TOP    裁判資料    会報「原告と共に」   げんこくだより   ブログ   リンク

★ 準備書面(30) ―国の調査義務・予見可能性(津波)― 
平成28年3月22日

  原告提出の準備書面(30) (PDF)

目 次

第1 はじめに

第2 平成18年耐震審査指針の改正に基づくバックチェック

第3 安全情報検討会
 1 安全情報検討会
 2 新耐震基準と津波評価
 3 小括

第4 結論



第1 はじめに

 原告は、平成14年7月の「長期評価」公表後、被告東電が「予見対象津波」を予見可能であったと述べた。また、被告国が「長期評価」を作成し、かつ、「津波評価技術」の策定にも関わっていた事実(原告準備書面(4)16ページ参照)から、被告国が規制機関として適切に調査義務を果たしていれば同時期に予見可能であったことについて述べた。
 本書面では、被告国が、平成18年耐震審査指針改正を契機として、/遅くとも/平成18年に調査義務を行使していたこと、かつ、適切な調査を行っていれば平成20年3月の東電社内試算に基づき「予見対象津波」が予見できたことについて述べる。


第2 平成18年耐震審査指針の改正に基づくバックチェック

 平成18(2006)年9月19日に新たな「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(以下「新耐震指針」という)が内閣府原子力安全委員会(以下「安全委員会」という)で正式に決定された。新耐震指針においては地震随伴事象である「津波」を考慮すべきことが明示された。
 平成18(2006)年10月18日に東電が提出した既設原子炉設備の耐震安全評価実施計画書によると、福島第一原発の耐震バックチェック最終報告書の提出期限は平成21(2009)年6月末とされていたが、平成19(2007)年7月16日に新潟県中越沖地震が発生し、東電柏崎刈羽原子力発電所(以下「柏崎刈羽原発」という)で設計を大きく上回る揺れが観測されたため、平成20(2008)年3月末までに、各原子力発電所の代表プラントで中間報告を実施することとなった(甲A1-490:国会事故調)。
 中間報告の対象範囲は、基準地震動の策定、安全上重要な建物・構築物の耐震安全性評価、安全上重要な機器・配管系の耐震安全性評価とされ、(4)地震随伴事象に対する考慮(周辺斜面、津波)等、は中間報告の対象範囲には含められなかった(甲A1-490,491:国会事故調)。
 平成20(2008)年3月、被告東電は代表プラントである福島第一原発5号機及び福島第二原発4号機の中間報告を保安院に提出したが、耐震バックチェックの中間報告には、津波等の地震随伴事象に関する評価は含まれていなかった(甲A1-497,498,499:国会事故調)。その後、本事故時までに、耐震バックチェック最終報告書は提出されなかった(甲A1-491,492:国会事故調)。
 2 原子力安全・保安院は、津波高評価を含む耐震バックチェックを適切に行えば、平成20年3月の東電内部試算を知り得た。
 原告は、平成20年3月に、東電が、長期評価の地震の知見を津波評価技術(2002)にあてはめることにより、O.P.+15.707mの津波高の津波が来襲することを予見(試算)していたことについて述べた。
 以下、原子力安全・保安院と原子力安全基盤機構が主催した安全情報検討会の資料を引用し、(1)原子力安全・保安院ら国の機関が、平成18年には、電気事業者に対し耐震バックチェックの一環として津波評価技術(2002)に基づく津波評価を指示していたことを詳述し、(2)原子力安全・保安院ら国の機関が、適切に監督、指示すれば(調査義務を果たせば)、平成20年3月の東電社内試算を知り得たこと、すなわち、遅くとも平成20年3月には「予見対象津波」を予見できたことについて述べる。

 △ページトップへ

第3 安全情報検討会


 1 安全情報検討会

 平成14年6月の原子力安全・保安部会報告「原子力施設の検査制度の見直しの方向性について」、及び、同年10月の原子力安全規制法制度検討小委員会中間報告において、法令上の報告対象となるトラブルのみならず、事業者から提供される軽微な事象にかかる情報についても、分析し、トラブル防止に活用するなど、規制行政に反映していくべきである旨が指摘された。
 以上の指摘を踏まえ、原子力安全・保安院と原子力安全基盤機構は、規制機関情報の収集、評価・分析を行うこととし、その一環として、月二回程度「安全情報検討会」を定期的に開催した(甲B63:「規制当局における安全情報(規制関係情報)の収集及び活用について」と題する文書)。


 2 新耐震基準と津波評価

 安全情報検討会では、2004年のスマトラ沖地震を原因とするインドマドラス原子力発電所の外部溢水事故を参考に、「インド津波と外部溢水」という名称の項目を設け、外部溢水に関し継続的に議論を行っていた。以下、安全情報検討会の議事録及び資料を引用する。

