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★ 原告ら準備書面(13) ―津波について―
 第2 「予見対象津波」はOP+10を超える津波である 
平成27年5月12日

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第2 「予見対象津波」はOP+10を超える津波である
 1 被告らの主張
 2 原告の主張
 3 実際に発生した津波の津波高について
 4 予見可能性の程度



第2 「予見対象津波」はO.P.+10を超える津波である


 1 被告らの主張

  (1) 被告らの主張

 被告国らは、予見可能性の対象を実際に福島第一発電所に発生、到来した本件地震及びこれに伴う津波(O.P.+約15.5メートル(これは浸水高+O.P.+10))と同程度の地震及び津波の発生、到来が必要である、敷地高を超える津波が発生、到来したというだけでは福島第一発電所事故が発生したと認める証拠はない、などと主張する(被告国第3準備書面第2、被告東電第3、3)被告らの主張するO.P.+約15.5メートルという数値は、福島第一原発1乃至4号機側主要建屋設置エリアの浸水高のうち、最も浸水高の高い数値を基準としたものと思われる(被告国第3準備書面13頁、甲A2-19)。
 しかし、被告らの主張は、徒らに津波高と浸水高を混同し、浸水高を強調することにより本件津波が想定を超えるとの主張に誤導するものである。以下詳述する。

  (2) 浸水高は津波高を上回る

 原告準備書面(4)第2、2(4)での定義のとおり、津波波高は「検潮所や沖合の波高計で計測された津波の高さ。」、浸水高は「陸上での津波高さを表す。建物に残った水跡や付着したゴミなどで測定されることが多い。」。すなわち、津波の高さはあくまで海岸線において議論されるものであり、浸水高と異なるものである。
 津波が敷地内に流入した場合、建物間の空間への局所的な流入など、複雑な現象が生じる。また、本件のように激しい破砕が生じている場合、浸水高と津波高が著しく乖離する可能性がある。名古屋大学大学院環境学研究科鈴木康弘教授らは、東日本大震災直後の航空写真の遡上範囲から津波高を試算した結果、東京電力が発表した「浸水高約14〜15mの浸水がほぼ全域で生じている」とする報告について、「これは海岸における津波の高さそのものではなく、陸上に遡上した津波が、地形や建物等の効果によって高まったものである可能性がある」と指摘し、浸水高と津波高が大きく乖離した可能性を指摘する(甲B29:雑誌「科学」2011.9月号掲載 鈴木康広教授ら『福島第一原発を襲った津波の高さについての疑問』)。
 実際に、被告東電の試算によれば本件津波高は13メートル、被告国の報告によれば本件津波高は10メートル超、鈴木教授らの試算においては「1号機付近で約10メートル以下」であり、浸水高は津波高を著しく上回る(詳細は後述)。

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 2 原告の主張

  (1) 結果発生の現実的危険性を有する津波

 過失の予見の対象は結果発生の現実的危険を有する事象である。
 以下に述べるとおり、福島第一原発1号機ないし4号機の敷地高であるO.P.+10メートルを超える津波が到来すれば、敷地内が溢水し、シビアアクシデントに達するのであり予見の対象はこれにつきる。

  (2) 津波の性質より敷地高と等しい高さの津波が到来すれば敷地が溢水する

  ア 津波は多量の海水が洪水のように押し寄せる
 津波は、地震により海底面が大きく盛り上がることによって発生するもので、海上で日常的に発生する波浪とは全く性質が異なる。地震が発生すると、海のプレートによって地球内部の方向に引きずり込まれていた陸のプレートが、海面の方向に大きく跳ね上がり、一挙に跳ね上がったプレート(海底面)は、その上にある海水をぐっと持ち上げる。持ち上げられた大量の海水により、海面が高く盛り上がるが、盛り上がった海面に、今度は重力によって復元する力が働き、盛り上がりの頂点から四方に海水が広がっていく。これが津波であり、海上に突如出現する洪水のようなものである。
 津波は、海面から海底まですべての海水がいっせいに水平方向(真横)に流れていく。津波は、沖合から次々と押し寄せてくる水の塊であり、堤防を乗り越えて内陸の奥深くまで侵入する。
 また、高波と異なり、津波は水平方向に流れるため、波高が低くても強いエネルギーを持ち、車や建物さえ押し流してしまう。
 押し寄せる海水の量も極めて多く、例えば、本件地震では、南北500キロメートル、東西250キロメートルと広大な範囲でプレート境界の破壊が起き、海底に大きな隆起があったとみられる部分だけでも200キロメートル×100キロメートルある。広大なエリアで一挙に海底が数メートル隆起した場合、それに伴って持ち上げられた海水の量も表現できないほど多量となる。その多量の海水が洪水のように四方を広がっていくのである(甲B1-40〜42)。

