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★ 原告準備書面(21) ―中間指針追補および同第二次追補の位置づけについて― 
 第3 中間指針等における「自主的避難等対象区域」設定経過の問題点 
2015〔平成27〕年9月18日

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第3 中間指針等における「自主的避難等対象区域」設定経過の問題点
 1 自主的避難等対象区域設定に至る議論経過
 2 区域外避難者に対する賠償指針策定にあたって確認された「大前提」(第12回会合 平成23年7月29日)
 3 原賠審が当初は賠償対象となる避難者の範囲をきめ細やかに考えていこうとしていたこと
 4 避難者の範囲確定のための議論が途中より行政(市町村)単位とするものに変化したこと
 5 「自主的避難等対象区域」設定の問題点
 6 小括



第3 中間指針等における「自主的避難等対象区域」設定経過の問題点


 1 自主的避難等対象区域設定に至る議論経過

 原賠審では,第12回会合(2011〔平成23〕年7月29日)から第18回会合(同年12月6日)までの間に,「自主的避難等対象区域」の設定に至る審議がなされた。
 原賠審における議論における特徴として,次の点があげられる。
  1.  区域外避難者への賠償指針も,迅速な当事者による自主的解決のための最低限の基準として策定するものとして議論されたこと
  2.  区域外避難者等への賠償指針を検討するにあたって,当初は,福島第一原発からの距離や放射線量,住民の避難動向その他の様々な要素を考慮しようとしたこと
  3.  ところが,そのような要素は十分に議論されないまま,対象区域をどのような単位で区域設定すべきかの形式的議論へと移行してしまったこと
  4.  しかも,第18回会合で唐突に事務方から示された,福島県内の行政管区単位で決められた「自主的避難等対象区域」が採用されたため,市町村単位で見た場合には,福島第一原発からの放射線量や距離における逆転現象まで生じる不合理な設定となってしまったこと
 以下,詳述する。


 2 区域外避難者に対する賠償指針策定にあたって確認された「大前提」(第12回会合 平成23年7月29日)

 原賠審では,避難指示区域外からの避難を「自主的避難」と呼ぶ。原賠審で「自主的避難」をした者に対する賠償について初めて議論されたのは,原発事故が発生してから約4か月が経過した2011〔平成23〕年7月29日開催の第12回会合(甲D共61)であった。
 同会合で,能見善久会長は次のように述べ,避難指示区域外の避難者への賠償について問題提起をした。
「指定された区域外で避難した人の,いわゆる自主避難というふうに一般的に言われているようですが,そういう人たちの避難のためにかかった損害,あるいは精神的損害,その他の損害,こういうものをどうするかという大きな問題があるわけですね。」(甲D共61・28頁)
 この日の会合では,第2で引用した鎌田薫委員の発言のとおり,中間指針が迅速な当事者間の自主的解決のための最低限の賠償指針であることが,「大前提」として確認されている。重複するが,重要な発言であるため,鎌田委員の発言を引用する。

「この指針の中で,具体的に賠償されるべき損害の範囲として摘示されなかったものは,賠償されるべき損害の範囲から外れているんだというわけではないということ,つまり,どこまでが賠償されるべき損害の範囲かということのすべてを決めるのが,この指針の役割ではないということが大前提だと思うんですね。(略)微妙なところまで全部決まらないと指針が出せないということになれば,それだけ,この指針に従った迅速な救済というのが遅れていくので,もともと第一次指針のときから,/少なくとも最低限,だれが見てもこれだけは必ず賠償されるべきだという疑問のないところから順に拾い上げていきましょう。/(略)だから,ここに書かれていないものは賠償しないというふうな宣言をしているという読まれ方はされては困るというのが大前提」(甲D共61・30頁)。

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 3 原賠審が当初は賠償対象となる避難者の範囲をきめ細やかに考えていこうとしていたこと

  (1) 第13回会合(平成23年8月5日)(甲D共69の1)

