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★ 準備書面(54) ―高橋意見書について― 
 第3 高橋意見書のその他の誤りについて 
平成29年8月18日

 目 次(←準備書面(54)の目次に戻ります。)

第3 高橋意見書のその他の誤りについて
 1 「D=4」という仮定の妥当性について
 2 「D=4」に関する更なる疑問について
 3 津田氏らの研究(2015)に対するその他のコメントについてへの批判
 4 甲状腺がんの増殖速度について
 5 県民健康調査と3県調査の比較について
 6 本格検査(2巡目検診)の結果の解釈について



第3 高橋意見書のその他の誤りについて


 1 「D=4」という仮定の妥当性について

 高橋意見書は、「(津田論文は)原発事故からがん検出までの最大期間である4年間という数値を用いて、定常有病集団(prevalence pool)を仮定した(図3参照)。この仮定は、すべての症例でがんが、原発事故時あるいはそれ以降に、がん検診により検出可能になったこと、そしてこれらのがん全てが4年以内に臨床的に検出されるほど進行したことを意味している。」と指摘する(高橋意見書10頁 下線部は原告ら代理人)。
 つまり、高橋意見書は、津田論文が、「これらのがん全てが4年以内に臨床的に検出されるほど進行した」ことを仮定しているとして非難するものである。
 しかし、上に下線部で示した部分は、明らかな津田論文の誤読である。
 津田論文がDを「平均」潜伏期間としていることは明らかである。
 津田論文に対しては様々なレターによる意見が寄せられたが、それらについては、津田教授自らが回答を行っている(甲D共168号証の3 以下、「津田回答」という。)。
 津田回答には、eAppendixが付されており(甲D共168号証の3 6頁以下)、津田論文における有病割合から発生率への転換方法及び潜在がんの補正方法が説明されている。
 このeAppendixには、曝露グループの潜伏期間Dについて明確に「平均」潜伏期間であることが示されている。


 2 「D=4」に関する更なる疑問について

 高橋意見書は、「一般論ではI’=m/Mとして罹患率(臨床的に検出できる罹患率)が計算され、津田氏らの仮定に依拠すると、m=150人、M=605人となり、年間あたりのI’が150/650=0.25、つまり年間当たり4人に1人が臨床的にがん罹患するという結果が算出されることになってしまう。これは現実的にあり得ない数字である」と非難する(高橋意見書11頁)。
ここで高橋意見書において用いられている略号は次のとおりである。
I 疾病になる罹患率
I’ 疾患から解放される率(疾病集団から出て行く率)
m 検診で発見された人数
M 疾病集団
 しかし、高橋意見書が行っている上記算出過程は、必ずしもその意味が明らかでない。
そ もそも、I’は、疾患から解放される率、すなわちがんと診断されて疾病集団から出て行く率である。
 がんを持っている人(疾病集団 M)から、1年間にがんを発見される人数(検診で発見された人数 m)の割合が0.25となることは、現実離れしているとの評価を受けるような数字ではない。
 0.25とは、津田論文が採用した平均罹病期間4年の逆数であるが、仮にこの期間を20年にしても結論に変化はなかった(実際に津田教授らが100年まで検討していたことは前述のとおり)。


 3 津田氏らの研究(2015)に対するその他のコメントについてへの批判

 高橋意見書は、津田論文に対するKorblein(oは、正確にはオーウムラウト。以下同じ)とSuzukiらのレターを引用する。
 このうち、Korbleinは、汚染区分ごとの3地域で比較を行ったが、放射能汚染と甲状腺がん有病率との関係がみられなかったと指摘しているとされる。
 しかし、津田回答において、次のようにこの点の疑問に答えている。
「この事故で最も近い地域におけるリスク推定値が比較的低いことに関しては、私たちは、この事故と検診の時期との間で経過した時間の長さの影響を考慮すべきです。私たちの論文内で、第2の限界として述べましたように、この交絡の可能性があることは、事故の影響を過小評価することにつながります。感度分析として、私たちは、この経過時間に関して調整するために、事故時からそれぞれの地域における検診までの時間を割り当てました。(中略)この調整された有病オッズ比は、量反応関係を示していました。」(甲D共168号証の3 2頁)。
 上記調整後の表は、後記の通りであり、直近地域の有病オッズ比(POR)が最も高くなっている。

