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★ 準備書面(23)
 ―IAEA「福島第一原子力発電所事故事務局長報告書」等に基づく補論― 
 第2 SA対策に関するIAEA報告書の内容 
平成27年9月25日

目 次(←クリックすると準備書面(23)の目次に戻ります)

第2 SA対策に関するIAEA報告書の内容
 1 設計基準を超える事故とアクシデントマネジメントの評価
 2 被告国の規制の不備(甲A15-57〜61)
 3 結論―省令制定権限不行使の違法、規制的行政指導の不作為の違法



第2 SA対策に関するIAEA報告書の内容

 次に、シビアクシデント対策についてIAEA報告書の指摘する問題点を示す。


  1 設計基準を超える事故とアクシデントマネジメントの評価

 福島第一事故当時のIAEA安全基準[8]は、全ての通常運転モード、事故状態、及びシビアアクシデントを含む設計基準を超える事故の場合に安全機能を遂行できるかどうかを判断するため、評価を実施することを求めていた。これらの評価手法として確率論的手法、決定論的手法、及び適切な工学的判断を併用して、シビアアクシデントにつながる可能性がある重要事象シーケンスを特定する必要がある。また、事故対策を改善するために使用できる想定事故シナリオを研究するため、設計基準を超える事故の具体的・決定論的分析を実施する必要がある。
 しかし、福島第一原子力発電所には、IAEA安全基準が規定する確率論的安全評価を行わず、設計基準を超える事故が十分に考慮されていなかったため、炉心の冷却を維持する能力、重要な安全パラメータを監視する運転員の能力、及びシビアアクシデント状態の管理に影響を及ぼした(甲A15−54〜58)。

【甲A15−57】【図省略】

[8] 引用されている安全基準「IAEA Safety Standards Series No. NS-G-2.15」の内容については原告準備書面(17)「第3」参照

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 2 被告国の規制の不備(甲A15-57〜61)

 規制当局による、設計基準を超える事故に関する規制要件の範囲は限定されていた。

  (1)IAEA報告書の見解

 IAEA報告書は、原子力安全委員会が1992(平成4)年にアクシデントマネジメントに関する指針[9]を発出し、同年には通商産業省(MITI)がアクシデントマネジメントのロードマップを発表し[10]、電気事業者に対し当初の設計で考慮していたものより重大な事故に対処するための措置を取るよう求めたが、事業者による限られた自主的活動にとどまったことを問題点として指摘した。
 また、IAEA報告書は、2007(平成19)年6月のIAEA総合規制評価サービス(IRRS)ミッションが、日本の規制当局に対する評価として、「日本の発電所は、予防措置によって確保されているとおり十分に安全であるとみなされているため、設計基準を超える[事故]の考慮に関する法的規制はない」と結論づけたことを問題点として指摘する。例えば、日本の定期安全レビュープロセスが、電気事業者に対し最新の手法を利用して解析させることを要求していなかったこと、規制枠組みにシビアアクシデントマネジメント要件が含まれていなかったことである。そして、この点は、被告東京電力の本件福島第一原発のシビアアクシデントに対する準備不足につながったと指摘した。
 ここで、IRRSミッションとは、IAEA加盟国における原子力利用に当たっての安全を確保するため、IAEAが加盟国の要請に基づき行う原子力安全に関するレビューサービスの一つである。IRRSは、加盟国の原子力規制に関し、その許認可・検査等に係る法制度や関係する組織等も含む幅広い課題について総合的なレビューを行う(甲C61-1「INTEGRATED REGULATORY REVIEW SERVICE (IRRS) TO JAPAN」(原文),甲C61-2:「(仮訳)日本に対する総合原子力安全規制評価サービス(IRRS)」)。
 また、「定期安全レビュー」とは「許認可取得者と規制当局が新しい情報と現行の基準及び技術に照らして、設計と外部ハザードを再検討する公式メカニズム」である。日本では、2003年に発行された規制により、10年間隔の定期安全レビューが要求されたが対象範囲が限られており、また、外部ハザードの再検討を要求していなかった。IAEA報告書は、日本における定期安全レビューが、対象範囲が限られており、外部ハザードの再検討を要求していなかったことを、「国際的慣行と完全に一致するものではなかった」と評価している。

