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★ 準備書面(53) −損害賠償の算定基準−
 第2 東電基準・原賠審指針およびADR基準が最低限度保障されるべきであること 
平成29年8月16日

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第2 東電基準・原賠審指針およびADR基準が最低限度保障されるべきであること
 1 各基準の名称と本準備書面別紙
 2 原賠審指針及びADR総括基準
 3 ADR運用基準
 4 東電基準
 5 東電基準(別紙1の1,2),原賠審指針(別紙3の1〜9),ADR総括基準(別紙2)およびADR運用基準(別紙4の1,2)の内最も優先的に適用されるべき基準



第2 東電基準・原賠審指針およびADR基準が最低限度保障されるべきであること


 1 各基準の名称と本準備書面別紙

  (1) 東電基準

 被告東京電力は,被害者からの直接請求に対して,原子力損害賠償紛争審査会が策定した「原子力損害の範囲の判定等に関する指針」を踏まえ,同指針に示された損害の範囲に対する具体的な算定基準を定め,同基準に基づいて賠償を行ってきた(甲D共224・2頁「はじめに」)。以下,東京電力の定めた直接請求に対する賠償基準を「東電基準」という。
 東電基準を整理したものが,別紙1の1「東電基準目録1」,別紙1の2「東電基準目録2」である。

  (2) ADR総括基準

 原子力損害賠償紛争解決センター(以下「センター」という。)は,総括委員会を設け,センターに申し立てられたADRにつき,複数の事件に共通する一定の項目について,総括基準を策定した(甲D共226の2)。以下,この総括基準を「ADR総括基準」という。
 ADR総括基準を整理したものが,別紙2「ADR総括基準目録」である。

  (3) 原賠審指針

 原賠審は,「東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する第一次指針」の他,第二次指針,中間指針等の指針を定めた(甲D共229の1〜甲D共229の12)。以下,これらの基準をまとめて「原賠審指針」と総称する。
 原賠審指針は、原賠法18条2項2号に基づき、「原子力損害の賠償に関する紛争について原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針」として原賠審が定めるものである。
 原賠審指針について,第一次指針など個別の指針の賠償基準を整理したものが,別紙3の1「第一次指針目録」から別紙3の9「中間指針第四次追補(平成29年1月31日改訂)目録」までの各目録である。

  (4) ADR運用基準

 センターは,ADR手続において,ADR総括基準に基づく損害額の認定が可能な場合には同基準により,同基準には明示に定められた基準がない場合には,原賠審指針に基づき,個別に損害額を認定して和解案を当事者に示してきた。さらに,ADR総括基準にも原賠審指針にも定めがない損害についても,和解事例が集積されており,一定の運用上の基準が存在しているといえる。以下,この運用上の基準を「ADR運用基準」という。
 ADR運用基準については,福島県弁護士会の設置する「原子力発電所事故被害者救済支援センター運営委員会」において分析されている(甲D共231の1,232の2)。

  (5) ADR基準

 ADR総括基準とADR運用基準とをあわせて,以下,単に「ADR基準」ということがある。

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 2 原賠審指針及びADR総括基準

  (1) ADRと原賠審指針・センターの策定ないし設置趣旨

 ADRは,直接請求や訴訟とは別に設けられたもので,その目的は「迅速かつ適切な解決」である(仲介業務規程1条)。
 不法行為の被害者は,加害者に対して損害賠償を請求する場合,加害者の故意・過失・法益侵害・損害の発生及び額・相当因果関係などを立証しなければならないのが原則である。しかし,本件のように,原子力発電所がひとたび事故を起こせば,被害者数,損害の種類の多様性,請求数,賠償額等において前例のない大規模な請求となる。このような賠償請求を被害者と東京電力との直接交渉に委ねておけば,被害者の負担,解決の公平性・公正性・透明性に問題が残る。一方で,裁判所にすべての事案についての判断を委ねることは,被害者の負担や裁判所の処理能力から問題が残ることとなる。
 そこで,原賠審の下に,原賠審指針が定められ,センターが設けられた。

  (2) 原賠審指針及びADR総括基準の有する最低賠償額を画する機能

 被告東京電力も第29準備書面において述べているように,センターが和解の仲介を行うに際して,原賠審指針を適用するにあたり,多くの申立てに共通すると思われる問題点に関して統一的な解決を図ることを確保し,仲介委員が和解の仲介にあたって参照するための基準となる総括基準が策定され,これを示して和解仲介が行われている。
 ADRは「迅速かつ適切な解決」を目指していることから,厳格な立証手続は要しない。個々の被害者にとっての損害立証が不可能又は困難な場合であっても,このことを理由として賠償請求を否定するのではなく,当該権利・法益に客観的・類型的に結びつけられた価値を賠償するという扱いとなっているのである。
 しかしながら,第1で述べたとおり,直接請求における東電基準やADR手続におけるADR基準が採用されれば認定された損害額が,訴訟であるからという理由で厳格な立証をもとめられた結果,より低額な損害額しか認められないとすると,直接請求やADR手続を利用した者と利用しない者とで不公平な取り扱いとなる。また,仮に本訴訟において,ADR基準が採用されないとすれば,ADR手続きを経ていない原告は,今から,ADRの申立を行った方がより多くの賠償を得られるという結果を招来する可能性が高まる。しかし,そのような申立を行わざるをえないような事態を招くこと,すなわち,ADR基準が採用されないということは,原告の負担や訴訟経済を損なうものであって,許されない。
 したがって,原賠審指針及びADR基準には,原子力災害による被害者に対する賠償額の最低限を画する機能を有することが要請されているといえる。

