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★ 準備書面(34) ―LNTモデルが科学的知見に基づく考え方であること― 
平成28年3月22日

  原告提出の準備書面(34) (PDF)

目次

第1 LNTモデルとその国際的な位置付け
 1 はじめに
 2 LNTモデル(甲D共通56・14頁)
 3 国際的位置付け

第2 LNTモデルの科学的根拠
 1 放射線が人体に与える影響(甲D共56・11頁)
 2 疫学的調査結果

第3 結語



第1 LNTモデルとその国際的な位置付け


 1 はじめに

 被告東京電力は,『ICRPが,LNTモデルには科学的根拠はないものの,安全サイドに立って採用している』と主張するが,誤りである。


 2 LNTモデル(甲D共通56・14頁)

 LNTモデルとは,放射線による健康被害のリスクにしきい値がなく,健康被害のリスクが被ばくする放射線量に比例するという考え方である。


 3 国際的位置付け

 LNTモデルは,ICRP(国際放射線防護委員会)において採用されている。ICRPは,2007年勧告の中で,LNTモデルを採用した根拠として,「a 放射線量評価のための人の解剖学的及び生理学的な標準モデル,b 分子及び細胞レベルでの研究,c 動物実験を用いた研究,d 疫学的研究の利用」に基づくと述べている。
 また,米国のBEIR委員会でも,LNTモデルが採用されており,その根拠として,「LNTモデルが最近の研究が示す科学的根拠と矛盾しない」ことを挙げている。
 LNTモデルは,科学的根拠に基づくものとして,国際的に受け入れられている考え方なのである。


第2 LNTモデルの科学的根拠


 1 放射線が人体に与える影響(甲D共56・11頁)

  (1)DNAに対する放射線の影響

 DNAの化学構造は,五単糖,リン酸,塩基などでできているが,これらは5ないし7eVという小さなエネルギーで結合している。
 これに対し,放射性物質が崩壊する際に発せられるエネルギーは膨大(たとえばセシウム137が崩壊する際に発せられるベータ線のエネルギーは512千eV,ガンマ線のエネルギーは661千eVである。
 ゆえに,かかる放射線がDNAに当たればDNAは簡単に破壊される。周囲の水に当たれば,電離を起こして多数のフリーラディカルが生じ,それがDNAや周囲の蛋白質を傷つけ,DNAの日本の鎖が同時に損傷する二本鎖切断が発生し,周囲の分子をも巻き込んだ複雑損傷となる。
 DNA損傷が発生した場合,相同染色体から正常に修復がなされれば問題ないが,切断されたDNAの断端を結合することにより修復がされると,塩基配列が変化し,変異を引き起こし,発がんに繋がる。
 なお,詳細は準備書面(3)の13頁以下で述べたとおりである。

  (2)しきい値なし,直線的増加

 かかる二本鎖切断は,実験的には1.3mGyから観察され,線量の増加とともに100Gy[1]まで直線的に増加する。つまり,発がんのリスクもまた,線量の増加とともに高まるということである。
 このことは,ICRP2007年勧告の遺伝子及び染色体の突然変異に対する線量反応関係(A89)でも,「放射線による遺伝子及び染色体の突然変異の誘発が,がんの過程に直接重要である」ことを述べ,「数十mGyの線量まで直線性を示唆しており,数mGyに至る低い線量でこの単純な比例関係から外れることを示唆するよい理由はない」と明記されている。
 更に,同A90では,「現行のデータは,放射線の作用に特徴的な科学的に複雑なDNA二本鎖損傷の,本質的にエラーを起こしやすい修復過程が支配的であることを示している。数十mGyに至る低い線量での量反応関係がほぼ直線になることと合致し,線量とこの突然変異に関連するがんのリスクとの間の単純な比例関係が存在することを暗示している。数十mGy以下の線量におけるDNA修復の忠実さが生化学的に変化する可能性は排除できないが,そのような変化を予測する具体的理由はない」とも述べられている。

[1] 電離放射線により物質に与えられた単位質量当たりのエネルギー量の単位であり、これに放射線の生物学的な影響の強さに対応する係数を掛けたものがSvである。(詳細は原告ら準備書面3・12頁から13頁

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 2 疫学的調査結果

  (1) 広島・長崎原爆被爆者寿命調査 (甲D共56・13頁)

 広島・長崎原爆被爆者寿命調査14報では,全固形がんについて過剰相対危険度が有意となる最低線量推定線量範囲は0〜0.2Gyであり,定型的な線量閾値解析(線量反応に関する近似直線モデル)では閾値は示されず,ゼロ線量が最良の閾値推定値であったと述べられている。すなわち,ゼロ線量以外はリスクがゼロの線量は推定されない,したがって放射線被ばくに安全量はないといえる。
 また,同13報の要約でも,固形がんの過剰相対リスクは,0〜150mSvの線量範囲においても線量に対して線形であるようだと報告されている。

  (2)原発周辺での小児白血病の増加(甲D共56・13頁)

 近時,イギリスやカナダ,フランス,アメリカ,ドイツなどの原発周辺において,白血病の死亡率や罹患率が高まっているという報告がなされている。
特に,ドイツにおけるKiKK調査では,ドイツの全ての原発から5km以内(当該地域は,ICRPのリスクモデルでは検出不能な数値と考えられるほどの低線量地域)に居住する乳児及び6歳以下の子どもに,白血病で120%の増加,全がんでは60%の増加が報告されている。
 この調査結果は,放射線による健康被害のリスクに,しきい値はないということを示している。

  (3)チェルノブイリ事故の健康影響(甲D共56・19頁)

 チェルノブイリの事故に関するロシアの調査(2004年)によれば,公式に「病気」と認定された事故処理者は,事故後0年で0%,5年で30%,10年で90ないし92%,16年で98ないし99%となっている。
 パリのウクライナ大使館でも,事故後19年には事故処理者の94%が何らかの病気を抱えていると発表している。ここで増加が報告されているのは,悪性腫瘍のほか,消化器系,内分泌系,神経・感覚器系・泌尿器系などの疾患である。
 ウクライナ政府からの事故後25年の報告書でも,悪性腫瘍のみならず,心臓血管系,消化器系,内分泌系,免疫系,神経系など多数の非がん性疾患の増加が報告されている。さらには,被ばくした父親あるいは母親を持つ子どもに染色体異常や形態異常が増加することも報告されている。
 ウクライナ政府が2011年に発表した報告書によると,健康な子どもたちの割合が時とともに減少していることが明らかとなっている。子どもたちは疲れやすく,呼吸器,心臓血管系,消化器系,内分泌系,肝臓,膵臓疾患など多岐にわたる病気に罹患している。通常の体育の授業を受けられる子どもたちは全校生徒の24%であり,その他の生徒は授業内容を考慮し,あるいは授業そのものが免除されていると報告されている。


第3 結語

 以上のとおり,LNTモデルすなわち放射線による健康被害のリスクにしきい値がなく,健康被害のリスクが被ばくする放射線量に比例するという考え方は,科学的根拠に基づくものとして,国際的に受け入れられているのである。

以上

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