[9] 甲C1:「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネジメントについて」(安全委員会決定)
[10] 甲C7:「アクシデントマネジメントの今後の進め方について」


  (2)2007(平成19)年のIRRSミッション

 IAEA報告書は、「2007年の日本へのIAEAのIRRSミッションは、設計基準を超える事故に関する規制要件の必要性を提案し、原子力安全・保安院がこれらの事象の考慮に対する系統的アプローチを開発し続けること、及び確率論的安全評価とシビアアクシデントマネジメントの補完的使用について提案した[51]。」、しかし「同ミッションの提案は、この分野における更なる努力を喚起することにはつながらなかった。」と報告している。
ここで、2007年のIRRSレビューチームは、日本の規制の有効性を肯定的に評価する場合は「Good practices;良好事例」とし、他方、改善が必要な点を「Suggestions;助言」「Recommendation;勧告」としてレポートした。以下、IRRSレビューの原文より、平性年当時に指摘されていた日本の規制の問題点を示す(甲C61−1:3,48頁以下:「IAEA-NSNI-IRRS-2007/01」、甲C61−2:3,48頁以下:「(仮訳)日本に対する総合原子力安全規制評価サービス(IRRS)」)。

分野1:法制度と政府の責任
 「勧告:規制機関である原子力安全・保安院と原子力安全委員会の役割、特に安全指針の策定に関して、明確化を図るべきである。」

分野2:規制機関の権限と機能
 「助言:原子力安全・保安任は、相互理解と尊重に基づいた、率直かつ開かれた、但し、立場の違いをわきまえた産業界との関係を醸成し続けることが望まれる」

分野3:規制機関の組織
 「勧告:原子力安全・保安院は、品質マネージメントシステムの特質、事業者の運転要件や運転慣行の知識と自覚など、検査要件の全ての側面が適切に含まれるように、訓練要件や訓練グラムを強化すべきである。」
 「勧告:原子力安全・保安院は、5ヵ年戦略計画の各項目に対応して、日本の効果的な原子力安全規制を確保するために必要な職責や職務を果たす職員の最小限の必要数を明確に特定する人員計画を作成すべきである。将来の職員や予算要求は、これら最小限の必要数と追加的な作業や職務に必要な補足分に基づくべきである。(規制機関である原子力安全基盤機構/原子力安全・保安院、原子力安全委員会の職員数は、それぞれの機関の使命、完全性、公平性、中立性等を考慮して確保されるべきである。)」

分野4:許認可
 「助言:原子力安全・保安院は、リスク低減のための評価プロせずにおいて設計基準事象を超える事故の考慮、補完的な確率論的安全評価の利用及びシビアアクシデントマネジメントに関する体系的なアプローチを継続すべきである。」

分野5:安全評価
 「勧告:原子力安全・保安院は、検査と命令により、事業者が他の国内施設や海外施設から教訓を学ぶための効果的なプロセスを確保すべきである。」
 「勧告:原子力安全・保安院は、事業者の保安規定が包括的であり、かつ人的及び組織的要員も含めて運転安全に関する全ての要素に対応していることを確保するよう、規制要件の検討と改定を継続して実施すべきである。」
 「助言:原子力安全・保安院は、人的及び組織的要員が運転安全性に及ぼす影響を考慮しつつ整合性のとれた評価と検査を実施するための規制上の指針及び基準の作成と実行を継続すべきである。」

分野6 検査と規制の執行

 「勧告:原子力安全・保安院は、その検査官がサイトでいつでも検査する権限を有していることを確保すべきである。これにより、検査官はサイトへの自由なアクセスが可能となり、法律で規定された検査期間中というよりも任意の時間に職員とのインタビュー、文書審査の要求などが出来るようになる。これは建設検査・運転検査の両方に適用される。」
 「勧告:原子力安全・保安院は、設備上の問題がある場合には停止するという法的な規定に加えて、例えば不十分な運転性能の場合でも原子力発電所を停止できる権限の根拠を明確化すべきである。」

