TOP    裁判資料    会報「原告と共に」   げんこくだより   ブログ   リンク

★ 準備書面(4) 津波の予見について 
 第8 国の予見可能性 
平成26年8月29日

 目 次(← 準備書面(4)の目次に戻ります)

第8 国の予見可能性
 1.被告国の「津波評価技術」に関する認識
 2.被告国の「長期評価」に関する認識
 3.小括
 4.津波の影響によるメルトダウンに関する知見



第8 国の予見可能性

 前述のとおり,福島第一原発事故の原因となりうる程度の津波が生じることは,「長期評価」のみから(甲Al:国会事故調査報告書84頁),もしくは「長期評価」に基づき「津波評価技術」の波源モデルを流用することにより(甲A2:政府事故調査報告書中間報告395頁),平成14年段階で試算可能であった(第5,2,(4))。


 1.被告国の「津波評価技術」に関する認識

 「津波評価技術」は,「地域防災計画における津波対策強化の手引き」(農林水産省外6省庁)を補完するものとして策定された。「津波評価技術」を策定したのは土木学会原子力土木委員会津波評価部会であるが,同部会には,被告国から,文部科学省,経済産業省,国土交通省がそれぞれ委員を派遣している(第3,1,(3))。すなわち,被告国は,「津波評価技術」の策定に関与していた。
 また,保安院は,「津波評価技術」の公表前に,同部会に対してその内容の説明を求め,平成14年1月29日,津波評価部会の幹事会社であった被告東電が,回答を行っている(甲A2:政府事故調中間報告377頁)。
 さらに,前述のとおり,被告東電は,平成14年3月に,「津波評価技術」に基づく津波試算を保安院に報告している(第5,3,(1))。この時点において,「津波評価技術」の評価手法は,被告東電と保安院(すなわち被告国)との間で共有されていたといえる。
 その後,「津波評価技術」は,具体的な津波評価方法を定めた基準として定着し,電気事業者が規制当局に提出する評価に用いられた(第3,1,(3))。すなわち,被告国は,各電力会社等に対し,平成18年9月20日に耐震バックチェックの実施等を求めているが(第5,1,(1)),この際,地震に随伴する津波の評価方法について,「津波評価技術」の手法と同一の方法を用いている。
これは,被告国が,「津波評価技術」を事実上の基準として追認していたことを示している。被告国は,「津波評価技術」の内容を十分に把握していたものである。
 すなわち,被告国は,「津波評価技術」の策定に関与し,その内容を把握しており,遅くとも平成14年3月には,「津波評価技術」を,福島第一原発における津波の評価に用いることができたものである。


 2.被告国の「長期評価」に関する認識

 「長期評価」を公表したのは推進本部であるが,推進本部は被告国の機関である。従って,被告国は,当然「長期評価」の内容を認識しており,これを知見として利用することができた。
 「長期評価」においては,明治三陸沖地震と同様の地震(津波地震)が,三陸沖北部海溝寄りから房総沖海溝寄りにかけてどこでも発生する可能性があると明言されている。被告国は,福島県沖海溝沿いを,津波地震の波源として想定すべきであった。

 △ページトップへ

 3.小括

 以上の通り,被告国は,遅くとも平成14年7月までには,福島第一原発事故の原因となりうる程度の津波が生じることを予見するための知見を得ていた。従って,福島第一原発事故の原因となりうる程度の津波が生じることは,遅くとも平成14年ころには,被告国に予見可能であったといえる。


 4.津波の影響によるメルトダウンに関する知見

 前述のとおり,平成18年5月11日に開催された溢水勉強会において,被告東電は,福島第一原発5号機が,O.P.+14mの津波により,電源喪失,並びに,メルトダウンに至る旨の報告を行っている(これは,福島第一原発1号機ないし4号機に置き換えると,O.P.+10m超の津波により電源喪失,並びに,メルトダウンに至るということである)。
 溢水勉強会は,国の機関である保安院と,独立行政法人である原子力安全基盤機構が立ち上げたものであり,溢水勉強会で報告された事項は,当然に被告国が認識した事項であるといえる。その上で,被告国は,海水ポンプを止めるような津波が来ればほぼ100%炉心損傷に至るという認識を示している。
 従って,被告国は,遅くとも平成18年5月11日の時点で,外部溢水により,全電源が喪失する事実,並びに,炉心損傷(メルトダウン)が生じる事実を、検証し認識していた。
 しかしながら被告国は,被告東電に対して口頭で「津波に対して余裕が少ないプラントは具体的な対策を検討し対応してほしい」と要請するのみで,建屋の浸水の可能性には触れず,全電源喪失のリスクと必要な対策について何らの指示も要請もしなかった。

以上

 △ページトップへ

原発賠償訴訟・京都原告団を支援する会
  〒612-0066 京都市伏見区桃山羽柴長吉中町55−1 コーポ桃山105号 市民測定所内
   Tel:090-1907-9210(上野)  Fax:0774-21-1798
   E-mail:shien_kyoto@yahoo.co.jp  Blog:http://shienkyoto.exblog.jp/
Copyright (C) 2017 原発賠償訴訟・京都原告団を支援する会 All Rights Reserved. すべてのコンテンツの無断使用・転載を禁じます。