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イベント控訴審第2回学習会
★ 「広島・長崎の被爆者が闘っている原爆症認定集団訴訟から学ぶ」 
  平 信行さん(京都「被爆2世・3世の会」世話人代表) 

 昨年11月10日に開催した「控訴審にむけた第2回学習講演会」での平 信行さんの講演要旨をまとめました。 平 信行さんプレゼン
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1、広島・長崎の被爆者の概要
  • どれくらいの人が原爆の被害に遭ったのかというと、広島で約42万人、長崎で約27万人、合計69万人。昭和20年12月末までに23万4千人が亡くなりこれを「爆死者数」と言い、45万6千人がその年は生き残った。現在被爆者手帳を持っている人が15万4千人なので、その後約30万人がすでに亡くなったことになる。70万人の被爆者の約1割は日本人ではなく朝鮮半島から渡ってきていた人たちだった。
  • 原爆投下から12年後の1957年に初めて原爆医療法という被爆者援護制度ができ、その中で被爆者健康手帳もできた。被爆者は「空白の12年間」と言うが、「投げ捨てられた、棄民の12年間」と言ってもいい。当初は制度が十分には知らされていなかったり、手帳を持ちたくないという人もいた。手帳の所持者数は最高時で37万人、いまは15万4千人。生存者の平均年齢は82歳。
  • 「空白の12年間」だったが、原爆傷害調査委員会(ABCC)が1947年に広島と長崎に作られ、一切治療はしないで被爆者をモルモットにした調査研究が開始されていた。
  • 被爆者援護制度はその後少しづつ改善が重ねられ、1994年、被爆50年を期して現在の被爆者援護法がまとめられた。被爆者の定義は、直接被爆、入市被爆(2週間以内に爆心地から2km以内に入った者)、その他の被爆(被爆者の救護や死体処理に従事など)、胎内被爆のいずれからの条件に該当し、かつ被爆者手帳の交付を受けた者とされた。
  • 本当は被爆しているのに、手帳の交付を受けられない様々な人たちがいる。黒い雨を浴びて原爆症特有の病気を発症している人たちもそうした人たちの一例。今も広島では「黒い雨訴訟」が闘われている。
  • 被爆者は、健康診断の受診と、保健医療や介護制度利用の自己負担分の補てん、葬祭料の支給などの援護を受けることができる。原爆症と認定されれば、医療費が全額補償され、医療特別手当(月に13万9千円)が支給される。
  • 原爆症の認定(認定被爆者)は、「原子爆弾の障害作用に起因して負傷し、又は疾病にかかり、現に医療を要する状態にある被爆者」と規定され、疾病・障害認定審査会原子爆弾被害者医療分科会が審査する。現在、被爆者健康手帳を持っている人は15万4千人、健康管理手当など諸手当を受けている人が13万5千人、認定被爆者は7640人で、手帳所持者の4・9%にすぎない。
2、原爆症認定集団訴訟
  • 1990年代から原爆症と認定されなかった被爆者が裁判に訴える例が生まれていて、2000年に2人の被爆者が勝訴をした。それをきっかけとして、「認定審査の基準が不透明」という批判が広がった。このため2001年に厚労省は原爆症認定「審査の」方針を制定したが、それは裁判で勝訴した2人の被爆者でさえ該当しないひどい中身だった。被爆距離で被爆線量を推定(DS)し、原因確率(放射線に起因して発症する確率)が50%以上なら認定、10~49%は総合判定、10%未満は却下というものだった。例えば男性で胃がんの場合、原因確率50%以上とされたのは爆心地から800m以内にいた年齢0~6歳の子どもだけだった。
  • これを機会に全国の被爆者が集団で裁判を闘うことになった。2002年に全国で約500人の被爆者が原爆症認定集団申請を行い、大半が却下され、それを受けて集団で裁判に訴えることになった。2003年から始まった集団訴訟は、23都道府県306人の被爆者が全国17地裁に提訴した。集団訴訟の目的は、①原爆症認定制度の抜本的転換(新基準の確立)、②原告被爆者全員の認定、③被爆者援護施策全体の転換、④被爆の実態を明らかにし核兵器の残虐性を告発(核兵器廃絶へ)とされた。
  • 集団訴訟の闘い方の基本は、①DSや原因確率など国の主張する「科学」では証明できないところに放射線被爆の実態のあることを明らかにする(被曝の実態・真実は科学的に未解明な分野を超えたところに存在する)、②全原告が自らの被爆の実相について克明に意見陳述する、③被爆の実態が目と耳でも理解できるよう工夫した訴え(DVD,絵など)。
  • いくつもの被爆の実態が具体的に証言されていった。例えば、原爆投下の13日後に70キロ離れた三次市から救護のために広島に入市した女学生が、急性症状も発症し、戦後様々な病気に苦しんできた。そして一緒に入市した23人の女学生のうち10人ががんで亡くなっていた。生涯6000人の被爆者の治療にあたった肥田舜太郎医師の証言も大きな役割を果たした。