 第13回会合では,審査会事務局である田口康原子力損害賠償対策室次長が「自主避難に関する論点」(甲D共69の2)を配布している。
「自主避難に関する論点」では,避難指示区域外からの避難行動が社会通念上合理的であると認められるか否かの視点として(被告東京電力の主張する,どのような不安を保護すべきか,という視点ではない),(1)原子力発電所からの距離や,(2)避難を開始する地点の放射線量が挙げられている。
 放射線量について,中島肇委員は
「労災認定基準をちょっと調べてみたんですが,昭和51年11月8日の労働省の通達では,白血病の認定基準では,年間5ミリシーベルトの被曝があった場合には,業務起因性を認めると。要するに,被曝との因果関係を認めるという基準になっている。(略)このあたりも,1つの手がかりになるのではないか」(甲D共69の1・27頁)
と述べ,また,米倉義晴委員は,
「実際に住民の方々がそこで持っている情報は,年間20ミリシーベルトではなくて,ある地点の線量率が幾らであったかということなので,もし何らかの基準を認めるとすれば,そのときそのときの線量率,これが1つ基準になるかなと。」(甲D共69の1・29頁)
と述べている。すなわち,年間被ばく線量が20ミリシーベルトよりも低い数値を基準として設定することが議論されていた。
 鎌田委員も,以下のとおり,「自主的避難等対象区域」を設定するにあたっては,様々な判断要素を考慮してきめ細やかに判断する必要があると述べた。
「損害賠償の観点から言えば,過去の自主避難について,どこまでが相当因果関係の範囲内であったか。これが行政的な措置によって避難を余儀なくされているわけではないということで言えば,合理的な回避行動として認められるかどうかというのが基準になるんだろうと思います。そのときには,やっぱりその時点時点でどうであったかですから,時期と場所と,それから,幼児,妊婦その他であるかどうかという人の属性とで見ていかなければいけないんだと思いますし,同時に,一般に言われる安全基準の考え方,あるいは,その時々に公表されていたデータや情報との関連というので,かなりきめ細かく見ていかなければいけない。」(甲D共69の1・33頁)

  (2) 第14回会合(平成23年9月21日)(甲D共70の1)

 第14回会合では,賠償範囲の論点を整理した資料が配付されたが,その内容は,賠償範囲を福島県に限定しようとする原子力賠償対策室の姿勢が窺われた。さらに,委員からは,行政上の指針として考える場合には定型的な基準を明確にすべきという観点から,行政上の区域を基準とする考え方が示された。
 まず,田口原子力損害賠償対策室次長から配付されたのは,次の資料である。
  • 「福島県における避難の概況」(甲D共70の2)
  • 「自主的避難に関する主な論点」(甲D共70の3)
 「福島県における避難の概況」(甲D共70の2)は,福島県における避難の全体像,自主避難者数,県外へ転校した児童生徒数と県内で受け入れた児童生徒数,福島県外へ転校した児童・生徒の推移等の資料である。「自主的避難に関する主な論点」(甲D共70の3)は,そもそも区域による具体的基準を設けることが可能か否か,避難の時期についてどう考えるか,対象者の属性について考慮すべきか否か等といった論点がまとめられている。
 しかし,これらの資料(甲D共70の2及び3)は,福島県に限定した資料であったことから,原子力賠償対策室としては,「自主的避難等対象区域」を福島県に限定するような姿勢であったことが窺える。また,これら資料では,放射線量との関係は論点としてあげられていない。
 さらに,この日の会合で,高橋滋委員は,
「行政上の指針として考える場合には,やはり定型的な基準を明確にした上で,あと個別の事情がいろいろおありの方については個別にご主張いただくという形が望ましいのではないかと思います。そういう意味では,行政上の区域を1つ考えるというのは合理的なんじゃないかと思います。」(甲D共70の1・10頁)
と述べ,中間指針の「行政上の指針」という性質上,「自主的避難等対象区域」は行政上の区域を基準として設定すべきことを提案した。
 これに対して,中島委員は,
「私はむしろ,距離のほうを基準にし,行政区域は副次的な要素として考えるべきではないかと考えます。主は距離を,行政区域は従とすべきではないかと考えます。その1つの理由としては,そもそも政府の指示も距離を基準になされていたわけですし,ここの資料では,3月16日のアメリカ政府の退避勧告が80キロと,これも距離を基準にしておりました。行政区域は人的なつながりという副次的な要素としては考慮すべきかもしれませんけれども,主はやはり距離と考えるべきではないかと。」(甲D共70の1・10頁)
と述べ,行政区画ではなく,福島第一原発からの距離を基準に区域設定すべきと主張している。米倉委員も,
「私もやはり最初の段階では距離が一番重要なファクターかなと思っています。(略)もちろん,いろいろなファクターはあるにしても,それが第一かなと思います。そして,その上で,では隣の村はどうなのとか,同じ行政区域でありながら,距離が若干異なることによる差等をどのように勘案して副次的に考えるのかなと,そういう2段階なのかなということを感じます。」(甲D共70の1・11頁)
と述べている。
 その後,大塚直委員が,
「中島委員がおっしゃっていたような年5ミリシーベルトとか,これは作業員の方の基準ですけれども,例えばそういうことも検討の対象にはなるかなと思います。」(甲D共70の1・13頁)
というように,労災対象となる線量を基準にすることについての議論も展開されている。

