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★ 京都訴訟判決報告集会 判決の解説と評価 損害論 

4/29に行われた判決報告集会での弁護士からの判決の解説と評価を掲載しています。

責任論
因果関係
損害論

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 弁護士 白土哲也

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第1 裁判所の判断


 1 原告の主張する損害の枠組み

  (1)財産的損害
 …避難に伴う移動交通費、一時帰宅費用、避難による生活費の増加、二重生活による生活費の増加分、避難生活のための雑費、就労不能損害、放射線検査等に要した費用等の損害

  (2)精神的損害
 …避難に伴う慰謝料35万円/月、コミュニティ侵害2000万円


 2 裁判所の考え方

  (1)避難指示の有無に対する考え方

 ①避難指示の有無に関わらず、避難行動それ自体によって生じた損害のほか、避難先における生活を継続したことにより生じた損害も相当性肯定
 ②避難指示等によるか否かは、損害の期間や額に違いを生じさせるだけ

  (2)損害の範囲

   ア 時期による限定

   (ア)避難指示等による避難の場合
  • 避難指示等が続く限り、避難生活に伴う損害には相当因果関係を認める
  • 避難指示等が解除されても、相応の期間は相当因果関係を認める

   (イ)避難指示等によらない避難の場合
  • 避難先での生活が安定する「避難後2年」程度
  • 「避難」の始期(すなわち損害算定の始期)の設定が重要
  • 当初の避難先が長期(半年以上)に渡る場合は、そこから2年間
  • 当初の避難先が1か月未満である場合、その後、長期間滞在した場所への移動を「避難」とし、そこから2年間
  • 当初の避難(長期)から避難元へ戻り、更に京都へ移転した場合、避難元での滞在が短期間もしくは避難準備のためであれば通算。 ※当初避難から2年を過ぎての移転は相当性否定

   イ 概念による限定

   (ア)「移転」(避難に該当しない移動)
 移転の目的や時期、回数等から、移転理由が合理的といえる範囲に限定
  Ex)目的:生活を安定させるため(賃貸→無償住宅、居候状態→独居時期:事故直後(当初避難から2年を超えると否定)

   (イ)「一時帰宅」
 避難指示等によらない避難では、必要性と理由の合理性がある場合のみ
  Ex)冠婚葬祭→避難雑費に含まれる(ADRで支払済なら認める)
 自宅の整理→年4回、大人1人分を限度に認める
  ※ 貸家の場合、年3回しか認めない例あり

   (ウ)「面会交流」
 必要かつ合理的な頻度としては、平均して月1回程度
  Ex)避難元で別居する親が、避難先の子の元へ移動し、帰宅 → 肯定
 分離した夫婦の滞在者が、避難者の元へ移動し、帰宅→肯定
 避難先の子が、避難元の親の元へ移動し、帰宅→否定

  (3)損害額の認定基準

   ア ADR重視

  • ADRで認められた損害については、前提として考慮する。
     →原告の大半が、ADRで認められた金額はそのまま認定されている
  • ただし、移動にかかる交通費については標準交通費一覧を修正
     →標準交通費一覧表の額×0.8(自家用車以外の小人は×0.4)

   イ 生活費増加費用と避難雑費
  • 世帯分離による生活費増加費用はADR手続の運用実績から定額で認定→少ない方が1名の場合2万円、更に1名増える毎に1万円
  • その他、個別具体的な生活費増加費用については立証を要する
     Ex)自家消費野菜購入分、家賃差額、引越費用、学用品、自治会費等
  • 個別具体的に立証できない場合は、「避難雑費を超えない」として認定→避難雑費は1人につき月額1万円

   ウ 不動産、動産にかかる損害
  • 避難指示等によらない避難で、不動産や動産を喪失したとの主張は特段の事情のない限り認めない
     →避難に伴い不動産を売却し、あるいは動産を廃棄した者でも否定
  • 家財道具購入費用については、ADR手続の運用実績から認める
     →世帯分離:30万円を限度
     世帯全体で避難:15万円を限度
     ※より低額の実額が明らかになると、その金額に抑えられる
     ※より多額の実額を立証しても「不必要」として否定
     ※家財を要しない滞在先(寮など)にいる者は「分離」と扱わない

   エ 就労不能損害、営業損害
  • 避難指示等によるか否かに関わらず、避難後一定期間は、避難前の収入から新たに得た収入の差額に相当因果関係を認める
  • 休業期間が1年を超えると、半年は全額、残りは半額で認定される
     ※避難元で事業を継続していた者や、兼業禁止の公務員、適応障害で収入が低額である方については、全期間、全額肯定のケースも
  • 休業期間が1年未満でも、他の要因が重なる場合は半額で認定
     Ex)職業訓練、専門学校通学、ボランティア、出産後の子の養育

   オ 慰謝料について

 ①「居住制限区域」(平成29年4月1日解除)
  月10万円を下回らず、終期は平成30年3月30日より前にならない…中間指針第二次追補(平成30年3月31日まで月額10万円)
 ②「緊急時避難準備区域」(平成23年9月30日解除)
  月10万円程度。終期は平成24年9月30日より前にならない…中間指針第二次追補(平成24年8月31日まで月額10万円)
 ③「自主的避難等対象区域」
  妊婦、子どもは各60万円、それ以外の者は各30万円。…中間指針追補+第二次追補(妊婦等は60万、それ以外は8万)
  ※事故直後に進学で転居した子について20万円に減額した
  精神的苦痛を大きくする特別事情(総括基準2の一部)があれば考慮
   Ex)障害、幼少期医療被ばく
 ④「区域外」
  自主的避難等対象区域に居住していた者と同等である場合には同額を、同等と言えずとも、準じる場合には15万円(妊婦、子どもは30万円)
 ⑤「胎児」
  本件事故当時に胎児で、避難時までに出生した者は、子どもの半額
  避難時に未出生であり、避難後に出生した者については、認めない
 ⑥「滞在者」及び避難の相当性が認められなかった者
  滞在者や、避難の相当性が認められない者でも、滞在中ないし避難前に抱く不安や恐怖も、精神的苦痛として評価される
 ⑦地域コミュニティ侵害
  避難に伴う慰謝料と別個に慰謝料が発生すると解することはできない。



第2 損害論の問題点と控訴審での主張


 1 損害の問題点

 (1)何といっても、慰謝料の金額が低い
 (2)時期による限定…因果関係(避難の相当性)


 2 控訴審での主張(現在、控訴理由書を検討・起案中)


  (1)総論
  • 被保全権利(包括的生活利益としての平穏生活権)の性格を再度強く主 張する。
  • 慰謝料の水準について、実態面について、事実に基づく主張・立証
  • 個別費目についての裁判所の枠組み批判(EX.不動産損害の一律否定)

  (2)個別原告ごとの主張・立証の補充
  • 個別の費目ごとに主張していた金額が適正か(裁判所の認定より、原告の主張が低額ではないか、主張漏れがないか等)
  • 原告の個別事情に対する裁判所の評価が適切か。
  • 慰謝料増額要素の抽出                 etc.

以上

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