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★ 京都訴訟判決報告集会 判決の解説と評価 責任論 
4/29に行われた判決報告集会での弁護士からの判決の解説と評価を掲載しています。

責任論
因果関係
損害論

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 京都南法律事務所 弁護士 清洲真理

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1 京都判決(責任論)

 予見対象の津波

 敷地高を超える津波の到来で、全交流電源喪失の危険があり、O.P.+10mを超える津波が予見対象となる

 津波の予見可能性

東電 遅くとも平成14年末には、長期評価の見解について、津波評価技術の手法を用いて、津波到来を予見できたし、予見義務があった
平成14年末、東電に試算させるなどして、津波到来を予見できたし、予見する義務もあった

 平成14年2月:津波評価技術、同年7月:長期評価がそれぞれ発表

 ※津波評価技術
  →社団法人土木学会が作成、公表
  →過去に起きた津波を波源モデルにして作られた計算手法、過去に大きな 津波のない福島県沖海溝沿い領域を波源とする津波の評価には対応していなかった
  →個別地点の津波水位は、最新の波源の知見・データを基にして、波源を設定してあてはめれば、推計計算できるようになっていた

 ※長期評価
  →国が設置した特別機関(地震調査研究推進本部)が作成、公表
  →地震発生の予測に関する見解、三陸沖から房総沖の海溝沿いのどこでも M8クラスの津波地震が起きる可能性がある(同領域に波源がある)と予測

  →津波評価技術に、長期評価の波源の知見を当てはめて計算すると、O.P.+15.7mの津波が到来する計算結果が出た
 東電は、平成20年4月にこの試算を得ているが、平成14年にもできた

 新たに検討すべき知見の程度・対象

 →常に最新の知見に注意を払い、再検討することが求められている
 →確立された科学的知見以外の、未だ見解の一致をみない知見であっても、客観的かつ合理的な根拠となる場合があり得る
 →長期評価の見解は、統一された通説的な見解とまではいえないが、公式的見解であり、防災上の観点も含めて、一つの有力な見解であり、波源に関する最新の公的知見といえる

 結果回避可能性

 敷地+10m(O.P.+20m)程度の高さの防潮堤の設置、電源設備の水密化・高所配置の対策を行えば、本件事故を回避できた可能性が高い

 東電の過失の程度

 重過失ではなく、通常の過失

 国の責任
  • 平成18年に耐震設計審査指針が改定され、原発施設の供用期間中に発生し得る「地震随伴事象」を考慮すべきと規定、「地震随伴事象」には、津波が含まれていた→同年9月、国は、指針改定に伴い、東電に対し、耐震バックチェックをするよう指示している(しかし、長期評価には言及せず)
  • 平成18年5月の第3回逸水勉強会で、東電試算により、水位の高い津波到来で電源設備の機能喪失が生じることが明らかになっている
  →国は、電気事業法40条・省令62号の技術基準適合命令や、炉規法に基づいて行政指導を行い、東電が従わない場合は、(明文はないが)取消権限の分量的一部としての運転一時停止命令を行うべきであった
  →国が上記権限行使を平成14年末、どれほど遅くとも平成18年末に行わなかったことは、国賠法1条1項により違法
  →国は東電と同様に、損害全部を賠償する責任を負う


2 他控訴審での国の主張

 「絶対的安全性」と「相対的安全性」の主張

  →原子力規制で「絶対的安全性」を求めることは不可能
   求められる安全性は「相対的安全性」を前提とした一定レベルの安全性

 (理由づけ)
  • 改正前の原子力基本法、炉規法、電気事業法の規定
  • 原子力技術という科学技術を利用した施設は、常に危険性を内包
  • 得られる利益の大きさと比較し、社会通念上容認できる水準なら安全
 (京都判決)
 ←原子力発電所は、極めて高い安全性が求められる
 放射能の放出により、相当広範囲の住民の生命や身体、財産等に対し、取り返しのつかない損害を与える可能性
 どれほど国民生活の水準向上にとって原子力発電所の必要性が高いとしても、(規制の仕組みの)担保なしに設置を許可することは、周辺住民の権利保護や国民感情からして考えにくい

 規制権限行使における専門性・裁量性の主張

  →「相対的安全性」の主張を前提としている
   規制行政庁が行う権限行使は、相当広範なものである

 (理由づけ)
  •  原子力発電所の安全性の判断は、高度に専門技術的
  •  電気事業法40条の文言
  •  被害発生の切迫性が予見できない場合は、必ずしも優先して津波対策をとることは求められていない
  •  行政庁は資源や人材等が有限であり、リスクの大きさに基づいて資源をさく「グレーデッドアプローチ」による専門技術的判断が必要
     ※原子力規制に関する法令の趣旨・目的に、原子炉施設の周辺住民の生命・身体という重大な法益の保護が含まれていること、原子力発電所事故の被害が重大なものとなることを考慮しても、裁量の幅は広範と強弁
 (京都判決)
 ←防災の効率や財政的な制約という現実的問題によっても、高い安全性が求められる原発に関わる東電、国の予見可能性の判断や予見義務を免責するわけではない
 ←炉規法及び電気事業法が段階的安全規制を採用しているのは、段階毎に厳密に審査し、万が一であっても事故による災害を生じさせないようにするため
 ←防潮堤の設置や電源設備の水密化・高所配置は同施設の一時停止や大規模な改修作業等を必ずしも伴うものではない
 ←敷地高を超える津波の到来の予見は、原子炉の安全性に大きく影響を与える事実であり、経産大臣の専門技術的裁量はあるとしても、権限行使の基礎となる事実がないということはできない
 ←炉規法や電気事業法は、施設周辺の住民を中心とした生命、身体、財産等の具体的利益を保護することを目的としている
 経産大臣が有する電気事業法及び炉規法の権限は、上記具体的利益を保護するため、適時かつ適切に行使すべきである
 ←平成14年時点では、津波到来の危険が間近に迫っている緊急状況とまであったといえないとしながら、国の予見可能性・権限不行使の違法性を認めている
 ←経産大臣に規制権限が与えられている趣旨は、事業者が利益追求のために安全性をないがしろにするようなことがあった場合に、規制権限を行使して、原子力災害を防止して公共の安全性を確保することにあり、その判断に高い専門技術性が要求されることから、経産大臣の権限行使以外の方法で安全性を確保することは困難であって、専門技術的知見を持たない周辺住民が、権限行使を期待するのは当然
 ←まず行政指導などの不利益を生じないものを行い、東電が従わない場合に強制力のある運転の一時停止命令等に進むといった段階を設けることが可能

 ※国は、長期評価に基づく津波の試算を東電に指示していないばかりか、自ら推計することもしていない
 長期評価が確立した知見かどうかについても、経産大臣又は保安院が、積極的に何らかの検討をした形跡はうかがえず、裁量の働くような専門技術的判断をしたと認めがたい

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