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★ 準備書面(53) −損害賠償の算定基準−
 第3 被告らが東電基準,原賠審指針およびADR基準の採用を拒絶できないこと 
平成29年8月16日

目 次(←準備書面(53)の目次に戻ります。)

第3 被告らが東電基準,原賠審指針およびADR基準の採用を拒絶できないこと
 1 原賠審指針およびADR基準
 2 ADR運用基準
 3 東電基準



第3 被告らが東電基準,原賠審指針およびADR基準の採用を拒絶できないこと

 1 原賠審指針およびADR基準

  (1) 原賠審指針およびADR総括基準は全額賠償ではないことを前提としていること

 原賠審は,原子力損害賠償法18条に基づき設置されたものであり,その目的は和解の進行を促進することである。和解が成立するためには,当然ながら当事者間の合意が必要であり,一方当事者たる被告東京電力の意向を無視することはできない。そこで,原賠審は,被告東京電力も納得する内容の原賠審指針を定めるに至ったのである。
 第1回審査会において鎌田薫委員長が「だれが見てもこれは賠償しなければいけないというものについて,とりあえず一義的に指針を定め」るべきであるとし,原賠審指針は,「あくまでも当面のもの,最低限のもの」として策定されるものであるということが強調された。
 また,第21回審査会において,能見会長は,「指針というのは,東電を縛るものではなく,これはあくまでも東電が自主的にその指針に基いて賠償するものですから,結局,東電がどうしても嫌だと言われてしまうと動かなくなってしまう。(略)普通の損害賠償の場合であればどうであるかというのを調べた上で,東電としてもそう反対しにくい賠償というものを決めていくというのが指針の役割である。」と述べており,中間指針が全額賠償でないことが当然の前提となっているのである。この理は、中間指針を含む原賠審指針全体に妥当する。

  (2) 被告国が原賠審指針及びADR総括基準の適用を拒絶できないこと

 このように,原賠審指針及びADR総括基準は,全額賠償ではないことを当然の前提として策定されているもので,これまで述べたとおり原子力災害における最低限度の金額を画する機能が要請されているところ,かかる原賠審指針及びADR総括基準を策定したのは,被告国自身の機関たる原賠審ないしセンターである。にもかかわらず,被告国が原賠審指針及びADR総括基準によることを否定してこれを下回る損害額算定を主張することは,そもそも原賠法18条の予定するところではない。
 したがって,被告国がこれら原賠審指針及びADR総括基準を用いることを否定することは,原賠法18条ないしその趣旨に反する行為であり,また,信義則や禁反言の法理にも反し,許されない。
 また原賠審指針やADR基準は,原子力災害における損害額の最低額を画するものであって,相当因果関係ある損害については最低限度の基準として公平に適用されなければならず,被告国が原賠審指針,ADR総括基準の採用を拒絶することは,憲法14条にも反する不合理な差別である。

  (3) 被告東京電力も原賠審指針及びADR総括基準の適用を拒絶できないこと

 同じく,賠償義務者たる被告東京電力が原賠審指針やADR総括基準を否定してこれらの基準以下の損害額しか賠償しないという態度をとることについても,原賠法の趣旨に反し,また,原賠審指針・ADR総括基準の策定過程においてもまったく想定されていない。
 しかも,被告東京電力は,後述とおり,原賠審指針やADR総括基準に依拠し自ら策定した東電基準の正当性を主張している以上,その依拠する原賠審指針及びADR総括基準の適用を否定することは,信義則ないし禁反言の法理に反する。
 よって,被告東京電力が原賠審指針及びADR総括基準の適用を否定してより低い損害額を主張することは,原賠法の趣旨,信義則ないし禁反言の法理に反し,許されない。


 2 ADR運用基準

 被告国がADR運用基準の採用を拒絶することは,原賠審指針およびADR総括基準と同様に,原賠法18条に反するかもしくはその趣旨に反する行為であるうえ,信義則ないし禁反言の法理に反し,憲法14条にも反する不合理な差別であって,許されない。
 被告東京電力がADR運用基準の採用を拒絶することも,原賠審指針およびADR総括基準と同様,原賠法18条ないしその趣旨や,信義則・禁反言法理に反し許されない。

