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★ 準備書面(25) −SA対策の規制権限不行使の違法について− 
 第1 本件事故当時のIAEA安全基準 
平成28年1月20日

目 次(←クリックすると準備書面(25)の目次に戻ります)

第1 本件事故当時のIAEA安全基準
 1 IAEA安全基準とは
 2 IAEA安全基準は国際的慣行である
 3 IAEA安全基準の構造
 4 事故当時に存在した安全基準(安全要件、安全指針)



第1 本件事故当時のIAEA安全基準


 1 IAEA安全基準とは

 国際原子力機関(IAEA)は、原子力施設及び活動の安全に関する共通の基盤を加盟国に提供することを目的として、国際的合意を得た調和のとれた安全基準を整備し、「IAEA安全基準シリーズ」として発行している。

 2 IAEA安全基準は国際的慣行である

 IAEA安全基準は、法的拘束力を有するものではないが、その一方で、「加盟各国がその活動に応じてそれぞれの判断により、国の規制に取り入れるもの」であり、「IAEA自身の活動及びIAEAによって支援された活動については、安全基準の適用が義務付けられている」(甲C63「No.NS-R-1」iii頁)。また、以下の理由により、加盟各国の原子力安全規制の妥当性評価の一つの指標と見なされる。
  1. WTO/TBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)は、規格を制定する際に、原則として「関連する国際規格に準拠すること、規格及び適合性評価手続きを内外無差別かつ最恵国待遇で他の締約国の産品に適用すること、及び、規格及び適合性評価手続きの透明性を確保すること」等が規定されている。ここでいう国際規格とは、IAEA安全基準であり、日本においても原子力規制にかかる法令等の制定、改訂時には参照する必要がある。(甲C64-6-3頁、同1-1頁:「平成21年度 原子力施設の国際安全基準に係る調査に関する報告書」、甲C65-1:「IAEA安全基準の位置付け及び構成」)
  2. 原子力の安全に関する条約[1](甲C66)は、日本を含む60カ国をこえる条約締結国の安全確保状況の妥当性確認のベースとして安全基準シリーズを準用する(甲C64-1-1)。
したがって、IAEA安全基準の適用は「国際的慣行」であり、かつ、加盟国である日本は当該基準の国内法適用を要請されていた。

 以下、福島第一原発事故時までに策定されていたIAEA安全基準を上げ、被告国が省令制定権限を行使し、SA対策を規制要件化すべきであったことを述べる。

[1] 平成八年十月十八日政令第十一号 発効日:H08.10.24(H08.10.18 外務省告示 513)

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 3 IAEA安全基準の構造

 IAEA安全基準は、安全原則、安全要件、安全指針の3種類に分類される。

  (1)安全原則

 安全原則は、基本的な安全の目的と、防護と安全の原則を示し、安全要件のための基礎を示すものである。具体的な要件は、「安全要件」によって定められている。事故時には「安全原則」として安全基準シリーズNo.SF-1が刊行されていた(2006(平成18)年 甲C67)。

  (2)安全要件

 安全要件は、安全を確保するために、原子炉施設が満たされなければならない要求事項を定めている。

  (3)安全指針

 安全指針は、安全要件を満足するための活動、条件又は手続き等の推奨事項を記載している。

  (4)安全基準シリーズの義務付けの程度

 安全基準シリーズにおける要求事項は、「shall文(ねばならない)」及び「should文(すべきである)」として使い分けがなされている。
 「shall文(ねばならない)」は、要件を満たすことを義務付けている。
 「should文(すべきである)」の文言で表現され、推奨された対策または条件をみたすための代替手段の採用を要請している(甲C63-iii頁「No.NS-R-1」)。

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 4 事故当時に存在した安全基準(安全要件、安全指針)