  (3) 第15回会合(平成23年10月20日)(甲D共7176)

 第15回会合では,瀬戸孝則福島市長,福島県弁護士会所属の渡辺淑彦弁護士,子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク代表の中手聖一氏,雇用促進住宅桜台宿舎避難者自治組織「桜会」代表の宍戸隆子氏を迎え,自主的避難状況についての意見聴取がなされた。
 子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク代表の中手聖一氏は委員らに対し,このように訴えた。

「事故の前は公衆の被ばく限度,つまり,我々はどれくらいまで被曝が許されていますというか,逆に言えば,どれくらい以上の被曝はしなくていいというふうに言われていたんだろうか,あるいは,法令の基準の中で,ここにあります管理区域というような,18歳未満は入れない,入ってはいけませんと言われるようなところというのは,どういう空間線量,あるいは状態のところなんだろうか,こんな1つの判断基準というのが,よくお父さんたちといいますか,私の職場などでもされたところであります。また,してきたところであります。こういった法令,事故前からありました。社会的な一定の合意があったと思われるような,また,遵守されてきたような,既にある法令基準というのも,1つ,自主避難の合理性というのを考えるときに,ぜひご参考にしていただきたいと思います。」(甲D共71・35頁)
 なお,「自主的避難等対象区域」を設定するにあたって原賠審が,被災者らの意見を直接聞いたのは,この1回しかない。

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 4 避難者の範囲確定のための議論が途中より行政(市町村)単位とするものに変化したこと

  (1) 第16回会合(平成23年11月10日)(甲D共72の1)

