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判決要旨(pdf) 【判決要旨 目次】 主 文 事実及び理由 第1 事案の概要等 第2 本件における主たる争点 第3 当裁判所の判断 主 文
事実及び理由 第1 事案の概要等 本件は,平成23年3月11日,被告東電が設置し運営する福島第一原子力発電所(福島第一原発)1~4号機において,東北地方太平洋沖地震(本件地震)及びこれに伴う津波(本件津波)の影響で,放射性物質が放出される事故(本件事故)が発生したことにより,原告らがそれぞれ本件事故当時の居住地で生活を送ることが困難となったため,避難を余儀なくされ,避難費用等の損害が生じたとともに,精神的苦痛も被ったと主張して,原告らが,被告東電に対しては,民法709条及び原賠法3条1項に基づき,被告国に対しては,国賠法1条1項に基づき,それぞれ損害賠償を求める事案である。 第2 本件における主たる争点
△ページトップへ 第3 当裁判所の判断 1 予見可能性の有無について(争点①) (1) 予見可能性が要求される趣旨からすれば,予見の対象となる危険は,回避措置をとりうる程度に具体的であれば足りるというべきであり,結果回避可能性の問題は別としても,本件における予見対象は,福島第一原発1~4号機付近において,O.P.(小名浜港工事基準水面)+10mを超える津波が到来することで足りる。 (2) 原子力発電所を管理する被告東電や原子力発電所の施設の安全性に関して監督権限を有している経済産業大臣は,常に最新の知見に注意を払い,現在の原子力発電所の安全性について,万が一でも事故が発生しないといえる程度にあるのかどうか,常に再検討することが求められている。 ここでいう最新の知見は,統一的通説的見解でなければ採用することができないというわけではない。長期評価は,地震に関する調査,分析,評価を所掌事務とする被告国の専門機関である地震本部が,地震防災のために公表した見解であり,地震又は津波に関する学者や民間団体の一見解とは重要性が明らかに異なり,単に学者間で異論があるという理由で採用に値しない,少なくとも検討にも値しないということはできない。むしろ,このような公式的見解については,地震及び津波の被害がどの程度の大きさになり得るのか,被害発生の確率はどうかなどについて,公式的見解に疑問点があればその払拭も含めて,積極的に検討を行うことにより,さらなる原子炉施設の安全性の向上を図るべきであるといえる。 (3) そうすると,平成14年2月に津波評価技術が刊行された後,同年7月に長期評価が公表されており,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの区域における地震発生の可能性が指摘されているのであるから,被告らは,このような波源に関する最新でしかも公的な知見をあてはめた場合に,津波評価がどのような結果となるのかを算出すべきであったといえる。それをしていれば,それぞれO.P.+10mを超える津波が到来することを予見できたといえる。 (4) シビアアクシデント対策の義務は,地震・津波の予見可能性を前提にした回避義務と同様になると解される。そうすると,地震,津波の予見可能性を認める以上,シビアアクシデント対策の義務の予見可能性及び回避義務を独立して論じる必要はない。ただし,被告国の責任については,規制権限不行使の違法性を判断するには,被告国の規制権限の目的,権限の性質など権限行使が期待される諸事情を考慮することになることから,シビアアクシデント対策が求められる事情(設計基準事象を逸脱する外部事象の発生など)を考慮することになる。 2 被告東電の責任について(争点②) (1) 慰謝料の増額事由としての過失の有無 被告東電が原子炉施設を安全に保つために果たすべき義務は,津波への対応だけでなく,多種多様のものが含まれており,高度な注意義務を負っていることに加えて,内部溢水への対応を講じたり,溢水勉強会をはじめとした勉強会や津波防災の検討を行ったりしており,被告東電が津波に対する対応を怠ったことが,義務を果たすには十分ではなかったとはいえる。しかし,これで慰謝料の増額事由とはならず,同事由となると解される故意と同視できる重過失にあたるとまでは認めることはできない。 (2) 民法709条の請求について 被告東電が,原賠法に基づく責任を負うことがあったとしても,原賠法の趣旨に鑑みれば,原子力損害に関し,民法上の一般不法行為責任を追及することはできない。 3 被告国の責任について(争点③) (1) 権限不行使の違法について 電気事業法の文言上も,技術基準適合命令が詳細設計の場合に限ると明文で規定されているとは言い難く,実質的に考えても,原子炉施設の安全を確保するためには,新しい知見に基づいて基本設計部分についても対応しなければならない必要性があることからすれば,段階的安全規制論を前提としても,経済産業大臣は,電気事業法40条の技術基準適合命令を行使する権限を有していた。仮に,被告国のような解釈を前提とし,上記権限を有していなかったとしても,経済産業大臣は行政指導により基本設計部分についての変更を求めた上で,被告東電が従わない場合には,炉規法に基づく設置許可を取り消すか,明文上の規定はないものの,取消権限の分量的一部として,原子炉の運転の一時停止を命じることができると解すべきである。 そして,津波到来の危険が間近に迫っているというような緊急状況ではなかったとはいえ,①地震や津波の経験やそれへの被告国の対応等を通して,防災意識が高まってきた中で,被告国の機関である地震本部が,防災対策のためにとりまとめた公式的見解である長期評価の見解によれば,津波到来の危険をある程度具体的に予見することは十分可能であったこと,②原子炉施設は高度な安全性が要求されていること,③予見の内容が自然科学的知見を要するもので,その性質上確実な予測までは期待できないこと,④原子力災害は一旦起きれば取り返しがつかない重大な被害を生じ得ること,⑤権限行使にあたっては被告東電の不利益を考える必要があるものの,権限行使は困難ではなかったこと,⑥被害の防止の措置は一般人にはなしえず,経済産業大臣の権限行使によってしかなし得ないこと,⑦施設周辺の住民を中心とした生命,身体,財産等の具体的利益を保護する電気事業法及び炉規法の各趣旨などによると,どれほど遅くとも,平成18年末時点においては,経済産業大臣は権限行使をすべきであり,そうすれば本件事故を回避できた可能性は高いといえる。 したがって,平成14年以後,遅くとも平成18年末頃時点においては,経済産業大臣が電気事業法40条に基づく技術基準適合命令又は炉規法上の権限を行使して,被告東電に対して,長期評価の見解に基づく津波高の試算をさせるとともに,敷地高を超える津波へ対応をすることを命じなかったことは,その規制権限を付与された目的,権限の性質等に照らし,その許容される程度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるから,経済産業大臣の権限不行使は,職務上の法的義務に反し違法であると認められる。 また,経済産業大臣に過失も認められることからすれば,被告国は,国賠法1条1項に基づき賠償する責任を負う。 (2) 責任割合について 被告東電は原賠法3粂1項に基づく責任を,被告国は国賠法1条1項に基づく責任を,それぞれ負うところ,いずれもが各原告に対する損害全額に寄与したものと認められる。そうすると,共同不法行為の成否にかかわらず,賠償責任としても被告国は,被告東電とともに,原告らに対して全額について責任を負う。福島第一原発1~4号機の安全管理については,一次的に責任を負うのは,事業者である被告東電であり,被告国は二次的,後見的責任であるという側面があるものの,これは被告らの間における責任負担割合を決める事情として考慮されるものに過ぎず,それを被告らの各原告に対する責任にも及ぼす法律上の根拠にはならない。 4 避難の相当性について(争点④) (1) 低線量被ばくに関する科学的知見は,未解明の部分が多く,LNTモデルが科学的に実証されたものとはいえず,1mSvの被ばくによる健康影響は明らかでないことに加えて,国内法において年間1mSv等の線量の基準が取り入れられることとなったICRP勧告も,線量限度を設けることは政策上の目安であるなどというものであるから,空間線量が年間1mSvを超える地域からの避難及び避難継続は全て相当であるとする原告らの主張を採用することはできない。 一方,年間追加被ばく20mSvという基準は,政府による避難指示を行う基準としては,一応合理性を有する基準であるということができるが,政府による避難指示を行う基準が,そのまま避難の相当性を判断する基準ともなり得ない。 