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★ 原告ら準備書面(29) ―証人調書に基づく弁論(津波)― 
 第2章 島崎邦彦証人調書(甲B60号証関係) 
平成28年3月22日

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第2章 島崎邦彦証人調書(甲B60号証関係)
 第1 長期評価について
 第2 津波評価技術について
 第3 予見可能性について



第2章 島崎邦彦証人調書(甲B60号証関係)

島崎邦彦氏は、地震・津波の専門家であり、かつ、2002(平成14)年に「長期評価」を策定した地震調査研究推進本部・長期評価部会・海溝型分科会の委員の主査であった。島崎証言から、原告らの主張を裏付けることができる。以下、引用し論ずる。


 第1 長期評価について

  1 長期評価の目的

 長期評価は、阪神・淡路大震災の反省を踏まえ、国全体として地震及び津波の研究内容をまとめ、その対策を一般人及び地震防災関係者などに広く速やかに伝えることを目的として作成された。
「阪神・淡路大震災の反省、すなわちそれまで地震調査研究の内容が一般の方や防災関係者に伝わっていなかったということの反省から地震本部が作られ、地震調査研究の内容がすぐに一般の方や地震防災関係者に伝わるようになったわけです。」(島崎第1調書40頁)
「地震の調査研究の成果を一般の方やあるいは防災研究者に伝えると言う目的で地震本部が作られたわけです。そこで、地震調査委員会からいろいろな議論を経た結果を例えば2002年に津波地震の長期評価として公表しているわけです」(島崎第1調書25頁)。

  2 長期評価は、地震の専門家の合意による成果である

 島崎氏は、地震調査研究推進本部・長期評価部会・海溝型分科会の委員の主査として専門家の議論を取りまとめ、全員の専門家が合意した内容として「長期評価」が成立した。
「私は、その長期評価部会の部会長、あるいは海溝分科会の主査を務めておりましたので、そういう意見の中から言わば最大公約数的にまとめていくというのが私自身の仕事でありました。皆さん、独自の見解をお持ちなわけですけれども、その独自の意見をほかの人が賛成しなければやはり引っ込めざるを得ないわけでありまして、だから、そういう意味では、取りまとめた結果が百パーセント満足な結果であると思われるとは必ずしも限らない。ただ、全員で合意した結果というのは大変意義のある結果だと、そのように考えています。」(島崎第1調書24頁)。
 このように、長期評価は著名な地震専門家が結集し、地震・津波の専門家が公の場で議論した末に合意に至った内容であって、信用性は極めて高い。なお、島崎証人は、国の機関が長期評価を策定したにも関わらず、被告国が長期評価の信用性を否定する主張を行うことに対して、「同じ国が何か自己矛盾をしているのではないかと思います」と断じている(島崎第1調書25頁)。

  3 日本海溝寄りを陸寄りと区別し、一つの領域としたことの合理性

   (1) 問題の所在
 被告らが主張の根拠とする「津波評価技術」は「地震地体構造区分」(1991年作成の萩原マップ 別紙図4)【図省略】を参考として「三陸沖北部から房総沖の海溝寄り」の領域を更に区分し(別紙図1:津波評価技術の区分け(甲B2-1-59)参照)、「三陸沖北部から房総沖の海溝寄り」の南側を地震空白域とする。
 他方、長期評価は、「三陸沖北部から房総沖の海溝寄り」を一つの領域として区分し(別紙図2:長期評価の区分け(甲B9-15)参照)、この領域において、1896年の明治三陸地震、1611年の慶長三陸地震、1677年の延宝房総沖地震という三つの津波地震が発生したことから、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの地域のどこかで津波地震が発生する確率は今後30年間で20%であると結論した。
 そこで、「三陸沖北部から房総沖の海溝寄り」を一つの領域とするか否かが争点となる。

   (2) 長期評価の区分け(甲B9-15)は合理的である
 島崎氏は、「長期評価」が日本海溝寄りを陸寄りと区別し、「三陸沖北部から房総沖の海溝寄り」を一つの領域と判断した理由として、同領域が北部、中部、南部ともプレートの構造及び地形に差異がなく、津波地震はこの領域のどこでも起こりうることを挙げている(島崎第1調書11乃至16頁)。また、このような見解を採用した根拠として深尾・神定論文を挙げる(島崎第1調書11,12頁 第2調書27頁)
 したがって、「長期評価」の区分には合理性がある。

