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★ 準備書面(43) ―被告東京電力共通準備書面(14)の求釈明に対する回答― 
平成28年7月13日

  原告提出の準備書面(43) (PDF)

 目 次

第1 本準備書面の目的

第2 求釈明事項に対する回答
 1 原告ら準備書面(38)に記載された避難時空間線量について
 2 土壌汚染測定結果について



第1 本準備書面の目的

 本準備書面においては,被告東京電力共通準備書面(14)における求釈明事項について必要な範囲で回答を行う。


第2 求釈明事項に対する回答

 1 原告ら準備書面(38)に記載された避難時空間線量について

  (1)年あたりの避難時空間線量の算定方法について

 原告ら準備書面(38)に記載された「避難時空間線量(毎年mSv/y)」は,同準備書面に記載されている「避難時空間線量(毎時μSv/h)」を基に計算をしている。
 すなわち,毎時の避難時空間線量に24と365を乗じ,これを1000で除した。
 24を乗じるのは,一日あたりの線量の値を,365を乗じるのは,1年間の値をそれぞれ求めるためである。また,1000で除するのは,μからmへの線量単位の変換を行うためである。


  (2)空間線量と実効線量の関係について

  ア 実効線量概念の多義性について
 被告東電は,「実効線量」という用語を「人体の一部が放射線を受けた時の影響を全身に被ばくしたときの線量に換算した線量」と定義して用いている。
 しかし,実効線量概念は,上記のような定義で用いられることもあるが,そうでない場合もある。例えば,ICRPがその勧告において述べる実効線量と,放射線障害防止法に基づく規制において用いられる実効線量とは上記被告東電による定義と同一ではない。

  イ ICRPの実効線量概念
 実効線量概念は,ICRPの1990年勧告では,次のように定義されていた(甲D共10号証 ICRP1990年勧告 28項)【図省略】
 この意味での実効線量は,人体の各臓器・組織の等価線量(臓器または組織の平均吸収線量を放射線荷重係数で重みづけたもの)の組織荷重係数による加重和で定義されているため,実効線量を直接測定して被ばく管理を行うためには,身体中の多数の臓器,組織の平均線量を毎回測定しなければならない。このような測定を行なうことは極めて困難である。
 なお,吸収線量のSI単位(国際単位系における単位)は,J/kg(ジュール/キログラム)またはグレイ(Gy)である。
 これに対して,実効線量は,吸収線量とは意味が変わるので,シーベルト(Sv)という単位とされている。

  ウ 放射線防護における実効線量概念
 前記イ記載のとおり,ICRPが勧告で用いている実効線量概念は,測定することが極めて困難な量である。
 そこで,実際の放射線防護においては,別に定義される量や実効線量から誘導される量が用いられている。
 すなわち,外部被ばく線量の測定には,国際放射線単位測定委員会(ICRU)が定義した直径30cmの人体軟組織等価の球の深さ1cmにおける線量当量(1cm線量当量と呼ばれている)が用いられており,これは実効線量を安全側に評価するものである。
 但し,こうして得られる数値もあくまでICRPのいう実効線量の近似値であるに過ぎない。

  エ 原告らにおいて実効線量を直接証明することが極めて困難であること
 前記イ記載の意味での実効線量は研究レベルの測定が必要であり,通常は,原子力発電所内の作業従事者においてもなされていない。
 また,前記ウ記載の意味での実効線量は,個人線量計を装着し,その計測値の評価によって求めることができるが,これを一般公衆である原告らが行うことは極めて困難である。
 そもそも,このような被ばくリスクの原因を作出したのは,被告らであり,実効線量についての厳密な立証を求めることは許されない。
 いずれにしても,次に述べるとおり,原子力規制委員会の環境モニタリングにおける測定によって実効線量は判明するのであり,前記イまたは前記ウにおけるような実効線量の測定は,本件においては不要である。

  オ 被告東電の主張について
 被告東電は,「空間線量(率)」という用語を「対象とする空間の単位時間あたりの放射線量」と定義して用いている。
 その上で,被告東電は,原告らが「空間線量率」を主張しており,これは,実効線量とは異なる概念であると指摘する。
 しかし,上記指摘は誤っている。原告らは,実際には実効線量を主張しているからである。
 すなわち,原告らの主張する「空間線量率」は,原子力規制委員会がホームページで公開している「放射線モニタリング情報」に基づいているが,これは実効線量として公表されている。
 すなわち,原子力規制委員会は,空間線量率(空気吸収線量率。単位はグレイ)を実効線量(単位はシーベルト)に換算して公表している。
 このことは,原子力規制委員会の「放射線モニタリング情報」においても次のように説明されている(甲D共155)。
「※モニタリングポストはμGy/h(マイクログレイ毎時)で測定されていますが,本ウェブサイト上では,1μGy/h(マイクログレイ毎時)=1μSv/h(マイクロシーベルト毎時)と換算して表示しています。」
「※固定型や可搬型モニタリングポストは,空気吸収線量率[μGy/h](マイクログレイ毎時)で測定しており,ウェブサイト上では,環境放射線モニタリング指針(原子力安全委員会)に基づき,
 1[μGy/h](マイクログレイ毎時)
=1[μSv/h](マイクロシーベルト毎時)
として換算し,実効線量を表示しています。
 一方,一般的なサーベイメータや福島県内に設置しているリアルタイム線量測定システム等は,1cm線量当量率[μSv/h](マイクロシーベルト毎時)を測定しています。」
 つまり,原子力規制委員会は,原子力安全委員会の策定した環境放射線モニタリング指針に基づいて,固定型や可搬型モニタリングポストで測定された空間線量率(マイクログレイ毎時)を実効線量(マイクロシーベルト毎時)に換算しているのである(一般的なサーベイメータや福島県内に設置しているリアルタイム線量測定システム等は,そもそも最初から実効線量を測定している)。
 単位がシーベルトとなっていることからも明らかなとおり,原告ら準備書面(41)における「空間線量」との記載は,「実効線量」を意味しているのであり,また,その根拠は,原子力規制委員会の換算に基づくものである。