 第16回会合において,配付資料の上では,賠償範囲をめぐる論点が挙げられてはいる。しかし,第14回会合で意見のあったような,福島第一原発との距離,放射線量との関連性は,議論されなくなった。
 第16回会合では次の2つの資料が配られている。
  • 「自主的避難に関する主な論点(案)」(甲D共72の2)
  • 「自主的避難関連データ」(甲D共72の3)
 このうち,「自主的避難に関する主な論点(案)」(甲D共72の2)には,対象区域に関する論点が示され,
  1.  対象区域の基準となりうる要素として,(1)自主的避難者の数・割合,(2)福島第一原発からの距離,(3)これまでの警戒区域,緊急時避難準備区域,計画的避難区域,特定避難勧奨地点等との近接性,(4)線量といった要素が,
  2.  区域設定する場合の区画をどの区域基準で考えるか,という問題設定のもと,(1)距離のみ(原発からの距離又は避難区域からの距離),(2)市町村より小さい単位(集落等),(3)市町村,(4)福島県内の行政区域(県中・県北),(5)その他といった視点
が示されている。なお,上記Aに関して,同資料では「※線量のみで区域設定することは困難」と記載されている。これは,第14回会合における高橋委員の「行政上の指針として考える場合には,やはり定型的な基準を明確に」(甲D共70の1・10頁)との発言同様,行政上の指針としての性格を原子力賠償対策室も意識していることが窺われる。
 「自主的避難関連データ」(甲D共72の3)には,福島第一原発からの距離を示す地図や,放射能測定マップが含まれている(同じ資料が第17回会合においても配布されている)。
 ところが,これら資料にもかかわらず,第16回会合では,賠償対象区画を市町村単位で設定するとの意見が主となった。
 すなわち,中島委員は,
「福島県の市町村というのは,かなり昔からある行政区画だという前提に立つと,これがコミュニティの単位になっているのではないか。と考えると,市町村単位,行政区画のほうが,それを単位にするほうが,統計や支払い事務,いろんな面で簡便であるということを考えると,市町村単位でよいのではないか」(甲D共72の1・19頁)
と行政区画を単位とすべきとの意見を述べた。第14回会合で,労災対象となる線量基準との関連性について述べた大塚委員も,
「私も賛成で,基本的には市町村単位ということでいいのではないかと思っています。」(甲D共72の1・19頁)
と,中島委員に同調する意見を述べた。他の委員も,概ね市町村単位で「自主的避難等対象区域」を設定することにつき異論はない旨述べている。
 このように,第16回会合では,形式的な配付資料では,区域設定における(1)自主的避難者の数・割合,(2)福島第一原発からの距離,(3)これまでの警戒区域,緊急時避難準備区域,計画的避難区域,特定避難勧奨地点との近接性,(4)線量といった要素に触れられているものの(甲D共72の2),具体的な審議としてこれら要素について議論されることはなく,市町村単位で賠償区画を設定することばかり議論された。

 (2) 第17回会合(平成23年11月25日)(甲D共73の1)

 第17回会合では「中間指針追補(自主的避難等に係る損害関係)のイメージ(案)」と題する資料(甲D共73の2)が配布された。
 同資料では,対象区域について「市町村」との文言が記載されており,田口原子力損害賠償対策室次長から,「具体的な市町村名を記述することとしてはどうかと考えてございます。」(甲D共73の1・3頁)と提案され,賠償範囲を市町村単位で設定しようとする姿勢が,原子力損害賠償対策室から明確に打ち出された。
 これに対して,大塚委員が,
「対象区域を○○ということで決めることになると思うんですけれども,これを決めるときの要素は,前にも議論していたので,書いておいたほうがいいのではないかと。1つだけということではもちろんないんですけど,4つとか5つとかあると思いましたが,それはおそらく書いておいたほうがいいんじゃないかと」(甲D共73の1・8頁)
と区域設定について当初検討すべきとしていた諸要素も記述すべきと意見を述べたものの,田口原子力損害賠償対策室次長が,
「2ページの考え方の1のところに,距離であるとか,放射線量に関する情報といったことは,一応書かせてはいただいておりますが,ちょっと足りないというご指摘はもっともかと思います。」(甲D共73の1・8頁)
と応答するにとどまったのみで,諸要素について具体的に検討された形跡はない。

 (3) 第18回会合(平成23年12月6日)(甲D共74の1)

 結局,第18回会合において,予め準備されていた「東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針追補(自主的避難等に係る損害について)」(案)と題する資料(甲D共74の2)が配布され,事務局の田口原子力損害賠償対策室次長によって,次のとおり,「自主的避難等対象区域」が読み上げられた。
「福島市,二本松市,伊達市,本宮市,桑折町,国見町,川俣町,大玉村。続きまして,県中地域の,これもすべての市町村になりますが,郡山市,須賀川市,田村市,鏡石町,天栄村,石川町,玉川村,平田村,浅川町,古殿町,三春町,小野町でございます。それから,続きまして,相双地域でございますが,相馬市,新地町でございます。それから,いわき地域のいわき市,以上でございます。」(甲D共74の1・9頁)
 区域設定の具体的理由,発案者や発案時期の説明もなく,また,読み上げに対する意見や質問もないまま,能見会長が福島県の条例による「行政管区」が対象となると述べただけで,区域設定の議論は終了した。

