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★ 準備書面(53) −損害賠償の算定基準−
 第1 はじめに〜立証の不公平性・困難性と信義則 
平成29年8月16日

目 次(←準備書面(53)の目次に戻ります。)

第1 はじめに〜立証の不公平性・困難性と信義則
 1 立証の不公平性
 2 立証の困難性と信義則



第1 はじめに〜立証の不公平性・困難性と信義則


 1 立証の不公平性

 原告ら準備書面(37)でも述べたとおり,原告らは,個別の損害費目の算定方法について,直接請求における東電の賠償基準,ADR手続における運用基準における定額によることを主張している(定額を上回る実額が立証される場合には,実額による。)。
 直接請求やADR手続では,被害者側の立証責任を軽減したうえで,最低限度の損害額として一定の抽象化を行った損害算定基準を設けている。ここで,本件訴訟において,これらの手続における立証緩和や損害算定基準を適用することなく,訴訟であることを理由として厳格な立証を被害者に求めた結果,直接請求やADR手続によるよりも低額な損害額しか認められなくなるとすると,直接請求やADR手続を利用した者と利用しない者とで,不公平な結果となってしまう。
 例えば,事故時に区域内に在住していた避難者一家4人(大人2名,中学生,高校生各1名。以下「家族A」という。)が,福島県から京都市に夜行バス(仮に片道大人1名1万円とする。)を利用して避難した場合,これらの者が,被告東京電力に対し直接請求すれば,領収書を提出することなく,直接請求における賠償基準により,一人当たり2万6000円が支払われる(甲D共224第12,141頁)。
 ところが,一方,「避難等対象者」(甲D共190第4頁)に該当しない者(仮に同様に一家4人(大人2名,中学生,高校生各1名)とし,以下,「家族B」という。)は,福島県から京都市に夜行バス(同様に仮に片道大人1名1万円とする。)を利用して避難したとしても,被告東京電力に対し,直接請求できない。
 しかし,本訴訟において家族Bに避難の相当性が認められた場合,「家族Bが夜行バス利用の領収書を提出しなければ1万円の交通費すら損害認定されない(例えば,最安値の夜行バス料金しか認定されない場合も含む。)」,あるいは,「領収書を提出しても2万6000円の支給は受けられない」というのであれば,それは,A家族との比較において,不公平であるといわざるをえない。
 そこで,本訴訟においても,原告らに厳格な損害立証を要求するのではなく,直接請求における賠償基準(「東電基準」。定義は後記第2 1項。以下、同じ),原賠法18条に基づいて原子力損害賠償紛争審査会(以下「原賠審」という。)が定める指針(「原賠審指針」)およびADRにおける算定基準(「ADR基準」)に基づく賠償が最低限度保障されるべきである。

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 2 立証の困難性と信義則

 このように考えるべき背景としては、本件被害の特殊性がある。
 本件事故による損害は、その殆どが原発事故による避難から生じたものである。
 避難とは生活そのものが根こそぎ奪われることを意味しており、生活そのものが圧迫を受けている状況において、その際に発生した損害の証拠を適切に収集保管することは著しく困難である。
 また、避難や避難生活によって生じる損害は、日々の日常生活の中で不断かつ広範に発生し、一つ一つの損害は相対的に小さいものであるから、その損害を証する証拠の収集保管には不相当なコストが発生する。つまり、逐一、領収書を保管し、それがどの出捐に結びつくものであったかを整理しておくことは、大変な作業と困難を被害者である原告らに負わせるものであって相当でない。
 加えて、信義則という観点からも被告らにおいて原告らに対し、立証の不十分さを主張することは許されない。
 そもそも、こうした立証困難な状況の発生について原告らにはいささかの落ち度もない。
 これに対し、被告らにはこの状況の発生について大きな責任がある。
 証拠の収集保管が困難となった大きな要因は、被告らが相当な賠償を行う姿勢を全く見せてこなかったことにある。
 すなわち、本件訴訟において求めているような損害について被告らが賠償すると認めたことは一切ない。被告らは、建前とは裏腹に東電基準,原賠審指針およびADR基準に基づく賠償を超える損害の賠償はできないと暗に被害者らに示してきたのである。
 避難した被害者らの多くは、いわゆる自主避難として低額一律の賠償を中間指針追補で示され、それに不満でADRを申し立てても、原賠審指針およびADR基準に基づく賠償を超える損害の賠償を認められることは殆どなかった。
自主避難の対象区域外の避難者に至っては、事実上、賠償そのものを拒まれていた。
 このような状況で東電基準,原賠審指針およびADR基準に基づく賠償を超える損害のために立証を準備することを期待できないのは当然である。
 そもそも、賠償責任があることが自明である被告東電が、いちいち直接請求やADR申請の負担を被害者である避難者らに求める姿勢そのものが大きな誤りである。
 事業活動に伴って損害を与え、そのことについて賠償責任を負っていることが明らかな事業者であれば、自ら被害者宅を訪問し、誠意をもって被害内容の把握に自ら努めるのが本来である。このことは、国民を守るべき立場にある被告国においても同様である。被告らは、こうした加害者としての当然の責務を放棄し、もって、原告らに損害回復の困難さを印象づけてきたのであり、そうした中で証拠の散逸が進行したのである。
 こうした立証困難な状況を自ら故意に作出した被告らが、裁判において、立証の不十分さを主張し、厳格な立証を求める事は信義則に反する。

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