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★ 準備書面(4) 津波の予見について 
 第2 前提となる知識 
平成26年8月29日

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第2 前提となる知識
 1.地震のメカニズム
 2.津波のメカニズム
 3.東北地方太平洋沖地震



第2 前提となる知識


 1.地震のメカニズム

  (1)プレートについて(甲B1−12〜14頁)

 プレートとは,地球の表面を薄く被った固い皮である。地球の構造は,中心に核(内核・外核)があり,その外側をマントルと呼ばれる厚い層が覆っている。マントルは,核に近い下部マントルと上部マントルに分かれている。マントルは高温の核によって温められ,絶えず対流を起こしており,このマントルが地球の内部から噴き出し(海嶺),上昇して,海水で冷却され,岩状に固まる。この固まったものがプレートである。厚さは30〜80キロメートルになり,大小数十枚のプレートが地球表面を覆っている。プレートが「皮」と表現されるのは,地球の半径が約6400キロメートルであることと対比すると,プレートが厚さ40キロメートルと仮定しても,地球の半径の0.6パーセント程度しかないためである。
 日本付近には,ユーラシアプレート,北アメリカプレート,太平洋プレート,フィリピン海プレートと,合計4つのプレートが集中し,接していると考えられている(甲B1−20頁)。

[甲A2:政府事故調中間報告15頁]【図省略】

  (2)地震の仕組み(甲B1−14〜17頁)

 海嶺では,次々に新しいプレートが誕生し,海嶺を中心として,左右に移動している。上部マントルは,プレートも含む上部のリソスフェア(lithosphere)と下部のアセノスフェア(asthenosphere)に分かれている。リソスフェアは,比較的固くて流動性が少なく,アセノスフェアは,高温で流動性が高い。アセノスフェアが流動性を持っているため,その上にあるプレートは,アセノスフェアの上を滑るように移動する。
 このように,地球が複数のプレートで覆われ,それぞれのプレートがマントルの対流によって移動しているという考え方を,「プレートテクトニクス(プレート理論)」と呼ぶ。
 地球を覆う大小数十枚のプレートが,年間数センチメートルという速度で,それぞれ滑るように動き,プレート同士が衝突したり,すれ違ったり,一方のプレートが他方のプレートに沈み込むという現象が起きる。プレート同士が衝突する場所には強い力が生じ,地震を発生させる。
 プレートの衝突等によって,ずれる部分を断層という。断層には,横ずれ断層と縦ずれ断層があるが,縦ずれ断層のうち,プレートが引っ張られて伸びることによって発生するものを正断層,プレートが押されることによって発生するものを逆断層という(甲B1−30〜31頁)。

  (3)地震の種類(甲B1−23〜29頁)

 地震は,発生するプロセスの違いから,いくつかの種類に分類される。

  ア.プレート境界型地震
 プレート境界で,海底面を移動してきたプレートが陸のプレートの下に沈み込むと,場所によっては,陸のプレートの端を地球内部の方向へと引きずり込んでいく。限界まで引きずり込まれた陸のプレートは,元の位置に戻ろうとして,あたかもバネのように跳ね上がり,巨大地震が発生する。これがプレート境界型地震である。2011年に発生した東北地方太平洋沖地震はこれにあたる。
 また,海底面を移動してきたプレートが陸のプレートに沈み込む前,いったんプレートの背中を持ち上げるようにしてから沈み込むが,この持ち上がりの時に,背中部分が破壊され,地震が発生することがある。これが「アウターライズの地震」である。1933年に発生した昭和三陸地震はこれにあたる。

  イ.プレート内地震(内陸型地震)
 プレート境界から離れた場所で,プレート内にある亀裂によって起こる地震である。海底面を移動してきたプレートが,陸のプレートに沈み込む時,陸のプレートの端だけでなく,陸のプレート自体も圧迫する。この圧迫で,プレート内陸部の岩盤に少しずつ歪みが蓄積され,限界を超えると,内陸部の弱い部分が破壊され,地震が発生する。これが,プレート内地震である。1995年に発生した兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)や2004年に発生した新潟県中越地震はこれにあたる。
 一度,弱い部分で破壊が起きると,以後,同じ場所で繰り返し破壊が起きるため,この弱い部分は,活断層として認知される。

[甲B2:津波評価技術1−28頁]【図省略】

  (4)地震の大きさを表す単位

  ア.マグニチュード

  (ア)マグニチュード(M)
 地震の規模を表す指標として,一般に用いられるマグニチュード(M)は,通常,考案者の名を冠して「リヒター・スケール」と呼ばれ,地震計の最大振幅A(〃m)を震央からの距離100キロメートルのところの値に換算したものの対数を用いて決定される。
 よって,地震波の振幅が10倍大きくなるごとに,マグニチュードが1ずつ上がることとなる。

  (イ)モーメントマグニチュード(Mw)
 「リヒター・スケール」によるマグニチュードは,概ねM7〜8程度を超える規模の地震についてMの値が頭打ちとなり,正確に算出できないという欠点がある。この点を改善するために用いられるようになったのが,地震モーメントの対数を用いて決定される「モーメントマグニチュード(Mw)」である。

  (ウ)津波マグニチュード
 津波の高さの空間分布を使って算出する地震の大きさの指標である。津波の遡上高をデータとして用いることで,潮位観測のない歴史地震にも適用可能であり,歴史地震のモーメントマグニチュードを推定する上で信頼性が高い。

