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★ 準備書面(46) −求釈明に対する回答− 
平成28年9月9日


平成28年8月3日進行協議における被告国の求釈明に対し,原告の主張を整理する。

目 次

第1 規制権限について

第2 防潮堤による回避措置について
 1 被告国の求釈明
 2 検察審査会の事実認定
 3 結果回避可能性について



第1 規制権限について

 原告は,被告国の規制権限として改正前電気事業法39条,40条,及び,原子炉等規制法を主張した(原告準備書面(2)同(27))。
 これらは両立する関係にあるため,選択的に主張する(選択的主張)。


第2 防潮堤による回避措置について


 1 被告国の求釈明

 被告国は,本件における結果回避可能な防潮堤の高さについて釈明を求めた。
 以下,被告らが防潮堤の設置(嵩上げ)ないし規制権限を行使し防潮堤の設置(嵩上げ)を促すこと(または防潮堤を設置するまで運転停止を命ずること)により結果を回避できたことについて述べる。


 2 検察審査会の事実認定

  (1)検察審査会

 平成27年7月17日,東電元経営陣らに対する業務上過失致死傷被疑事件について東京第五検察審査会は被告東電の代表取締役会長(本件事故時)であった被疑者勝俣恒久,代表取締役副社長であった被疑者武黒一郎及び取締役副社長であった被疑者武藤栄らに対し,起訴相当の議決を行った(甲B71)。
 また,平成28年4月14日,東京第一検察審査会は,被告東京電力の現場担当者及び原子力安全・保安院の現場責任者ら5名に対する不起訴処分が相当であるとの議決を行った(甲B85)。なお,当該議決書は議決の理由「1はじめに」において,「被疑者らは,東京電力の現場担当者及び原子力安全・保安院(以下「保安院」という。)の現場責任者であり,それぞれ幹部とは異なる立場にあり,その置かれた立場や職務権限には大きな違いがある。」「当検察審査会としては,あくまでも被疑者5名の刑事責任が認められるかどうかについて,上記の立場の違いを意識しつつ,業務上過失致死傷罪における死傷の結果に対する具体的な予見可能性に基づく予見義務違反,結果回避可能性に基づく結果回避義務違反があるかどうかという観点から検討した」(甲B85−2)と留保している通り,組織体としての被告東電及び被告国の民事責任の有無が問われる本件とは判断枠組が異なることを念のため付言する。

  (2)被告東電の平成20年3月試算と防潮堤設置の提言

 検察審査会議決書(甲B71,甲B85)より以下の事実が判明している。

  1.  長期評価取り込みの方針
     被告東電内では,遅くとも平成19年12月には,耐震バックチェックにおいて,長期評価を取り込む方針で進められることとなった(甲B71−10,甲B85−4)。
  2.  研究者による進言と平成20年3月計算
     被告東電に対し,研究者[1]から,平成20年2月26日,「福島県沖海溝沿いで大地震が発生することは否定できないので,波源として考慮すべきである」旨の指摘を受けた。
     それを受けて,被告東電は東電設計株式会社に対し,明治三陸沖地震の津波波源モデルを福島県沖海溝沿いに設定した場合の津波水位を試算するように依頼し,東電設計は,平成20年3月18日,福島第一原子力発電所の敷地南側で津波水位が最大でO.P.+15.7メートルとなる旨の計算結果を提出した。この結果により,福島第一原発のタービン建屋の設置された10メートル盤を大きく超えて浸水することが明らかになった(甲B71−11,甲B85−4,5)。
  3.  約10メートルの防潮堤が必要と解析
     この結果を受けて,被告東電の土木調査グループ担当者は,東電設計株式会社に対して,原子炉建屋等が設置された敷地に対する津波の遡上を防ぐため,敷地にどの程度の高さの防潮堤を設置する必要があるかに関する解析を依頼し,平成20年4月,東電設計株式会社から,O.P.+10メートルの高さの敷地上に,さらに約10メートルの防潮堤を設置する必要があるとの解析結果を得た。同月,この結果は被告東電の土木調査グループから,同機器耐震技術グループ,及び建築グループなど関係グループに伝えられた(甲B85−5)。
     平成20年6月10日,土木調査グループ担当者は,訴外武藤に対し,資料を示して平成20年3月計算の結果を示すとともに原子炉建屋等を津波から守るため,O.P.+10メートルの敷地上に高さ10メートルの防潮堤を設置する必要があること等を説明した(甲B71−11,12,甲B85−5)。
  4.  当初方針の変更
     訴外武藤は,平成20年7月31日,土木調査グループに対し,当初方針を変更し,耐震バックチェックに長期評価を取り入れず,津波評価技術のみに基づいて実施するよう指示した(甲B71−12,甲B71−6)。
[1] 甲B40−7より東北大学大学院工学研究科今村文彦教授と考えられる

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 3 結果回避可能性について

 以上より,被告東電は,(1)平成20年3月ころ,津波評価技術と長期評価の知見による解析を行い敷地南部でO.P.+15.7メートルの津波水位を予測していた,また(2)平成20年4月ころ,(1)の結果をもとに津波の遡上を解析し,O.P.+10メートルの高さの敷地上にさらに約10メートルの防潮堤を設置する必要があるとの結果を得ていた。
そもそも本件福島第一原発事故の原因となった津波の高さについては原被告間で争いがあるところであるが[2],検察審査会も認定(甲B71−24)している通り,O.P.+10メートルの敷地上に高さ10メートルの防潮堤を設置すれば(ないし規制権限を行使し設置を促せば)十分に結果回避可能であったことは明白である。

以上

[2] 原告準備書面(13)第2,3にて詳述。東電事故報告書は,本件地震に伴う津波の浸水高をO.P.+約11.5〜15.5メートルと発表する一方,津波波源モデルを用いた津波シミュレーションの結果から津波の高さを敷地中央付近で13メートルと発表。名古屋大学鈴木康弘教授らは,津波高が「1号機付近で約10メートル以下」「4号機付近で13メートル以下」であると指摘し,津波襲来時には本件地震によって地盤が0.5〜0.65メートル沈下しているため,さらに津波の高さが低くなると指摘。平成23年6月原子力災害対策本部作成「原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書−東京電力福島原子力発電所の事故について−」は「今回の地震による津波水位について,専門家は,東京電力より公開された津波の防波堤(10m)の越流状況の写真(図 III-2-5 参照)に基づき,10m以上と推定している。」と報告

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