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 2 土壌汚染測定結果について

  (1)各採取場所について

 各採取場所の具体的な位置については,甲D共156号証のとおりである。

  (2)測定について

 測定者は,「京都・市民測定所」である(以下「測定所」という。)。
 測定所は,会員によって構成される非営利の任意団体であり,食品等の放射能測定・検査を行うことを目的としている(甲D共157)。
 測定機器は,ベラルーシATOMTEX社のヨウ化ナトリウムシンチレーターAT1320Aである。この機器は,福島県内に100台以上が導入され,行政によって使用されている(甲D共158)。
 また測定機器は,平成27年10月27日,校正を受けており,通常の使用に問題がないことが確認されている(甲D共159)。

  (3)法令との関係について

  ア 放射線量等分布マップの作成等に係る検討会について
 被告国において,放射線量等分布マップを作成することとされていたところ,同マップの作成にあたり,技術的検討を行うことを目的として「放射線量等分布マップの作成等に係る検討会」が文科省内に設置された(以下「検討会」という。)。
 平成23年5月26日,第1回検討会では,土壌濃度マップの作成に向けた土壌試料採取の方法について審議され,土壌のサンプリングは,「土壌における放射性物質降下インベントリ(Bq/m2)を求めるために行う。」とされた。
 (註:inventory=〔ある場所にある〕全ての物のリスト,一覧表)
 その上で,放射性物質が表層から5cm以上深くは浸透していないと考えられることから,検討会では,土壌試料は表層から5センチメートルの深さまで採取することとされたのである。

  イ 放射性同位元素の密度についての法令上の根拠
 被告東電は,原告らの土壌測定結果について,法令上の根拠を明らかにするよう求めるのは,原告らの主張を正確に理解していないことに起因するのであって,争点に関連性の認められない。
 本件は,原告らの避難元が管理区域であるか否かという問題ではない。
 避難元の土壌に含まれる放射性物質の量に鑑みて,避難元が放射線障害防止法における管理区域に相当する被ばくリスクを有するか否か,すなわち,当該地域からの避難が社会的に相当性を有するかという問題である。

  ウ 物の表面の放射性同位元素の密度要件
 本件は放射性物質が事業所等の管理された区域ではなく,一般公衆の生活圏までに広く降下したことによって生じた事態であり,放射線障害防止法施行規則が想定しなかった事態である。
 したがって,放射線障害防止法施行規則が管理区域の区分について物の表面の放射性同位元素の密度要件が定められた趣旨に照らして,当該土地が管理区域に相当する汚染をしているかどうかを判断するべきである。
 通常,放射線障害防止法施行規則が想定するのは施設内の問題であることから,たとえば床面等に降下した放射性同位元素が,床面を通り越して床下5センチメートルの深さに達することはない。降下した放射性同位元素は理論上,すべて床面,すなわち物の表面にとどまるのである。
 つまり,床面に降下した放射性物質を把握するには,床の表面における放射性同位元素の密度を測定すれば足りるのである。
 これに対し,一般公衆の生活圏にある土壌では,全くの表層だけを測定したのでは,環境の汚染度は判明しない。
 微細な粒子として土壌表面に降下した放射性同位元素は,土壌表面にとどまることなく雨水等により深さ5センチメートルの深さまで達する。
 そもそも,床面に降下した放射性物質を把握する目的,すなわち物の表面の放射性同位元素の密度要件の目的は,環境が放射性同位元素によってどれだけ汚染されているかを定量的に把握するためである。
 この目的に照らせば,当該土壌にどれだけの放射性物質が降下したかを把握するには,土壌の表面から下方5センチメートルの深さにおける放射性同位元素の密度を測定する必要がある。
 したがって,本件のような場合,地表面における放射性同位元素の密度は,地表面から5センチメートルの深さまでに存在する放射性同位元素をもとに測定されるべきである。
 そもそも,放射線障害防止法施行規則は,「放射性同位元素によって汚染される物の表面の放射性同位元素の密度」について具体的な「表面」の定義をしていない。土壌の「表面」とは一義的に明らかになるものでもないのである。
 法令の前記趣旨に鑑みれば,土壌における「表面」を「表層から土壌内に放射性物質が所在する深度まで」と解釈しても何ら不合理な点がないことも付言する。

以 上

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