「今読み上げられた市町村が,一応自主的避難等の対象区域ということになるわけでございますが,基本的には福島県が条例で定めた行政管区である,相双,いわき,県北及び県中の各市町村が対象になるということでございます。(略)もし対象区域についてのご質問,ご意見がなければ,次,対象者に移りたいと思います。」(甲D共74の1・9頁)
 行政管区で区切ったということは,行政管区内の市町村ごとにきめ細やかに区域設定したわけではなく,その意味で,市町村単位による区域設定よりもさらに大雑把な区域設定となった。

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 5 「自主的避難等対象区域」設定の問題点

  (1) 考慮すべきとされていた諸要素が十分に議論されていないこと

 以上のとおり,原賠審は,福島県外を検討対象にすることなく,福島県の一部,それも,市町村単位よりも大きな行政管区という形式的区画によって,「自主的避難等対象区域」を定めた。具体的な対象地域は,次のとおりである。

  1. 行政管区としての県北地域全域である福島市,二本松市,伊達市,本宮市,桑折町,国見町,川俣町,大玉村,
  2. 行政管区としての県中地域全域である郡山市,須賀川市,田村市,鏡石町,天栄村,石川町,玉川村,平田村,浅川町,古殿町,三春町,小野町,
  3. 相双地域における避難対象等区域に指定されていた10市町村を除いた残り2市町村たる相馬市,新地町,
  4. いわき地域の全域であるいわき市
 原賠審の審議過程では,「自主的避難等対象区域」を設定する際の視点として,放射線量や福島第一原発からの距離が挙げられ,配付資料における論点列挙にも含まれていた。ところが,原賠審では,第16回会合以降,線量との関連性や,福島第一原発からの距離との関連性をめぐる具体的議論はなかった。
 結果として設定された「自主的避難等対象区域」は,行政管区という形式的区画によったため,福島第一原発からの距離という形式的観点からみても,例えば,天栄村よりも福島第一原発に明らかに近い鮫川村や泉崎村が対象外となっており,形式面だけをみても合理性を見出すことは困難である。
 さらに,放射線量との関係でみれば,以下のマップ(甲D共72の3・30枚目(29頁))【図省略】のとおり,0.50μSv/h以下の線量とされている地域が含まれている一方で,行政管区では県南地域とされる西郷村や白河市等の地域が1.00μSv/h以下の線量となっているにもかかわらず対象区域に含まれないという逆転現象が生じている。


  (2) 被害者の声を聞いて定められていないこと

 被災者の声を聞き被害実態を把握することが重要であることについては,山下俊一委員が,第1回会合において「避難住民の現状」の把握,「個人の生活背景,そういうものについての状態の把握,あるいは健康状態の掌握」が必要であると主張していた。
 にもかかわらず,「自主的避難等対象区域」を設定するにあたって原賠審が被災者らの意見を直接聞いたのは,第15回会合における2名にすぎない。
 このこともまた,上記のような,福島第一原発からの距離や,放射線量の逆転現象を招いた要因となったとも考えられる。


 6 小括

 以上のとおり,そもそも原賠審の示す中間指針等は,性質上「だれが見てもこれは賠償しなければいけないというものについて,とりあえず第一義的に指針を定め」る最低限度の賠償基準にすぎないものである。また,「行政上の指針として考える場合には,やはり定型的な基準を明確に」定める性質のものである。このような中間指針等の目的や性質から,中間指針等が裁判規範とは本質的に異なるものであり,裁判規範とはならないことは当然である。
 しかも,上記のように,「自主的避難等対象区域」の設定経過は,具体的に諸要素を十分に検討することなく,形式的に行政管区で区切ったものに過ぎない。
 したがって,中間指針等にいう「自主的避難等対象区域」には,裁判規範として相当因果関係を画する機能,すなわち,賠償対象となる被災者の居住地域ないし避難元地域を画する機能はない。

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