[島崎第1調書12頁]【図省略】

[島崎第1調書13頁]【図省略】

   (3) 津波評価技術の区分け(地震地体構造区分)を否定
 島崎氏は、「津波評価技術」が北部と南部の波源域を区別したことについて、「断層の設定が非常に恣意的である」点、及び、時間的に限られたデータを根拠としたため「どこにでも起こりうる」地震を考慮していない点を指摘し、合理性を否定する。

[島崎第1調書26頁]【図省略】

[島崎第1調書26,27頁]【図省略】

[島崎第1調書27,28頁]【図省略】

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  4 長期評価の信頼度の意味

   (1) 信頼度について
 被告らは、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの部分の発生領域、発生確率の信頼度が「C」ランク(乙B7)であることから、長期評価の信用性を減殺しようとする。
 しかしながら、島崎尋問により、信頼度の意味が明確になり長期評価の信用性がいささかも減殺されないことが裏付けられた。

   (2) 発生領域の信頼度の意味
 まず、発生領域の信頼度が「C」であることは、むしろその領域の何処でも地震が起こりうるということを意味し、地震対策を行うべきことが明らかになった。

「(甲ロ第66号証の2の1ページを示す)この信頼度を定めた資料の、想定地震と同様な地震が発生すると考えられる領域を1つの領域とした場合というカテゴリーがありますが、これは三陸沖から房総沖にかけての海溝寄りの領域のことですか。
  •  はい、そのとおりです。この図2にありますように、領域の中に複数の震源域が含まれる場合に当たります。
 この場合に、信頼度がCとされたというのは、どういう意味なのでしょうか。
  •  これも回数で決まっていて、4階以上がB、1ないし3回がC、まだ起きていない場合がDですので、3回ですから、Cということです。とにかくCというと余り信頼度がないかのように思われるかもしれませんけれども、この意味は、同じような地震が発生することが分かっていて、それはこの領域の中で起こるということが確実に分かっているんですけれども、この領域の中のどこかということが詰め切れてないという場合に当たるということです。ですから、発生しないだとか、発生があやふやだとか、そういう意味ではありません。
 そうしますと、発生領域の信頼度がCというのは、日本海溝沿いのどこでも津波地震が発生し得るという可能性自体を否定するものなのでしょうか。
  •  いいえ、違います。どこで起こるか分からないということは、逆にどこでも起こり得るということですので、日本海溝沿いのどの地域も津波地震を考えて対策をすべきだということになります。」(島崎第1調書18頁)
   (3) 規模の信頼度
 乙B7によれば、同領域の規模の評価の信頼度はAである。これは、同領域に明治三陸地震と同程度の規模の地震が起こりうる信頼性が高いということである(島崎第1調書19頁)。

   (4) 発生確率の信頼度
 乙B7によれば、同領域の地震の発生確率は「C」ランクとされる。しかしながら、これは発生確率が小さいということを意味するのではなく、「その発生の確率がある公表される値よりも大きくなる、あるいは小さくなるようなことがあるかどうかという意味」であり、地震に対して備えを行う必要があることが明らかになった。
「(甲ロ第66号証の16ページを示す)これを見ますと、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域については、発生確率の信頼度がCとなっています。これはどうしてでしょうか。
  • これは、先ほど申し上げたように領域の中に複数の震源域がある場合で、その場合はポアソン過程を使うわけですけれども、信頼度は回数によっています。
(甲ロ第66号証の20ページを示す)ここにありますけれども、Cというのは、『想定地震と同様な自身は領域内で2〜4回』、これに該当するということですか。
  • はい、そのとおりです。
そうしますと、そのCに該当するというのは、大きな津波地震が発生するという予見自体を否定したり、あるいは信頼度を下げるというものなのでしょうか。
  • いえ、これはその発生の確率がある公表される値よりも大きくなる、あるいは小さくなるようなことがあるかどうかという意味です。今回の場合、なぜBPTではなくポアソン過程を使っているかといいますと、明治三陸地震の震源域の位置が南北が定まらない、どこだか分からないというためです。もしもの話ですが、例えば明治三陸の発生位置がきっちり図示できるように分かっていたとします。もし分かっていたとすると、それより南の場所は400年間自身が起きていないわけですから、発生の可能性は高いわけです、ですから、確率は公表された値よりも高くなるということで、公表されている値の確率がどのくらい動き得るかという目安がこのCという信頼度になっているわけです。動き得る可能性が大きいということになりますが、とにかくそういうことであって、地震が起きないだとか、起きることがあやふやだとかいうのではなくて、起きるときの確率の計算の値のあやふやさが出ているだけであります。ですから、もちろん起きると思ってちゃんと対策をとる必要があります。
そうすると、発生確率の信頼度がCだからといって、防災上の観点から無視していいとは言えないということでしょうか。
  • 無視するなんていうのはとんでもありません。これは、ちゃんと備えないといけないということです。」(島崎第1尋問調書20乃至22頁)
   (5) 小括
 以上より、島崎尋問の結果、長期評価の信頼度の「表示」が「C」であることは地震の発生確率が小さい、又は、長期評価の信用性が低いという意味ではなく、明治三陸地震規模の地震に備え対策を行うべきであったことが明らかになった。
 以上の長期評価の内容から、原告が主張する、「三陸沖北部から房総沖の日本海溝より」の領域に同領域最大規模の津波地震である「明治三陸沖地震」が起こることを前提として、津波高試算を行うべきであったという主張が裏付けられる。

