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★ 原告意見陳述 
 
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● 第14回控訴審 意見陳述  一審原告 Aさん

 私は,福島県いわき市を生まれ故郷に持ちます。

 京都で歴史を勉強し,いずれ地元に帰るつもりで大学生活への準備をしていた時に,福島第一原子力発電所の事故を経験しました。

一号機の建屋が爆発している映像を観た瞬間から,見ることも触れることもできない,得体の知れない放射能が今でもこわくて仕方ありません。

「原発事故がこわい。このままここに皆でいてもいいのかな」

と,当時母に訴えた事を昨日の事のように覚えています。

ネットでみると国際社会の動きは早く,諸外国は大使館機能を大阪に移転させ,自国民に出国も含めた被災地からの避難を勧告しました。一方,我が国では20㎞圏内に避難指示が出されましたが,いわき市に避難指示は出されず,避難するしないを自分で判断するしかありませんでした。近所の人々,親戚,友人は次々と避難し,その人達から「何故避難しないのか」と電話で言われました。

 避難の決断を私達に背負わせ,屋内退避指示が出されている中,安定ヨウ素剤や水や食料等は自分で確保しに行けということは,とても矛盾していると思いました。

 やがて,余震と見えない放射性物質の恐怖から,妹がとうとう体調不良を訴えはじめ,今は亡き祖母も連れての避難を,私の父母は決めました。区域外・自主的避難者と呼ばれても,この時の両親の決断を,私は今でもありがたく思っています。

妹は京都の学校で中学3年生となりました。福島で高校受験に向けて頑張っていた中,友達と離され,言葉遣いも環境も全てが違う学校になじめず,家族と本人が力を合わせてようやくのことで高校合格を勝ち取りました。

 原発事故後,私は全てのものがまるで灰色や黒色に見えます。あの日を境に,全く違う場所に映ります。国や東京電力は公衆被ばく線量限度の年1mSvを毎時0.23μSvと言っていますが,2014年時点でも私の線量計は,いわき市の自宅玄関で0.44μSvを計測しました。ホールボディカウンターの検査を終え,その日初めて会った医師に,

「何の問題もありません。結婚して健康な赤ちゃんを産んで,幸せになる事ができます」

と突然言われ,放射能が人体に及ぼす影響は甚大である事を改めて痛感し,かえって母体としての自分を否定するようになりました。

 原発事故後,国際人権法に照らして,国連から日本へ沢山の勧告が出されています。例えば,早期に自国民の避難を勧告したドイツからは,「年間1mSvへ回復,避難者と住民への支援を継続。福島地域に住む人達,特に妊娠した女性と子どもの最高水準の心身の健康に対する権利を尊重すること」との勧告が出されています。

 原告に名を連ねる子ども達,或いは父母らが原告となっている子ども達の声を代読致します。

「住宅支援がなくなり,また避難先が変わり友達ができなかった。イベント等も,疲れるから行きたくなかった」

「福島にいた時の一千万分の一の元気しかなかった」

「京都のアルバイト先で,客と接客中に,福島出身である事から「放射能を浴びたような顔をしているな」と言われた」

「大好きなおじいちゃんとも離れ,寂しく,悲しかった。名前の響きから,学校で「ふくしまげんぱつ」と言われた。未来の子ども達のため,この裁判を見守りたい」

「母子避難により父親と生活することができない事が悲しいが,京都に来て自分の人生の核となるものを得られた。大人として伝えていきたい」

 家族との関係に葛藤を抱えてしまった苦しみを私に語ってくれた子供たちもいます。


「福島の友達と残りの高校生活を過ごし、卒業したかった。避難をするのは絶対に嫌だった。私の生活全てをめちゃくちゃにされた。勝手に避難を進めた家族を今でも許せない」というのです。

 本当は家族に避難を選択させた東京電力や国がいけなかったのに、どうして、大切な家族に対して、こんな思いを持たされてしまうのでしょう。


 私が産まれた時,福島第一原発はすでに稼働中で,チェルノブイリ原発事故も東海村JCO臨界事故も起きていました。私は,原発事故を経験してしまった一人として,私よりも若い世代に対しての責任感を感じています。ウクライナでは原発が武力による攻撃の的とされる具体的な事象までもが起きている今日,原発への社会通念とは一体何なのでしょうか。

今,心の中にこだまするのは,唱歌「ふるさと」の一節です。


「志を果たしていつの日にか帰らん 山はあおきふるさと 水は清きふるさと」


私の祖母や,判決を聴くことなく亡くなった原告達も含め,どれだけの経済的・心理的な負担を負いながらも避難しなければならなかったのか。これが認められることで,原発による更なる被ばく者がなくなることを心から願い,お願いを申し上げます。

以上


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