避難指示による避難は,当然,本件事故と相当因果関係のある避難であるといえるものの,そうでない避難であっても,個々人の属性や置かれた状況によっては,各自がリスクを考慮した上で避難を決断したとしても,社会通念上,相当である場合はあり得るというべきである。 (2) 避難の相当性の判断基準 避難の相当性を認めるべきは,下記ア~ウの場合(避難基準)である。 ア 本件事故時,中間指針が定める避難指示等対象区域に居住していた者が避難した場合。 イ 本件事故時,中間指針追補の定める自主的避難等対象区域に居住しており,かつ,以下の(ア)又は(イ)のいずれかの条件を満たす場合。 (ア) 平成24年4月1日までに避難したこと。ただし,妊婦又は子どもを伴わない場合には,避難時期を別途考慮する。 (イ) 本件事故時,同居していた妊婦又は子どもが上記(ア)本文の条件を満たしており,当該妊婦又は子どもの避難から2年以内に,その妊婦又は子どもと同居するため,その妊婦の配偶者又はその子どもの両親が避難したこと。 ウ 本件事故時,自主的避難等対象区域外に居住していたが,個別具体的事情により,避難基準イの場合と同等の場合又は避難基準イの場合に準じる場合。 個別具体的事情としては,①福島第一原発からの距離,②避難指示等対象区域との近接性,③政府や地方公共団体から公表された放射線量に関する情報,④自己の居住する市町村の自主的避難の状況(自主的避難者の多寡など),⑤避難を実行した時期(本件事故当初かその後か),⑥自主的避難等対象区域との近接性のほか,⑦避難した世帯に子どもや放射線の影響を特に懸念しなければならない事情を持つ者がいることなどの種々の要素を考慮して,判断する。 (3) (2)の基準により,避難の相当性を認めた原告は143名,一部認めた原告は6名,認めなかった原告は15名,その余は避難していないか,避難時胎児であった者である。 5 損害各論について(争点⑤) (1) 避難指示等の有無にかかわらず,避難が相当の場合には,避難先での生活継続による損害も,本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。 避難指示等による避難の場合には,避難指示が続く限りは,その間の避難生活に伴う損害は,当然本件事故と相当因果関係のある損害ということができる。避難指示等の解除後も相応の期間の避難生活による損害は,やむを得ないものであって,本件事故と相当因果関係のある損害と評価する。 (2) 自主的避難の場合であったとしても,避難後,避難生活を継続することはやむを得ないから,それによって生じた損害も,本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。ただし,避難の相当性で認定した避難時から2年経過するまでに生じた損害について,本件事故と相当因果関係のある損害と認める。 (3) 訴訟においては,個別の証拠によって損害を立証することが求められるのであって,直接請求やADR手続において認められた額がそのまま最低限の賠償につながるとまで認めることはできない。ただし,直接請求やADR手続における賠償額に相当する損害が原告らにも生じているであろうことが事実上推認されるという限度においては,これらの手続において利用されている基準等を基にすることは許される。ただし,その位置づけは補充的なものである。 既にADR手続において損害と認められた損害については,一定の資料に基づいてなされていることなどから,原告らに生じた損害を認定するにあたり,前提として考慮するのが相当である。 (4) 上記の考えを具体化し,各損寮費目について,個別に認定し,既払額を控除し,原告数174名のうち,一部認容を含めて請求を認容した原告は110名,棄却した原告が64名であり,合計すると,請求額は約8億5000万円,認容額は約1億1000万円である。 △ページトップへ 原発賠償訴訟・京都原告団を支援する会 〒612-0066 京都市伏見区桃山羽柴長吉中町55-1 コーポ桃山105号 市民測定所内 Tel:090-1907-9210(上野) Fax:0774-21-1798 E-mail:shien_kyoto@yahoo.co.jp Blog:http://shienkyoto.exblog.jp/ |
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