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★ 原告ら準備書面(29) ―証人調書に基づく弁論(津波)― 
 第3章 都司嘉宣証人調書(甲B61号証関係) 
平成28年3月22日

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第3章 都司嘉宣証人調書(甲B61号証関係)
 第1 長期評価について
 第2 津波評価技術について
 第3 予見可能性について
 第4 津波の遡上



第3章 都司嘉宣証人調書(甲B61号証関係)

 都司証人は,歴史地震と津波,高潮に関する専門家であり,1995年から,歴史地震の専門家として推進本部の地震調査委員会の長期評価部会の委員に就任し,2002年の長期評価の策定に関与した(都司第1調書20頁)。


 第1 長期評価について

  1 長期評価は、地震の専門家による合意の成果である

 長期評価は、地震、津波の専門家のみにより構成されており、その専門家全員の合意として文章にまとめられたものである(都司第1調書23乃至25頁)。異論が出た場合でも、議論の上で異論を否定し、合意を形成した(同42頁)。
 したがって、長期評価の知見は、当時の地震・津波の専門家にオーソライズされた信用性の高いものであるといえる。

[都司第1調書24,25頁]【図省略】

[都司第1調書42頁]【図省略】


  2 日本海溝寄りを陸寄りと区別し、一つの領域としたことの合理性

 都司証人は、「長期評価」が「三陸沖北部から房総沖の海溝寄り」を一つの領域として区分けした理由、すなわち同領域が地震学的に同じ性質を持っていることの根拠として、青森県沖(北端)から房総沖(南端)の日本海溝から幅60〜70キロメートルの領域には(1)ほとんど微小地震が起こっていないこと、(2)低周波の地震が起こっていること、及び(3)付加体が分布していることをあげた(都司第1調書9,28,35頁、第2調書8頁)。
 なお、長期評価策定時には、日本海溝寄りを南北で区分する説も存在したが、
 海溝型分科会はそれらの知見を踏まえ議論した上で結論に至った(都司第2調書72頁)。
 以上より、「三陸沖北部から房総沖の海溝寄り」を一つの領域と判断したことには、明確なエビデンスにもとづく合理的な理由が存在する。

[都司第1調書28頁]【図省略】

[都司第1調書35頁]【図省略】


  3 長期評価の信頼度の意味

   (1) 信頼度について
 被告らは、「三陸沖北部から房総沖の海溝寄り」の部分の発生領域、発生確率の信頼度が「C」ランク(乙B7)であることから、長期評価の信用性を減殺しようとするが、都司尋問によっても長期評価の信用性が減殺されないことが裏付けられる。

   (2) 発生領域の信頼度
 都司氏は「三陸沖北部から房総沖の海溝寄り」の部分の発生領域が「C」であることを、ある範囲の中に同じような規模、性質の地震が起こることは確実にわかっているが位置が指定できない」ことを指すと説明した。これは、宮城県沖や福島県沖の日本海溝寄りのどこでも起こりうるということである。なお、都司証人は、同領域の信頼性を「低くない」と評価している(都司第2調書58頁)。

[都司第1調書48頁]【図省略】

   (3) 発生確率の信頼性
 都司証人によれば、長期評価は、領域内での同様の地震の回数が3回である場合を「C」としたものに過ぎず、将来も同じような地震が繰り返すことが予想されるため、「C」評価であっても同領域に発生する地震に備えた防災の必要がある。

[都司第1調書50,51頁]【図省略】

   (4) 規模の信頼性について
 規模の信頼度「A」の場合、福島沖、宮城沖の日本海溝沿いの領域には、この領域でもっとも大きい明治三陸沖地震、ないし延宝房総沖地震規模の地震が起こることを想定する必要がある。

[都司第1調書51頁]【図省略】

   (5) 小括
 以上より、都司尋問の結果、長期評価の信頼度の「表示」が「C」であることは長期評価の信用性が低いという意味ではなく、明治三陸地震乃至延宝房総地震規模の地震に備え対策を行うべきであったことが明らかになった。この点、被告東電作成の平成23年3月7日付「福島第一・第二原子力発電所の津波評価について」と題する書類(甲B11)には、地震調査研究推進本部の見解に沿って、「明治三陸沖地震」及び「1677(延宝)房総沖地震」の波源モデルを三陸沖北部から房総沖の海溝寄りに置いて試算しており、被告東電も長期評価の信頼性が上記の内容であることを熟知していたものと考えられる。なお、明治三陸沖地震の試算は平成20年3月、延宝房総沖地震は同年8月になされていた。
 以上より、「三陸沖北部から房総沖の日本海溝より」の領域に同領域最大規模の津波地震である「明治三陸沖地震」が起こることを前提として、津波高試算を行うべきであったという原告の主張が裏付けられる。