 既存の安全基準シリーズは以下の表のとおりである(甲A3-300政府事故調)【表省略】

  (1)NS-R-1:「原子力発電所の安全:設計」

 2000(平成12)年公開の安全要件NS-R-1:「原子力発電所の安全:設計」は、5層の深層防護概念を前提に、所外に起因する事象(外的事象)を含む防護策の具備を加盟国に要請した(甲C63−5)。【図省略】
 そして、設計基準事故を越える事象(深層防護第4層)に対し、「工学的判断と確率論的手法の組み合わせを用いて、合理的で実効可能な発生防止策及び影響緩和策を特定するため事象推移を決定しなければならない」「確率論的手法、決定論的手法及び適切な工学的判断を組み合わせて、シビアアクシデントに至る重要な事象推移を同定しなければならない」とする。これは、原告の主張する、確率論的評価、事故シーケンスの同定を指すものである。
 また、「選定された事象の発生頻度を減らすか、または、起きた場合の影響を緩和できる可能性のある設計変更や手順について評価し、合理的に実行可能であれば実施しなければならない」として、事故発生防止のための対策を義務付けている。

[甲C63-18,19頁]【図省略】

 確率論的手法の説明においては、「外的危険事象、特に発電所の敷地に特有なものの発生確率及び影響を評価する」こと、「シビアアクシデントの発生確率を低減できるか、または、その影響を緩和できる設計改善又は運転手順の変更が可能な系統を明らかにする」こと等を目的として「発電所の確率論的安全解析が実施されなければならない」としている。

[甲C63-27,28]【図省略】

 更に、発電所に対する外部事象の例等については、安全シリーズNo.50-C-Sに委ねられている(甲C63-51 附属書I-12)。安全シリーズNo.50-C-Sは、安全要件NS-R-3「原子炉等施設の立地評価」(甲C68-1:2003(平成15)年刊行)によってブラッシュアップされた。

  (2)NS-R-3:「原子炉等施設の立地評価」

 NS-R-3:「原子炉等施設の立地評価」(甲C68:2003(平成15)年刊行 安全要件)は、外部事象として、「地震に起因する水波」すなわち津波を挙げ、「有史以前及び歴史上のデータの収集」して確率論的安全評価を行うことを要請している。
2.18 主要な外部現象に関連する危険性を決定するために適切な手法を採用しなければならない。これらの手法は、最新のもので、当該地域の特徴に合致したものであるという点から正当化されなければならない。適用可能な確率論的手法については特別な考慮が払われるべきである。外部事象に対する確率論的安全評価を行う際には、一般に、確率論的ハザード曲線が必要となることに注意すべきである。

2.19 主要な外部事象に関連する危険性を決定するための手法が適用される地域の大きさは、対象とする自然及び人為的な現象の決定において、また、それらの事象 の特性に対して、重要となる全ての特性と領域を包含できるように十分に大きなものでなければならない。

地震もしくはその他の地質学上の現象に起因する水波
3.24 立地地点の原子炉等施設の安全に影響を及ぼすような津波や水面振動の可能性を決定するために、当該地域の評価を行わなければならない。

3.25 可能性があるとわかった場合は、立地地点周辺の海岸領域に影響を与える津波あるいは水面振動に関連した有史以前及び歴史上のデータを収集し、立地地点の評価への関連性とその信頼性に関して注意深く評価しなければならない。

3.2 当該地域に対する入手可能な有史以前及び歴史上のデータに基づくとともに、これらの現象に関してよく調査されてきた類似の地域と比較することにより、地域的な津波や水面振動の発生頻度、大きさ及び高さを算定し、また立地地点での海岸構造によるいかなる増幅をも考慮した津波や静振に関する危険性を決定するのに利用しなければならない。

3.27 既知の地震記録や地震構造上の特徴に従って、沖合での地震によって発生する津波や水面振動の可能性を評価しなければならない。

3.28 津波や水面振動による危険性は、既知の地震記録や地震構造学的特徴並びに物理的及び/又は解析的なモデル化から導出しなければならない。これらには、立地地点へ物理的影響を及ぼすことのある引潮及び上潮を含む。

