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★ 最終準備書面(責任論)
 第2 東電に709条が適用されること 
平成29年9月22日

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第2 東電に709条が適用されること
 1 はじめに
 2 特別法が一般法による請求を排除するか否かは当該特別法の趣旨による
 3 不法行為の効果(損害の評価)の点でも被告東京電力の過失を審理する必要性がある



第2 東電に709条が適用されること


 1 はじめに

 被告東京電力は,これまで「原賠法の規定内容及び法体系に照らして」,本件では原賠法3条1項による賠償請求のみが認められ,民法709条に基づく請求が許されないと主張している。
 しかし,原賠法自体は,民法上の不法行為に関する規定の適用を排除する旨の規定を設けておらず,同法の趣旨から考えても民法規定の適用を排斥するものではない。すなわち,原賠法上の無過失責任規定(3条1項)は,「被害者の保護」(1条)の見地から民法上の不法行為責任(民法709条)に関する過失の立証負担を軽減するものであり,その限りで特別規定と言うことができるが,加害者の故意又は過失の立証が十分可能な場合に,被害者側の判断で民法上の不法行為責任を追及するとの選択まで否定するというのは,原賠法の目的である被害者保護の趣旨に反するものであって,このような解釈は許されないというべきである。そうとすれば,原賠法3条1項の存在は,故意又は過失ある原子力事業者が不法行為責任を負う場合,被害者において立証責任を軽減された当該規定の適用を主張することもできるが,さらに民法上の不法行為規定の適用を主張・立証することを妨げるものではないと解すべきである。
 以下,原賠法の趣旨との関係から詳述する。


 2 特別法が一般法による請求を排除するか否かは当該特別法の趣旨による

(1)裁判実務上も特別法の趣旨から不法行為責任に基づく損害賠償請求権が併存している

 そもそも「特別法は一般法に優先する」との法諺は,あくまでも法令解釈における一般的な原則を表現しているにすぎず,一般法・特別法の関係にあるからといって,必然的に後者が前者の適用を排除することにはならない。
 この点,民法上の不法行為責任の特則として自動車損害賠償保障法(以下,「自賠法」という。)の損害賠償規定を挙げることができる。すなわち自賠法の目的は,「被害者の保護」及び「自動車運送の健全な発達」(同法1条)であるが,これは現代社会において社会的・経済的に必須である自動車交通の健全な発達を図りつつ,他方で不可避的に発生する自動車事故による損害から被害者を保護しようとするものである。かかる目的を踏まえて自賠法上の損害賠償規定が,被害者側の立証責任を大幅に軽減している(同法3条)点で,民法上の不法行為規定の特則であることは明らかである。
 しかしながら,自賠法には民法上の不法行為規定の適用を除外する旨の明文規定は存在せず,裁判実務においても,「運行供用者」たる運転者に対し,自賠法3条によることなく民法709条に基づく損害賠償請求が異論なく認められており(請求権の競合),前者が後者を排除する関係には立っていない。この他にも,製造物責任法,独占禁止法,鉱業法といった特別法上の損害賠償規定に基づく請求権についても,判例や解釈上,民法上の不法行為規定の適用を排除する明文の規定が無く,当該法の趣旨及び目的からも,民法上の不法行為責任に基づく損害賠償請求権との並存が肯定されている。
 以上,要するに民法上の不法行為責任の特則とされる自賠法をはじめとする特別法においては,各法律の趣旨及び目的を踏まえた上で,当該特別法に基づく賠償規定が民法上の不法行為規定を排除するか否かを検討する必要があり,本件でも民法規定の適用排除を明言していない原賠法(同法4条3項)において,原子力事業者の無過失責任を定める原賠法3条1項の規定が,民法上の不法行為責任に基づく請求を排除する趣旨を含むものか否かによって結論が異なるのである。

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  (2)原賠法は民法709条による請求を排除しない

  ア 原賠法の目的・構造
 原賠法1条は,「被害者の保護」と「原子力事業者の健全な発達」の2つを目的としている。この2つの目的を定めている趣旨は,一方では,高度な科学技術に基礎を置く活動である原子力事業に有用性を認めつつ,他方で原子力の利用に伴って災害が発生した場合においては想像を絶する損害が発生する極めて重大な危険性があることを踏まえて,両者の調整を目的として特別の法規制を行おうとするものである(この目的規定は,先にみた自賠法の目的規定と対比すると,その趣旨及び構造において類似するものといえる。)。

  イ 「原子力事業の健全な発達」という目的と過失責任との関係
 原賠法では,①原子力事業者に対する損害賠償措置の強制(同法6条,24条),②原子力損害の賠償に関する国の介入(原賠法16条等),及び③原子力事業者による第三者への求償権の制限(同法5条)が規定されている。しかし,これらの規定は,その趣旨からして,原子力事業者自身が原賠法3条1項の他に民法709条によって賠償責任を負うことを排除するものではない。
 なぜなら,先に例として挙げた自賠法との目的・構造の類似性にかんがみれば,本件の場合も自賠法におけると同じく,原子力事業者に原子炉の運転等による原子力損害について民法上の不法行為責任が成立する場合には,これと並存して,当然に原賠法3条1項に基づく責任も成立する(請求権の競合)と考えることができるからである。その結果,被害者による賠償請求について民法上の不法行為規定が適用されたとしても,同時に原賠法の上記諸規定の要件も充足されることになり,これらの規定に基づく保険金等の支払や国による援助が否定される理由はないから,「原子力事業の健全な発達」の目的を何ら阻害することはないのである。

  ウ 「被害者の保護」という目的と過失責任との関係について
 原賠法では,①原子力事業者の無過失責任(同法3条1項)及び②原子力事業者への賠償措置の強制(同法6条)を規定している。
 この点については,原賠法上の規定と民法上の規定のどちらに基づいて請求するかは,被害者保護の観点からすれば被害者自身が選択すれば足りるのであり,ことさら民法規定の適用を排除すべき理由は認められない。

  (3)小括

 以上より,原賠法の趣旨目的に照らしても,被害者である原告が民法709条を選択するのであればその適用を排除する理由はない。


 3 不法行為の効果(損害の評価)の点でも被告東京電力の過失を審理する必要性がある

 一般に不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)請求事件においては,故意又は過失が認められること自体が成立要件になっているが,さらに損害を評価する場面においても,当該実情に合った損害額を算定するため加害者の故意・過失の有無,種類,程度が斟酌されている。その典型的な例が交通事故による損害賠償請求事案であり,そこでは,例えば加害者に故意又は重過失や著しく不誠実な態度が認められる場合,そのことが慰謝料の増額事由とされることに異論はないはずである。
 以上からすれば,原告が民法709条の適用を求めた場合,損害の大きさを判断する上でも被告東京電力の「過失」の有無,種類,程度が審理されなければならないのである。

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