[甲B3:「津波評価技術」資料編2−10]【表省略】

  イ.震度
 地震の規模を表すマグニチュードに対し,ある地点での地震による揺れの大きさを示す指標が,震度である。
 原則として,震源からの距離が遠いほど震度は小さくなるが,地表付近の地盤の固さや地下の構造の違いによって揺れが増幅したり減衰したりするため,観測地点によって震度に差が生ずることがある。また,原則として,マグニチュードが大きな地震ほど震度も大きいという比例関係にあるが,地盤の固さや震源の深さなどによって,最大震度は比例関係から外れる場合もある。
 日本では気象庁震度階級が用いられており,震度0から7までに分かれている(震度5及び6は,それぞれ「強」と「弱」にさらに分かれる)

  ウ.ガル(gal)
 ある地点での地震による揺れの大きさを表す指標として震度があるが,厳密さや詳細さに欠けているため,より厳密な指標として,地震動の加速度を表すガルが用いられる。
 これは,一秒間にどれだけ速度が変化したかを表す加速度の単位であり,加速度すなわち速度が変化したということは,当該物体に対して力が作用したことを意味するから,ガルは人間や建物にかかる加速度の大きさを表す指標でもある。同じ地震でも,観測地点の位置や対象物によって異なる値となる点は,震度と同様である。ガルは大きいほど揺れが激しいことを示すが,震度や被害は建物の構造や地震動の継続時間などによっても大きく影響を受けるため,ガルの大きさとこれらとは直接結び付くわけではない。

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 2.津波のメカニズム

  (1)津波発生のメカニズム

 津波を引き起こすのは,海底地形の変化である。
 地震により,海底が隆起すると,その上の海水がもち上げられて,水面も隆起する。隆起した海水は,直後に重力によって一気にくずれ,波となって四方へ伝わる。
 これが津波発生のメカニズムである。

  (2)津波の速さ

 津波の伝わる速度は水深の平方根に比例する。したがって,底の深い沖合に比べ,沿岸部での津波のスピードはぐっと遅くなる。この現象は「津波はジェット機並の速さで陸地に近づき,新幹線並みの速度で海岸を襲う。」と表現されている。

  (3)津波の高さ

 一方,津波の高さは,水深が浅い場所ほど高くなる性質を有する。
 すなわち,津波のスピードは浅瀬に向かうにつれて急激に落ちるため,後から来た波が前の波に追いつき,次から次へと重なった波が一度に押し寄せる結果,波高が高くなるのである。
 そのため,津波が浅瀬に設置されている防波堤に達すると,大量の海水がせき止められるが,後ろから来た速い波が次々重なっていき,防波堤を越える高さに達するのである。そして,いったん防波堤を越えた海水は,一気に陸地になだれ込むことになる。
 従って,もし仮に波高5mの津波を防波堤でせき止めようと思ったら,防波堤の高さは5mでは不十分であり,より高くしなければならないのである。

  (4)津波に関する用語

 本書面で使用する,津波の高さに関する用語を説明する。

(1)津波波高: 検潮所や沖合の波高計で計測された津波の高さ。気象庁発表の津波観測記録はこの値が用いられる。
(2)浸水高: 陸上での津波高さを表す。建物に残った水跡や付着したゴミなどで測定されることが多い。現地盤を基準とした値は浸水深と言われるのが一般的である。
(3)遡上高: 陸上で最も高い位置に到達した箇所の高さのこと。
(4)痕跡高: 津波の発生後,建物や樹木,斜面上などに残された変色部や漂着物までの高さ

図は気象庁HP]【図省略】

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  3.東北地方太平洋沖地震

  (1)東北地方太平洋沖地震の概要

 後述する地震調査研究推進本部によれば,東北地方太平洋沖地震は,次のとおりの地震であったとされている。すなわち,当該地震は,太平洋プレートと陸のプレートの境界で発生した逆断層型の地震であり,その震源域は岩手県沖から茨城県沖まで,長さ約400km以上,幅約200km,最大の滑り量は20m以上である。また,GPS観測の結果によると,東北地方から関東地方の広い範囲で地殻変動が観測されており,宮城県牡鹿観測点では東南東方向に約5.3mの水平移動,約1.2mの沈降が観測された。なお,宮城県沖の海底基準点は東南東に約24m移動し,約3m隆起していた(甲B4:「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の評価」)。

  (2)巨大津波の発生とその影響

ア.当該地震によって,海溝付近の深さ5〜10kmしかない浅部プレート境界が大きく滑り,約55mの断層運動が起きた。この断層運動によって海底が大きく隆起したことにより,巨大な津波が引き起こされたと考えられている。

[甲B1:「東日本大震災を解き明かす」79頁]【図省略】

イ.この津波により,福島第一原発の海側エリア,及び,主要建屋設置エリアほぼ全域が浸水した。
 1号機から4号機側主要建屋設置エリアの浸水高(小名浜港工事基準面(O.P.)からの浸水の高さ)は,O.P.+約11.5mから+約15.5mであり,同エリアの敷地高はO.P.+10mであることから,浸水深(地表面からの浸水の高さ)は約1.5mから約5.5mであった。
 また,5号機,及び,6号機側主要建屋設置エリアの浸水高は,O.P.+約13mから+約14.5mであり,同エリアの敷地高はO.P.+13mであることから,浸水深は約1.5m以下であった(甲A2:政府事故調中間報告19頁)。

[甲A2:政府事故調中間報告資料編20頁]【図省略】

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