  • 認定訴訟では、国による「初期放射線決定論」の誤りを批判し、内部被ばくの脅威と危険性を主張した。具体的には、①被爆距離で被爆線量を推定するシステムと原因確率論の誤りを指摘、②今も被爆者の体内で被ばくし続ける放射性物質の危険性を主張(長崎大の七条助教らが解剖標本から体内で放出されているプルトニウム分解時のアルファ線の撮影に成功)、③国が主張する非がん疾患の他原因論に反論(高血圧、高脂血症、糖尿病等の発生も原爆放射線被爆が原因)。
  • 2003年~2009年の原爆症認定集団訴訟は17地裁の24判決、6高裁で勝訴。敗訴となったのは1判決だけ。勝訴が連続する中でメディアも「国は見直すべきだ」という論調が展開されていった。
  • 勝訴審決に共通する判決の基調は、①DSなど推定線量は一応の目安にとどめるべきで、さまざまな形態での外部被爆、内部被ばくも考慮すべき、②他の原因との共同関係があっても、放射線で発症が促進されたと認められる場合には、放射線起因性があると考えるべき、③高血圧、高脂血症、糖尿病等は放射線被ばくとの関連性が認められる、④しきい値はないと考えるべき。これらは司法判断としてはほぼ確定している。
  • 被爆者の訴えを認める判決が要因となって、厚労省は2008年に「新しい審査の方針」を定めた。原因確率は廃止され、3.5km以内で直爆した人、100時間以内に2km以内に入市した人、100時間経過後2週間以内に2km以内に1週間以上滞在した人の悪性腫瘍、白血病をはじめ、放射線起因性の疾病が認定されることになった。まだ不十分さは残るが認定行政の根本的改革への展望を切り拓くことになった。
  • なぜ3.5kmが出て来たのか。厚労省が与党に提示した文書には、自然界の放射線量(1mSv)を超える線量を基準とし、それが広島の場合3.5kmに相当、記されている。
  • 勝訴判決の連続を受けて、2009年、国と原告団の間で集団訴訟の終結に関する確認書が交わされた。原告の被爆者全員を救済し、これ以上裁判で争う必要がないよう今後は厚労相と被団協等との間で定期協議を開催していくことが約束された。
3、ノーモア・ヒバクシャ訴訟(第2次原爆症認定集団訴訟)
  • 2008年の「新しい審査方針」によってがんの認定は改善されることになったが、それ以外の疾患(非がん疾患)の認定は依然として多数の却下処分が続いた。特に入市被爆者の場合一人の認定も認められていなかった。
  • これではだめだということで、2012年からノーモアヒバクシャ訴訟(第2次集団訴訟)が始まった。提訴者は全国7地裁121人となった。これまでに地裁で56人勝訴(敗訴24人)、高裁で勝訴6人(敗訴7人)となり、現在も最高裁含めて32人が係争中だ。裁判途中で原告本人が亡くなり、家族が引き継いで闘っている人も5人ある。
  • 厚労省の基本的見解は、今だに人体への影響は初期放射線(爆発から1分間)だけ、放射線は2.5km(長崎の場合は3km)以遠には届いていない、放射性降下物や黒い雨の影響はなかった、内部被ばくは微量で健康に影響はない、というもの。
  • じゃあ、なぜ3.5kmを認めているのかと言うと、「放射線被ばくの影響による健康影響が必ずしも明らかでない範囲も含めて設定している」としている。
  • 「行政と司法判断にはかい離がある」と公然とした開き直りがある。裁判で勝っても救済されるのはその原告だけで、制度は改定されない不公平行政が常態化している。
  • 本人尋問では、「あなたが浴びた線量はどれくらいですか?」と聞いてくる。こちらが問題にしているのは内部被ばくであって、正確に測れるわけがない。最近は、医者、研究者を動員した司法批判の意見書も出されている。研究者が自ら書いた論文について、「あれは仮説だ、こんな裁判の証拠にされてはならない」などとする意見書も出されている。
  • ノーモア・ヒバクシャ訴訟を引き続き勝訴していくと共に、被爆者はより直接的に原爆症認定制度の改革を求め続けている。日本被団協は認定制度改定の提言を出している。さらに、少なくとも判決に従って現行の認定審査基準を改めるよう訴えている。
4、終わりに
  • 原爆症認定集団訴訟は、放射線の人体への影響は初期放射線ですべてが決まってしまうという誤りを打破して、特に内部被ばくの脅威、危険性を示してきた。
  • ノーモア・ヒバクシャ訴訟は、病気の他原因とされる高血圧などそれ自体が放射線の影響であることを明らかにしてきた。
  • 訴訟を通じて核兵器の残虐性、非人間性を明らかにし、核廃絶の必要性を訴えてきた。

以上

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