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★ 原発避難者訴訟〜因果関係・損害〜 報道関係者へのレク資料 
2017年9月15日

 「原発避難者訴訟〜因果関係・損害」(pdf) 

提訴日  第1次  平成25年9月17日
 第2次  平成26年3月7日
 第3次  平成27年7月7日
原告総数  57世帯174名
請求総額  8億4660万円
結審予定日  平成29年9月29日
判決予定日  平成30年3月29日


2017年9月15日@司法記者室
原発避難者訴訟〜因果関係・損害〜

文責 弁護士 高木野衣

目 次

第1 因果関係の考え方
第2 避難の相当性を根拠づける事実
第3 被告らの主張
第4 損害
第5 我々が言いたいこと



第1 因果関係の考え方
  1.  被告らによって賠償されるべき損害は、被告らの違法行為と相当因果関係ある損害である。
  2.  相当因果関係の判断は、社会通念に照らし、相当性を有するか否かによって判断される(科学的に正しいか正しくないかが問題になるのではない)。
  3.  本件においては、本件事故により避難することが社会的に相当であるならば、避難によって生ずる損害は賠償されなければならない。
  4.  原告らについては、年間1mSvを超える空間線量(あるいは放射線管理区域とされる土壌の汚染状況)の場所が生活圏内に存在する場合から避難することは相当であると主張している。

第2 避難の相当性を根拠づける事実

 1 公衆被ばく線量限度は年間1mSvとして国内法に取り入れられている
  • ICRPはLNT(しきい値なし直線)モデルを採用したうえ、
  • 公衆にとって容認できないレベルの線量として1mSvを勧告している
  • 国内法は(炉規法、放射線障害防止法等)は、ICRP勧告を取り入れ、 放射線の管理や防護の基準を年間1mSvで設定している
 2 低線量被ばくの危険性が科学的に実証されていること
  • 生物学的メカニズム 放射線が細胞を通ると、DNAの2本鎖切断が生じる。
     2本鎖切断は修復エラーを生じやすく、変異(ガン等)を招く。
     その2本鎖切断は、低線量域から直線的に増加する。
     つまり、変異も低線量域から直線的に増加する。
  • 疫学調査結果
     広島・長崎原爆被ばく者寿命調査等の進展、世界各国の疫学調査により低線量域から直線的にがん等が増加していくことが判明している。
 3 土壌汚染が深刻であること
  • 放射線障害防止法等は,セシウム4万Bq/uを超える場所を管理区域とし、立入制限等の厳格な規制を設けている。
  • 炉規法上、6500Bq/u(クリアランスレベル)を超えるものは、核燃料物質によって汚染された物でとして取り扱われる
  • 原告らの避難元は、いずれもクリアランスレベルを超える土壌汚染状況。
 4 その他の事情
  • 被ばくの歴史が物語る甚大かつ不可逆的な被害(原爆、チェルノブイリ)
  • 事故後、根拠のない場当たり的な避難指示や情報公開の遅延(SPEEDI)、子どもに年間20mSvの被ばくを容認する学校再開通知などへの不信感
  • グローバー報告「1mSv未満になった時にのみ帰還が推奨されるべき」
 5 今なお避難していることの相当性
  • 廃炉には程遠く、その過程で放射性物質が飛散するおそれもある
  • 汚染水が垂れ流され続けている
  • 土壌汚染は深刻で、除染ができない場所もあり、汚染土の廃棄先もない
  • 食品の出荷制限は続いている
  • 帰還は進んでおらず、コミュニティーは復活していない。
  • インフラだけでなく、医師や看護師不足も深刻である。
  • 雇用環境も改善していない
  • 県民健康調査で甲状腺ガンの多発
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第3 被告らの主張

 1 ICRP線量限度「現存被ばく状況や緊急被ばく状況では適用されない」

 ⇔ICRP勧告は,放射線防護の責任を有する国,東電に対するもの
  国民との関係で線量限度を引き上げるものではない
  そもそも参考レベル(ICRP2007年勧告)は国内法に未導入

 2 1mSvは安全サイドに立ったものだ
 ⇔ICRPは日常生活での他のリスクを公衆がどう容認しているか考察
  放射線についてだけ安全サイドに立って設定してはいない

3 低線量被ばくWGでは、発がんへの100mSv以下の被ばくの影響は、他の要因に隠れるくらい小さいと結論づけている

 ⇔1mSvを安全基準と考えている訳ではないとの甲斐発言
  LNTモデルを採用している
  近時の科学的知見を考慮しない議論に終始している

4 連名意見書(被告側証人)では、近時の疫学的調査はいずれも有意でない

 ⇔多数の調査結果が低線量被ばくの危険性を示していることが重要
  低線量被ばくの危険性が少ないとする論文は、被告によれば1件のみ
  統計的に有意でないことは、リスクがないこととイコールではない

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第4 損害

 1 原告らが侵害された権利は包括的生活利益としての平穏生活権
  • 事故によりコミュニティが崩壊し,日常生活そのものを奪われたことで,ふるさとにおいて平穏で安全な社会生活を送る権利そのものを侵害された
  • 憲法22条1項や13条に由来する生存権,身体的精神的人格権そのもの
  • 原状回復が困難であるということもまた、この権利侵害の特徴
 2 被害の内容は多種多様
  • 放射性物質の飛散に伴う被害
     健康被害への恐怖(体調不良、がん発症)
     生活上の支障(被ばく回避のための措置、土壌汚染)
  • 避難行為に伴う被害
     避難行為そのものの苦痛
     苦渋の決断を経ての避難、家族との軋轢
  • 避難生活に伴う被害
     経済的費用の増加(生活費、家財喪失)、就労不能による減収
     二重生活の負担、家族の分断
  • コミュニティーからの分断
     物理的分断、精神的分断分断(故郷を捨てた)
 3 損害算定の方法
  • 被告東京電力が策定した「東電基準」
     原子力損害賠償紛争解決センターが策定した「ADR総括基準」
     原賠審が原賠法18条2項に基づいて策定した「原賠審指針」
     ADRの運用上の基準として存在している「ADR運用基準」などがある
  • 直接請求やADRでは、迅速な被害者救済のために立証責任を軽減。
     証拠収集が困難であることにつき被害者に些かも落ち度がない
  • 直接請求やADRで認定された損害額が,訴訟では厳格な立証を求めた結果、認められないとすると,不公平な取り扱いとなる。
  • 証拠が揃わないことの一因には、東電や国が賠償を認めてこなかったことも
  • 国の機関たる原賠審ないしセンターが策定したものである以上、国がその適用を拒否することは信義則に反する。
  • 東電基準を東電が拒否することは信義則に反するし、国も政府の考え方に依拠したものだと表明している以上、拘束される
  • これら基準は、最低限のものとして設定された経過もある

第5 我々が言いたいこと
  • 京都に住む我々は、年間1mSvを超えないよう管理された中で生活
     しかし、避難者らの避難元では、なぜこれを超える場所での生活を強いられなければならないのか
  • 国は、ただちに健康に影響はない、有意なリスク増加はないと繰り返す
     避難指示を解除し、避難者への支援政策を打ち切り、帰還を促して、放射線による健康リスクをおそれて避難することが異常だという空気。
     避難者を「確率が分かっていない」「論理的思考が欠如している」者扱い
     これらの対応が、避難者への偏見、無理解を助長している。
     しかし、近時の科学的知見から、低線量被ばくの危険性は実証されている
     何より大切な健康、命を守るため、
     自らが調べて得た情報に依拠して、避難を選択することは尊重されるべき

以上

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