  (3)NS-G2.15:「原子力発電所のシビアアクシデントマネジメント計画」

 さらに、IAEAは2009(平成21)年に、NS-G2.15:「原子力発電所のシビアアクシデントマネジメント計画」(安全指針 甲C16)を作成し、洪水を含む外部事象設計基準を越える事故のPSA評価を推奨した。さらに、「外部事象により提起される具体的な脅威」として、「電源喪失、制御室や電源開閉装置室の喪失」を挙げている。
同基準の作成に国は関与しており、2005(平成17)年に同基準の草案を知り得た(原告準備書面(8) 第3,2(2)参照)。
1.7. この安全指針は、第一に、原子力発電所の運転組織、電力会社、およびそれらの支援組織が使用することを意図したものである。この指針は又、規制当局が関連する国内の規制要件の作成を促進するために使用されることもある。

2.17. シビアアクシデントマネジメントでは、発電所のすべての運転モード、並びに、発電所の広範囲を損傷する可能性がある火災、洪水、地震、および極めて異常な気象状態(例えば、強風、極端な高温や低温、および渇水)のような適切に選択した外部事象も対象にするべきである。シビアアクシデントマネジメントの手引きでは、電源喪失、制御室や電源開閉装置室の喪失および系統や機器への接近が難しくなる場合のような、外部事象により提起される具体的な脅威が検討されるべきである。

3.1. 防止のアクシデントマネジメントの手引きは、起こり得る設計基準を超える事故事象の全体像、すなわち、可能性のある起因事象に基づいて起こり得ると考えられるすべての事象、並びに、事象の進展中に、追加的なハードウェアの故障、人的過誤及び/又は敷地外の事象によって引き起こされ得る複雑さを、扱うべきである。

3.2. 事象の全体像を決定する上で、レベル1確率論的安全評価(PSA)(利用可能であれば) あるいは他の発電所における類似の研究から、さらに当該発電所と他の発電所で得られた運転経験から、有用な手引きが得られる。事故の進展が、PSAではとてもありそうもないパスで構成されるようであってもまたはPSAで全く特定されないとしても、事象の選択は、すべての特定された状況におかれた発電所職員のための手引きの根拠を与えるように十分に包括的であるべきである。

  (4)NS-R-2:「原子力発電所の安全:運転」

 NS-R-2:「原子力発電所の安全:運転」(甲C69 安全要件 2000(平成12)年刊行)は、原子力発電所の運転から廃止措置に至るまでの安全運転の要件を定めたものである(甲C69-1)。
 同安全基準は、第5章第10項以下「運転指示書と運転手順書」の項目において運転指示書及び運転手順書の作成、検討、妥当性評価等の管理手順の策定を義務付けているところ、設計基準事象を超える事故に対しても、緊急運転手順書又はシビアアクシデントマネジメント手引書の策定を義務付けている(甲69-14,15)。【図省略】

 また、同安全基準は、第10章「定期安全レビュー」の項目において、運転中の原子力発電所に関して定期安全レビュー(PSR)による安全再評価を求めている。そして、現行の安全解析書の妥当性をPSRによって判断すべきこと、また、PSRについては確率論的安全評価(PSA)を利用することを求めている(甲C69-23,24)。【図省略】

  (5)GS-R-1: 「原子力、放射線、放射性廃棄物及び輸送の安全のための法令上及び行政上の基盤」

 GS-R-1:「原子力、放射線、放射性廃棄物及び輸送の安全のための法令上及び行政上の基盤」(安全要件 2000年刊行 甲C70)は、原子力施設の安全その他に関する、「法的な責任と行政の責任に関する」要件を定めるものであり、規制機関設置のための法的な枠組みの策定もその対象である。同基準は、規制プロセスの各段階にて審査評価をすべきこと、規制の程度は危険の大きさ、性質に見合うものであること(危険の大きい施設に対しては厳格な許認可手続きを要すること)、及び、加盟国が規則及び指針を策定する際には、IAEA安全基準のような国際的な基準を考慮すべきことを要求している。【図省略】

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