  (1) 平成18年9月13日 第54回安全情報検討会

 第54回安全情報検討会資料(甲B64:第54回安全情報検討会資料)では、「我が国の現状と問題点」の欄に、津波に対する設計上の対処に関し「設計水位において原子炉の安全性が損なわれないこと」として「敷地周辺の地震津波の調査による設計津波波高の推定」の必要性が挙げられ、対処法として「(1)敷地整地面の決定(地形・地盤条件、プラント配置、土木工事条件等も考慮)、(2)防波堤の設置及び必要に応じて建屋絵入り口に防護壁の設置、(3)原子炉冷却系に必要な海水確保(海水ポンプの津波時機能維持)」との記載がある。
 その下の項目には、「緊急度及び重要度」として「我が国の全プラントで対策状況を確認する。必要ならば対策を立てるように指示する。そうしないと『不作為』を問われる可能性がある。」との記載がある。
 さらに、「我が国の対応状況」として「当面全プラントでの対策を確認」「電気協会が耐震技術指針の改定に際し土木学会手法をベースに津波水位評価法も取込中であり、その動向を注視しながら判断」と記載されている。

  (2) 平成18年11月15日 第58回安全情報検討会

 第58回安全情報検討会資料(甲B65:第58回安全情報検討会資料)は、より明確に、新耐震審査指針のバックチェックの一環として「津波対応」を位置づけることを明示した。

  (3) 平成19年2月21日 第62回安全情報検討会

 第62回安全情報検討会資料(甲B66:第62回安全情報検討会資料)では、「2006年度中に今後の基準策定をにらんだ中間報告案を作成中」との記載がある。
 この記載からは、安全情報検討会では、平成18年度中に、「津波(外部溢水)」に関する中間報告書の作成を目標としていたことがわかる。

  (4) 平成19年3月29日 第64回安全情報検討会

 第65回安全情報検討会資料(甲B67:第64回安全情報検討会資料)には「・電気協会は耐震技術指針の改定に際し土木学会手法(2002年)をベースに津波水位評価法も取込中であり、注視する」との記載があり、津波高の評価にあたって、土木学会策定の津波評価技術を利用することが明示された。

  (5) 平成20年6月18日 第86回安全情報検討会

 第86回安全情報検討会資料(甲B68:第86回安全情報検討会資料)は、「インド津波と外部溢水」の項目には、「調査 注意喚起 要」「・各事業者からの対震安全評価結果をフォローし、必要事項がれば勉強会で検討予定」「・各事業者からの耐震安全評価(新耐震基準)に基づく津波影響評価の確認(平成20年度中)
 すなわち、ここでは、新耐震基準に津波高評価を含むこと、及び、(被告国が)これを平成20年度中に確認することが明示された。

  (6) 平成21年2月18日 第105回安全情報検討会

 平成21年2月18日第105回安全情報検討会資料(甲B69:第105回安全情報検討会資料)によれば、「浜岡、伊方、志賀、柏崎刈羽」発電所の津波評価結果のみが「耐震構造小委、地震・津波、地質・地盤合同WG」に報告された事がわかる。

  (7) 平成21年3月4日 第106回安全情報検討会

 第106回安全情報検討会資料(甲B70:第106回安全情報検討会資料)は、「浜岡、伊方、志賀、柏崎刈羽」発電所の津波評価結果が「耐震構造小委、地震・津波、地質・地盤合同WG」に報告された事実が、「対応実施上の要決定・追加事項」の欄に重ねて記載され、しかも赤字で示されている。【図省略】


 3 小括

安全情報検討会の議事録及び資料より、(1)津波高の評価が新耐震指針のバックチェックの一環に位置づけられること、(2)被告国は、津波評価技術(2002)をもとに津波評価を行う予定であったこと、(3)被告国は、平成18年には津波評価を全プラントにて行う旨の指示を出したが、その後、平成20年度中にずれ込み、結局福島第一原発については事故前に津波高の最終報告がなされなかったこと、(4)被告国は、津波高評価を行わないことが「不作為」責任を問われる旨認識していたこと、が明らかになった。


第4 結論

 したがって、被告国は平成18年耐震審査指針改正により/遅くとも/平成18年に津波高に関する調査義務[1]が課せられており、かつ、適切な調査義務を行使していれば平成20年3月の東電社内試算に基づき「予見対象津波」が予見できた。
(なお、原告の主張は、被告国には規制機関として当然に調査義務が課されており、耐震審査指針改正を俟たずして、平成14年には予見対象津波を予見する義務があったことを本旨とするものであることを念のため再言する。)

[1] 安全情報検討会は津波評価技術(2002)を評価の手法としているが、「津波評価技術」は、地震等の新知見により波源等を修正して使用することが予定されていた。被告東電の社内試算も、長期評価の見解により、明治三陸沖地震の波源を修正(移動)して試算したものであり、被告国も、新知見を踏まえた評価を指示、監督すべきであった。

以上

 △ページトップへ

原発賠償訴訟・京都原告団を支援する会
  〒612-0066 京都市伏見区桃山羽柴長吉中町55−1 コーポ桃山105号 市民測定所内
   Tel:090-1907-9210(上野)  Fax:0774-21-1798
   E-mail:shien_kyoto@yahoo.co.jp  Blog:http://shienkyoto.exblog.jp/
Copyright (C) 2017 原発賠償訴訟・京都原告団を支援する会 All Rights Reserved. すべてのコンテンツの無断使用・転載を禁じます。