  5 中央防災会議について

 被告らは長期評価策定後の「中央防災会議」が長期評価の考え方を取り入れなかったことを根拠に長期評価の信用性を否定する[2]
 しかし、島崎尋問によれば、(島崎氏も参加していた)中央防災会議において、多数の地震学者より長期評価の知見を採用しないことに対する異議がでていたことがわかる。また、中央防災会議は、一般防災を目的としたものであり、原子力発電所など特に高度の防災が必要となる特別防災を目的としたものでないことが明らかになった。

[島崎第1調書30,31頁]【図省略】

 また、島崎氏は、中央防災会議が長期評価の考え方を排除したことについて、圧力があったことを訴えている。

[島崎第2調書78頁]【図省略】

[2] 原告準備書面(13)26頁以下にて詳述

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 第2 津波評価技術について

 島崎氏は、「津波評価技術」が、せいぜい過去400年における既往最大の考え方を採用することについて、用いるデータの期間によっては適切な想定が出来ない問題点があり、津波評価技術で検討対象となった福島県沖の日本海溝寄りの領域にもその問題点が当てはまると指摘する。
  • 「問題となっている地震の繰り返し間隔よりも短いようなデータを使っている場合には、大変な誤りを起こすことになります。すなわち、たまたまある期間のデータを使って、その期間内に地震がたまたま発生しなかった。しかし、それを用いて既往最大の考え方を適用すると、その地域は地震が起こらない地域になってしまうわけですね。ですから、十分長い期間のデータを用いない限りは、既往最大の考え方は、使うと大変な誤りを起こします。
先生の、先ほどのそのような御指摘については、津波評価技術で検討対象となった福島沖の日本海溝沿いに当てはまるものでしょうか。
  • はい。400年間ですので、もっと長い間隔のものがあるということを考えていないというのは、重大な誤りです。」(島崎第1調書27、28頁)
 以上の通り、島崎氏は、「津波評価技術」の地震の評価について「重大な誤り」があると指摘している。


 第3 予見可能性について

 島崎氏は、(1)被告東電が、1896年の明治三陸津波地震の断層モデルを福島沖の日本海溝寄りに移動して計算するということは可能であること、(2)地震空白域にその地域と同じような地質学的条件にある既往地震の断層モデルを当てはめて計算することが地震学の常識的な方法であること、及び、(3)本件の場合、明治三陸沖地震を断層モデルとして福島県沖海溝寄りにおいて津波の予測を行うことが妥当であると述べ、被告らの予見可能性を肯定した。

[島崎第1調書37,38頁]【図省略】

 また、平成20(2008)年に被告東京電力が行った、長期評価の考え方に基づき福島沖日本海溝沿いに明治三陸津波地震の波源モデルをおいた津波試算において、福島第一原子力発電所の敷地南付近でO.P.+15.7メートルという数値を得たことについて、以下のように述べ、同様の計算は遅くとも平成14(2002)年10月には可能であり、かつ、有効な対策を取り得たと結論づけた(島崎第1調書39,40頁、同第2調書77頁)。

[島崎第1調書39頁]【図省略】

[島崎第1調書40頁]【図省略】

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