  イ 津波は長時間にわたって何度も発生し続ける
 津波は、一度岸に衝突してもそのまま消えるのではなく、島や半島などに反射して戻ってくるといった性質を持ち「一度やってくるとなかなか帰ってくれない」と言われる。本件地震で発生した津波も、長時間にわたって各地の海岸線にとどまり、仙台湾では本件地震発生1時間以上経過後に、長時間にわたって何度も津波に襲われている(甲B1−50〜52)。福島第一原発においても、本件地震に伴う津波の第1波が平成23年3月11日15時27分頃到達し、その後第2波が同時35分頃に到達しており、その後も断続的に福島第一原発に津波が到達している(甲A2-19)。

  ウ 水深が浅いほど高くなる性質
 準備書面(4)第2(3)で述べたとおり、津波の高さは、水深が浅い場所ほど高くなる性質を有する。すなわち、津波のスピードは浅瀬に向かうにつれて急激に落ちるため、後から来た波が前の波に追いつき、次から次へと重なった波が一度に押し寄せる結果、波高が高くなる性質を有する。
 そのため、津波が防波堤に達すると、大量の海水がせき止められるが、後ろから来た速い波が次々重なっていき、防波堤を越える高さに達するのである。そして、いったん防波堤を越えた海水は、一気に陸地になだれ込むことになる。従って、もし仮に波高10mの津波を防波堤でせき止めようと思ったら、防波堤の高さは10mでは不十分であり、より高くしなければならないのである。


  エ 小括

 以上の津波の性質からは敷地高を超える程度の津波が到来すれば敷地が溢水する。

  (3) 溢水勉強会での結果

 原告準備書面(4)第6、3で述べたとおり、平成18年5月11日付溢水勉強会資料(甲B18)は、津波高が敷地高を超えれば最終ヒートシンク及び電源系統が損傷することを明らかにした。この点、被告らは、溢水勉強会における仮定が「無限時間継続する」であるため同報告書が信用できないと述べるかもしれない(被告東電準備書面(3)36頁参照)。
 しかし、津波の「長時間にわたり発生し続ける」性質からは、かかる仮定は妥当であり溢水勉強会の報告結果は津波高が敷地高を超えればシビアアクシデントに至ることを根拠づけるものである。

  (4) 東電事故調(福島原子力事故調査報告書:乙B3の1)

 被告東電作成の福島原子力事故調査報告書(乙B3の1)31頁以下において、被告東電は、建屋1階に存在するルーバ(非常用D/Gへの外気取入口)が津波の非常用D/G室への主たる浸入口となったとして、「建屋の周りが水に覆われてしまえば、非常用D/Gが設置されている建屋の種類や設置場所に関係なく、ルーバ等の浸水ルートとなり得る開口部と浸水深さの高さ関係で非常用D/G自体の浸水につながるものと考えられる。」と報告した。さらに、同報告書は「経済産業省所管の独立行政法人原子力安全基盤機構の報告書(「地震に係る確率論的安全評価手法の改良BWRの事故シーケンスの試解析(平成20年8月)」及び「平成21年度地震に係る確率論的安全評価手法の改良BWRの事故シーケンスの試解析 (平成22年12月)」)において、プラントに津波が到達するほどの高い津波の場合、安全上重要な施設に被害を生じ炉心損傷に至ることが報告されている。」(31頁)と述べている。
 したがって、被告東電も敷地高を超える津波により炉心損傷に至ることを自認しているのである。

  (5) 小括

 以上より、福島第一原発1号機ないし4号機の敷地高であるO.P.+10メートルを超える津波高の津波が到来すれば、敷地内が溢水し炉心損傷に至る。
 よって、予見の対象はO.P.+10メートルを超える津波である。

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 3 実際に発生した津波の津波高について

  (1) はじめに

 上記のとおり、予見対象津波は結果発生の現実的危険を有する「O.P.+10メートルを超える津波」でありそれで足りる。
 ここで、事故後の調査の進展により津波高に関する報告がなされているため敷衍して説明する。

  (2) 被告東電の報告書の疑義

  ア 被告東電は津波高を13メートルと発表
 本件津波の津波高は、波高計が損壊したため正確な記録は残されていない[1]。被告東電の報告書は、本件地震に伴う津波の浸水高をO.P.+約11.5〜15.5メートル(浸水 約1.5〜5.5メートル)と発表する一方、津波波源モデルを用いた津波シミュレーションの結果から、津波の高さを敷地中央付近で13メートルと発表した。
 しかし、被告東電の13メートルという試算には疑義がある。

[1] 福島第一原発沖合1.5kmの波高計の測定限界は±7.5メートルである。15時27分ころ到達したとされる津波第1波の波高は約4メートル、第2波以降の波高は不明である。(甲A1-213、214)

  イ 被告東電の津波シミュレーションは実測値を上回る
 被告東電は、平成23年7月8日に保安院に提出した「福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所における平成23(2011)年東北地方太平洋沖地震により発生した津波の調査結果にかかる報告(その2)」(以下、「東電津波再現計算報告書」という)の一般非公開の詳細版において津波の再現計算を行っている。東電の再現計算は、各地の浸水高、遡上高と合致するように断層モデル(波源モデル)を設定するというものであるが、浸水高及び遡上高を再現できる断層モデルが必ずしも津波高と合致するわけではない。
 東電津波再現計算報告書の解析結果は、最初に行った断層モデル(下図【図省略】M24)による計算波形においては波高計実測値と比較して、津波第1波の波高を5割増し(実測値4m、計算値6m)に過大評価するものであった。また、別の断層モデル(滑り量をM24の1.23倍としたモデル、下図M45)による計算波形は、第1波の波高を実測値の8割増しに過大評価するものである(甲A1:国会事故調査報告書添付資料74〜77頁)。
 したがって、被告東電が公表する津波高13メートルは過大評価されている可能性が高い(甲B29:『福島第一原発を襲った津波の高さについての疑問』も同旨)。