分野7 規制とガイドライン等の整備
 「勧告:原子力安全・保安院は、原理的・概念的論拠よりもむしろ実際の履行に焦点をあて、統合的な品質マネージメントシステム(QMS)の構築を継続すべきである。第一ステップとして、QMSは、部門の年間計画立案に際して5ヵ年戦略計画を考慮すべきである」
 「助言:原子力安全・保安院は、品質マネージメントシステムの現実的な要素を効率的かつ早急に実施するために、原子力安全委員会や原子力安全基盤機構とのインタラクションと関係を含めた全体プロセスのマップを策定すべきである。これが効果的に実施されるよう、原子力安全委員会や原子力安全基盤機構と協議して行われるべきである。」
 しかしながら、同ミッションの提案は、規制当局により実行されず日本の原子力規制の改善につながらなかった。
 なお、平成23年7月29日付東京新聞は「原子力安全・保安院が、同年に国際原子力機関(IAEA)から組織の総合的な評価を受けた際、保安院と原子力安全委員会の役割が明確でない点など問題点を指摘されたのに、好意的に評価された部分のみを和訳して公表していたこと」、すなわち意図的にIRRSの否定的評価の和訳を公表しなかったことを報道している。

【東京新聞 2011年7月29日朝刊】【図省略】

  (3)国際的慣行に合致しない規制(甲A15-61)

 IAEA報告書は、日本の主要分野の規制と指針の一部が、事故当時の国際的慣行に一致していなかったことを指摘する。その中で、最も顕著な相違は、定期安全レビュー、ハザードの再評価、シビアアクシデントマネジメント及び安全文化に関連する規制である[52[11], 57[12], 58[13]]。
 定期安全レビューは、許認可取得者と規制当局が新しい情報と現行の基準及び技術に照らして、設計と外部ハザードを再検討する公式メカニズムである。IAEA報告書は、日本では、2003(平成15)年より、10年間隔の定期安全レビューが要求されたが、対象範囲が限られており、また外部ハザードの再検討を要求していなかったことから「国際的慣行と完全に一致するものではない」と指摘している。

[11] INTERNATIONAL ATOMIC ENERGY AGENCY, Periodic Safety Review of Nuclear Power Plants, IAEA Safety Standards Series No. NS-G-2.10, IAEA, Vienna (2003). (This publication is superseded by SSG-25 (2013)).
 原子力発電所定期安全レビュー (PDF)
[12] INTERNATIONAL ATOMIC ENERGY AGENCY, Governmental, Legal and Regulatory Framework for Safety, IAEA Safety Standards Series No. GSR Part 1, IAEA, Vienna (2010).
 [政府、法律及び規制の安全に対する枠組み: http://www.nsr.go.jp/archive/jnes/content/000117675.pdfよりダウンロード可]
[13] INTERNATIONAL ATOMIC ENERGY AGENCY, Periodic Safety Review of Nuclear Power Plants: Experience of Member States, IAEA-TECDOC-1643, IAEA, Vienna (2010).


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 3 結論―省令制定権限不行使の違法、規制的行政指導の不作為の違法

 IAEA報告書は、定期安全レビュー、ハザードの再評価、シビアアクシデントマネジメント及び安全文化に関連する規制が国際的慣行から逸脱するものであったことを指摘している。これには、外部ハザード(原子力発電所の外部で発生する原子力発電所の安全性に脅威を与える可能性のある事象)の再検討が含まれる。
 また、規制当局は平成19年にIAEAのIRRSミッションから、上記の事項を勧告されていたにもかかわらず、これを規制要件化しなかった。
 これらは、規制当局の省令制定権限不行使の違法、規制的行政指導の不作為の違法を基礎付ける事実である。

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