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★ 原告ら準備書面(13) ―津波について― 
 第7 被告東電の主張について 
平成27年5月12日

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第7 被告東電の主張について
 1 被告等東電の主張(6号機関係)
 2 被告東電の主張(結果回避措置)



第7 被告東電の主張について


 1 被告等東電の主張(6号機関係)

  (1) 被告の主張

 被告は「浸水深が約1.5メートルであった6号機においては交流電源喪失に至らなかったことからすると、浸水深0.1メートルでは建屋内部に浸水し、交流電源喪失に至るとまではいえないことは明らかである。」と述べる(被告東電準備書面(3)11頁)。この点、被告東電は、浸水深1.5メートルであった6号機が浸水による交流電源喪失を免れたことを前提として、少なくとも1.5メートル以上の浸水がなければ炉心損傷の危険がないものと主張する趣旨と考えられる。
 以下、反論する

  (2) 6号機MC室にも浸水が確認されている

 本件において1号機乃至5号機は交流電源を喪失したが、6号機のみは非常用ディーゼルエンジン及び配電盤(M/C)が損傷しなかったため電源を維持することができた。しかし、以下述べるとおり、6号機において配電盤が設置されている電気品室(MC室)においても浸水が確認された。
 6号機のMC室は地下2階に存在するが、MC室に隣接する6号機放射性廃棄物処理建屋(RW/B)の地下2階には、床面からおよそ1.6mの高さまで滞留水が存在することが確認されている。さらに、放射性廃棄物処理建屋からMC室に浸水があり被告東電は漏水を拭き取って処理していた。政府事故調中間報告資料編157頁には、「6号機RW/Bとの間の壁からの浸水により配電盤が水没する恐れあり」との記載がある。
 すなわち、地下2階に位置する6号機MC室に浸水しており、配電盤が損傷し交流電源喪失に至る具体的危険があったのである(甲A2-327:政府事故調中間報告)。
 従って被告東電の主張はその前提を誤っている。

[甲A2-157 政府事故調中間報告資料]【図省略】

[甲A2-160 政府事故調中間報告資料]【図省略】

[甲A2-158 政府事故調中間報告資料]【図省略】

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 2 被告東電の主張(結果回避措置)

  (1) 被告東電の主張

 被告東電は、共通準備書面(3)「第3、4 浸水防止措置を講じていたこと」(12頁)において、
  1.  「配管破裂等に起因する内部溢水対策を講じるという見地」から原子炉建屋階段開口部への堰の設置等様々な溢水対策を実施していた。「津波による浸水対策として」海水配管 クト内の配管及びケーブルトレイの止水処理等を講じていた。
  2.  しかし、想定を大幅に上回る津波が発生したことから結果として効を奏さなかった。
  3.  それゆえ、敷地高をこえる津波が発生しただけで、上述した溢水対策にも関わらず、2号機及び4号機において本件事故と同程度の事象が生じ、本件原発から放射性物質が放出されるに至るわけではない。
と主張し、「敷地高を超える津波」と「結果発生」の因果関係を否定するようである。
 以下、反論する。

  (2) 被告東電は内部溢水対策しか行っていない

 そもそも被告東電は、津波水位の想定を「津波評価技術」による試算結果であるO.P.+5.4〜5.7mに依拠しており、敷地高以上の津波が到来することを想定して対策を行っていない(乙B3の1-29:東電事故調参照)。言い換えれば、被告東電の溢水対策は敷地高を越える津波を想定した対策ではない。
 平成25年3月被告東電作成の「福島原子力事故の総括及び原子力安全改革プラン」(甲A5)においても「福島原子力事故以前も深層防護の考え方に基づき、原子炉の安全確保を図ってきたが、その前提としていた事象は、プラントの内部でランダムに生じる故障を発端とした事象(いわゆる内的事象)に事実上限られていた。」と述べている(甲A5-53)。
 したがって、被告が講じた溢水対策は敷地高を越える津波を想定した外部溢水対策ではない。
 したがって、このような対策(内部溢水対策)を行ったことを理由として、「敷地高を超える津波」と「結果発生」の因果関係を否定することはできない。


  (3) 津波による浸水対策が不十分であったこと

 また、被告東電は、「津波による浸水対策」として、津波が発生した場合の浸水ルートになると考えられる海水配管ダクト内への止水壁の設置、海水配管ダクト内の配管及びケーブルトレイの止水処理等を講じていたと主張する。
 しかし、下図のとおり、海水配管は敷地より低い位置に設置されるものであるから、これの止水処理等は海水配管の接合部からの漏水対策とはなっても、敷地高を超える津波の浸水対策にはならない[5]

[甲A2:政府事故調中間報告資料63-循環水管の位置はO.P.+10より低い]【図省略】

[甲A2:政府事故調中間報告資料163]【図省略】

[5] 被告の主張は不明瞭であるが、海水配管を伝って建屋内に浸入した海水が海水配管接合部から漏水し、溢水することを防ぐための措置を指すと考えられる。なお、平成3年10月30日午後5時55分頃には、東京電力(株)福島第一原子力発電所1号機、タービン建屋地階南側の床面から海水の漏えいし、2台あるうちの1台の非常用ディーゼル発電機の下部が浸水する事故が生じている。この際、原子炉は手動停止した。(甲B38、39)

イ そもそも、原子炉における津波対策としては「対津波用の設備の異常を考慮し、ある程度の建屋内浸水があっても、重要区画内の設備が機能喪失しないこと」が重要であり(甲A5-55)、過酷事故を防ぐための最低限の措置をあらゆる角度から講じる必要がある。被告東電は、このような視点から、本件事故後、5つの対策方針((1)施設への浸水防止、(2)水密性の向上、(3)防潮堤の設置、(4)防水壁の設置、(5)排水ポンプの設置)を立て、福島第二原発、柏崎刈羽原発において対策を講じていることは既に述べた通りである(原告準備書面(7)17頁)。
 福島第二原発や柏崎刈羽原発で対策を講じられている可搬発電機の配備やマンホール蓋の固定、ハッチ内蓋のシール材による水密化などは、すべて平成14年段階で講じることができた措置である(原告準備書面(7)26頁)。
ウ また、2号機、4号機が全交流原電喪失に至った決定的な原因は、高圧配電盤(M/C)が地下1階に設置されており浸水により損傷したことである。そうすると、高圧配電盤が設置されている電気品室(MC室)を地下1階に設置するのではなく高層化ないしは水密化すれば本件事故は防げたといえる[6](2、4号機の空冷式非常用D/G(共用プール建屋1階)は被水を免れている)。
 電気品室(MC室)の高層化、水密化は、複雑な技術を要するものではなく、事故前でも実践することが可能であったが、被告は事故前にそれを行っていない。

[6] 5号機は、6号機からの電源融通により全交流電源喪失を免れた。したがって、2、4号機の電源が維持されれば、1号機は2号機からの、3号機は4号機からの電源融通により全交流電源喪失を免れることができた(被告東電共通準備書面(3)第3、4第4段落括弧書きも同旨と考えられる)。2、4号機の空冷式非常用D/G(共用プール建屋1階に設置)は浸水を免れたため、配電ができればSBOに至らなかった。

  (4) 小括

 以上、被告東電は、浸水対策が結果として効を奏しなかったと主張するが、そもそも被告東電は敷地高を超える津波に対する必要な浸水対策行っていない。
 必要な対策がなされていないにもかかわらず、これをもって、「敷地高を超える津波」と「結果発生」の因果関係を否定することはできない。

以上

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