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★ 原告準備書面(16) ―津波補論―
 第1 「津波評価技術」の予測精度が「倍半分」(2倍の誤差がある)であること 
平成27年6月26日

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第1 「津波評価技術」の予測精度が「倍半分」(2倍の誤差がある)であること
 1 はじめに
 2 東北大学大学院工学研究科今村文彦教授のヒアリング結果
 3 元原子力安全保安院統括安全審査官高島賢二氏のヒアリング結果
 4 現在の気象庁も津波の予測精度は「倍半分」と認識している
 5 小括



第1 「津波評価技術」の予測精度が「倍半分」(2倍の誤差がある)であること


 1 はじめに

 準備書面(13)第3、2以下において、平成9年3月の「4省庁報告」、「7省庁手引き」策定時には、通産省顧問である首藤伸夫東北大教授らが同報告書の精度は「倍半分」、すなわち、精度に2倍の誤差があり得るとの見解を示していたことについて述べた。また、津波評価技術策定後、保安院が電気事業者に対し津波高の安全裕度について「1.5」として対策を行うように指示していた事実について述べた。
 以下、津波評価技術策定時及び現在においても津波の予測精度は2倍の誤差を考慮すべきことについて補足して述べる。


 2 東北大学大学院工学研究科今村文彦教授のヒアリング結果

 東北大学大学院工学研究科今村文彦教授は津波評価技術策定時に土木学会津波評価部会の部会員であった。平成23年8月19日、同人は、政府事故調事務局のヒアリングに対し、補正係数については津波評価部会にて議論を行わなかったこと、及び、議論すべきだった補正係数の案として「1.5」、及び『従来の土木構造物並び』で「3.0」を指摘している(甲B40.3、4:聴取結果書(政府事故調査報告書の原聴取内容で公開されたもの))。
 同人の聴き取り結果からは、津波評価技術策定時において、安全裕度を従来の土木構造物と同じように考えれば「3.0」倍まで考慮すべきだったことがわかる。

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 3 元原子力安全保安院統括安全審査官高島賢二氏のヒアリング結果

 平成24年4月11日、政府事故調事務局は、津波評価技術策定当時(平成14年)原子力安全保安院統括安全審査官であった高島賢二氏に対しヒアリングを行った(甲B41:聴取結果書(公開された政府事故調査報告書の原聴取内容))。
 このヒアリングにおいて、同人は、自身は津波評価技術について直接関わっていないが部下である「班長」(氏名は非公開)に対して、津波評価技術の内容が事業者のお手盛りになることを防ぐため規制機関として議論に加わり、(規制機関として)「主張すべきことを主張しろと指示した」と述べている。
 また、同人は、「自分は、津波評価技術の議論がずっと以前から■(ママ)先生[1]にはお世話になっており、津波の計算は非常に難しく■(ママ)を含むものであり、極端な場合は■(ママ)が倍または半分あるものと認識していた。」と述べている。
 高島賢二氏のヒアリングの結果からは2点の重要な事実が指摘できる。まず、被告国の規制機関である原子力安全・保安院が、津波評価技術策定の際に土木学会の議論に加わり規制機関として発言できる地位にあり、また保安院統括安全審査官が実際にそのような職務上の指示を与えていたという事実である。すなわち、被告国は津波評価技術の策定に規制機関として中心的に関わっていたのである。
 次に、被告国の規制担当者自身が、津波高の予測精度は「倍半分」、すなわち2倍の誤差があることを当然の事実として認識していたということである。
被告国は、「津波評価技術」において想定された津波高の2倍の高さを想定した対策の必要性を認識していたのである。

[1] ここで挙げられた氏名非開示の学者は、当時通産省顧問であり、4省庁報告、津波評価技術の策定にも関わった、首藤伸夫東北大教授、または阿部勝征東大名誉教授と考えられる。

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 4 現在の気象庁も津波の予測精度は「倍半分」と認識している

 気象庁はHPにおいて、一般市民向けの津波の解説ページ「津波について」を設けている(甲B42:気象庁HP[2])。同解説ページは、Q&A形式を採用しており、「津波の高さ○mと予報される場合、どこの地点で言うのですか?例えば、海岸線ですか。内陸部100m地点等のことですか。」との問いに対し
 「津波情報の中で発表している「予想される津波の高さ」は、海岸線での値であり、津波予報区における平均的な値です。場所によっては予想された高さよりも高い津波が押し寄せることがあり、その旨を津波情報に記載することでお伝えしています。また、現在の津波予測技術では、「予想される津波の高さ」の予想精度は、1/2〜2倍程度です。
なお、「津波の高さ」とは、津波がない場合の潮位(平常潮位)から、津波によって海面が上昇したその高さの差を言います。
さらに、海岸から内陸へ津波がかけ上がる高さを「遡上高(そじょうこう)」と呼んでいますが、「遡上高」は気象庁から発表される「予想される津波の高さ」と同程度から、高い場合には4倍程度までになることが知られています。・・」
との回答がなされている。
 すなわち、被告国の機関である気象庁は、現在でも津波予測の精度は「倍半分」すなわち予測値の2倍程度を考慮すべきとの見解を示している。

[2] http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq26.html


 5 小括

 以上より、津波高さの予測の精度は、平成14年の津波評価技術策定時においても、2倍の誤差を含むものとして認識されていたのであり、それを前提に津波対策がなされるべきであった。
 また、津波評価技術策定に関与していた被告東電及び被告国は当然にこの事実を認識していた。

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