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★ 原告準備書面(21) ―中間指針追補および同第二次追補の位置づけについて―
 第2 中間指針等には裁判規範として損害賠償範囲等を画する相当性や合理性はないこと 
2015〔平成27〕年9月18日

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第2 中間指針等には裁判規範として損害賠償範囲等を画する相当性や合理性はないこと
 1 被告東京電力の主張
 2 原賠審と中間指針等の目的
 3 原賠審の審議経過
 4 中間指針もその目的から賠償範囲等に限界があることを明記している
 5 小括



第2 中間指針等には裁判規範として損害賠償範囲等を画する相当性や合理性はないこと


 1 被告東京電力の主張

 被告東京電力は,「原告らには,避難等対象者・自主的避難等対象者(避難者及び滞在者の双方を含む。)及びそれ以外の区域外避難者等を含んでいるが,本件事故と相当因果関係を有する住民の精神的損害については,低線量被ばくと健康影響に関する知見,本件原発との距離,放射線量の状況等の客観的な事情を踏まえて適切に定められるべきものである」ところ,「原賠法に基いて本件事故の全体像について繰り返し専門家が調査審議を行った上で策定された中間指針等が定める損害賠償の範囲は,相当性・合理性を有するものである」と主張する(被告東京電力共通準備書面(5)・7頁)。
しかし,被告東京電力の主張は,「専門家が調査審議を行った」という形式面を捉えたものにすぎず,原賠審や中間指針等の目的・性質を踏まえない誤ったものである。


 2 原賠審と中間指針等の目的

 そもそも原賠審は,「原子力損害の賠償に関する紛争について和解の仲介を行うこと」(原賠法18条2項1号)を目的として設置された機関である。
 また,原賠審の定める中間指針等は,「原子力損害の賠償に関する紛争について原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針」(原賠法18条2項2号)として定められたものである。
 すなわち,中間指針等は,和解の仲裁を行うことを目的として,当事者による自主的解決に資する一般的指針として策定されたものである。
 当然ながら,専門家らも,このような指針を作成するという目的で審議したのであって,裁判規範たる賠償基準を策定することを目的として審議したわけではない。

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 3 原賠審の審議経過

 第1回原賠審における委員の発言でも,次のとおり,中間指針等は,迅速に指針を示す目的から,誰がみても賠償すべきものを賠償対象とすることが明確に述べられている。
「だれが見てもこれは賠償しなければいけないというものについて,とりあえず第一義的に指針を定めて,それに従って,この仮払いが適正に行われるようにということを,最初の早期に結論を出すべき目標とする」(甲D共59・29頁・鎌田薫委員)
 中間指針策定後の原賠審でも,迅速に自主的解決を図るための最低限の基準を示す目的で審議していることが明確に述べられている。

「この指針の中で,具体的に賠償されるべき損害の範囲として摘示されなかったものは,賠償されるべき損害の範囲から外れているんだというわけではないということ,つまり,どこまでが賠償されるべき損害の範囲かということのすべてを決めるのが,この指針の役割ではないということが大前提だと思うんですね。(略)微妙なところまで全部決まらないと指針が出せないということになれば,それだけ,この指針に従った迅速な救済というのが遅れていくので,もともと第一次指針のときから,少なくとも最低限,だれが見てもこれだけは必ず賠償されるべきだという疑問のないところから順に拾い上げていきましょう。(略)だから,ここに書かれていないものは賠償しないというふうな宣言をしているという読まれ方はされては困るというのが大前提」(甲D共61・30頁・鎌田薫委員)。
「今,鎌田委員が言われたように,ここで書いていないものについても,相当因果関係がある損害というのは当然あり得るので,その賠償を否定するものではないということは当然」(甲D共61・31頁・能見会長)。
「第一次指針から追補まで含めまして,できるだけ早く迅速に対応しましょうという基本的な考え方のもとで,今まで来たんだろうと思います。」(甲D共61・32頁・草間委員)。
 本準備書面の第3で引用する委員の発言にも,
「行政上の指針として考える場合には,やはり定型的な基準を明確に」(甲D共70の1・10頁・高橋滋)
するという性質が中間指針にはあり,裁判規範とは本質的に異なることが述べられている。

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 4 中間指針もその目的から賠償範囲等に限界があることを明記している

 中間指針も,次のとおり,事故が収束しない状況下で,迅速な被害者救済の必要性といった観点から,類型化が可能な損害項目や範囲を示したものに過ぎず,賠償基準として限界があることを認めている。
「 避難を余儀なくされた住民や事業者,出荷制限等により事業に支障が生じた生産者などの被害者らの生活状況は切迫しており,このような被害者を迅速,公平かつ適正に救済する必要がある」(乙D共1「はじめに」)
「 中間指針は,本件事故が収束せず被害の拡大が見られる状況下,賠償すべき損害として一定の類型化が可能な損害項目やその範囲等を示したものであるから,中間指針で対象とされなかったものが直ちに 賠償の対象とならないというものではなく,個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められることがあり得る」(乙D共1「第一 中間指針の位置付け」)


 5 小括

 以上のとおり,中間指針等は,和解の仲裁を行うことを目的として,当事者による自主的解決に資する一般的指針として策定されたものであり,専門家らも,裁判規範を作成することを目的として審議したわけではない。
 中間指針自身も,事故が収束しない状況下で,被害者の迅速救済の観点から類型化が可能な損害賠償項目・範囲等を認めたに過ぎないことを認めている。
 したがって,中間指針等には,裁判規範として,損害賠償範囲等を画する相当性や合理性はなく,被告東京電力の主張は誤っている。

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