  (3) 原賠審指針及びADR総括基準が訴訟における算定基準とされるべきこと

 そもそも,原賠審指針及びADR総括基準は,原子力災害による賠償について定めた原賠法に基づく賠償方法として策定された損害算定基準であり,被害者たる原告らを拘束するものではないものの,原子力災害における賠償義務者を拘束すべき性格を有するものである。あるいは,被害者がこれを上回る実損額を立証した場合のみ,実損額によるべきことを認めた損害額推定基準であるというべきある。
 そこで,訴訟において,各原告が原賠審指針およびADR総括基準による損害算定を主張した場合,各原告らに立証責任の負担を負わせることなく損害額の最低額を保障するという意味で,原賠審指針及びADR基準が損害算定機基準として採用されるべきである。


 3 ADR運用基準

 既に述べたとおり,ADR手続において,センターは,ADR総括基準に基づく損害額の認定が可能な場合には同基準により,同基準には明示に定められた基準がない場合には,原賠審指針に基づいて個別に損害額を認定し,さらにADR総括基準にも原賠審指針にも定めがない場合であっても,ADR運用基準によっている。センターがADR運用基準を設けることは,原子力災害による各被害者に対する賠償の公平性の観点から,至極当然のことである。
 かかる運用上の基準は,全てが公表されるには至っておらず,わずかに,「原子力損害賠償紛争解決センターにおける現時点の標準的な取扱いについて」(甲D共197の1第21頁以下)記載の基準が公表されているにすぎないことから,その他の運用基準は,公表されている和解事例(甲D共197の1,2等)から窺うしかないところではある。
 とはいえ,第1で述べたとおり,訴訟外の手続であれば東電基準やADR基準によって認定されたはずの損害額が,訴訟において厳格な立証を求められ,より低額な損害額しか認められないとすると,直接請求やADR手続を利用した者と利用しない者とで不公平な取り扱いとなる。
 したがって,訴訟において,各原告が「原子力損害賠償紛争解決センターにおける現時点の標準的な取扱いについて」(甲D共197の1第21頁以下)記載の基準を含めたADR運用基準による損害算定を主張した場合には,同じく賠償義務者を拘束する最低基準として,あるいは実損額が基準を上回る場合のみ実損額によるべきことを認めた損害額推定基準として採用されるべきである。

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 4 東電基準

 被告東京電力は,これまで,原告らの一部や訴外の避難者に対し,「補償金ご請求のご案内」と題する書面(甲D共190)を送付するなどし,原告らの一部や訴外の避難者は,同書面に記載の支払基準(東電基準)に基づき,同書面添付の請求書を利用するなどして,被告東京電力に対し,賠償金を請求した(以下,かかる請求を「直接請求」という。)。なお,被告東京電力は,平成29年7月10日時点で24回目の請求書類発送を行っている(甲D共191の1,2)。
 被告東京電力は,中間指針等の示す賠償基準に上乗せをし,被害者らに賠償するものである。
 しかも,後記第3・3(2)で述べるとおり,経済産業省エネルギー庁は,東電基準について,被告東京電力任せにせず,政府の考え方を踏まえた基準であると説明しており,被告国にも被告東京電力にも,東電基準に拘束されるべき十分な理由がある。
 したがって,別紙1の1,1の2記載の東電基準もまた,各原告らが原子力災害における損害算定基準として同基準によるべきことを主張した場合には,賠償義務者を拘束するものとして,あるいは実損害額が同基準を上回る場合のみ実損額によることを認める推定基準として採用されるべきである(別表A)。


 5 東電基準(別紙1の1,2),原賠審指針(別紙3の1〜9),ADR総括基準(別紙2)およびADR運用基準(別紙4の1,2)の内最も優先的に適用されるべき基準

 上述のとおり,原告らは,上記東電基準等が賠償義務者を拘束し,あるいは基準を上回る実損額認定のみを認める推定基準であることを主張し,原告らの主張も各別紙に適宜述べたが,各基準を比較して,各基準の中で最も優先的に適用されるべき最低基準を別表Aに示した。
 但し,今後提出する各原告に発生した個別の損害に関する主張において示したADRの和解事例の基準等が,別表Aに示した最低基準よりも高額である場合,前者の和解事例の基準等が優先的に適用されるべきであることを付記しておく。

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