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 3 東電基準

  (1) 被告東京電力が東電基準の適用を否定することは許されないこと

 被告東京電力は,被告東京電力共通準備書面(1)において,「中間指針追補及び中間指針第二次追補は,それ自体相当性を有するものである」としたうえで,さらに,被告東京電力としては「中間指針追補及び中間指針第二次追補を踏まえつつ,これに付加して賠償することを内容とする賠償基準を策定・公表している」と主張している。また,「中間指針等に基づく精神的損害の賠償の考え方及び損害額の指針」は「裁判上も十分に考慮されるべきものである」とし,結語において「中間指針等に基づく被害者の精神的損害の賠償の考え方及びこれに基づきさらに上乗せをして被告東京電力が策定した賠償基準には,その内容において十分な合理性・相当性があることは明らか」であるとして,被告東京電力自ら,東電基準に正当性があると主張している。
 また,「補償金ご請求のご案内」(甲D共224)2頁でも,被告東京電力は,「弊社は,文部科学省に設置された第三者機関である原子力損害賠償紛争審査会が策定した「原子力損害の範囲の判定等に関する指針(以下「指針」といいます)」を踏まえ,指針に示された損害の範囲に対する「補償の具体的な算定基準(以下「算定基準」といいます)」を定め,その基準にもとづいてご被害者のみなさまに対する補償を実施させていただくことといたしました。 算定基準の策定にあたっては,多くのご被害者の方に公正かつ円滑に補償をさせていただくため,「指針の趣旨を踏まえた公平性のある基準とすること」,「ご避難を余儀なくされ,日々の生活に大変なご不便をおかけした方々に十分な配慮を行うこと」を基本方針とさせていただきました」と謳っているところ,「公正」には「平等」が含まれることは明らかである。
 従って,被告東京電力が東電基準を下回る損害額を主張することは,信義則や禁反言の法理に反し,許されない。

  (2) 被告国が東電基準の適用を否定することも許されないこと

 平成24年7月20日の経済産業省エネルギー庁の「避難指示区域の見直しい伴う賠償基準の考え方」(1)(2)は,下記のとおり,東電基準が被告東電任せではなく,エネルギー庁が,「被害を受けた自治体,住民の方々の意見や実情を伺い,これを踏まえて賠償基準に反映させ」たことを明記している(下線は原告ら代理人)。
 にもかかわらず,被告国において,本件訴訟において東電基準の採用を拒絶することは,被害者の意見や実情を伺ったうえで政府の考えを反映させて被告東京電力に策定させた賠償基準を自ら否定するに等しく,信義則ないし禁反言の法理から許されない。また,このような被告国の説明にもかかわらず訴訟において東電基準の適用を否定する態度をとることは,憲法14条に反する不合理な差別である。
      記
平成24年7月20日 経産省 資源エネルギー庁
 避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方(甲D196の1)
(1)本年3月に,原子力損害賠償紛争審査会が区域見直しに伴う賠償の基本的な考え方に関する中間指針第二次追補の公表を行いました。この指針を踏まえて,賠償の実施主体である東京電力が実際の賠償金支払いの詳細を定めた賠償基準を策定することとされていました。

(2)しかしながら,今回の賠償基準は今後の避難指示区域見直し及び被害者の生活再建に密接に関わるものです。そのため,政府としても,その策定を東京電力任せにせず,被害を受けた自治体,住民の方々の意見や実情を伺い,これを踏まえて賠償基準に反映させるべき考え方について取りまとめを行うこととしました。

(3)一部の論点については関係自治体等との間で,今後も議論を継続することとしていますが,継続して検討する論点や,基準として対応すべき新たな問題点が明らかになれば,追加的な基準を策定する等の対応を行うこととします。

(4)なお,今回,政府の考え方を踏まえて東京電力から公表される賠償基準は,住民による詳細な損害証明等を経ることなく,より多くの住民が簡便かつ迅速に賠償金の支払いを受けるための選択肢を提供するものです。

(5)個別に特別な事情があるなど,基準によることが適当ではない場合には,個別請求による手続きや,あるいは和解仲介手続き等による解決を選択することも当然に可能です。

  (3) 被告らが東電基準が最低基準であると認めているに等しいこと

 なお,平成24年7月5日決定(甲D共193の13)の総括基準10「直接請求における東京電力からの回答金額の取扱いについて」(甲D共193の15)では,「被害者の東京電力に対する直接の請求に対して東京電力の回答があった損害項目については,当センターは,東京電力の回答金額の範囲内の損害主張は格別の審理を実施せずに回答金額と同額の和解提案を行い,東京電力の回答金額を上回る部分の損害主張のみを実質的な審理判断の対象とする。」とされており,東電基準額が最低額であることを,被告東京電力も,被告国(センター)も認めているに等しい。

  (4) 小括

 以上より,被告東京電力が東電基準の採用を拒絶することは信義則ないし禁反言の法理に反し許されない。また,被告国が東電基準の採用を拒絶することは,憲法14条に反する不合理な差別である。

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