審議官に報告した旨を電子メールにて報告した。

[甲B25:聞取り結果書より抜粋]【図省略】

  (2)ヒアリング結果と東電作成資料の内容は合致する

 小林室長の述べる「簡単な計算でも,敷地高を超える結果」は,甲B11に記載された「津波水位を2〜3割上昇させる計算を行えば,1乃至4号機でO.P.+10mを超える結果」と意味的に合致する。また,「シミュレーション解析結果」とは,報告時に行われていなかった「パラメータスタディ」のことを指すと考えられる。
 以上より,小林氏と森山氏との会話内容は,平成23年3月7日付の東京電力の報告内容(甲B11)が,既に,平成21年9月に作成されており,かつ,保安院(被告国)も,同内容を認識していた事を裏付ける事実である。


 3 小括

 原告ら準備書面(4)において述べた通り,被告国及び被告東京電力は,平成14年7月の時点で,長期評価と津波評価技術を組み合わせることで,福島第一原子力発電所において,O.P.+15.7mの津波の到来を予見でき,実際に試算していた可能性もある。
 それのみでなく,被告国及び被告東京電力は,平成21年9月には,上述のとおり,貞観津波の波源モデルに基づく試算によっても,福島第一原子力発電所の敷地高を超える津波が到来することを具体的に予見していた。しかも,被告国は,津波対策(防潮堤の建設)の必要性を議論していたことが明らかである。
 被告国が,法40条に基づき,停止命令・適合命令を出すべき義務があることは,平成21年9月頃にはより一層明らかになっていたものである。

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