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★ 原告準備書面(15) −相当因果関係の判断方法についての求釈明に対する回答− 
平成27年5月19日

  原告提出の準備書面(15)(pdf)

目 次

第1 求釈明に対する回答
 1 求釈明事項(1)について
 2 求釈明事項(2)について
 3 求釈明事項(3),(4)について
 4 求釈明事項(5)について



第1 求釈明に対する回答

 被告東電共通準備書面(5)第2における求釈明に対する回答は,次の通りである。


 1 求釈明事項(1)について

 原告らのとる因果関係の考え方は,下記のとおり判例(大審院大正15年5月22日判決。以下,「大正15年判決」という。)ともなっている「相当因果関係説」である。
 不法行為に基づいて賠償義務の認められる範囲の損害は,行為から事実的因果関係のあるすべての範囲の損害ではなく,権利侵害と不法行為との間の「法的相当因果関係」が肯定されるものである。
 大正15年判決は,相当因果関係説をとるとともに,民法416条が不法行為について類推適用されることを明らかにしていおり,不法行為責任を追及する本件においても妥当する。
 そして,大正15年判決は,相当因果関係の範囲にある損害を二つであると判示した。
 一つが,通常生ずべき損害であり,もう一つは予見し,または予見し得べき特別の事情によって生じる損害,いわゆる特別損害である。
 原告らが本件において賠償を求める損害は,上記の内の通常損害である。


 2 求釈明事項(2)について

 相当因果関係説は,行為(債務不履行・不法行為)と結果(損害)との間に事実的因果関係があるだけでは足りず,当該行為があれば一般に生じるであろうと認められる結果(損害)のみを賠償の範囲とする考えである。
 「一般に生じうるであろうと認められる結果」であるかどうかは社会一般の観念にしたがって判断されるものであり,「社会一般の観念」とは,規範的な見地からすべての事情を考慮して,最終的には裁判所が判断すべき規範的概念である。
 原告らが主張する考慮すべき事情とは上記の事情(事故発生時の事情だけに限らず,事故後の事情を含む)を意味する。もっとも,後述のとおり,本件においては公衆被ばく線量限度(実効線量にして年間1ミリシーベルト)が法規範となっており,また社会規範でもあることから極めて重要な考慮事情である。

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 3 求釈明事項(3),(4)について

  (1)容認不可なレベルの線量として定められた公衆被ばく線量限度

 ICRP1990年勧告は,線量限度を定めるにあたっての委員会の目的を「ある決まった1組の行為について,また規則的で継続する被ばくについて,これを超えれば個人に対する影響は容認不可と広くみなされるであろうようなレベルの線量を確定することである。」として(甲D共10・44頁・149項),公衆被ばく線量限度として「委員会は,年実効線量限度1mSvを勧告する。」と勧告した(甲D共10・55頁・191項。原告準備書面(3)・24〜25頁)。
 我が国でも,放射線審議会においてICRP1990年勧告を国内法に導入すべきかについて審議した。そして,放射線審議会は,平成10年意見具申(甲D共33)において,ICRP1990年勧告を取り入れるべきとし,公衆被ばく線量限度を実効線量にして年間1ミリシーベルトとし,これを規制体系の中で担保することが適当であり,そのためには施設周辺の線量,廃棄・排水の濃度等のうちから適切な種類の量を規制することによって当該線量限度を担保できるようにすべきであると結論づけた(甲D共33・11〜13頁。原告準備書面(3)・55頁)。
 この平成10年意見具申に基づいて関係法令が改正され,公衆被ばく線量限度は実効線量年間1ミリシーベルトとし,同線量限度を超えて公衆が被ばくしないよう,刑罰を用いてでも実行性を担保するという厳格な法体系がとられ,今もなお現行法として維持されている。

  (2)公衆被ばく線量限度と相当因果関係

 以上のとおり,国内法における公衆被ばく線量限度は,公衆が容認不可と広く見なされるレベルの線量としてICRPが勧告したものを,放射線審議会による審議を経て国内法に導入され,刑罰を用いてでも線量限度を超える公衆被ばくを許さないものとして確立され,今もなお維持されている法規範であり,社会規範である。
 したがって,公衆被ばく線量限度を超える地域から避難することは,確立した法規範ないし社会規範として容認不可とされている被ばくを避ける行為であって,社会通念上相当なものである。
 そうである以上,当該避難によって生じた損害は,その他の事情を考慮するまでもなく,通常生ずべき損害として相当因果関係が認められる。


 4 求釈明事項(5)について

 「生活圏」とは各原告において,各原告が社会的存在として行動する地理的範囲,すなわち,教育,就労,医療,生活必需品の購買等が主として行われる地域的範囲を指し示し,行事や行楽などにおける行動範囲を広く含むということを意味する。
 けだし,かかる範囲における地域の安全が確保されていなければ,人格の自由な発露としての行動が著しく制約されるからである。

以上

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