(甲D共168の3 5頁)【表省略】

 また、Korbleinは、チェルノブイリ原発事故後にベラルーシで小児甲状腺がんが急増したのは事故から4年後にあたる1990年以降であるため、福島では2015年よりも前に小児甲状腺がんの増加が起こると思われないとも指摘しているとされる。
 しかし、実際には、チェルノブイリ原発事故、3年以内に甲状腺がんの過剰症例が観察されたチェルノブイリデータが存在している(甲D共168号証の3 1頁)。
 Suzukiは、妥当な外部比較のために比較可能性の問題を指摘し、がん登録と県民健康調査との症例探索方法が異なることから、それらを直接比較することは誤解を招く恐れがあると指摘したとされる。
 これは、非曝露人口に関する情報についての指摘であるが、津田回答は、この点に答えて次のように指摘している。
「しかし、もっとかなり大きな観察数が与えられたウクライナ(訳注 ベラルーシの誤り)における非曝露や比較的低線量の地域における47,203人での超音波検査からの観察の方が、より適切でしょう。私たちの論文のeTable1に示したように、この観察では、がんの症例は1人も検出されませんでした(95%信頼区間:100万人あたり0−78人)。さらに、レターのいくつかにおいて無視されましたが、例えば年齢とか診断基準によって、韓国での知見を使う際には比較可能性が考慮されるべきです。韓国での検診は、福島での診断基準とは異なった診断を用いて大人に対して行われたものです。韓国での知見では、手術された患者の4分の1が5.0mm未満の腫瘍であり、一方、このサイズのがんは福島では検出されませんでした。」(甲D共168号証の3 4頁)。
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 4 甲状腺がんの増殖速度について

 崎山証人は、(1)2巡目検査において悪性又は悪性疑いと診断された51人のうち47人が先行検査で異常なしと診断されていたことを指摘した上で、(2)わずか3年足らずでがんが最大30.1mmにまで増殖した可能性が高く、増殖速度はかなり高いとの主張する。これに対し、高橋意見書は、不正確な認識の可能性があると非難する(高橋意見書 12頁)。
 (1)については、高橋意見書は、「47人が先行検査でA判定(A1が25人、A2が22人)を受けていた、という記載が正確」だと主張する。
 さらに、(2)については、最大30.1mmの腫瘍について、1巡目検査の時点で結節、嚢胞がなかったことを客観的に証明されない限り、崎山証人の指摘が成り立たないというのである。
 いずれも議論の本質からかけ離れた非難というほかない。特にAについては、本来、腫瘍の増殖速度がどの程度であったかが明らかにされていないことこそが非難されるべきである。
 高橋氏が県民健康管理について、情報管理・統計室長の職責にあることに照らせば、同氏は、こうした県民への情報開示が不十分であることについて大きな責任を負っている。県民への十分な情報開示を怠る者が、その開示情報の不足を逆手にとって、相手を難詰している構造が、ここにはある。
 また、高橋意見書は、超音波検査の検出感度に限界があることを主張する。しかし、高橋氏と同じ県立福島医大に所属する鈴木眞一教授は、1巡目の多発について、性能の良い超音波検査機器を用いたことにより、検査しなければ見つからなかった小さながんも発見してしまったと主張をしていた。
 崎山証人が指摘するとおり、2巡目の多発が判ってから、急に、1巡目に見落としがあった可能性を論じて、機器の性能や診断力の低下をその原因とするのは筋が通らない議論である。


 5 県民健康調査と3県調査の比較について

 3県調査とは、青森、山梨、長崎の3県で実施された甲状腺がんの調査である。福島では受診者が約30万人にも達したのに対し、3県ではわずか4365人に過ぎない。また、甲状腺がんもわずか1例しか発見されなかった。3県調査の調査対象には、福島では含まれている0歳から2歳までの幼児が含まれていない。したがって、崎山証人は、対照群として適切でないと指摘している(甲D共135号証 28頁)。
 ところが、高橋意見書は、この二つの調査をある程度比較することは可能であると主張する(具体的にどのように比較するのかについては、不明である)。
 しかし、小児甲状腺がんの発症は年齢が大きな罹患要因となっており、年齢が高くなればなるほど発症率が高まる。
 3県調査は、福島県民健康調査と比較した場合、検査時の平均年齢が2歳程度高く、年少者(甲状腺がんになりにくい)の割合が低くなっている。
 さらに3県調査は、検査対象が県庁所在地にある附属学校という調査対象者の選択バイアスも存在している。
 繰り返しとなるが、小児甲状腺がんは発症率が年齢の影響を受ける疾患であるから、年齢層を揃えることは、比較をするための最低限の条件である。


 6 本格検査(2巡目検診)の結果の解釈について

 崎山証人は、2巡目検査で発見された甲状腺がんについて、スクリーニング効果では説明ができないことを主張した。
 これに対し、高橋意見書は、甲状腺検査で発見される悪性所見が客観的にその時点で存在する悪性所見のすべてではない可能性あり、国立がんセンターのがん罹患統計は、潜在的に存在していたがんが反映されていないと主張する。
 その論拠として高橋意見書は、韓国における調査研究や剖検例をあげる(高橋意見書 15頁)。しかし、韓国での調査は小児を対象とするものではないし、剖検例も高齢者が多いと考えられるので、いずれも福島県民健康調査と比較することは考えられない(甲D共161号証 16頁)。

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