[甲B11:東電作成「福島第一・第二原子力発電所の津波評価について」]【図省略】

  4 中央防災会議について

 被告らは長期評価策定後の「中央防災会議」が長期評価の考え方を取り入れなかったことを根拠に長期評価の信用性を否定する。しかし、都司証人は、福島沖の巨大地震を想定の対象としないとする中央防災会議の事務局提案の誤りを指摘する島崎発言を肯定し(都司第1調書55頁)、理学的には想定可能であった災害対策が、行政的な観点(予算、時間等)から回避させられたと評価している(甲B61-3:都司意見書64頁)。
 都司証人の証言等から、中央防災会議が長期評価の知見を採用しなかったのは、理学的な見地ではなく、もっぱら経済的な見地、率直に言えばコストの問題から採用しなかったことがわかる。

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 第2 津波評価技術について

  1 津波評価技術の区分けの合理性を否定

 都司証人は、波源設定に関し、津波評価技術が三陸沖と房総沖の日本海溝寄りの部分を地震「空白」地帯と評価し、その領域に地震が起きないと判断していることを問題視している。すなわち、都司証人も島崎証人と同じく、津波評価技術の区分けの合理性を否定している。

[都司第1調書54,55頁]【図省略】

[甲B2-1-59を加工]【図省略】


  2 既往津波に基づく想定の誤り

 都司証人は、その意見書の中で、「津波評価技術」が数値計算の基礎となる想定津波について、基本的に既往津波に基づく想定を行うことを「誤り」であると指摘する(甲B61-3:都司意見書63頁)。
 その理由は、地震学者らが把握している地震はわずかな期間(400年)に過ぎず、すでに発生した地震(既往地震)が限界規模の大地震である、大地震が発生していない地域では今後も大地震が起こらないとする理学的根拠が無いからである(甲B61-3:都司意見書63頁)。

  3 小括

 都司証人は、「津波評価技術」が、過去400年の既往津波のみを対象とし、福島県沖日本海溝寄りの領域を地震空白域としたことの問題点を明らかにした。

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 第3 予見可能性について

 都司証人は、東北地方太平洋沖地震に伴う巨大津波は予想していなかったとしつつも、長期評価策定直後に、日本海溝の近くで同じような地震が起きる可能性があり、大きい津波が生じることが想定可能であり、かつ、事故は防げたと明言した。

[島崎第2調書3頁]【図省略】

[都司第2調書84頁]【図省略】

[都司第2調書45頁]【図省略】

[都司第2調書42,43頁]【図省略】


 第4 津波の遡上

  1 福島第一原発は津波エネルギーが増幅する形状をしている

 都司証人は、津波の専門家であるところ、福島第一原発の防波堤の構造が、津波のエネルギーを集中しやすい「∨字湾」の形状であるとのべ、津波高10メートルの津波であっても、津波の増幅効果により、津波高で14メートル乃至16メートルまで増幅することを示した。
 これは、実際の津波高が10メートル超であった可能性を推認させる事実である。

[都司第1調書15,16頁]【図省略】

  2 津波高6メートルの津波の遡上

 都司証人は津波の研究者であり、意見書において、遡上のメカニズムを詳説し、津波の陸上における浸水高及び浸水域の限界点の高さは、本来の津波の高さを超える旨述べている(甲B61-3-19,20頁)。
 また、福島第一原子力発電所が立地する海岸線において津波高6mの津波が来襲した際の遡上計算も可能であると述べている。
 ここで、原告らが準備書面(16)第4で主張したとおり、国土庁作成の津波浸水予測図は、津波高6.7メートルの津波であっても敷地の大部分が浸水するとの結果を示しているが、都司証言によりこれが遡上計算により可能であるということが示された。
 したがって、津波高O.P.+6.7mの津波を予見すれば、遡上計算により(または平成11(1999)年発行の津波浸水予測図を参照することにより)、福島第1原子力発電所の敷地が浸水することも想定できたのである(別紙図3参照 【図省略】)。

[都司第2調書85,86頁]【図省略】

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