[甲A1-75 国会事故調資料編]【図省略】

  ウ 名古屋大学大学院環境学研究科鈴木康弘教授の試算
 津波の高さはあくまでも海岸線において議論されるものであり、浸水高や遡上高と混同してはならないことは先述した。
 名古屋大学大学院環境学研究科鈴木康弘教授らは、東日本大震災直後の航空写真の遡上範囲から津波高を試算した結果、東京電力が発表した「浸水高約14〜15mの浸水がほぼ全域で生じている」とする報告について、「これは海岸における津波の高さそのものではなく、陸上に遡上した津波が、地形や建物等の効果によって高まったものである可能性がある」と指摘する。
 また、鈴木教授らは、敷地内において津波波上跡が確認された、下図【図省略】A、B、C地点の標高が各約10m、10m、13mであることから、津波高が「1号機付近で約10メートル以下」「4号機付近で13メートル以下」であると指摘する。さらに、津波襲来時には本件地震によって地盤が0.5〜0.65メートル沈下しているため、さらに津波の高さが低くなるとも指摘している(甲B29:雑誌「科学」2011.9月号掲載 鈴木康広教授ら『福島第一原発を襲った津波の高さについての疑問』 甲B30-105:「地震と津波」)。

  (3) 被告国の報告書

 平成23年6月に原子力災害対策本部が作成した「原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書−東京電力福島原子力発電所の事故について−」は、「1〜4号機の原子炉建屋、タービン建屋等の海側の敷地の浸水高は、図中 H〜K 地点において、O.P.約+14〜15m(O.P.:小名浜港工事基準面)である。今回の地震による津波水位について、専門家は、東京電力より公開された津波の防波堤(10m)の越流状況の写真(図 III-2-5 参照)に基づき、10m以上と推定している。」》と報告する(甲B31:V-28頁〜29頁)。すなわち、被告国の公式見解としては津波高「O.P+10メートル超」が示されている。

図III-2-5 福島第一原子力発電所の防潮堤を越流する津波の状況 【図省略】

  (4) 小括

 以上、事故後の調査の進展により、本件津波の津波高が10メートル超程度であることが明らかになっている。

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 4 予見可能性の程度

  (1) 被告らの主張

 被告らは、要旨、告の主張する各知見では、本件において予見可能性は認められないなどと主張する。
 しかし、原子力発電所で大規模事故が発生した場合の被害の甚大性から、被告らに求められる注意義務の程度は極めて高い水準のものであって、既に原告準備書面(4)で主張した長期評価以下の各種知見の存在をもって、被告らは、具体的に特定された危険として予見すべきであった。
 以下詳述する。

  (2) 伊方原発訴訟最高裁判決では、万が一にも原発事故が起きないようにすることが必要と判示している

 伊方原発訴訟最高裁判決(平成4年10月29日第一小法廷判決)は「原子炉設置許可の基準として、右のように定められた趣旨は、原子炉が原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する核燃料物質を燃料として使用する装置であり、その稼働により、内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生させるものであって、原子炉を設置しようとする者が原子炉の設置、運転につき所定の技術的能力を欠くとき、又は原子炉施設の安全性が確保されないときは、当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命、身体に重大な危害を及ぼし、周辺の環境を放射能によって汚染するなど、深刻な災害を引き起こすおそれがあることにかんがみ、右災害が万が一にも起こらないようにするため」としている。最高裁は、原子力発電所の事故が「その周辺住民等の生命、身体に重大な危害を及ぼし、周辺の環境を放射能によって汚染するなど、深刻な災害を引き起こすおそれがあること」を理由に、原子炉等規制法の原子炉設置許可基準は原発の大規模事故が「万が一にも起こらないようにするため」に定められたものと判示している。

  (3) 上記判決の理論は福島第一原発事故にも共通する

 上記判決は、原子炉設置許可処分にかかる判断であるが、大規模事故が起きた場合の被害の甚大性、原発の安全確保の不可欠性は、既に原発が設置され、稼働中に発生した福島第一原発事故にも共通するものである。
 上記判決は、万が一にも原発の大規模事故発生による甚大な災害が起きないようにすることを求めており、原子力発電所で大規模事故が発生した場合の被害の甚大性から、被告らに求められる注意義務の程度は極めて高い水準のものである。
 被告らに求められる極めて高度な水準の注意義務からかんがみると、既に原告準備書面(4)で主張した長期評価以下の各種知見の存在をもって、被告らは、具体的で明白に特定された危険として予見すべきであった。
 したがって、被告らの主張は認められない。

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