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★ 準備書面(18) ―因果関係論・被告東京電力共通(5)に対する反論― 
 第4 被告東京電力引用の裁判例は本件訴訟では参考とならないこと 
平成27年7月1日

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第4 被告東京電力引用の裁判例は本件訴訟では参考とならないこと
 1 争点が本件訴訟とは異なること
 2 国内法の定める公衆被ばく線量限度の位置付けが適格でないこと
 3 科学的知見と国内法との関係の理解も的確でないこと 29
 4 受忍限度論を採用する根拠がないこと



第4 被告東京電力引用の裁判例は本件訴訟では参考とならないこと
〜 被告東電準備書面(5)の第8「司法判断で科学的知見や放射線防護の考え方等が考慮されていること」に対する反論)



 1 争点が本件訴訟とは異なること

 被告東京電力の引用する東京地裁平成25年10月25日判決(乙D共39)では,当該事件原告は,被侵害権利として,被ばくによる健康リスク増加を主張している。すなわち,同判決における争点は,被ばくにより健康リスクが増加するという損害を受けるか否かである。そして,公衆被ばく線量が年間1ミリシーベルトと定められていることは,同判決においては同1ミリシーベルトを超える量の被ばくをすれば身体・健康上の利益について社会受忍限度を超える法益侵害が直ちに生じるか否かという損害論に位置づけられている。
 一方,本件訴訟では,公衆被ばく線量が年間1ミリシーベルトと定められていることは,避難者が当該状況で避難するないし避難を継続させることが相当であり,当該避難に基づく損害は通常損害であるという,相当因果関係の問題として位置づけている。
 東京地裁平成25年10月25日判決と本件訴訟は,その争点や公衆被ばく線量が年間1ミリシーベルトであるという事実の位置づけが異なるのである。


 2 国内法の定める公衆被ばく線量限度の位置付けが適格でないこと

 本件訴訟における相当因果関係の有無の内実は,原告の避難行為が社会通念に照らして相当性といえるか否かにある。そして,相当因果関係の判断において,確立した社会規範としての国内法が公衆被ばく線量限度をどのように定めているかは,極めて重要な評価根拠事実である。
 原告準備書面(2)本準備書面第2で述べたとおり,国内法の定める公衆被ばく線量限度は,「これを超えれば個人に対する影響は容認不可と広くみなされるであろうようなレベルの線量」としてICRPが勧告した公衆被ばく線量限度年間1ミリシーベルトを導入したものであり,刑罰を用いてでも,線量限度を超える被ばくから公衆を徹底的に保護するというのが国内法の定めである。
 すなわち,ICRPは,「原子力産業の支配下にあって,原発産業を保持することを重要な目的とする国際的な機関」である。そのICRPですら,1990年勧告で,「公衆被ばくについての線量限度」について,「年間1ミリシーベルトを勧告する」としている点は注目に値する。1977年勧告の中で採用され,その後も堅持されてきたLNT仮説を前提に,同1990勧告は,公衆の被ばくに関する実効線量を年間1ミリシーベルトとすることを基本とするものである。
 ICRPにおいて新しい勧告が出された場合には,放射線障害の防止に関する技術的基準の斉一を図るため,文部科学省放射線審議会へ諮問し,同審議会の中で,放射線防護関係法令へのICRPの導入について検討し,その審議に基づき国内の関連法令が整備されることとなる。日本においては,同1990年勧告についての放射線審議会において十分な審議が行われ,当該審議に基づき,国内法が厳格な法的担保を講じて,年間1ミリシーベルトを超える被ばくから国民を保護する形で整備された。なお,具体的法令は,核原料物質・核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律,放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律,医療法,薬事法,臨床検査技師・衛生検査技師等に関する法律,労働安全衛生法・電離放射線障害防止規則,獣医療法,鉱山保安法,電気事業法,船員法,船舶安全法,航空法,国家公務員法・人事規則10−5と多数に及ぶ。
 以上からすれば,日本国内においては,継続して公衆被ばく線量は1ミリシーベルトであり,国民が年間1ミリシーベルト以上の被ばくを受けないよう保護していることは明らかである。
 したがって,公衆が被ばく線量年間1ミリシーベルトを超えて被ばくすることは絶対に容認しないというのが我が国の法規範であり,法規範も容認しない公衆被ばくを避ける行為が社会通念に照らして相当であることは,社会通念に基づく相当因果関係の判断において決定的に重要である。
 しかし,東京地裁平成25年10月25日判決(乙D共39)では,国内法の制定経過や,国内法における公衆被ばく線量限度の意義についての主張立証が行われていないため,国内法を適格に位置付けた相当因果関係判断の枠組みが採用されていない。そのため,本件訴訟において採用されるべき相当因果関係の判断枠組みとは異なった相当因果関係判断枠組みとなっているという点からも,同判決は,本件訴訟では参考とはならない。

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 3 科学的知見と国内法との関係の理解も的確でないこと

 東京地裁平成25年10月25日判決は,「上記各見解のいずれを採用するにしても,100ミリシーベルト以下の低線量被ばくの健康リスクの増加は非常に小さいとされており」(乙D共39)として,低線量被ばくによるリスクがあたかも無視しうるものであるかのように判示しているが,本準備書面第3で述べたとおり,低線量被ばくによるリスクを肯定する科学的知見も多数存在する。
 そもそも,本準備書面第2で述べたとおり,国内法は,低線量被ばくの影響に関する科学的知見として諸説あることを当然の前提として,「これを超えれば個人に対する影響は容認不可と広くみなされるであろうようなレベルの線量」としてICRPが勧告した年間1ミリシーベルトを線量限度としている。すなわち,科学的知見として諸説あろうと,1ミリシーベルトを超える公衆被ばくは容認しないというのが確立した法規範であり,ここに論争の余地はまったくない。
 しかし,同判決では,このような科学的知見と国内法の関係が,訴訟当事者から適格に主張立証されていないため,判決理由としても両者の関係について適格に触れられておらず,両者の関係を的確に踏まえた主張立証がされている本件訴訟には,同判決は参考とならない。


 4 受忍限度論を採用する根拠がないこと

 さらに,東京地裁平成25年10月25日判決は,原告に権利侵害が生じたか否かを受忍限度論によって判断している点で誤っている。
 そもそも受忍限度論は,生活妨害(騒音・振動,粉塵,煤煙,排気,臭気,廃汚水,日照・通風妨害,電波障害等)が適法な権利行使によって生じているという類型の不法行為において,不法行為の成否を画する判断基準とされる。
 しかし,本件においては,原告が被る損害は,そもそも生活妨害という類型に当てはまらない。すなわち,仮に適法な権利行使な権利行使であっても,年間1ミリシーベルト超の公衆被ばく線量限度は許容し難いからである(年間1ミリシーベルト超の公衆被ばく線量限度は,理由の如何を問わず,刑罰の制裁をもって担保されている)。
 また,仮に空間線量が年間1ミリシーベルト超に至らないとしても,受忍限度論の適用はあり得ない。けだし,本件における放射性物質の外部放出は,適法な権利行使でないからである。
 よって,同判決は,受忍限度論の理解と適用を誤った判断であるといわざるを得ない。

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